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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ
【7-2】
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「何をそんなに落ち込むことがある、ミカ?」
「それは、その……」
マティ様は、僕が女盗賊に連れ去られた一件を知らない。伝えてもよいものか迷っていると、ジルが言葉を挟んでくる。
「共に暮らしている者がずっと臥せっているのだから、優しいミカが心を痛めるのは当然だ。とはいえ、そんなに気にしていては、カミュも気が休まらないだろう。元気に、そして普段通りに生活することが、今のミカに出来るカミュへの気遣いだ」
言外に「お前のせいではないから気にするな」と伝えてくれるジルに胸の内で感謝しつつ、僕は頷いて、気持ちを切り替えることにした。
「うん、そうだね。……今は、マティ様も来てくださっているし、カミュの分までおもてなしを頑張らないと!」
「私をもてなす必要などない。……そんなことより、これらの野菜を全てミカが育てているのか?」
優しい声音で話題を変えてくれるマティ様は、前に会ったときよりもずっとお兄さんらしい雰囲気を纏っている。年の離れた弟として生まれてきたカイ王子を可愛がっているうちに、そうなったのだろうか。それを想像すると、なんだか微笑ましい。
「そうですよ! といっても、水やりには魔法が必要不可欠なので、カミュやジルの手を借りているんですけど」
「そうか、……、いや、しかし、全体的に手入れをして管理しているのはミカなのだろう? 立派なものだ」
なんだろう。今、マティ様の言葉の中で、何か不自然な間があったような気がするんだけど。それは僕や畑に対してどうこうというものではなく、彼の中で引っ掛かる何かを見つけたような、そんなものだった。
「……え、っと、……この夏野菜たちは、まだ収穫するには少し早いので、今はマティ様に召し上がっていただけなくて、残念です。少し前に収穫できたポトトはまだまだ食べ頃なので、今夜はそれで美味しいものを作りますね!」
「……ああ、楽しみにしている」
今回も宿泊していくというマティ様に夕飯の話題を振ってみると、嬉しそうに笑ってはくれたけれど、どこか心あらずな感じもする。……どうしたんだろう?
踏み込んでもいいものか、そっとしておくべきか。躊躇っていると、そんな僕を見かねたのか、ジルが静かに助け舟を出してくれた。
「マティアス。何か思うところがあるのなら、正直に言え。もしくは、口に出来ない思惑ならば、悟られるような真似をするな。ミカが気にしているだろうが」
「えっ、いや、僕はそんな……、ただ、マティ様が元気が無いような気がして……」
心配だったと言うのは重いかも、と途中で考えた結果、中途半端なところで話を切る形になってしまう。宙ぶらりんな言葉を拾ったマティ様は、申し訳なさそうに眉尻をわずかに下げた。
「すまない。余計な心配を掛けたか」
「いえ、そんな、余計というわけではなく、あっ、いや、僕の言葉は余計だったかもしれないのですが、」
「ミカ」
動揺して狼狽えながらオロオロしている僕の両肩に手を置き、マティ様は凛とした声で名前を呼ぶ。彼の声に名を乗せられると、背筋を伸ばしたくなるのは何故だろう。
無意識に背を正した僕を真摯に見つめながら、マティ様は誠実に言葉を紡いだ。
「隠したいわけではなく、後ほどきちんと伝えるつもりだった。それが態度へ半端に漏れてしまったのは私の落ち度であり、そなたの気遣いは決して余計なものではない。感謝する」
「マティ様……」
「こうなったら、先に話をしてしまおう。だが、此処は暑い。中へ戻ろうか。ミカさえよければ、話の後、また改めて野菜たちを見せてくれるか? きちんと集中して対面したいのだ」
「はい、勿論です。喜んで!」
嬉しくなって頷いた後、ハッと気づいて被っていた帽子を外してマティ様へ差し出す。返そうとしたわけではなく、少しでも涼んでもらおうと思ってのことだ。
その意図を正しく読み取ってくれたらしいマティ様は、微笑みながら首を振り、僕にもう一度、帽子を被せる。そんな様子を、ジルはどことなく嬉しそうに見守っていた。
◇
食堂に戻り、冷たいカボ茶と、作っておいたエッグタルトと塩サブレを振る舞うと、マティ様もジルも美味しそうに味わってくれる。クックとポッポにもサブレを砕いたものをおやつとしてあげると、クルクルと甘えた声を出して喜んでくれた。
皆でひとしきり喉を潤し、小腹を満たしたところで、マティ様が表情を改め、本題を切り出してくる。
「──実は、ミカに頼みがある。ジルの許可も必要になる頼みだ」
「……俺の許可、だと?」
「なんでしょう、マティ様」
「ミカに、……ミカに一度、王都まで来てほしい」
──えっ?
