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【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-19】
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「お、おお……! ついに、油で……!」
「うん。じゃあ、まずは鍋に油を入れよう。人差し指……、いや、フィラスの手だと人差し指じゃ長すぎるか。親指一本分くらいの高さまで油を入れてくれる?」
「そ、そんなに使うのか……」
食用油が貴重な生活をしている彼にとっては、贅沢に思える量らしい。僕自身、一人暮らしをしていたときには油を節約するために揚げ焼き程度しかしたことが無かったし、この城でもそんなに大量に油を使うほうではないんだけども。
「贅沢に思えるかもしれないけど、二度揚げするし、それでも残った油はカミュが石鹸や蝋燭を作るときの材料にしてくれるから、少しも無駄にはならないんだよ」
「二度揚げ……? 石鹸や蝋燭……?」
「うん。二度揚げについては、料理しながら説明するね。石鹸とか蝋燭は、この城にあるものは殆どがカミュが魔法を使いながら手作りしてくれたものなんだ。さっき手を洗うときに使ったのも、カミュお手製の石鹸だよ」
いくら魔法といえど、元になる材料が無ければ物は作れないようで、この城の物品を絶やさないようにするために、カミュにはリサイクル精神が宿っている。油も、水も、紙も、雑草も、再利用できそうなものはきちんと取っておいて管理し、物作りの材料としていた。
彼のそういった習慣は、ジルが魔王になってから身についたものだそうだ。それまでの魔王は、領地内に足を踏み入れた人間から略奪したり、悪巧みや交渉を持ち掛けてくる悪人からの貢物を得たりしていたそうだけれど、ジルは全くそういうことをしていない。今でこそキカさんやマティ様が定期的に物資を届けてくれるから、快適な生活を普通に続けられているけど、彼らの支援を得る前はキカさんのおばあちゃんが不定期に来てくれるだけで、物がいつ枯渇するか分からない日々だったため、どんな物でも大切にするようになったという。
「カミュ殿は凄いなぁ! 出身が悪魔とは思えぬほど、命や物を大切にしている。その心掛け、オレも見習わなくては!」
「そう仰っていただけるのは光栄ですが、それこそ、フィラスさんたちのご一族は、天地からの賜り物すべてを大切にしていらっしゃるでしょう?」
「ううむ……、まぁ、我らの土地は貧しいからな。与えられる全ての糧に感謝するようにはしている」
「そうでしょう?」
「だが、やはりカミュ殿の心掛けは非常に立派なものであり、」
「というわけで、二度揚げの話に移りましょう」
「う、うむ、だが、それはそれとして、」
「フィラスさん、二度揚げです」
「に、二度揚げ……」
「そう、二度揚げです。ミカさん、お願いします」
褒められるのは照れくさいから話を切り上げたいカミュと、なんとしても彼を褒め讃えたいフィラスの攻防は、有無を言わせず二度揚げの話にすり替えたカミュに軍配が上がった。会話の主導権を無理やり手渡された僕は、苦笑を浮かべながらもフィラスを促す。
「フィラスが油を入れている間に軽く説明するから、鍋に油を入れてもらってもいい?」
「あ、ああ、分かった。オレの親指くらいの高さまでだな」
「うん、お願い。……二度揚げっていうのはね、その名の通り、二回揚げるってこと。一回目は、ポトトの中がほっくりとするくらい火を通すために、弱くじっくりと。二回目は表面をカリッとさせるために、強くササッと揚げるんだ」
「強くじっくり、一度だけ揚げるのでは駄目なのか?」
瓶詰めの油をトポトポとゆっくり鍋に注ぎながら、フィラスは首を傾げた。
「それだと、表面は焦げているのに中の火の通りはよくない、って状態になっちゃうから。ちょっと手間だけど、二度揚げのほうが美味しい仕上がりになるんだよ」
