魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-9】

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 あんなに態度も、そして図体もそこそこに大きかった緑の悪魔が、随分と縮んで見える。

「ごめんなざい……、ゆるじで……」
「え、えっと、僕は元々そこまで、」
「ミカさん」

 哀れな悪魔をさっさと許してあげたいと思う僕の言葉を、カミュが穏やかな声で遮ってきた。

「これはただの独り言ですが。一時の憐れみの感情で赦しを与えてしまうのは、あまり良いことではないと私は思います。ミカさんが心から許してあげたいと思っていらっしゃるなら、話は別ですけれども」
「カミュ……」
「俺も同感だな。何故カミュが唐突にそんな独り言を洩らしたのか、俺にはさっぱり分からんが。こいつの言い分には一理ある」

 カミュの「独り言」に、ジルまで乗っかってくる。赤い悪魔と違い、この魔王はそこまで怒ってはいないように見えるから、ノヴァユエを許せないというわけではなくて、単に僕の言動に引っ掛かるものがあって口出ししてきたんだろう。

 ──確かに、僕だって怒ってはいる。すぐにカミュが治してくれたとはいえ、クックとポッポは身動きできないくらい傷つけられたし、ジルだって少しとはいえ血を流す怪我を負ったんだ。そもそも、僕たちは彼に対して何も悪いことをしていないはずで、一方的に詰られて攻撃される謂れは無い。
 ……ただ、それはあくまでも、僕たちの目線に立ったときの話だ。ノヴァユエにも何か思うところはあるのかもしれないし、それを聞いてから考えたほうがいいのかもしれない。

 少し考えてから、僕はしゃがんで、ノヴァユエと視線の高さを合わせて提案した。

「ね、一緒にお茶をしながら話さない?」
「……は?」

 あっ、しまった。なんだか小さい子が泣いてるみたいだと思ってたから、つい敬語を抜いてしまった。
 でも、緑の悪魔が気にしたのは、そこではなかったらしい。

「なっ、なんでボクがクソ……、あっ、いや、人間なんかと話さなきゃいけないのさ」

 クソ人間と悪態をつこうとして咄嗟に言い直したノヴァユエは、カミュを気にしている。けれど、ノヴァユエの存在を丸ごと無視しているカミュは一切反応せず、かといって僕と緑の悪魔の関わりが心配なのか、複雑な表情で僕を見つめていた。ジルは相変わらずのクールな面持ちで成り行きを見守っている。
 僕は、小さい子を諭すような気持ちで、ノヴァユエを説得し始めた。

「あのね、君は僕に許してほしいんだよね?」
「う、うん……、そうだね」
「僕もね、心情的には許してあげてもいいかなって気はしているんだけど。ただ、怒ってもいるんだ。だって、君は、僕の大切な家族に怪我をさせたんだ。それこそ、何の連絡も無く、一方的に来て、勝手に怒って攻撃してきたんだよ。そりゃあ、こっちも怒りたくなる」
「……」
「でもね、君には君の言い分があるんじゃないかと思うんだ。それを聞いて納得できる部分があって、君もちゃんと反省しているなら、僕は許したいなって思うんだよね。……どうかな?」
「……、……、……変な奴」

 不満そうに唇を尖らせていたノヴァユエは、ひとしきり黙り込んでから、どことなく拗ねた声音でボソリと呟く。カミュが纏う空気が冷えた気がするけれど、それでも彼は表情でも言葉でも反応しなかった。
 ノヴァユエは、ぼそぼそと先を続ける。

「怒ってんでしょ? 許さなきゃいいじゃん。ボクがカマルティユ先輩に無視されたって、お前に何か不利益があるわけじゃないだろ。逆に、ざまぁ~いい気味~とか思わないの?」
「思わないよ」
「はぁ? 偽善者かよ。気持ち悪いなぁ」
「ううん。違う。僕が嫌なだけなんだ」
「はぁぁぁ?」
「僕もね、大切な人に無視されて辛い思いをしたことがある。やっとこっちを向いてくれたと思ったら、今度は怒鳴られたり、殴られたりしてさ。……そのときの、辛い記憶を思い出しちゃうから、同じ目に遭ってる君を見るのがしんどい。そういう、僕の身勝手な理由だよ」

 緑の悪魔は意外そうに目を瞬かせ、赤い悪魔は後悔と罪悪感をごちゃ混ぜにしたような顔をした。ジルは、黙って僕の肩を抱いてくれる。
 ──カミュはきっと、僕のトラウマを刺激したことを気に病んでいるんだろうけれど、それに関しては彼のせいじゃない。視線を合わせて、気にしないで、と首を振って見せた。

「……そういうわけで、僕は君を許したいけど、でも怒ってもいる。君のことを許せないほど怒っている人の気持ちも分かる。でも、君だって、あんなに怒るのには理由があるはず。だから、ちゃんと話を聞きたいんだ。……どうかな?」

 ノヴァユエは、壊れかけている眼鏡の奥から、まじまじと僕を見つめてくる。でも、さっきまでの敵意は殆ど感じない。どうしようかな、と思い悩みながらの観察だろう。
緑の悪魔がどんな答えを寄越すのかドキドキしながら待っていると、彼は思いのほか屈託の無い表情で、にぱぁっと笑った。実に無邪気な顔で、ますます幼児に見えてくる。

「うん、いいよ★」

 明るい声でそう言ったノヴァユエは、おもむろに僕の右手を握ってきた。何をするのかと身構える魔王と、さりげなく警戒を高めている赤い悪魔をよそに、緑の悪魔は握手したままブラブラと腕を揺らす。

「ボク、クソ人間は嫌いだけど、お前は人間は人間でもクソ人間じゃなさそうだから、話してあげる☆」
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