147 / 246
【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ
【7-13】
しおりを挟む
「……ほんっと、変な奴。ミカはさぁ、もっと自分本位に考えたりしねぇの? 死にたくない~ってメソメソ泣いたら、このヒトたちがどうにかしようと頑張ったりするんじゃねぇの?」
ノヴァユエが呆れたように言いながら、ジルとカミュを指差す。
うーん、そう言われてもなぁ……。僕は困りながらも本音を話すことにした。
「ジルにもカミュにも無理はしてほしくないんだ。それに、最近の僕はけっこう自分のことを考えているほうだと思うよ」
「えー? どこがー?」
「だって、前だったら、そもそも出来れば死にたくないなんて考えなかったと思うから。殺されるのか、仕方ないな、なるべく痛くないほうがいいな、って考える程度だったと思う。それが今では、自分も生きていたいし、ジルやカミュに悲しんでほしくないし、なんかこう上手くいく方法があればいいのにって思うくらい強欲になってるよ」
ノヴァユエはますます呆れ果てた表情になってカミュを見たけれど、今は無視されている立場だと思い出したのか、ジルに向かって話し始める。
「なぁなぁ、コイツって聖職者か何か? 何かを信仰して修行してたりすんの?」
コイツ、と指さされているのは僕だ。魔王は憂い気な溜息を零して腕を伸ばし、ノヴァユエの指先をそっと僕から外して、静かに答えた。
「ミカは、そういう者ではない。日々の糧を命と捉えて感謝する概念は持っているが、何らかの信仰心によるものではなさそうだ。……この子は単に、自分の欲を殺して、上手く隠す術に長けているだけだ」
ジルの言葉に、驚いてしまう。まさか、僕のことをそんな風に見ていたなんて。僕はビックリしたけれど、カミュは魔王と同感なのか、小さく頷いていた。ノヴァユエは興味があるのか無いのか不明なトーンで「それでー?」と先を促す。
「ここに来る前のミカの全てを知っている訳ではないが、断片的な情報からでも、この子は幼い頃から、様々な意味で抑圧されてきたと分かる。あれが欲しい、これがしたい、と言える状況ではなかったんだろう。……それが、最近少しずつ、自分の欲する物事を口に出来るようになってきた。だから、先程ミカが言っていたように、『自分のことを考えるようになってきた』のは確かだ」
「なるほどねー★ んで、もっと我を通せるようになってほしいなーって見守ってるわけだ☆」
「まぁ、そうだな」
「そっか、そっかー★ きっと、カマルティユ先輩もそうなんだろうなー☆」
ノヴァユエの言葉が聞こえない「設定」のカミュは何も答えないけれど、彼が後輩に対して発していた刺々しい空気が少し和らいだ気がする。ノヴァユエが僕やジルの言葉にきちんと耳を傾けてくれていることに、何かしら思うところがあるのかもしれない。
──それにしても、ジルもカミュもそんな風に思っていてくれていたんだなぁ。あたたかく見守ってくれていることは、日々ひしひしと感じていたけれど、そこまで僕の内面を考察して接してくれていたとは驚きだ。
彼らと中水上のおじさんの接し方には、どこか似た雰囲気があるなと感じたことが何度かある。中水上のおじさんは、自分でカウンセリングクリニックを開業している臨床心理士だった。今思えば、きっと、塞ぎ込んでいた僕の内面を分析しながら接してくれていたんだろうし、ジルとカミュもそうなのかもしれない。
いずれにしても、僕の心に寄り添う形で見守ってくれる人たちの優しさに感謝しなくては。そして、欲深く我儘にならないように気をつけながら、もっと自分と向き合っていきたい。
そんなことをぼんやり考えているうちに、いつの間にかノヴァユエがテーブルに這い上がる形で接近してきていたようで、深緑色の瞳に至近距離から顔を覗かれ、僕は肩を跳ねさせた。
「ぅわっ、ビックリした……!」
「あのさ、ごめんね」
「……えっ?」
「ボク、基本的に人間って嫌いなんだよね。ボクたちの模造品のくせに勝手に繁殖して気持ち悪いしさ、偽物のくせに自己主張激しいしギャーギャー騒ぐしさ。うちの魔王のとこの異世界人も毎日毎日、死にたくない死にたくないってうるっせぇの。……でもさー、ミカみたいなのもいるんだよね。ミカみたいに変な奴はちょっと面白いし、人間でも嫌いじゃないかも」
軽薄な口調ではなく、ものすごく淡々とした言い方だけれど、だからこそノヴァユエの本心なんだろうなと伝わってくる。緑の悪魔は、そのまま言葉を重ねた。
「いきなり来たのは別に悪いと思ってないから反省する気ないけど、ブチ切れて暴れて、カマルティユ先輩の大事にしてるモノ傷つけたのは良くなかったと思う。ミカはクソ人間じゃなかったのにクソ人間って言ったのも、ダメだったなーって思う。今はね。……だからさ、ごめんね?」
テーブルに這い上がった姿勢のまま、首だけこちらへ向かって上げて、こてんと傾げる。彼にしてはそれなりに真剣な言葉で謝罪してくれたんだろうに、態度と体勢が台無しにしているような気がして、でも、それがなんだか可愛くて楽しくて、僕はつい笑ってしまった。
