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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ
【7-5】
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◆◆◆
マティ様が王都へ帰ってから三日経っても、カミュはまだ調子が悪いようで、自室に引きこもってばかりだった。
──いや、僕がいない場所には姿を見せることが度々あるらしい。魔王を補佐する悪魔としての責任がある以上、ずっとジルを放置するわけにもいかないからだろう。
僕がジルからそう離れていない場所でクックとポッポにしっかり監視されながら何かをしているようなときを見計らって、カミュはこっそりとジルの仕事を手伝いに来ているようだ。あとは、僕とジルが畑仕事をしているようなとき、密かに洗濯や掃除を済ませていたりもする。
具合が悪くてずっと寝込んでいるわけではなく、ある程度は動き回れるくらいの体調だというのは安心だけれど、彼とずっと顔を合わせていないのは寂しい。あの穏やかな紅い瞳と優しい笑顔に、早く会いたい。
僕が寂しがっているのを察してか、もしくはジルに何か言われたのか、カミュが食事のお皿を返してくれるときに、毎回短い手紙を添えてくれるようになった。(ちなみに食事はジルがカミュの部屋まで運んで、空になったお皿はカミュ自身が転移魔法でこっそり置きに来る)
おいしかったです。
ありがとうございました。
わたしはげんきです。
しんぱいしないでくださいね。
そんな感じの内容の、実に簡単なメモ程度の手紙。それは彼が面倒くさがっているわけではなくて、この世界の文字や短文を少しずつ読めるようになってきた僕が自力で理解できるように、あえて簡易的な手紙にしているのだと思う。
似たような内容であっても、毎食きちんと新たに書いたものを添えてくれるところに、彼の優しさが滲み出ている。その手紙が嬉しくて、僕は全部大事に取っておいていた。
「ミカ」
調理場で後片付けを終えて、今日の朝食分のカミュの手紙を眺めてニヤニヤしていると、背後から急に声を掛けられて僕は肩を跳ねさせた。
「わっ……、ジル、いつの間にいたの?」
「ああ、今来たばかりなんだが……、驚かせたか、すまない」
「ううん、大丈夫」
ジルはいつも足音を立てずに静かに移動してくるし、扉の開閉も静かだ。そして、ジルが無害な相手だと分かっているクックとポッポも、彼が近付いてきても反応したりはしない。だから、ボーッとしてるときにジルがやって来ると、今のように驚いてしまうことが多い。
「僕こそ、ごめんね。ちょっとボケーッとしてたから」
「いや……、ああ、カミュの手紙か。毎度毎度、あいつもマメだな。それか、引き篭っていて、よっぽど暇なのか」
そう言いつつも、ジルの口元は微笑ましそうに緩んでいる。彼がこうして穏やかな表情でカミュの話題を口にしてくれるのは、引き篭っている悪魔はそれなりに元気だという証拠になっているはずだ。
「カミュと一緒にテーブルを囲んで『いただきます』が出来る日が早く来るといいなぁ」
「そうだな。カミュが食堂に来られるようになったら、アレを作るんだろう? ピッタだったか?」
「ピッツァ。もしくは、ピザだね。うん、そう。それだよ!」
マリオさんが残してくれたレシピ本には、ピザ生地の作り方が載っていて、多彩なアレンジメニューも書かれていた。ピザが大好きだったようで、よく作っていたらしい。ジルもカミュも何度も食べたようで、皆でわいわいと食べるのが楽しかったと懐かしそうに話してくれた。
「ちょうど夏野菜が色々と収穫できたし、鳥のハムとチーズも在庫がたっぷりあるし、この前マティ様が持って来てくれた辛味のあるソースを合わせたら美味しいピザになると思うんだ! 暑いときって、ピリ辛のものが恋しくなったりしない?」
「うーん……、あまり意識したことは無いが、確かに、暑い日にちょっと刺激がある味の料理を食べるというのは、そそられるものがあるかもしれないな」
「でしょ? みんなで食べたら、きっと美味しいし楽しいよ」
「ああ、そうだな」
ジルがどこまで本気で同調してくれているのかは不明だけれど、彼は上機嫌に頭を撫でてきているから、興味を持ってくれているのは確かだろう。
巨大なパプリカみたいなものや、グラデーション柄のトマトっぽいものなど、この世界の夏野菜はビビッドカラーで見ているだけで元気になれるようなものが揃っている。夏野菜で彩られたピザを想像していると、不意に棚の上にいたクックとポッポが揃って首を上げて窓の外を見る。つられてそちらを見ると、黒い翼──蝙蝠羽の端っこのようなものがチラリと視界に入った。
「あれ? もしかして、カミュかな?」
「何……?」
「カミュの羽みたいなものが、今、」
「ミカ! 俺の後ろにいろ!」
「えっ?」
瞬きをひとつする間に、僕はジルに強く引き寄せられて彼の背中に庇われ、クックとポッポはけたたましく鳴き出し、──そして、誰かが目の前にスラリと立った。
そう、誰か。黒い蝙蝠羽が生えていて、燕尾服に身を包んでいるその人は、見るからに「魔の者」だけれど、カミュとは違って髪も瞳も深緑色で、カミュとは違って眼鏡を掛けていて、十分長身だけどカミュよりも少し背が低くて──、つまり、カミュとは違う「悪魔」がそこに立っている。
