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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ
【7-1】
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「わぁ……、すごいです! 本当に涼しく感じます!」
「そうであろう?」
土の匂いが漂っている畑と畑の間で、思わず興奮しながら振り返ると、麗しい銀髪の王子様は満足そうに微笑んだ。
──今は、第七星図期間。すっかり夏らしくなって、日中は黙って立っているだけでも汗ばむことが多い。そんな暑い日々の中、マティアス王子が久しぶりにやって来た。たくさん届けてくれたお土産の中で、マティ様が一番自信を持っているのが、今、僕が被っている帽子のようだ。
半透明で光の当たり具合によってオーロラ模様のようなものが浮かび上がる不思議な素材の布で作られていて、デザインとしては魔法使いが被っていそうなイメージの、つばが広いトンガリ帽子だ。魔法の力が込められている「魔道具」というものに分類されるらしく、この帽子を被ると、日差しの鋭さが軽減されて、体全体がひんやりとした感覚に包まれ、清涼感がある。
僕が畑で夏野菜を育てることにハマっている、と魔王から報告を受けた王子様が、ご親切に自ら届けてくださった帽子は、熱中症対策に適していると思われる素晴らしいものだった。マティ様に畑を見てもらうついでに早速被ってみて、思わず興奮して大きな声を出してしまった、というわけだ。
「まったく……、魔鳥を二羽も寄越したと思えば、今度はそんな高価な魔道具を容易く渡してくるとは……」
傍で様子を見守っていたジルが深い溜息と共に言葉を零すと、マティ様は涼しげなアイスブルーの瞳をキッと眇めて魔王を睨みつける。
「余計なことを言うでない」
マティ様いわく「余計なこと」の中に、僕としては気になる一言があった。だから、その件について、おずおずと進言してみる。
「あの、マティ様、そんなに高価なものをいただくわけには……、」
「ほら! ミカが気にしているではないか!どうにかしろ、ジル」
「どうにかと言われてもな……」
「マティ様、あの、これはやっぱり……、」
「ジル、どうにかしろ!」
なんとか返品を申し出ようとする僕の言葉は、ジルに飛び火してしまった。マティ様は腕を組んで、頑固な姿勢を見せている。
結果、物憂げな顔の魔王が折れた。
「──ミカ、もらっておけ」
「えっ、でも……、魔王側の人間が王子様から高価なものをいただいて大丈夫なの?」
「良いことではない。だが、この男は頑固で、一度こうと決めたら絶対に折れない。大人しく貰っておいたほうがいい。……それに、彼は王子ではあるが、きちんと労働に勤しみ、その対価として得ている金がある。その金でお前への贈り物を得ているのだろうから、まぁ、許容範囲と云えなくもない」
つまり、王国民の血税が使われている贈り物を王子様が魔王側に渡すのは良くないけど、王子様の個人的な資産からであれば、良くはないけど絶対に悪いともいえない、ということだろうか。
とりあえず、せっかく届けてくださったお土産だし、ジルがいいと言うのなら、ありがたく受け取らせてもらおう。
「マティ様、素敵な贈り物をありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「うむ、それでよいのだ。ミカが快適かつ健康に畑仕事が出来れば、そこの魔王も、どこぞの悪魔も安心するだろう」
「はい。……カミュはいつも、僕が日差しが強い中で動くことを心配していたので、きっと喜ぶと思います」
「うむ。……しかし、今は立場が逆転しているようだな。カミュの容態はそんなに悪いのか?」
静かに問われるも、どう答えたらいいものか迷って、即答できない。
──そう。今、カミュは体調が悪くて寝込んでいる。いや、体調というより、心調だろうか。本人は大したことないと言っているけれど、マティ様が来訪しても顔を見せに来ることさえ出来ないのだから、結構な重症だと思う。
口ごもる僕に代わって、ジルが溜息まじりに答えてくれた。
「病気というわけではない。ただ、あいつは悪魔らしくない言動をしているせいか、時折、その反動に苦しむことがあるんだ」
「反動? では、悪魔らしい在り方を望む衝動に駆られるとでもいうのか」
「まぁ、それに近い。あいつは魔の者として、魔王の監視が役割だと心得ている。だから、俺に危害を加えることはない。……だが、お前やミカは違う。ちょっとした気分のムラで殺したとしても、悪魔的には問題が無い」
「なるほどな。万が一を考えて、ミカや私から遠ざかっているのか」
ジルは頷く。何日か前に同じ説明を聞かされていた僕は、黙って俯いた。
カミュのその衝動は、滅多に起きるものではないらしく、そのきっかけになる出来事が何か無い限り落ち着いたままらしい。そのきっかけとなるのは、どうやら怒りのようだ。激しい怒りに苛まれ、それを鎮めた後、少し時間を置いた頃合いでぶり返してしまうものらしい。
──ジルは明言することを避けていたけど、今回の衝動のきっかけになっているのは僕の誘拐だろう。イラさんに対して怒りを滾らせていたカミュは、恐ろしいほどの勢いだった。……あのことが、今のカミュの苦しみの原因なのだとしたら、僕の不注意が招いたものだともいえる。