ノヴァユエが呆れたように言いながら、ジルとカミュを指差す。
うーん、そう言われてもなぁ……。僕は困りながらも本音を話すことにした。
「ジルにもカミュにも無理はしてほしくないんだ。それに、最近の僕はけっこう自分のことを考えているほうだと思うよ」
「えー? どこがー?」
「だって、前だったら、そもそも出来れば死にたくないなんて考えなかったと思うから。殺されるのか、仕方ないな、なるべく痛くないほうがいいな、って考える程度だったと思う。それが今では、自分も生きていたいし、ジルやカミュに悲しんでほしくないし、なんかこう上手くいく方法があればいいのにって思うくらい強欲になってるよ」
ノヴァユエはますます呆れ果てた表情になってカミュを見たけれど、今は無視されている立場だと思い出したのか、ジルに向かって話し始める。
「なぁなぁ、コイツって聖職者か何か? 何かを信仰して修行してたりすんの?」
コイツ、と指さされているのは僕だ。魔王は憂い気な溜息を零して腕を伸ばし、ノヴァユエの指先をそっと僕から外して、静かに答えた。
「ミカは、そういう者ではない。日々の糧を命と捉えて感謝する概念は持っているが、何らかの信仰心によるものではなさそうだ。……この子は単に、自分の欲を殺して、上手く隠す術に長けているだけだ」
ジルの言葉に、驚いてしまう。まさか、僕のことをそんな風に見ていたなんて。僕はビックリしたけれど、カミュは魔王と同感なのか、小さく頷いていた。ノヴァユエは興味があるのか無いのか不明なトーンで「それでー?」と先を促す。
「ここに来る前のミカの全てを知っている訳ではないが、断片的な情報からでも、この子は幼い頃から、様々な意味で抑圧されてきたと分かる。あれが欲しい、これがしたい、と言える状況ではなかったんだろう。……それが、最近少しずつ、自分の欲する物事を口に出来るようになってきた。だから、先程ミカが言っていたように、『自分のことを考えるようになってきた』のは確かだ」
「なるほどねー★ んで、もっと我を通せるようになってほしいなーって見守ってるわけだ☆」
「まぁ、そうだな」
「そっか、そっかー★ きっと、カマルティユ先輩もそうなんだろうなー☆」
ノヴァユエの言葉が聞こえない「設定」のカミュは何も答えないけれど、彼が後輩に対して発していた刺々しい空気が少し和らいだ気がする。ノヴァユエが僕やジルの言葉にきちんと耳を傾けてくれていることに、何かしら思うところがあるのかもしれない。
──それにしても、ジルもカミュもそんな風に思っていてくれていたんだなぁ。あたたかく見守ってくれていることは、日々ひしひしと感じていたけれど、そこまで僕の内面を考察して接してくれていたとは驚きだ。
彼らと中水上のおじさんの接し方には、どこか似た雰囲気があるなと感じたことが何度かある。中水上のおじさんは、自分でカウンセリングクリニックを開業している臨床心理士だった。今思えば、きっと、塞ぎ込んでいた僕の内面を分析しながら接してくれていたんだろうし、ジルとカミュもそうなのかもしれない。
いずれにしても、僕の心に寄り添う形で見守ってくれる人たちの優しさに感謝しなくては。そして、欲深く我儘にならないように気をつけながら、もっと自分と向き合っていきたい。
そんなことをぼんやり考えているうちに、いつの間にかノヴァユエがテーブルに這い上がる形で接近してきていたようで、深緑色の瞳に至近距離から顔を覗かれ、僕は肩を跳ねさせた。
「ぅわっ、ビックリした……!」
「あのさ、ごめんね」
「……えっ?」
「ボク、基本的に人間って嫌いなんだよね。ボクたちの模造品のくせに勝手に繁殖して気持ち悪いしさ、偽物のくせに自己主張激しいしギャーギャー騒ぐしさ。うちの魔王のとこの異世界人も毎日毎日、死にたくない死にたくないってうるっせぇの。……でもさー、ミカみたいなのもいるんだよね。ミカみたいに変な奴はちょっと面白いし、人間でも嫌いじゃないかも」
軽薄な口調ではなく、ものすごく淡々とした言い方だけれど、だからこそノヴァユエの本心なんだろうなと伝わってくる。緑の悪魔は、そのまま言葉を重ねた。
「いきなり来たのは別に悪いと思ってないから反省する気ないけど、ブチ切れて暴れて、カマルティユ先輩の大事にしてるモノ傷つけたのは良くなかったと思う。ミカはクソ人間じゃなかったのにクソ人間って言ったのも、ダメだったなーって思う。今はね。……だからさ、ごめんね?」
テーブルに這い上がった姿勢のまま、首だけこちらへ向かって上げて、こてんと傾げる。彼にしてはそれなりに真剣な言葉で謝罪してくれたんだろうに、態度と体勢が台無しにしているような気がして、でも、それがなんだか可愛くて楽しくて、僕はつい笑ってしまった。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる