140 / 246
【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ
【7-6】
しおりを挟む
「こ、こんにちは……」
とりあえず挨拶をされたのだから返すのが礼儀かと思って、どもりながらも応答すると、緑の悪魔はニンマリと笑う。──けれど、眼鏡の奥の目がちっとも笑っていない。
「えらいえらーい★ ちゃんとご挨拶もできない子なら、うっかり殺しちゃうかもしれなかったよ☆ よかったね★」
そう言って心のこもっていない拍手をしている目の前の相手に、底知れぬ恐怖を感じる。それは、僕を背中に庇ってくれているジルが珍しく焦った顔をして、緊張感を高めているからかもしれない。クックとポッポも、見たことがないくらい羽を毛羽立たせて警戒していた。
「ね、魔王も察知できないくらい気配を消してたのに、どうしてボクのことを見つけちゃったの? 教えて★ 教えて☆」
「え、っと……、羽の一部が、窓の外に、見えていたので……」
「そっかー★ ウッカリしてたなー☆ といっても、実はわざとチラチラ見せてたんだけどねっ★」
「は、はぁ……、そ、そうなんですね」
得体の知れない相手だけれど、彼の言葉を無視してはいけないと本能的に感じて、なんとか会話を繋ごうと頑張ってみる。こんなに怪しい人を前にしたら、普段のジルであれば「こんな奴の相手をする必要は無い」くらいのことを言って僕の言葉を遮りそうなものなのに、今の彼は渋い面持ちで成り行きを見守るばかりだ。
「ね、ね、この羽がチラチラって見えたとき、どう思った?」
「どう、とは……?」
「誰かに似てるなー★ ……とか、思った?」
「ぁ、えっと……、カミュみたいだなぁと、思いました」
「──あ? 今なんて言ったお前?」
一瞬にして、部屋の中が真冬になったのかと思った。
そのくらい瞬時に周囲の空気が凍り、目の前の緑の悪魔の雰囲気も一転する。胡散臭い笑顔を引っ込めた悪魔は、妙に血走った目で僕を睨みつけてきた。
「なんなんだよ、その馴れ馴れしい呼び方はよォ! まさかとは思うが、カマルティユ先輩のことじゃねぇよなァ!? あァ!?」
「えっ……、そ、その……」
「なんとか言えよブチ殺すぞテメェ!」
そう喚くやいなや、緑の悪魔が素早く手を翳し、細長い光を矢のように放ってくる。ジルも瞬時に反応して半透明の薄い壁のようなものを作り出したけれど、それより早く、クックとポッポが光の矢の前に飛び出た。彼らは自身の体に光を纏って羽ばたきながら対抗していたけれど、じきに押し負けて弾き飛ばされてしまった。
愛鳥たちの小さな身体は勢いよく飛ばされ、調理場の隅の壁際へ叩きつけられる。そのままポテッと床に落ちた鳥たちの全身は、小さく痙攣していた。
「クック! ポッポ!」
「ミカ! 動くな!」
「でも! クックとポッポが! あのままじゃ死んじゃう!」
「大丈夫だ! あいつらはそう簡単には死なない!」
「そうだよねー★ 魔鳥って簡単には死なないよね☆ クソ人間とは違ってなァ!」
愛鳥たちの元へ駆け寄りたい僕と、それを必死に止めるジルの攻防の狭間で、緑の悪魔も二つの顔を交互に覗かせる。再び繰り出された攻撃を、今度はジルが防いでくれたけれど、悪魔が放った光は魔王の護りを掻い潜り、蒼白い腕を傷つけた。
「ジル……!」
「大丈夫だ」
「でも、血が……っ」
「平気だ。俺は何ともない。……だが、ミカがくらったら、この程度では済まない」