「なるほどなぁ……!」
「あ、油はそのくらいでいいかも」
「了解した。うーん、質のいい油だなぁ!」
原料の穀物を魔法で圧搾して作り上げたカミュお手製の食用油は、透明度が高くてツヤツヤしている。フィラスが感激している横で、カミュは小さくはにかんで嬉しそうにしていた。
「じゃあ、カミュ。火を点けてもらってもいいかな?」
「かしこまりました。弱火でしたよね」
「うん、ありがとう」
カミュが指を振ってサッと火を点けてくれて、ちょっとずつフツフツと温まっていく油を皆で観察する。ちょうどいい具合に温まったかなと思われるところで、ポトトをひとつ油の中へ入れてみると、ジュワッと良い音がした。
「うんうん、良い感じだね。じゃあ、このまま一回目のじっくり揚げを進めていくよ」
「分かった!」
僕が菜箸でポトトを入れていき、フィラスは持ち手部分が長い小さな網で揚げ具合を見ながら掬い取っていく。初めは僕が揚がり加減を見ながら指示を出していたけれど、フィラスはすぐにちょうどいい揚げ具合を判断できるようになった。やっぱり筋がいい。
一度揚げが終わったら、すぐにカミュに火を強めてもらって、油の温度を上げてもらう。ついでに、油ハネが掛からないように結界も張ってもらった。
「二回目のザックリ揚げは、表面の色が濃くなって少し焦げ目がつくかつかないかくらいで、すぐに上げなくちゃいけないんだ。出来そう?」
「ああ、やってみよう!」
「フィラスさん、頑張ってください」
二度揚げはフィラスが一人で網でポトトを油へ入れ、サッと揚げて出してゆく。彼が器用にこんがりと揚げたポトトに、僕が塩を振っていった。分担作業を最後の一欠片まで進めたところで、──フライドポトトの完成だ!
「フィラス、おめでとう! 無事にフライドポトトが完成したよ! 殆ど君が一人で作ったんだよ!」
「お、おお、オオレがこれおおおをぉぉぉ!?」
「そうだよ! すごい! ほら、味見してみて。熱いから気をつけてね」
塩が振られた揚げたてポトトをひとつフォークに差して、フィラスへ差し出す。おずおずと受け取った彼は、軽く息を吹きかけてから一口齧り、金眼に一等星の輝きを宿した。
「うん。じゃあ、まずは鍋に油を入れよう。人差し指……、いや、フィラスの手だと人差し指じゃ長すぎるか。親指一本分くらいの高さまで油を入れてくれる?」
「そ、そんなに使うのか……」
食用油が貴重な生活をしている彼にとっては、贅沢に思える量らしい。僕自身、一人暮らしをしていたときには油を節約するために揚げ焼き程度しかしたことが無かったし、この城でもそんなに大量に油を使うほうではないんだけども。
「贅沢に思えるかもしれないけど、二度揚げするし、それでも残った油はカミュが石鹸や蝋燭を作るときの材料にしてくれるから、少しも無駄にはならないんだよ」
「二度揚げ……? 石鹸や蝋燭……?」
「うん。二度揚げについては、料理しながら説明するね。石鹸とか蝋燭は、この城にあるものは殆どがカミュが魔法を使いながら手作りしてくれたものなんだ。さっき手を洗うときに使ったのも、カミュお手製の石鹸だよ」
いくら魔法といえど、元になる材料が無ければ物は作れないようで、この城の物品を絶やさないようにするために、カミュにはリサイクル精神が宿っている。油も、水も、紙も、雑草も、再利用できそうなものはきちんと取っておいて管理し、物作りの材料としていた。
彼のそういった習慣は、ジルが魔王になってから身についたものだそうだ。それまでの魔王は、領地内に足を踏み入れた人間から略奪したり、悪巧みや交渉を持ち掛けてくる悪人からの貢物を得たりしていたそうだけれど、ジルは全くそういうことをしていない。今でこそキカさんやマティ様が定期的に物資を届けてくれるから、快適な生活を普通に続けられているけど、彼らの支援を得る前はキカさんのおばあちゃんが不定期に来てくれるだけで、物がいつ枯渇するか分からない日々だったため、どんな物でも大切にするようになったという。