申し訳なさを噛み締めていると、マティ様の綺麗な指先が、僕の頬にそっと触れてきた。
「そうであろう?」
土の匂いが漂っている畑と畑の間で、思わず興奮しながら振り返ると、麗しい銀髪の王子様は満足そうに微笑んだ。
──今は、第七星図期間。すっかり夏らしくなって、日中は黙って立っているだけでも汗ばむことが多い。そんな暑い日々の中、マティアス王子が久しぶりにやって来た。たくさん届けてくれたお土産の中で、マティ様が一番自信を持っているのが、今、僕が被っている帽子のようだ。
半透明で光の当たり具合によってオーロラ模様のようなものが浮かび上がる不思議な素材の布で作られていて、デザインとしては魔法使いが被っていそうなイメージの、つばが広いトンガリ帽子だ。魔法の力が込められている「魔道具」というものに分類されるらしく、この帽子を被ると、日差しの鋭さが軽減されて、体全体がひんやりとした感覚に包まれ、清涼感がある。
僕が畑で夏野菜を育てることにハマっている、と魔王から報告を受けた王子様が、ご親切に自ら届けてくださった帽子は、熱中症対策に適していると思われる素晴らしいものだった。マティ様に畑を見てもらうついでに早速被ってみて、思わず興奮して大きな声を出してしまった、というわけだ。
「まったく……、魔鳥を二羽も寄越したと思えば、今度はそんな高価な魔道具を容易く渡してくるとは……」
傍で様子を見守っていたジルが深い溜息と共に言葉を零すと、マティ様は涼しげなアイスブルーの瞳をキッと眇めて魔王を睨みつける。
「余計なことを言うでない」
マティ様いわく「余計なこと」の中に、僕としては気になる一言があった。だから、その件について、おずおずと進言してみる。
「あの、マティ様、そんなに高価なものをいただくわけには……、」
「ほら! ミカが気にしているではないか!どうにかしろ、ジル」
「どうにかと言われてもな……」
「マティ様、あの、これはやっぱり……、」
「ジル、どうにかしろ!」
なんとか返品を申し出ようとする僕の言葉は、ジルに飛び火してしまった。マティ様は腕を組んで、頑固な姿勢を見せている。
結果、物憂げな顔の魔王が折れた。
「──ミカ、もらっておけ」
「えっ、でも……、魔王側の人間が王子様から高価なものをいただいて大丈夫なの?」
「良いことではない。だが、この男は頑固で、一度こうと決めたら絶対に折れない。大人しく貰っておいたほうがいい。……それに、彼は王子ではあるが、きちんと労働に勤しみ、その対価として得ている金がある。その金でお前への贈り物を得ているのだろうから、まぁ、許容範囲と云えなくもない」
つまり、王国民の血税が使われている贈り物を王子様が魔王側に渡すのは良くないけど、王子様の個人的な資産からであれば、良くはないけど絶対に悪いともいえない、ということだろうか。
とりあえず、せっかく届けてくださったお土産だし、ジルがいいと言うのなら、ありがたく受け取らせてもらおう。
「マティ様、素敵な贈り物をありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「うむ、それでよいのだ。ミカが快適かつ健康に畑仕事が出来れば、そこの魔王も、どこぞの悪魔も安心するだろう」
「はい。……カミュはいつも、僕が日差しが強い中で動くことを心配していたので、きっと喜ぶと思います」
「うむ。……しかし、今は立場が逆転しているようだな。カミュの容態はそんなに悪いのか?」
静かに問われるも、どう答えたらいいものか迷って、即答できない。
──そう。今、カミュは体調が悪くて寝込んでいる。いや、体調というより、心調だろうか。本人は大したことないと言っているけれど、マティ様が来訪しても顔を見せに来ることさえ出来ないのだから、結構な重症だと思う。
口ごもる僕に代わって、ジルが溜息まじりに答えてくれた。
「病気というわけではない。ただ、あいつは悪魔らしくない言動をしているせいか、時折、その反動に苦しむことがあるんだ」
「反動? では、悪魔らしい在り方を望む衝動に駆られるとでもいうのか」
「まぁ、それに近い。あいつは魔の者として、魔王の監視が役割だと心得ている。だから、俺に危害を加えることはない。……だが、お前やミカは違う。ちょっとした気分のムラで殺したとしても、悪魔的には問題が無い」
「なるほどな。万が一を考えて、ミカや私から遠ざかっているのか」
ジルは頷く。何日か前に同じ説明を聞かされていた僕は、黙って俯いた。
カミュのその衝動は、滅多に起きるものではないらしく、そのきっかけになる出来事が何か無い限り落ち着いたままらしい。そのきっかけとなるのは、どうやら怒りのようだ。激しい怒りに苛まれ、それを鎮めた後、少し時間を置いた頃合いでぶり返してしまうものらしい。
──ジルは明言することを避けていたけど、今回の衝動のきっかけになっているのは僕の誘拐だろう。イラさんに対して怒りを滾らせていたカミュは、恐ろしいほどの勢いだった。……あのことが、今のカミュの苦しみの原因なのだとしたら、僕の不注意が招いたものだともいえる。
申し訳なさを噛み締めていると、マティ様の綺麗な指先が、僕の頬にそっと触れてきた。
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