魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-4】

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「つまり、秋の感謝祭であれば、マティアスが連れ歩いている相手は恋人だの愛人だのと思われて、そう勘違いした周囲が気を利かせてそっとしておいてもらえるだろう、ということだ」

 面倒くさそうに吐き出されたジルの言葉を聞き、驚いてしまう。いくらローブを着ているといっても、僕が男だということはバレちゃう可能性も──、ああ、いや、そういえば、この世界では性別はそんなに大事じゃないんだっけ。同性同士の結婚も珍しいものではないと、キカさんから前に聞いたことがある。
 ……いや、王子様が男の恋人と逢引していること自体が問題無かったとしても、そもそも、そういう相手がいるってこと自体がまずかったりしないか?

「──マティ様には、本当の恋人はいないんですか? もし、他の誰かと逢引しているなんて知れたら……、」
「私には、そういった相手はいない。感謝祭までに誰かと恋仲になる可能性も無いし、生涯未婚のままである予定だから、全く問題ない」
「そ、そうなんですか……」

 あまりにもキッパリと言い切られてしまうと、それ以上、突っ込んで訊くことは憚られてしまう。マティ様にも何かポリシーがあるのかもしれないし、プライバシーを詮索する必要もない。マティ様が恋人らしい存在を連れ歩いていても問題が無いというのなら、次の問題点を考えるべきだ。

「ジル。そのお祭りの時に僕が王都へ行くのは、そうじゃない時と比べたら安全なのかな?」
「うぅん……、まぁ、何も無い時期に王都を訪れてマティアスに連れられているよりはマシか。祭りを見物しているマティアスには厳重に護衛がつけられるはずだし、人が多ければ魔鳥が飛んでいてもそんなに目立たない。他の魔鳥も色々と飛んでいるだろうしな。祭りの間、少しだけということであれば、俺が付き添えないこともない。黒の外衣を身に着ければ、この角も隠せるだろうからな」

 そう言って、ジルは銀色の角をそっと撫でた。魔王化の証として、黒髪黒眼になるというものがあるけれど、この世界でもサリハさんのように元々その色を持って生まれた人もいる。それでも、角が生える人物は魔王以外にいない。角を隠した状態でウロウロしていても怪しまれないというのは、ジル的にも重要なポイントなんだろう。

「ミカがマティアスの逢引相手、俺はミカの護衛役ということであれば、マティアスへ受け渡すまで俺が付いていても、ミカが戻ってくるまで近場で待機していても問題ない。ミカに何かあっても、俺・クック・ポッポが傍にいれば対処できるはずだ」
「じゃあ、マティ様に協力できそう? ……あ、でも、ジルが城を空けちゃうことになるのか。それはまずいよね」
「いや……、感謝祭が開催されているときにわざわざ魔王の城を訪れる者はいないだろうし、カミュを留守番させておけば、何かあっても即座に戻って対応できる」
「じゃあ……」
「ああ。協力できなくはない。──それまで、俺たちが健康であればな」

 ジルが静かに添えた一言に、心臓をチクリと刺されたような気がした。彼は「健康」と表現していたけれど、それはつまり「生存」ということだ。以前、マティ様自身が指摘していたように、ジルの中の魔王の魂の欠片がいつ暴走するのかという懸念は、日々つきまとっているのだから。

「──秋が訪れたら、一度、賢者を連れて来る予定だ」
「賢者を? ……何か進展があったのか」
「あるにはあったが、まだ明るい展望の域には達していない。どちらにせよ、一度、ジルに説明をしに行きたいと申していたゆえ、連れて来よう」
「分かった」

 賢者って、確か、国中を探してもそんなに存在しない凄腕の魔法使いだよね。大魔法使いの、更に上で──呪文の詠唱も杖も必要無い凄い人、って感じだったはず。その賢者も、魔王を助ける方法を探っているマティ様の協力者なのだろうか。

「ミカには世話を掛けたり頼みごとをしたりと、面倒を言ってばかりですまないな」
「いいえ、そんなことないです! むしろ、僕のほうこそ色々と気に掛けていただいていて……、何かお手伝いできることは、何でもお力になりたいです。魔力が無いということも、カイ様のお役に立てるなら嬉しいですし」
「そうか。そう言ってもらえるのは、ありがたい。感謝する。……そして、ミカは以前よりも良い顔をするようになったな」
「……良い顔、ですか?」

 思わず首を傾げると、銀髪の王子様はわずかながらも柔和な微笑を浮かべて頷いた。

「瞳が生き生きとしていて、笑い方にも活力がある。ここでの生活にもだいぶ慣れて、ジルやカミュとも良い関係を築けているのだろう」
「はい、おかげさまで。……あと、クックとポッポとも」
「クッ!」
「ポッ!」

 大切な家族として忘れてはならない愛鳥たちの名を並べると、彼らは得意気にドヤ顔を披露しつつ高らかに鳴く。そんな僕たちの姿を見て、マティ様は優しく目を細めた。

「そうか。それは良いことだ。……これからも、どうか健やかに。感謝祭までも、その後も」

 僕たちの無事を心底願ってくれるマティ様に同調するように、ジルも深く頷く。ここにいないカミュもきっと同じ気持ちだろうから、彼の分も合わせる気持ちで、僕も力強く頷きを返した。
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