「カミュ殿は凄いなぁ! 出身が悪魔とは思えぬほど、命や物を大切にしている。その心掛け、オレも見習わなくては!」
「そう仰っていただけるのは光栄ですが、それこそ、フィラスさんたちのご一族は、天地からの賜り物すべてを大切にしていらっしゃるでしょう?」
「ううむ……、まぁ、我らの土地は貧しいからな。与えられる全ての糧に感謝するようにはしている」
「そうでしょう?」
「だが、やはりカミュ殿の心掛けは非常に立派なものであり、」
「というわけで、二度揚げの話に移りましょう」
「う、うむ、だが、それはそれとして、」
「フィラスさん、二度揚げです」
「に、二度揚げ……」
「そう、二度揚げです。ミカさん、お願いします」
褒められるのは照れくさいから話を切り上げたいカミュと、なんとしても彼を褒め讃えたいフィラスの攻防は、有無を言わせず二度揚げの話にすり替えたカミュに軍配が上がった。会話の主導権を無理やり手渡された僕は、苦笑を浮かべながらもフィラスを促す。
「フィラスが油を入れている間に軽く説明するから、鍋に油を入れてもらってもいい?」
「あ、ああ、分かった。オレの親指くらいの高さまでだな」
「うん、お願い。……二度揚げっていうのはね、その名の通り、二回揚げるってこと。一回目は、ポトトの中がほっくりとするくらい火を通すために、弱くじっくりと。二回目は表面をカリッとさせるために、強くササッと揚げるんだ」
「強くじっくり、一度だけ揚げるのでは駄目なのか?」
瓶詰めの油をトポトポとゆっくり鍋に注ぎながら、フィラスは首を傾げた。
「それだと、表面は焦げているのに中の火の通りはよくない、って状態になっちゃうから。ちょっと手間だけど、二度揚げのほうが美味しい仕上がりになるんだよ」
「なるほどなぁ……!」
「あ、油はそのくらいでいいかも」
「了解した。うーん、質のいい油だなぁ!」
原料の穀物を魔法で圧搾して作り上げたカミュお手製の食用油は、透明度が高くてツヤツヤしている。フィラスが感激している横で、カミュは小さくはにかんで嬉しそうにしていた。
「じゃあ、カミュ。火を点けてもらってもいいかな?」
「かしこまりました。弱火でしたよね」
「うん、ありがとう」
カミュが指を振ってサッと火を点けてくれて、ちょっとずつフツフツと温まっていく油を皆で観察する。ちょうどいい具合に温まったかなと思われるところで、ポトトをひとつ油の中へ入れてみると、ジュワッと良い音がした。
「うんうん、良い感じだね。じゃあ、このまま一回目のじっくり揚げを進めていくよ」
「分かった!」
僕が菜箸でポトトを入れていき、フィラスは持ち手部分が長い小さな網で揚げ具合を見ながら掬い取っていく。初めは僕が揚がり加減を見ながら指示を出していたけれど、フィラスはすぐにちょうどいい揚げ具合を判断できるようになった。やっぱり筋がいい。
一度揚げが終わったら、すぐにカミュに火を強めてもらって、油の温度を上げてもらう。ついでに、油ハネが掛からないように結界も張ってもらった。
「二回目のザックリ揚げは、表面の色が濃くなって少し焦げ目がつくかつかないかくらいで、すぐに上げなくちゃいけないんだ。出来そう?」
「ああ、やってみよう!」
「フィラスさん、頑張ってください」
二度揚げはフィラスが一人で網でポトトを油へ入れ、サッと揚げて出してゆく。彼が器用にこんがりと揚げたポトトに、僕が塩を振っていった。分担作業を最後の一欠片まで進めたところで、──フライドポトトの完成だ!
「フィラス、おめでとう! 無事にフライドポトトが完成したよ! 殆ど君が一人で作ったんだよ!」
「お、おお、オオレがこれおおおをぉぉぉ!?」
「そうだよ! すごい! ほら、味見してみて。熱いから気をつけてね」
塩が振られた揚げたてポトトをひとつフォークに差して、フィラスへ差し出す。おずおずと受け取った彼は、軽く息を吹きかけてから一口齧り、金眼に一等星の輝きを宿した。
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