僕に王都まで来てほしい。そう聞こえたような気がするけれど、確かだろうか。いや、でも、僕は立場上、魔王の僕であって、おいそれと魔王の城を離れるわけにはいかないはずだ。ましてや、王都──つまり、王族のお膝元へ行くだなんて……。
「断る」
僕が唇を開くより先にジルが即答し、漆黒の瞳で王子様を睨みつけていた。
「それは、その……」
マティ様は、僕が女盗賊に連れ去られた一件を知らない。伝えてもよいものか迷っていると、ジルが言葉を挟んでくる。
「共に暮らしている者がずっと臥せっているのだから、優しいミカが心を痛めるのは当然だ。とはいえ、そんなに気にしていては、カミュも気が休まらないだろう。元気に、そして普段通りに生活することが、今のミカに出来るカミュへの気遣いだ」
言外に「お前のせいではないから気にするな」と伝えてくれるジルに胸の内で感謝しつつ、僕は頷いて、気持ちを切り替えることにした。
「うん、そうだね。……今は、マティ様も来てくださっているし、カミュの分までおもてなしを頑張らないと!」
「私をもてなす必要などない。……そんなことより、これらの野菜を全てミカが育てているのか?」
優しい声音で話題を変えてくれるマティ様は、前に会ったときよりもずっとお兄さんらしい雰囲気を纏っている。年の離れた弟として生まれてきたカイ王子を可愛がっているうちに、そうなったのだろうか。それを想像すると、なんだか微笑ましい。
「そうですよ! といっても、水やりには魔法が必要不可欠なので、カミュやジルの手を借りているんですけど」
「そうか、……、いや、しかし、全体的に手入れをして管理しているのはミカなのだろう? 立派なものだ」
なんだろう。今、マティ様の言葉の中で、何か不自然な間があったような気がするんだけど。それは僕や畑に対してどうこうというものではなく、彼の中で引っ掛かる何かを見つけたような、そんなものだった。
「……え、っと、……この夏野菜たちは、まだ収穫するには少し早いので、今はマティ様に召し上がっていただけなくて、残念です。少し前に収穫できたポトトはまだまだ食べ頃なので、今夜はそれで美味しいものを作りますね!」
「……ああ、楽しみにしている」
今回も宿泊していくというマティ様に夕飯の話題を振ってみると、嬉しそうに笑ってはくれたけれど、どこか心あらずな感じもする。……どうしたんだろう?
踏み込んでもいいものか、そっとしておくべきか。躊躇っていると、そんな僕を見かねたのか、ジルが静かに助け舟を出してくれた。
「マティアス。何か思うところがあるのなら、正直に言え。もしくは、口に出来ない思惑ならば、悟られるような真似をするな。ミカが気にしているだろうが」
「えっ、いや、僕はそんな……、ただ、マティ様が元気が無いような気がして……」
心配だったと言うのは重いかも、と途中で考えた結果、中途半端なところで話を切る形になってしまう。宙ぶらりんな言葉を拾ったマティ様は、申し訳なさそうに眉尻をわずかに下げた。
「すまない。余計な心配を掛けたか」
「いえ、そんな、余計というわけではなく、あっ、いや、僕の言葉は余計だったかもしれないのですが、」
「ミカ」
動揺して狼狽えながらオロオロしている僕の両肩に手を置き、マティ様は凛とした声で名前を呼ぶ。彼の声に名を乗せられると、背筋を伸ばしたくなるのは何故だろう。
無意識に背を正した僕を真摯に見つめながら、マティ様は誠実に言葉を紡いだ。
「隠したいわけではなく、後ほどきちんと伝えるつもりだった。それが態度へ半端に漏れてしまったのは私の落ち度であり、そなたの気遣いは決して余計なものではない。感謝する」
「マティ様……」
「こうなったら、先に話をしてしまおう。だが、此処は暑い。中へ戻ろうか。ミカさえよければ、話の後、また改めて野菜たちを見せてくれるか? きちんと集中して対面したいのだ」
「はい、勿論です。喜んで!」
嬉しくなって頷いた後、ハッと気づいて被っていた帽子を外してマティ様へ差し出す。返そうとしたわけではなく、少しでも涼んでもらおうと思ってのことだ。
その意図を正しく読み取ってくれたらしいマティ様は、微笑みながら首を振り、僕にもう一度、帽子を被せる。そんな様子を、ジルはどことなく嬉しそうに見守っていた。
◇
食堂に戻り、冷たいカボ茶と、作っておいたエッグタルトと塩サブレを振る舞うと、マティ様もジルも美味しそうに味わってくれる。クックとポッポにもサブレを砕いたものをおやつとしてあげると、クルクルと甘えた声を出して喜んでくれた。
皆でひとしきり喉を潤し、小腹を満たしたところで、マティ様が表情を改め、本題を切り出してくる。
「──実は、ミカに頼みがある。ジルの許可も必要になる頼みだ」
「……俺の許可、だと?」
「なんでしょう、マティ様」
「ミカに、……ミカに一度、王都まで来てほしい」
──えっ?
僕に王都まで来てほしい。そう聞こえたような気がするけれど、確かだろうか。いや、でも、僕は立場上、魔王の僕であって、おいそれと魔王の城を離れるわけにはいかないはずだ。ましてや、王都──つまり、王族のお膝元へ行くだなんて……。
「断る」
僕が唇を開くより先にジルが即答し、漆黒の瞳で王子様を睨みつけていた。
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