魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-13】

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「……ほんっと、変な奴。ミカはさぁ、もっと自分本位に考えたりしねぇの? 死にたくない~ってメソメソ泣いたら、このヒトたちがどうにかしようと頑張ったりするんじゃねぇの?」

 ノヴァユエが呆れたように言いながら、ジルとカミュを指差す。
 うーん、そう言われてもなぁ……。僕は困りながらも本音を話すことにした。

「ジルにもカミュにも無理はしてほしくないんだ。それに、最近の僕はけっこう自分のことを考えているほうだと思うよ」
「えー? どこがー?」
「だって、前だったら、そもそも出来れば死にたくないなんて考えなかったと思うから。殺されるのか、仕方ないな、なるべく痛くないほうがいいな、って考える程度だったと思う。それが今では、自分も生きていたいし、ジルやカミュに悲しんでほしくないし、なんかこう上手くいく方法があればいいのにって思うくらい強欲になってるよ」

 ノヴァユエはますます呆れ果てた表情になってカミュを見たけれど、今は無視されている立場だと思い出したのか、ジルに向かって話し始める。

「なぁなぁ、コイツって聖職者か何か? 何かを信仰して修行してたりすんの?」

 コイツ、と指さされているのは僕だ。魔王は憂い気な溜息を零して腕を伸ばし、ノヴァユエの指先をそっと僕から外して、静かに答えた。

「ミカは、そういう者ではない。日々の糧を命と捉えて感謝する概念は持っているが、何らかの信仰心によるものではなさそうだ。……この子は単に、自分の欲を殺して、上手く隠す術に長けているだけだ」

 ジルの言葉に、驚いてしまう。まさか、僕のことをそんな風に見ていたなんて。僕はビックリしたけれど、カミュは魔王と同感なのか、小さく頷いていた。ノヴァユエは興味があるのか無いのか不明なトーンで「それでー?」と先を促す。

「ここに来る前のミカの全てを知っている訳ではないが、断片的な情報からでも、この子は幼い頃から、様々な意味で抑圧されてきたと分かる。あれが欲しい、これがしたい、と言える状況ではなかったんだろう。……それが、最近少しずつ、自分の欲する物事を口に出来るようになってきた。だから、先程ミカが言っていたように、『自分のことを考えるようになってきた』のは確かだ」
「なるほどねー★ んで、もっと我を通せるようになってほしいなーって見守ってるわけだ☆」
「まぁ、そうだな」
「そっか、そっかー★ きっと、カマルティユ先輩もそうなんだろうなー☆」

 ノヴァユエの言葉が聞こえない「設定」のカミュは何も答えないけれど、彼が後輩に対して発していた刺々しい空気が少し和らいだ気がする。ノヴァユエが僕やジルの言葉にきちんと耳を傾けてくれていることに、何かしら思うところがあるのかもしれない。

 ──それにしても、ジルもカミュもそんな風に思っていてくれていたんだなぁ。あたたかく見守ってくれていることは、日々ひしひしと感じていたけれど、そこまで僕の内面を考察して接してくれていたとは驚きだ。
 彼らと中水上なかみかみのおじさんの接し方には、どこか似た雰囲気があるなと感じたことが何度かある。中水上のおじさんは、自分でカウンセリングクリニックを開業している臨床心理士だった。今思えば、きっと、塞ぎ込んでいた僕の内面を分析しながら接してくれていたんだろうし、ジルとカミュもそうなのかもしれない。
 いずれにしても、僕の心に寄り添う形で見守ってくれる人たちの優しさに感謝しなくては。そして、欲深く我儘にならないように気をつけながら、もっと自分と向き合っていきたい。

 そんなことをぼんやり考えているうちに、いつの間にかノヴァユエがテーブルに這い上がる形で接近してきていたようで、深緑色の瞳に至近距離から顔を覗かれ、僕は肩を跳ねさせた。

「ぅわっ、ビックリした……!」
「あのさ、ごめんね」
「……えっ?」
「ボク、基本的に人間って嫌いなんだよね。ボクたちの模造品のくせに勝手に繁殖して気持ち悪いしさ、偽物のくせに自己主張激しいしギャーギャー騒ぐしさ。うちの魔王のとこの異世界人も毎日毎日、死にたくない死にたくないってうるっせぇの。……でもさー、ミカみたいなのもいるんだよね。ミカみたいに変な奴はちょっと面白いし、人間でも嫌いじゃないかも」

 軽薄な口調ではなく、ものすごく淡々とした言い方だけれど、だからこそノヴァユエの本心なんだろうなと伝わってくる。緑の悪魔は、そのまま言葉を重ねた。

「いきなり来たのは別に悪いと思ってないから反省する気ないけど、ブチ切れて暴れて、カマルティユ先輩の大事にしてるモノ傷つけたのは良くなかったと思う。ミカはクソ人間じゃなかったのにクソ人間って言ったのも、ダメだったなーって思う。今はね。……だからさ、ごめんね?」

 テーブルに這い上がった姿勢のまま、首だけこちらへ向かって上げて、こてんと傾げる。彼にしてはそれなりに真剣な言葉で謝罪してくれたんだろうに、態度と体勢が台無しにしているような気がして、でも、それがなんだか可愛くて楽しくて、僕はつい笑ってしまった。
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