「見つかっちゃった★ こーんにちはっ☆」
一見インテリっぽい外見の緑の悪魔は、意外にも軽薄な口調と笑い方で無邪気な挨拶を寄越した。
マティ様が王都へ帰ってから三日経っても、カミュはまだ調子が悪いようで、自室に引きこもってばかりだった。
──いや、僕がいない場所には姿を見せることが度々あるらしい。魔王を補佐する悪魔としての責任がある以上、ずっとジルを放置するわけにもいかないからだろう。
僕がジルからそう離れていない場所でクックとポッポにしっかり監視されながら何かをしているようなときを見計らって、カミュはこっそりとジルの仕事を手伝いに来ているようだ。あとは、僕とジルが畑仕事をしているようなとき、密かに洗濯や掃除を済ませていたりもする。
具合が悪くてずっと寝込んでいるわけではなく、ある程度は動き回れるくらいの体調だというのは安心だけれど、彼とずっと顔を合わせていないのは寂しい。あの穏やかな紅い瞳と優しい笑顔に、早く会いたい。
僕が寂しがっているのを察してか、もしくはジルに何か言われたのか、カミュが食事のお皿を返してくれるときに、毎回短い手紙を添えてくれるようになった。(ちなみに食事はジルがカミュの部屋まで運んで、空になったお皿はカミュ自身が転移魔法でこっそり置きに来る)
おいしかったです。
ありがとうございました。
わたしはげんきです。
しんぱいしないでくださいね。
そんな感じの内容の、実に簡単なメモ程度の手紙。それは彼が面倒くさがっているわけではなくて、この世界の文字や短文を少しずつ読めるようになってきた僕が自力で理解できるように、あえて簡易的な手紙にしているのだと思う。
似たような内容であっても、毎食きちんと新たに書いたものを添えてくれるところに、彼の優しさが滲み出ている。その手紙が嬉しくて、僕は全部大事に取っておいていた。
「ミカ」
調理場で後片付けを終えて、今日の朝食分のカミュの手紙を眺めてニヤニヤしていると、背後から急に声を掛けられて僕は肩を跳ねさせた。
「わっ……、ジル、いつの間にいたの?」
「ああ、今来たばかりなんだが……、驚かせたか、すまない」
「ううん、大丈夫」
ジルはいつも足音を立てずに静かに移動してくるし、扉の開閉も静かだ。そして、ジルが無害な相手だと分かっているクックとポッポも、彼が近付いてきても反応したりはしない。だから、ボーッとしてるときにジルがやって来ると、今のように驚いてしまうことが多い。
「僕こそ、ごめんね。ちょっとボケーッとしてたから」
「いや……、ああ、カミュの手紙か。毎度毎度、あいつもマメだな。それか、引き篭っていて、よっぽど暇なのか」
そう言いつつも、ジルの口元は微笑ましそうに緩んでいる。彼がこうして穏やかな表情でカミュの話題を口にしてくれるのは、引き篭っている悪魔はそれなりに元気だという証拠になっているはずだ。
「カミュと一緒にテーブルを囲んで『いただきます』が出来る日が早く来るといいなぁ」
「そうだな。カミュが食堂に来られるようになったら、アレを作るんだろう? ピッタだったか?」
「ピッツァ。もしくは、ピザだね。うん、そう。それだよ!」
マリオさんが残してくれたレシピ本には、ピザ生地の作り方が載っていて、多彩なアレンジメニューも書かれていた。ピザが大好きだったようで、よく作っていたらしい。ジルもカミュも何度も食べたようで、皆でわいわいと食べるのが楽しかったと懐かしそうに話してくれた。
「ちょうど夏野菜が色々と収穫できたし、鳥のハムとチーズも在庫がたっぷりあるし、この前マティ様が持って来てくれた辛味のあるソースを合わせたら美味しいピザになると思うんだ! 暑いときって、ピリ辛のものが恋しくなったりしない?」
「うーん……、あまり意識したことは無いが、確かに、暑い日にちょっと刺激がある味の料理を食べるというのは、そそられるものがあるかもしれないな」
「でしょ? みんなで食べたら、きっと美味しいし楽しいよ」
「ああ、そうだな」
ジルがどこまで本気で同調してくれているのかは不明だけれど、彼は上機嫌に頭を撫でてきているから、興味を持ってくれているのは確かだろう。
巨大なパプリカみたいなものや、グラデーション柄のトマトっぽいものなど、この世界の夏野菜はビビッドカラーで見ているだけで元気になれるようなものが揃っている。夏野菜で彩られたピザを想像していると、不意に棚の上にいたクックとポッポが揃って首を上げて窓の外を見る。つられてそちらを見ると、黒い翼──蝙蝠羽の端っこのようなものがチラリと視界に入った。
「あれ? もしかして、カミュかな?」
「何……?」
「カミュの羽みたいなものが、今、」
「ミカ! 俺の後ろにいろ!」
「えっ?」
瞬きをひとつする間に、僕はジルに強く引き寄せられて彼の背中に庇われ、クックとポッポはけたたましく鳴き出し、──そして、誰かが目の前にスラリと立った。
そう、誰か。黒い蝙蝠羽が生えていて、燕尾服に身を包んでいるその人は、見るからに「魔の者」だけれど、カミュとは違って髪も瞳も深緑色で、カミュとは違って眼鏡を掛けていて、十分長身だけどカミュよりも少し背が低くて──、つまり、カミュとは違う「悪魔」がそこに立っている。
「見つかっちゃった★ こーんにちはっ☆」
一見インテリっぽい外見の緑の悪魔は、意外にも軽薄な口調と笑い方で無邪気な挨拶を寄越した。
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