魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-14】

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「ちゃんと話をしてくれて、あと、もう一度謝ってくれてありがとう、ノヴァユエ」
「許してくれる?」
「うん、勿論。僕はね。……みんなはどう?」

 怒っていたとはいえ、僕は守られてばかりだったし、怪我をしたのは他の家族たちだ。ジルと視線を合わせると、溜息をついてから頷いてくれる。クックとポッポを見ると、彼らは揃ってカクカクと首を縦に振ってくれた。許してもいいよ、の合図だろう。
 最後に、カミュを見つめると、彼の紅い瞳もこちらを見ていた。問い掛けるように首を傾げて見せると、赤い悪魔は微苦笑を浮かべる。

「ミカさんのお心に、もうわだかまりはありませんか?」
「うん、無いよ。ノヴァユエが何を思ってここへ突撃してきたのかも分かったし、彼の心配も理解できたから」

 カミュが大変なことになってしまうのではないかと、ノヴァユエは心配して様子を見に来たんだ。大好きな先輩の様子がおかしくなったのはプレカシオンの今の魔王と人間のせいだと考えていたのなら、初めから攻撃的だったのも分かる。それが正しいとまでは思わないけれど、自分の非を認めて謝ってくれたのだから、受け入れて水に流したい。
 僕の気持ちが伝わったのか、彼の中でも納得できたのか、カミュは穏やかな笑みを口元に刻んだ。そして、どうなることかと成り行きを見守ってハラハラしている後輩悪魔へ、静かに声を掛けた。

「私は、お行儀が悪い者は嫌いです。お茶やお菓子が載っているテーブルに寝そべっているのは、お行儀が良いことですか?」
「良くないッ」

 ノヴァユエは素早く自分の席へ戻り、ピシッと背筋を伸ばして座る。ずり落ち気味の眼鏡も、クイッと指で押し上げていた。
 カミュは立ち上がり、緑の悪魔の背後に立つ。緊張感を高めているノヴァユエの名を、先輩悪魔はそっと呼んだ。

「ノヴァユエ」
「へいッ! いや、違った! はいィッ!」
「反省していますか?」
「してる! してますッ! もうしませんッッ!」
「何を、もうしないのですか?」
「カマルティユ先輩の領域のモノを勝手に攻撃しません! カマルティユ先輩が大事にしてるモノにも手出ししません! ミカをクソ人間って言いません!」
「よろしい。では、私も貴方を許しましょう。……怪我を治してあげましょうね」

 カミュがノヴァユエの両肩に手を置くと、緑の悪魔が負った傷がみるみるうちに治ってゆく。ノヴァユエは嬉しそうにニコニコと笑った。幼子のような反応をしている後輩の頭を撫でながら、カミュは僕とジルと魔鳥二羽を順番に見ながら苦笑を向けてきた。

「色々と巻き込んでしまい、ご迷惑をお掛けしました。私の同族である上に、それなりに目に掛けていた者がお騒がせしてしまって、本当に申し訳ありません。ノヴァユエは魔の者らしい存在で、自分が気に入らない者の扱いはとことん雑ですが、逆に、気に入った相手へはどこまでも友好的です。きっと、もう、ミカさんやジル様を敵視しないでしょうし、クックとポッポにも攻撃しないはずです。……そうですよね、ノヴァユエ?」
「うんっ★ ボク、ミカと、この魔王と、あそこの鳥たちには、もう手は出さないよっ☆」

 カミュに撫でてもらえて嬉しいのか、ノヴァユエは満面の笑みで何度も頷く。無邪気な分、敵に回すと厄介そうだけれど、仲良くしてもらえるなら心強い。一時はどうなるかと思ったけど、何とか丸く収まって良かった。
 胸を撫で下ろしていると、自席に戻りながら何かを思いついたらしいカミュが、腰を下ろして長い脚を組みながら首を傾げる。

「そういえば、ノヴァユエ。貴方、魔王の傍を離れて大丈夫なのですか? まだそこまで長時間ではないとはいえ、ワンダネロンドとプレカシオンはそれなりに離れてますし、留守にして心配ではないのですか?」

 そう言われてみると、確かに気になってきた。カミュがこの城を離れることは殆ど無いし、あったとしてもほんの短時間だし、外出先もほんの近場に限っているようだし。カミュと同じ魔王の補佐役として見ると、ノヴァユエは随分と自由に遠出をしていると感じる。
 注目を浴びたノヴァユエは、ペロリと舌を出しておどけて笑い、軽い調子で言い放った。

「あっ、平気平気★ うちの魔王、二日前に死んだんだよねー☆」

 ──えっ?
 あまりにもサラリと言われたから、聞き間違いかと思った。でも、違う。今、ノヴァユエは確かに言った。──うちの魔王は死んだ、と。

「二日前に勇者御一行が来てさー、割とあっさりと魔王を倒して、角を剥いで帰ってったよ★ 明日、新しい魔王が到着するみたいだからさ、その前にカマルティユ先輩の様子を見ようと思って遊びに来たんだ☆」

 あっけらかんと言って笑うノヴァユエは、僕たちに対しては友好的だけれど、やっぱり魔の者なんだなと改めて感じる。
 彼らにとっては、代々監視している魔王に愛着など無いのが普通なんだろう。魔の者的にはジルを大切にしているカミュが異端なんだろうし、この世界的には魔王は都合よく罪をなすりつけて都合が悪くなったら死んでもらうための存在なんだろう。そして、実際にワンダネロンドの魔王は、暴走前から悪逆非道の行いに手を染めていたのかもしれない。
 ──それでも、顔も名前も知らない元は人間だったはずの遠い国の魔王の死を思うと、胸のどこかが鈍く痛んだ。
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