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【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-24】
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◆◆◆
──翌朝。
日差しが強くなる前にと、巫女と従者は早朝のうちに出発することになった。朝食を食べる時間が無い彼らのために、おにぎりと卵焼きと唐揚げのお弁当を作って手渡すと、とても喜んでくれた。
昨夜、大泣きして悩んだ末、フィラスは今まで通りの態度でサリハさんに接し続ける道を選んだらしい。嘘がつけない彼には難しい選択のようにも思えたけれど、フィラスの恋心はサリハさんには筒抜けなんだということを思い出し、考えを改めた。
フィラスの気持ちは変わらないし、金色の瞳から放たれる熱視線にも変わりはなく、それを受け取るサリハさんの気持ちも今まで通りなのだから。
ジルとカミュと僕、クックとポッポというフルメンバーで玄関外まで見送りに出ると、サリハさんは綺麗な一礼と共に挨拶してくれた。
「魔王、今までワタシの我儘に付き合ってくれたこと、心から感謝する。ありがとう。カミュとミカにも、大変世話になった。ありがとう」
「いや、礼には及ばない。俺も、楽しい時間を過ごさせてもらった」
ジルがそう言って微笑む後ろで、僕とカミュも頷く。サリハさんの背後に控えているフィラスは、泣くのを懸命に堪えているようだった。
誰一人、「最後」だと明確に口にしているわけじゃない。それでも、サリハさんが此処を訪れることは二度と無いのだと、皆が意識している別れの場面だった。
「フィラス」
「はっ、魔王様!」
不意にジルが名前を呼ぶと、フィラスは緊張したように背筋を伸ばす。サリハさんも少し不安げな表情を覗かせた。
身構える主従に対し優しい眼差しを向けたジルは、おもむろに僕の肩を抱き、自分の隣に立つよう引き寄せてくる。何事かと驚いている間に、魔王は次の言葉を続けた。
「また、此処を訪れるといい。俺と勝負をする必要も無い」
「はっ!? い、いえ、しかし……!?」
「友に会いに来るのに理由が必要か?」
そう言ってジルが僕の頭を撫でると、フィラスは驚いたように目を瞠り、サリハさんは安心したように小さく微笑んだ。
「お前は、この世界においてミカに初めて出来た友人だ。また顔を見せに来てやってくれ。……そのために、この地を守れるよう努力しよう」
「ジル……」
鼻の奥がツンとなり、なんだか泣きたくなった。約束するとは言えず、それでも希望を繋いでくれようとする彼は、魔王として生きるには優しすぎる。
泣くのを堪える僕とは対照的に、フィラスはぼろぼろと大粒の涙を流した。
「あ、あいがどうござ、ましゅ、ま、まおぉざまあぁぁぁ……!」
「ああ、ほら、フィラス。主を差し置いて泣く従者があるか」
「み、みごさまぁぁぁ」
「まったく……、良い友を得られて良かったな、フィラス。ワタシがアナタを連れて此処に来た甲斐もあるというものだ」
──ああ、そうか。
ジルがフィラスを僕の友人だと認めることで、この主従のどちらも救われた心地になるんだ。そして、それは僕にとっても嬉しいことになる。……ジルには敵わないなぁと、そう思った。
苦笑しながらもどことなく嬉しそうにハンカチで従者の目元を拭ってあげるサリハさんと、なんとなく照れくさそうながらもやっぱり嬉しそうにされるがままのフィラスは、改めてお礼を伝えてくれてから、馬車に乗り込んでゆく。サリハさんが杖を振って呪文を唱えると、馬車はグンと一気に加速して駆け去ってしまった。
馬車が完全に見えなくなっても、わずかに未練が残っているのか、足が動かない。それは僕だけではなく、ジルもカミュも同じようだった。
「……サリハ様、行ってしまわれましたね」
「ああ、……そうだな」
寂しそうに呟くカミュに、ジルも静かに応える。僕は頷くことしか出来ない。
「あの娘は強い。己に残されている時間と、残していかねばならない者たちと、きちんと向き合っている。……遊戯での勝負は俺が勝ったが、心の強さは彼女のほうがずっと格上だ」
