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【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-21】
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◆◆◆
サリハさんとジルが仮眠をとってから、最後の夕飯ということでちょっと豪勢な料理を僕が作って、主君側と僕側に分かれてそれぞれ食べた。
僕とカミュで後片付けをして、フィラスとサリハさんには明朝旅立てるように支度を整えてもらって先に部屋で休んでもらう。片付けが終わった僕は、入浴をして、フィラスが待っているであろう自室を目指していた。その道中、不意に後ろから声を掛けられる。
「ミカ」
「……サリハさん?」
振り向いた先には、就寝前だからか少しラフな格好のサリハさんが立っていた。軽装とはいえ、隙があるわけではなく、品があるし慎み深い。
「どうしたの? 部屋への帰り方が分からなくなった?」
「いや。ミカと話したかった。少し時間をもらえるか?」
「えっ? うん、勿論」
「ありがとう」
サリハさんはこの城に到着してすぐに遊戯室に入ってしまったし、その後のお世話も全部カミュがしていたから、あまり接点が無かった。僕も話してみたいと思っていたし、彼女の申し出は嬉しい。
廊下の大きな窓に近寄ったサリハさんは、その窓枠に背を預ける形でもたれる。僕も反対側の窓枠で同じようにもたれ、二人して外の雨音を聞きながら話すことになった。
「ワタシが魔王と勝負をしている間、フィラスが随分と世話になったようだ。礼を言う」
「いや、そんな……、僕のほうこそ、彼には随分と気に掛けてもらって、たくさん相手をしてもらって嬉しかったんだ。こちらこそ、フィラスと楽しい時間を過ごすきっかけをもらえて、本当にありがとう」
「そう言ってもらえると、ワタシも嬉しい。……それに、フィラスも喜んでいるだろう。彼はいつも陽気を保っているが、ミカと過ごしていた間は本当に楽しかったのだと、彼の顔に書いてある。──ここ最近の彼は、無理をして明るく振る舞っていることも多くてな、浮かない顔をしているときも多かったのだ。……何故かは、分かるだろう?」
「……うん、分かるよ」
サリハさんの命の残り時間を考えて、フィラスは苦しみ、表情が暗いこともあったのだろう。それは容易に想像できる。同意した僕に優しい視線を向けながら、サリハさんは小さく頷いた。
「ミカは相手の心情を汲むのが上手いようだな。──そして、ミカはフィラスに料理をさせてあげていたようだ」
「……えっ?」
ドキリとした。どうして、サリハさんがそれを知っているんだろう。カミュには口止めしていたし、彼は約束を違えたりしない。
内心で動揺しているはずが表情にも出てしまっていたのか、サリハさんは面白そうにこちらを見ている。
「なに、ワタシは鼻が効くほうでな。魔王との勝負を終えてフィラスと対面したとき、彼から感じた匂いが『揚げ物をした者』と同じものだと気がついただけだ。ミカやカミュ殿にも同じような匂いはあったが、フィラスほどではなかった。つまり、フィラスが中心となって、ポトトの揚げ物を作ってくれたというわけだな」
「え、っと……」
「安心してくれ。フィラスが料理をしていたということは、ワタシの胸の中に秘めておく。故郷へ戻っても、誰にも明かさない。決して明かしたりするものか」
そう言ったサリハさんは黒い瞳を伏せて、幸せそうにしみじみと呟いた。
「ポトトの揚げ物、美味しかったなぁ」
その横顔は、恋する乙女そのものだった。甘酸っぱくて、少し切なくてチクリとするような、不思議と目を惹きつけられるような、そんな表情。それは勿論、フライドポトトそのものに向けられているものではなく、それを作った青年を想ってのものなのだろう。
「……サリハさんは、どうしてフィラスを従者にしたの?」
ん? と尋ね返すように、澄んだ黒眼が僕へ向けられる。余計なことを尋ねるなと咎めるでもなく、そこには触れてほしくないと拒むでもなく、先を促すような穏やかな視線に誘導されるまま、僕は問い掛けを続けた。
「フィラスが言っていたんだ。サリハさんには好きな人がいる、って。その人はフィラスとサリハさんと幼馴染で、婚約者がいるらしいってことも。サリハさんはその人と婚約者の仲を裂こうとはしなかったってことも、だからこそ、従者に指名したのはフィラスだったってことも。……でも、本当にそれだけが理由なのかな、って思ったから」
「……何故?」
「だって、従者は恋人じゃない。他に婚約者がいる人を従者にしてはいけないわけじゃないはず。……もしも、僕だったら、好きな人に傍にいてほしいって思うんじゃないかなって、そう考えたんだ。恋人じゃなくてもいいから、その気持ちは封じ込めておくから、傍にいてほしいなって。……自分に残された時間が僅かだと分かっているのなら、尚更」
僕の言葉に静かに耳を傾けていたサリハさんは、何度か頷いてから、小さな笑い声を上げる。それまでの厳かな雰囲気が崩れて、年相応の女の子らしい可憐な笑い方だった。
「まったくもって、その通りだな。ワタシも、同じように思う」
「じゃあ、やっぱり……」
「ああ。ワタシだって、同じだ。己に残された時間の中、好いた相手と少しでも長く共に居たいと思った。……だからこそ、従者に指名した」
