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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ
【7-18】
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「それは、確かにビックリしただろうね」
それまでカミュの中には人間と一緒にテーブルを囲むなんていう概念は無かっただろうし、ジル以前の魔王たちは異世界の人たちに恐怖心を植え付けていたのだろうから悪魔が食事に誘われる機会も無かったと思う。思いもしない申し出を受けて戸惑うのは当然だ。
「ええ、もう、とても驚きました。共に座って何をするのかと尋ねたら、一緒に食事をするに決まっていると返されたものですから、尚更のことです。私は生態的に食事が不要なのだと説明申し上げたら、『アタシのメシが食えないってのかい! バカにすんじゃないよ!』と怒鳴り返されてしまいましてね。もう、途方に暮れてしまいました」
「なんというか……、アビーさんってすごく勢いのある人だったんだね……」
ロックというか、パンクというか、とにかく激しい。当時のジルとカミュは現在ほど異世界人との交流に馴染んでいなかったはずだし、そんな彼らしかいない見知らぬ世界の城に来たというのに、アビーさんは最初から堂々と自分の意見を主張していたのだから、本当に強い人だ。
「アビーさんは人間としてはご高齢でしたし、人生経験を重ねてきたという誇りをもって寿命を全うされた方のように感じました。ですから、それまでの長い人生で培ってきた知識に自信を持ち、それに基づいてご自分の意見を通されようとするのは当然のこと。そう考え、自分が人間ではなく魔の者という種族であり、どういう存在であるのか詳しくお話ししました。……そうしたら、鼻で嗤われてしまいました。『それが何だってんだい?』──と」
それはまた、なんというか、流石にアビーさんが我を通しすぎなのでは……? 突然現れた異種族を目の前にして動揺するのは仕方ないけれど、そんなに否定しなくても……。
妙に気持ちがザワついてしまい、それが僕の表情にも出ていたのか、カミュは優しい微笑を浮かべて首を振る。
「アビーさんにも、きちんと考えがあったのです。頭ごなしに私を否定されていたわけではありません」
「そうなの……?」
「ほんとに~? ただの偏屈ばあさんなんじゃねぇの?」
「まさか! アビーさんは、誤解されやすそうなお人柄ではありましたが、他者を思いやる気持ちで溢れた方なんですよ。……私に共に食事をするよう促されたのも、ジル様のことを思われてのことでした」
「ジルのことを?」
「ええ。──当時、ジル様は魔王になられたばかりで、魔王の魂の影響を受けられていない分、困惑と動揺が大きく、気持ちが塞ぎ込まれていた時期でした。アビーさんは異世界に召喚された身でしたから、ジル様のお気持ちがよく分かったのでしょう。アビーさんにとって異世界の魔王と悪魔が異質な存在であるのと同様に、ジル様にとっても、異世界から来た食事係も悪魔も見知らぬ存在なのです。私は、その点の理解が甘かった」
ああ、そうか。言われてみれば、そうだ。
ジルは最初からこの世界の人間で、魔王という存在も元々知っていたけれど、だからといって自分が魔王になるなんて思いもしなかったわけだし、魔王の魂の影響が無い分、恐ろしさや心細さを感じていたはずだ。それまでの歴代の魔王とは違って、傍に悪魔や異世界人を侍らせるのが当然という感覚は無く、見知らぬ場所で見知らぬ人たちと共同生活をする不安が大きかったんだろうな。
「魔王に仕える悪魔であるのなら、魔王が魔王らしく堂々と振る舞えるよう支えてあげるべきなのではないか、と諭されました。ごもっともだと感じました。そのままアビーさんに助言をお願いしたところ、『だから一緒にメシを食うのさ』と笑われました」
「みんなで一緒に、ごはんを……」
「ええ。同じテーブルを囲み、同じ料理をいただくことで、互いの関係にも状況にも馴染んでいけるようになる、と。アビーさんは、そう教えてくださったのです」
「うん、……うん、僕もそう思うよ」
中水上のおじさんの家に引き取られたときも、この世界に召喚されてきたときも、慣れない場所や環境に段々と慣れていくにあたり、食事はとても大切な要素だったと思う。それも、一人で摂るものではなく、みんなで一緒に食べる、そういう食事の時間が。
──そうか。アビーさんは人生経験が豊富なおばあちゃんだったから、そのことをきちんと理解していて、だからこそ、魔王になったばかりの若者と人間への理解を深め始めたばかりの悪魔を歩み寄らせるために、一緒にテーブルを囲んで食事をしなさいとカミュを促したんだ。
ちょっと言葉は乱暴で、確かに誤解されやすい部分もあるだろうけれど、なんて人情味に溢れた素敵な食事係だろう。彼女がいてくれなければ、今のジルとカミュの姿は無かったのかもしれない。
「一緒に食事をするって、そんなに大事なことなわけ? 人間って、ボクたちに寄せて作られてるはずなのに、その辺の感覚がよく分かんねぇなー」
「今日、一緒に食事をしたら、ノヴァユエもきっと、なんとなく何かを感じ取れますよ」