「ええ。そして、フィラスさんもお強い。大切な方が逝ってしまう事実と、ひたむきに向き合っておられます」
ジルとカミュの、まるで自分に言い聞かせるような言葉が、どうしようもなく切ない。僕は、なんだか堪らない気持ちになってしまって、二人の腕を片方ずつ、自分の両腕で抱き寄せた。
「フィラスは、僕の初めての友だち。そして、ジルとカミュとクックとポッポは、この世界で初めて出来た、僕の家族なんだ」
「ミカ……」
「ミカさん……」
「だから、置いていかないで」
ハッと息を呑む気配をふたつ、頭上に感じる。僕を挟んで、彼らは顔を見合わせて困っているかもしれない。それを見上げるのが怖くて、僕はもう一度繰り返した。
「おいていかないで」
何を子供のようなことを、と我ながら思う。笑われても仕方がない。けれど、僕はやっと口に出して言えた。幼い頃からずっと胸の中で繰り返していた想いを、やっと素直に声に出せた。
そして、そうさせたのは君たちだ。
君たちが傍で温かく包んでくれたから、僕の胸で凍りついていた本音が溶け出してしまったんだ。
「ミカ、……」
何かを言いかけてやめたジルが、黙って抱きしめてくる。そして、そんな魔王ごと包み込むようにカミュの腕も添えられた。そこに、クックとポッポも降り立ってくる。
こんなに傍にいて、みんな同じ気持ちで、同じことを願っているのに。それでも、僕たちは約束は出来ない。
優しさと切なさが渦巻く胸が苦しくなるのを感じながら、僕は大切な家族たちをそっと抱きしめ返すのだった。
--------------------------------------------------
第6話はここまでとなります。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
想定している物語の半分くらいまできたかな、という感じです。
よろしければ、ご感想などいただけると励みになります。
ここまでお読みいただいた中で、お好きな登場人物やエピソードなどございましたら、お聞かせいただけると嬉しいです!
次話からも引き続きお付き合いいただけますと幸いです^^
──翌朝。
日差しが強くなる前にと、巫女と従者は早朝のうちに出発することになった。朝食を食べる時間が無い彼らのために、おにぎりと卵焼きと唐揚げのお弁当を作って手渡すと、とても喜んでくれた。
昨夜、大泣きして悩んだ末、フィラスは今まで通りの態度でサリハさんに接し続ける道を選んだらしい。嘘がつけない彼には難しい選択のようにも思えたけれど、フィラスの恋心はサリハさんには筒抜けなんだということを思い出し、考えを改めた。
フィラスの気持ちは変わらないし、金色の瞳から放たれる熱視線にも変わりはなく、それを受け取るサリハさんの気持ちも今まで通りなのだから。
ジルとカミュと僕、クックとポッポというフルメンバーで玄関外まで見送りに出ると、サリハさんは綺麗な一礼と共に挨拶してくれた。
「魔王、今までワタシの我儘に付き合ってくれたこと、心から感謝する。ありがとう。カミュとミカにも、大変世話になった。ありがとう」
「いや、礼には及ばない。俺も、楽しい時間を過ごさせてもらった」
ジルがそう言って微笑む後ろで、僕とカミュも頷く。サリハさんの背後に控えているフィラスは、泣くのを懸命に堪えているようだった。
誰一人、「最後」だと明確に口にしているわけじゃない。それでも、サリハさんが此処を訪れることは二度と無いのだと、皆が意識している別れの場面だった。
「フィラス」
「はっ、魔王様!」
不意にジルが名前を呼ぶと、フィラスは緊張したように背筋を伸ばす。サリハさんも少し不安げな表情を覗かせた。
身構える主従に対し優しい眼差しを向けたジルは、おもむろに僕の肩を抱き、自分の隣に立つよう引き寄せてくる。何事かと驚いている間に、魔王は次の言葉を続けた。
「また、此処を訪れるといい。俺と勝負をする必要も無い」
「はっ!? い、いえ、しかし……!?」
「友に会いに来るのに理由が必要か?」
そう言ってジルが僕の頭を撫でると、フィラスは驚いたように目を瞠り、サリハさんは安心したように小さく微笑んだ。