ああ、やっぱり。僕の予感は当たっていた。
──サリハさんの好きな人は、フィラスだったんだ。
サリハさんとジルが仮眠をとってから、最後の夕飯ということでちょっと豪勢な料理を僕が作って、主君側と僕側に分かれてそれぞれ食べた。
僕とカミュで後片付けをして、フィラスとサリハさんには明朝旅立てるように支度を整えてもらって先に部屋で休んでもらう。片付けが終わった僕は、入浴をして、フィラスが待っているであろう自室を目指していた。その道中、不意に後ろから声を掛けられる。
「ミカ」
「……サリハさん?」
振り向いた先には、就寝前だからか少しラフな格好のサリハさんが立っていた。軽装とはいえ、隙があるわけではなく、品があるし慎み深い。
「どうしたの? 部屋への帰り方が分からなくなった?」
「いや。ミカと話したかった。少し時間をもらえるか?」
「えっ? うん、勿論」
「ありがとう」
サリハさんはこの城に到着してすぐに遊戯室に入ってしまったし、その後のお世話も全部カミュがしていたから、あまり接点が無かった。僕も話してみたいと思っていたし、彼女の申し出は嬉しい。
廊下の大きな窓に近寄ったサリハさんは、その窓枠に背を預ける形でもたれる。僕も反対側の窓枠で同じようにもたれ、二人して外の雨音を聞きながら話すことになった。
「ワタシが魔王と勝負をしている間、フィラスが随分と世話になったようだ。礼を言う」
「いや、そんな……、僕のほうこそ、彼には随分と気に掛けてもらって、たくさん相手をしてもらって嬉しかったんだ。こちらこそ、フィラスと楽しい時間を過ごすきっかけをもらえて、本当にありがとう」
「そう言ってもらえると、ワタシも嬉しい。……それに、フィラスも喜んでいるだろう。彼はいつも陽気を保っているが、ミカと過ごしていた間は本当に楽しかったのだと、彼の顔に書いてある。──ここ最近の彼は、無理をして明るく振る舞っていることも多くてな、浮かない顔をしているときも多かったのだ。……何故かは、分かるだろう?」
「……うん、分かるよ」
サリハさんの命の残り時間を考えて、フィラスは苦しみ、表情が暗いこともあったのだろう。それは容易に想像できる。同意した僕に優しい視線を向けながら、サリハさんは小さく頷いた。
「ミカは相手の心情を汲むのが上手いようだな。──そして、ミカはフィラスに料理をさせてあげていたようだ」
「……えっ?」
ドキリとした。どうして、サリハさんがそれを知っているんだろう。カミュには口止めしていたし、彼は約束を違えたりしない。
内心で動揺しているはずが表情にも出てしまっていたのか、サリハさんは面白そうにこちらを見ている。
「なに、ワタシは鼻が効くほうでな。魔王との勝負を終えてフィラスと対面したとき、彼から感じた匂いが『揚げ物をした者』と同じものだと気がついただけだ。ミカやカミュ殿にも同じような匂いはあったが、フィラスほどではなかった。つまり、フィラスが中心となって、ポトトの揚げ物を作ってくれたというわけだな」
「え、っと……」
「安心してくれ。フィラスが料理をしていたということは、ワタシの胸の中に秘めておく。故郷へ戻っても、誰にも明かさない。決して明かしたりするものか」
そう言ったサリハさんは黒い瞳を伏せて、幸せそうにしみじみと呟いた。
「ポトトの揚げ物、美味しかったなぁ」
その横顔は、恋する乙女そのものだった。甘酸っぱくて、少し切なくてチクリとするような、不思議と目を惹きつけられるような、そんな表情。それは勿論、フライドポトトそのものに向けられているものではなく、それを作った青年を想ってのものなのだろう。
「……サリハさんは、どうしてフィラスを従者にしたの?」
ん? と尋ね返すように、澄んだ黒眼が僕へ向けられる。余計なことを尋ねるなと咎めるでもなく、そこには触れてほしくないと拒むでもなく、先を促すような穏やかな視線に誘導されるまま、僕は問い掛けを続けた。
「フィラスが言っていたんだ。サリハさんには好きな人がいる、って。その人はフィラスとサリハさんと幼馴染で、婚約者がいるらしいってことも。サリハさんはその人と婚約者の仲を裂こうとはしなかったってことも、だからこそ、従者に指名したのはフィラスだったってことも。……でも、本当にそれだけが理由なのかな、って思ったから」
「……何故?」
「だって、従者は恋人じゃない。他に婚約者がいる人を従者にしてはいけないわけじゃないはず。……もしも、僕だったら、好きな人に傍にいてほしいって思うんじゃないかなって、そう考えたんだ。恋人じゃなくてもいいから、その気持ちは封じ込めておくから、傍にいてほしいなって。……自分に残された時間が僅かだと分かっているのなら、尚更」
僕の言葉に静かに耳を傾けていたサリハさんは、何度か頷いてから、小さな笑い声を上げる。それまでの厳かな雰囲気が崩れて、年相応の女の子らしい可憐な笑い方だった。
「まったくもって、その通りだな。ワタシも、同じように思う」
「じゃあ、やっぱり……」
「ああ。ワタシだって、同じだ。己に残された時間の中、好いた相手と少しでも長く共に居たいと思った。……だからこそ、従者に指名した」
ああ、やっぱり。僕の予感は当たっていた。
──サリハさんの好きな人は、フィラスだったんだ。
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