魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第6話】両片想いとフライドポテト

【6-22】

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「──これは、ただの独り言だ。初めて出会い、もう二度と会わない相手だからこそ、聞かれても構わない独り言」

 そう前置きしてから、サリハさんは静かに「独り言」を語り出した。

「フィラスの瞳は、嘘をつけない。だから、あの金色の眼が向けてくる熱は、きっとワタシの勘違いではない。それは分かっている。だからこそ、ワタシはこの気持ちを明かすことが出来ない。この想いを伝えれば、フィラスはきっと応えてくれる。巫女からの要請だからではなく、彼自身の気持ちで応えてくれる。──そして、おそらく、ワタシが死んだ後も縛られたままだ」
「……」
「ワタシの想いは確かに愛だが、それを伝えてしまえば、呪いに変わる。ワタシが死んだ後も囚われ続ける呪いに」
「そんなこと、」

 ない、と続けようとした僕の唇に、褐色の細い指が触れてきた。驚いて声を飲み込むと、サリハさんは僕の唇を押さえたまま、もう片方の手で自分の唇を覆い、小さく首を振ってみせる。──黙って聞け、ということだろうか。
 僕が頷くと、サリハさんは指を退けて微笑んだ。

「ワタシは、フィラスには幸せになってほしい。一族の他の皆と同じように、家庭を作り、子孫に囲まれて穏やかに老いていってほしいのだ。……我々一族にとって何よりの幸福は、子孫繁栄と長生きだから」

 なんて残酷なんだろう。
 僕は咄嗟に、そう考えてしまった。
 一族が重んじている子孫繁栄と長命を得るには巫女が降らせる雨が必要不可欠で、その巫女は皆のために短い生涯を捧げねばならない。巫女は、何も悪いことをしていないのに、皆と同じ「幸福」は決して得られないんだ。
 ──いや、子孫に関しては、場合によっては繁栄していくかもしれない。巫女がそれを見届けることは出来なくても、不可能ではない。でも、それを選び取る巫女は少ないだろう。
 そんな僕の思考を読み取ったかのように、サリハさんはポツリと呟いた。

「……ワタシだって、フィラスの子を産むことは出来たかもしれない。それも、何度か考えた。……でも、その度に同じ結論に辿り着く」

 その結論は、なんとなく想像がつく。
 僕が君の立場でも、きっと同じ答えを出すはずだ。

「子は授かりものだという問題を、横に置いておくとして。子どもを産んでも、その子が物心つくときには、ワタシはいない。母を知らない悲しみを我が子に残すと知っていながら、それを選び取ることは、ワタシには出来ない。……勿論、不慮の出来事で急に亡くなる母もいるし、自分の命と引き換えに子を産む母もいるし、その後も立派に生きている子もいる。歴代の巫女たちの中にも、自分の子を遺して逝った者もいた。それは否定しない。……だが、ワタシにはその道は選べない」

 僕も、同じ考えだよ。──言葉は求められていないだろうから、黙って頷くことで同意を示す。
 どちらが正しいとか間違っているとかではなく、自分が選べるのはどちらなのかという話だ。サリハさんや僕とは違う道を選ぶ人もいるだろうし、それを否定はしない。けれど、こちらが選んだ道だって、否定されるべきものではないはず。
 ……ただ、フィラスはどう考えるだろう。

「フィラスは、きっと、ワタシとは違う考えを示すと思う」

 また僕の思考を透視しているかのようなタイミングで、サリハさんは言った。

「残された時間がどんなに短くとも結婚を望むだろうし、それがもっと早い段階であったなら子も欲しがっただろう。ワタシの忘れ形見として子を大切に育て、ワタシが死んだ後も他の女のものにはならないだろう。……ワタシは、それが嫌だ。フィラスには、温かい家族に囲まれて、笑いが絶えず賑やかな人生を送ってほしい。そう願うのは、ワタシの我儘なのだ」
「……」
「我儘といえば、此処への訪問もそうだ。ワタシが何故、魔王との勝負を望んでいるかなど、おそらく皆は知らないだろう」

 黙って頷く。故郷を離れるにしても、もっと違った形で、例えば観光を楽しむ旅だって出来るはずなのに。どうして、わざわざ魔王との勝負を望んだりしたのか、彼女の真意は分からなかった。

「簡単なことだ。それが一番、彼を独り占めできる時間が長い方法だったからだよ」
「えっ……?」
「我が故郷から此処までは片道六日から七日ほど掛かる。『創世大戦』での勝負には三日前後かかる。そして、毎年挑むことが出来る。──毎年の可能な限りの遠出をするのに、一番もっともらしい理由だったんだ。ただの旅行では贅沢だし、遠出にも限りがある。他に理由を付けられる長旅、それも毎年足を伸ばせるだけの理由がある訪問先など、そうそう無い。……今の魔王が温厚で慈しみ深い者だからこそ許されている我儘ではあるが、此処へ来るのが一番、ワタシの望みに適していたんだ」

 そう言って、サリハさんは悪戯めいた笑顔を浮かべる。その横顔は、余命わずかとは思えないほど、生き生きとしていた。
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