「お前は、この世界においてミカに初めて出来た友人だ。また顔を見せに来てやってくれ。……そのために、この地を守れるよう努力しよう」
「ジル……」
鼻の奥がツンとなり、なんだか泣きたくなった。約束するとは言えず、それでも希望を繋いでくれようとする彼は、魔王として生きるには優しすぎる。
泣くのを堪える僕とは対照的に、フィラスはぼろぼろと大粒の涙を流した。
「あ、あいがどうござ、ましゅ、ま、まおぉざまあぁぁぁ……!」
「ああ、ほら、フィラス。主を差し置いて泣く従者があるか」
「み、みごさまぁぁぁ」
「まったく……、良い友を得られて良かったな、フィラス。ワタシがアナタを連れて此処に来た甲斐もあるというものだ」
──ああ、そうか。
ジルがフィラスを僕の友人だと認めることで、この主従のどちらも救われた心地になるんだ。そして、それは僕にとっても嬉しいことになる。……ジルには敵わないなぁと、そう思った。
苦笑しながらもどことなく嬉しそうにハンカチで従者の目元を拭ってあげるサリハさんと、なんとなく照れくさそうながらもやっぱり嬉しそうにされるがままのフィラスは、改めてお礼を伝えてくれてから、馬車に乗り込んでゆく。サリハさんが杖を振って呪文を唱えると、馬車はグンと一気に加速して駆け去ってしまった。
馬車が完全に見えなくなっても、わずかに未練が残っているのか、足が動かない。それは僕だけではなく、ジルもカミュも同じようだった。
「……サリハ様、行ってしまわれましたね」
「ああ、……そうだな」
寂しそうに呟くカミュに、ジルも静かに応える。僕は頷くことしか出来ない。
「あの娘は強い。己に残されている時間と、残していかねばならない者たちと、きちんと向き合っている。……遊戯での勝負は俺が勝ったが、心の強さは彼女のほうがずっと格上だ」
「ええ。そして、フィラスさんもお強い。大切な方が逝ってしまう事実と、ひたむきに向き合っておられます」
ジルとカミュの、まるで自分に言い聞かせるような言葉が、どうしようもなく切ない。僕は、なんだか堪らない気持ちになってしまって、二人の腕を片方ずつ、自分の両腕で抱き寄せた。
「フィラスは、僕の初めての友だち。そして、ジルとカミュとクックとポッポは、この世界で初めて出来た、僕の家族なんだ」
「ミカ……」
「ミカさん……」
「だから、置いていかないで」
ハッと息を呑む気配をふたつ、頭上に感じる。僕を挟んで、彼らは顔を見合わせて困っているかもしれない。それを見上げるのが怖くて、僕はもう一度繰り返した。
「おいていかないで」
何を子供のようなことを、と我ながら思う。笑われても仕方がない。けれど、僕はやっと口に出して言えた。幼い頃からずっと胸の中で繰り返していた想いを、やっと素直に声に出せた。
そして、そうさせたのは君たちだ。
君たちが傍で温かく包んでくれたから、僕の胸で凍りついていた本音が溶け出してしまったんだ。
「ミカ、……」
何かを言いかけてやめたジルが、黙って抱きしめてくる。そして、そんな魔王ごと包み込むようにカミュの腕も添えられた。そこに、クックとポッポも降り立ってくる。
こんなに傍にいて、みんな同じ気持ちで、同じことを願っているのに。それでも、僕たちは約束は出来ない。
優しさと切なさが渦巻く胸が苦しくなるのを感じながら、僕は大切な家族たちをそっと抱きしめ返すのだった。
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第6話はここまでとなります。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
想定している物語の半分くらいまできたかな、という感じです。
よろしければ、ご感想などいただけると励みになります。
ここまでお読みいただいた中で、お好きな登場人物やエピソードなどございましたら、お聞かせいただけると嬉しいです!
次話からも引き続きお付き合いいただけますと幸いです^^
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