魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第6話】両片想いとフライドポテト

【6-9】

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「ああ、残念。失敗ですね」

 サイコロの数字を確認したカミュは、言葉とは裏腹にガッカリした表情は見せず、にこにこと笑っている。

「失敗することもあるんだ?」
「ええ、勿論。選択した行動の成功率は、賽の出目だけで判断されるわけではなく、そのときの状況にも大きく左右されるものですから」

 僕が挟んだ質問にもにこやかに答えてくれたカミュは、更に補足説明を加えてくれた。

「例えば、今、私が行おうとした『はじまりの男女』に子を授けるという行動は、本来であればほぼ失敗しないものなのです。次の番でジル様が同じ行動を選択された場合、賽の出目が相当に悪くない限り、失敗はしないでしょう。……どうしてか、お分かりになりますか?」

 不意に問い掛けられて、瞬時には答えられない。でも、カミュが僕に返答不可能な質問を投げ掛けてくるとは思えないし、きっと現時点での僕の理解度で十分に正答を導き出せるはずなんだ。
 カミュとジルの領域の差──、僕に読み解くことが出来ない参加者の能力値を考えなければ、大きな違いがあるのはアレしかない。

「……一応確認しておくけど、今のカミュの質問には、二人がさっき決めていた能力値は関係ないんだよね?」
「はい。まったく関係無いとは申しませんが、今の謎掛けにおいては殆ど影響が無いですね」
「ということは……、家があるか無いか、かな?」
「ご名答! さすがはミカさんですね」

 僕たちの会話を穏やかに見守っていたジルは、口元にほんのりと笑みを刻みながら、自分の領域にある小さな家を指差した。

「ミカの指摘通り、拠点に家があるか無いか、この差が『はじまりの男女』にまつわる行動の成功率を左右しているんだ。家が無ければ、出産も赤子を育てることも難しい。野ざらしの場所で家庭を築くのは困難だ。逆に、小さくて粗末だろうと家さえ建っていれば、『はじまりの男女』の間にはほぼ確実に子を成せる」
「なんというか……、妙に現実的な部分もあるけど、現実そのものと呼ぶには詰めが甘いというか……、でもだからこそ、複雑で匙加減が難しい遊びになっているのかもしれないね」
「そうだな。あまりにも現実に寄せすぎると、遊びとしての面白さが薄れてしまう。だが、空想の世界のものだからといって、全てにおいて非現実的な設定にしてしまうと、それはそれで面白くない。その辺りを上手く調整して作られているんだろうな。──というわけで、俺も『はじまりの男女』に子を授けてみようか」

 ジルが自分の行動を決めると、やはり指南書とサイコロが光る。彼が出した出目は成功だったようだ。遊戯盤上では変化が見られなかったけれど、ジル側の瓶に溜まっている魔力の水が水泡をいくつか湧かせる。元々が満杯だし、さっき家を建てていたときに消えた水の粒も微量だったから水位に違いがあるようには見えないんだけど……、でも、もしかして、増えた?

「自陣の人口が増えると、その増加数に応じて魔力の水が回復する。今は、初めての子孫だから数粒の回復だったが、領域が発展して大幅に人口が増えたりすると、それなりに多く回復する。ただし、初期値以上に水位が上がることはない。いつ、どの程度の発展をさせて、魔力を回復させるかも重要なことだ」
「なるほど……、逆に、人が死んじゃって魔力の水が減っちゃうこともあるの?」
「ある。疫病の流行や、戦争の影響などで人口が大きく削れてしまうと、魔力の水もそれなりに多く持っていかれてしまう」

 ボーナス要素もペナルティ要素もあるんだなぁ。このゲームのルールをきちんと知り尽くしていないと、色々と不利になってしまいそうだ。様々な意味で、多くの知識を持っている参加者が強いゲームだろう。行動を起こすにも魔力の水を消費しなければならないのだから、参加者の魔力の強さも当然、物凄く重要になる。

「すごいなぁ……。魔力が無い僕は参加は出来ないけど、見ているだけでも面白いし、勉強になりそう。ジル、カミュ、見せてくれてありがとう」
「礼を言われるほどのことじゃない。……見ているだけでもミカが楽しんでくれているのなら、もう少し続けてみようか」
「ええ、そうですね。……ああ、そうだ。ミカさん、よろしければ私の隣に座りませんか? そして、私の番のときに、ミカさんが行動指針を決めてください」
「えっ……?」
「一緒に戦いましょう? ミカさんが頭脳を、私が魔力を使って、魔王に立ち向かうのです」

 そう言って、カミュは茶目っ気たっぷりにウインクする。僕なんかの思考能力でジルに勝てるはずもないし、どう考えてもカミュの足引っ張りになりそうだけど、一緒に参加させてくれようとしている心遣いがありがたい。

「じゃあ……、お言葉に甘えて、一緒にやらせてもらってもいい?」
「ええ、勿論! ミカさんに味方していただけるだなんて、僥倖です」
「調子に乗るなよ、カミュ。すぐにミカを奪い返して、俺の味方にしてやろう」

 不穏な物言いをしているジルも、なんだか悪戯っ子のような表情を浮かべている。──なんだか、楽しいな。中水上なかみかみのおじさんに、色々なトランプゲームを教えてもらったときのことを思い出す。

「よーし、勝負だ! 頑張ろうね、カミュ!」
「ええ! 全て貴方のお心通りに動きましょう」
「俺に勝負をふっかけたことを後悔させてやろう、しもべたち!」

 僕がカミュとジルの陣営を行ったり来たりして、なんだかんだ、わいわいと三時間くらい遊んでもらった。声を出して笑って、はしゃいで、悪天候なんか吹き飛ばしてしまうくらい明るい時間を過ごせた、幸せな日。


 ──サリハ様がやって来たのは、それから三日後の、大雨の日だった。
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