腑に落ちないという顔で唇を尖らせる後輩の頭を撫でたカミュは、「ね?」と僕に向かってウインクした。
それまでカミュの中には人間と一緒にテーブルを囲むなんていう概念は無かっただろうし、ジル以前の魔王たちは異世界の人たちに恐怖心を植え付けていたのだろうから悪魔が食事に誘われる機会も無かったと思う。思いもしない申し出を受けて戸惑うのは当然だ。
「ええ、もう、とても驚きました。共に座って何をするのかと尋ねたら、一緒に食事をするに決まっていると返されたものですから、尚更のことです。私は生態的に食事が不要なのだと説明申し上げたら、『アタシのメシが食えないってのかい! バカにすんじゃないよ!』と怒鳴り返されてしまいましてね。もう、途方に暮れてしまいました」
「なんというか……、アビーさんってすごく勢いのある人だったんだね……」
ロックというか、パンクというか、とにかく激しい。当時のジルとカミュは現在ほど異世界人との交流に馴染んでいなかったはずだし、そんな彼らしかいない見知らぬ世界の城に来たというのに、アビーさんは最初から堂々と自分の意見を主張していたのだから、本当に強い人だ。
「アビーさんは人間としてはご高齢でしたし、人生経験を重ねてきたという誇りをもって寿命を全うされた方のように感じました。ですから、それまでの長い人生で培ってきた知識に自信を持ち、それに基づいてご自分の意見を通されようとするのは当然のこと。そう考え、自分が人間ではなく魔の者という種族であり、どういう存在であるのか詳しくお話ししました。……そうしたら、鼻で嗤われてしまいました。『それが何だってんだい?』──と」
それはまた、なんというか、流石にアビーさんが我を通しすぎなのでは……? 突然現れた異種族を目の前にして動揺するのは仕方ないけれど、そんなに否定しなくても……。
妙に気持ちがザワついてしまい、それが僕の表情にも出ていたのか、カミュは優しい微笑を浮かべて首を振る。
「アビーさんにも、きちんと考えがあったのです。頭ごなしに私を否定されていたわけではありません」
「そうなの……?」
「ほんとに~? ただの偏屈ばあさんなんじゃねぇの?」
「まさか! アビーさんは、誤解されやすそうなお人柄ではありましたが、他者を思いやる気持ちで溢れた方なんですよ。……私に共に食事をするよう促されたのも、ジル様のことを思われてのことでした」
「ジルのことを?」
「ええ。──当時、ジル様は魔王になられたばかりで、魔王の魂の影響を受けられていない分、困惑と動揺が大きく、気持ちが塞ぎ込まれていた時期でした。アビーさんは異世界に召喚された身でしたから、ジル様のお気持ちがよく分かったのでしょう。アビーさんにとって異世界の魔王と悪魔が異質な存在であるのと同様に、ジル様にとっても、異世界から来た食事係も悪魔も見知らぬ存在なのです。私は、その点の理解が甘かった」
ああ、そうか。言われてみれば、そうだ。
ジルは最初からこの世界の人間で、魔王という存在も元々知っていたけれど、だからといって自分が魔王になるなんて思いもしなかったわけだし、魔王の魂の影響が無い分、恐ろしさや心細さを感じていたはずだ。それまでの歴代の魔王とは違って、傍に悪魔や異世界人を侍らせるのが当然という感覚は無く、見知らぬ場所で見知らぬ人たちと共同生活をする不安が大きかったんだろうな。
「魔王に仕える悪魔であるのなら、魔王が魔王らしく堂々と振る舞えるよう支えてあげるべきなのではないか、と諭されました。ごもっともだと感じました。そのままアビーさんに助言をお願いしたところ、『だから一緒にメシを食うのさ』と笑われました」
「みんなで一緒に、ごはんを……」
「ええ。同じテーブルを囲み、同じ料理をいただくことで、互いの関係にも状況にも馴染んでいけるようになる、と。アビーさんは、そう教えてくださったのです」
「うん、……うん、僕もそう思うよ」
中水上のおじさんの家に引き取られたときも、この世界に召喚されてきたときも、慣れない場所や環境に段々と慣れていくにあたり、食事はとても大切な要素だったと思う。それも、一人で摂るものではなく、みんなで一緒に食べる、そういう食事の時間が。
──そうか。アビーさんは人生経験が豊富なおばあちゃんだったから、そのことをきちんと理解していて、だからこそ、魔王になったばかりの若者と人間への理解を深め始めたばかりの悪魔を歩み寄らせるために、一緒にテーブルを囲んで食事をしなさいとカミュを促したんだ。
ちょっと言葉は乱暴で、確かに誤解されやすい部分もあるだろうけれど、なんて人情味に溢れた素敵な食事係だろう。彼女がいてくれなければ、今のジルとカミュの姿は無かったのかもしれない。
「一緒に食事をするって、そんなに大事なことなわけ? 人間って、ボクたちに寄せて作られてるはずなのに、その辺の感覚がよく分かんねぇなー」
「今日、一緒に食事をしたら、ノヴァユエもきっと、なんとなく何かを感じ取れますよ」
腑に落ちないという顔で唇を尖らせる後輩の頭を撫でたカミュは、「ね?」と僕に向かってウインクした。
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