ジルの腕を一筋流れる赤い血を見ているうちに、やろうと思えばカミュはジルを殺せるのではないかという可能性が脳裏を掠める。カミュに出来るということは、彼と同等の力を持つ魔の者にも可能というわけで、もし目の前にいる緑の悪魔がそうだったとしたら──、
「おい、人間! オレ様の質問にまだ答えてねェぞ! 無視してんじゃねぇよオラァ!」
「しっ……、質問って、何でしたっけ……」
とにかく無視をしてはいけないと思って咄嗟に言葉を返したら、アァ? と威嚇される。
「オレ様が敬愛してやまねぇカマルティユ先輩のお名前をクソ人間ごときがクッソダセェ愛称で呼んでやがるんじゃねぇよ死にてェのか!? そうなのか!? って訊いてんだろーがよォ! さっきからよォ!」
さっきからも何も、そんな質問内容は初耳なんだけど。
頭の片隅で冷静に突っ込む一方、パニックで上手く打開策を見つけられない。この緑の悪魔はどうやらカミュの知り合いで、カミュがカミュって呼ばれてることが気に入らないみたいで、でもカミュからカミュって呼んでほしいと言われたからそう呼び始めたわけで、えーっと、えーっと、
「はーい、時間切れー★ 正解を答えられなかった悪い子はぁ☆ 死に晒せやクソガァァァァァッ」
緑の悪魔の手に、さっきとは比べ物にならない強さの光が宿る。あの力をそのままぶつけられたら、僕どころかジルがどうなるか分からない。無意識にジルと距離を取ろうとした僕を、慌てて魔王の腕が引き戻してくる。
「ジル、離して! このままじゃ君まで……っ」
「馬鹿を言うな! お前を喪うわけにはいかない!」
「クソ魔王もクソ人間も死んじまえよクソガァァァァァッ」
ああ、もう、駄目だ。
観念して、ジルの腕に縋りつきながら強く目を瞑った瞬間、
「死ぬのは貴方ですよ、ノヴァユエ」
静かな声が響いたと思いきや、唐突に緑の悪魔の身体が思い切り吹き飛んで、天井へと頭から突っ込んでいった。
とりあえず挨拶をされたのだから返すのが礼儀かと思って、どもりながらも応答すると、緑の悪魔はニンマリと笑う。──けれど、眼鏡の奥の目がちっとも笑っていない。
「えらいえらーい★ ちゃんとご挨拶もできない子なら、うっかり殺しちゃうかもしれなかったよ☆ よかったね★」
そう言って心のこもっていない拍手をしている目の前の相手に、底知れぬ恐怖を感じる。それは、僕を背中に庇ってくれているジルが珍しく焦った顔をして、緊張感を高めているからかもしれない。クックとポッポも、見たことがないくらい羽を毛羽立たせて警戒していた。
「ね、魔王も察知できないくらい気配を消してたのに、どうしてボクのことを見つけちゃったの? 教えて★ 教えて☆」
「え、っと……、羽の一部が、窓の外に、見えていたので……」
「そっかー★ ウッカリしてたなー☆ といっても、実はわざとチラチラ見せてたんだけどねっ★」
「は、はぁ……、そ、そうなんですね」
得体の知れない相手だけれど、彼の言葉を無視してはいけないと本能的に感じて、なんとか会話を繋ごうと頑張ってみる。こんなに怪しい人を前にしたら、普段のジルであれば「こんな奴の相手をする必要は無い」くらいのことを言って僕の言葉を遮りそうなものなのに、今の彼は渋い面持ちで成り行きを見守るばかりだ。
「ね、ね、この羽がチラチラって見えたとき、どう思った?」
「どう、とは……?」
「誰かに似てるなー★ ……とか、思った?」
「ぁ、えっと……、カミュみたいだなぁと、思いました」
「──あ? 今なんて言ったお前?」
一瞬にして、部屋の中が真冬になったのかと思った。
そのくらい瞬時に周囲の空気が凍り、目の前の緑の悪魔の雰囲気も一転する。胡散臭い笑顔を引っ込めた悪魔は、妙に血走った目で僕を睨みつけてきた。
「なんなんだよ、その馴れ馴れしい呼び方はよォ! まさかとは思うが、カマルティユ先輩のことじゃねぇよなァ!? あァ!?」
「えっ……、そ、その……」
「なんとか言えよブチ殺すぞテメェ!」
そう喚くやいなや、緑の悪魔が素早く手を翳し、細長い光を矢のように放ってくる。ジルも瞬時に反応して半透明の薄い壁のようなものを作り出したけれど、それより早く、クックとポッポが光の矢の前に飛び出た。彼らは自身の体に光を纏って羽ばたきながら対抗していたけれど、じきに押し負けて弾き飛ばされてしまった。
愛鳥たちの小さな身体は勢いよく飛ばされ、調理場の隅の壁際へ叩きつけられる。そのままポテッと床に落ちた鳥たちの全身は、小さく痙攣していた。
「クック! ポッポ!」
「ミカ! 動くな!」
「でも! クックとポッポが! あのままじゃ死んじゃう!」
「大丈夫だ! あいつらはそう簡単には死なない!」
「そうだよねー★ 魔鳥って簡単には死なないよね☆ クソ人間とは違ってなァ!」
愛鳥たちの元へ駆け寄りたい僕と、それを必死に止めるジルの攻防の狭間で、緑の悪魔も二つの顔を交互に覗かせる。再び繰り出された攻撃を、今度はジルが防いでくれたけれど、悪魔が放った光は魔王の護りを掻い潜り、蒼白い腕を傷つけた。
「ジル……!」
「大丈夫だ」
「でも、血が……っ」
「平気だ。俺は何ともない。……だが、ミカがくらったら、この程度では済まない」
ジルの腕を一筋流れる赤い血を見ているうちに、やろうと思えばカミュはジルを殺せるのではないかという可能性が脳裏を掠める。カミュに出来るということは、彼と同等の力を持つ魔の者にも可能というわけで、もし目の前にいる緑の悪魔がそうだったとしたら──、
「おい、人間! オレ様の質問にまだ答えてねェぞ! 無視してんじゃねぇよオラァ!」
「しっ……、質問って、何でしたっけ……」
とにかく無視をしてはいけないと思って咄嗟に言葉を返したら、アァ? と威嚇される。
「オレ様が敬愛してやまねぇカマルティユ先輩のお名前をクソ人間ごときがクッソダセェ愛称で呼んでやがるんじゃねぇよ死にてェのか!? そうなのか!? って訊いてんだろーがよォ! さっきからよォ!」
さっきからも何も、そんな質問内容は初耳なんだけど。
頭の片隅で冷静に突っ込む一方、パニックで上手く打開策を見つけられない。この緑の悪魔はどうやらカミュの知り合いで、カミュがカミュって呼ばれてることが気に入らないみたいで、でもカミュからカミュって呼んでほしいと言われたからそう呼び始めたわけで、えーっと、えーっと、
「はーい、時間切れー★ 正解を答えられなかった悪い子はぁ☆ 死に晒せやクソガァァァァァッ」
緑の悪魔の手に、さっきとは比べ物にならない強さの光が宿る。あの力をそのままぶつけられたら、僕どころかジルがどうなるか分からない。無意識にジルと距離を取ろうとした僕を、慌てて魔王の腕が引き戻してくる。
「ジル、離して! このままじゃ君まで……っ」
「馬鹿を言うな! お前を喪うわけにはいかない!」
「クソ魔王もクソ人間も死んじまえよクソガァァァァァッ」
ああ、もう、駄目だ。
観念して、ジルの腕に縋りつきながら強く目を瞑った瞬間、
「死ぬのは貴方ですよ、ノヴァユエ」
静かな声が響いたと思いきや、唐突に緑の悪魔の身体が思い切り吹き飛んで、天井へと頭から突っ込んでいった。
1
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる