152 / 246
【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ
【7-18】
しおりを挟む
「それは、確かにビックリしただろうね」
それまでカミュの中には人間と一緒にテーブルを囲むなんていう概念は無かっただろうし、ジル以前の魔王たちは異世界の人たちに恐怖心を植え付けていたのだろうから悪魔が食事に誘われる機会も無かったと思う。思いもしない申し出を受けて戸惑うのは当然だ。
「ええ、もう、とても驚きました。共に座って何をするのかと尋ねたら、一緒に食事をするに決まっていると返されたものですから、尚更のことです。私は生態的に食事が不要なのだと説明申し上げたら、『アタシのメシが食えないってのかい! バカにすんじゃないよ!』と怒鳴り返されてしまいましてね。もう、途方に暮れてしまいました」
「なんというか……、アビーさんってすごく勢いのある人だったんだね……」
ロックというか、パンクというか、とにかく激しい。当時のジルとカミュは現在ほど異世界人との交流に馴染んでいなかったはずだし、そんな彼らしかいない見知らぬ世界の城に来たというのに、アビーさんは最初から堂々と自分の意見を主張していたのだから、本当に強い人だ。
「アビーさんは人間としてはご高齢でしたし、人生経験を重ねてきたという誇りをもって寿命を全うされた方のように感じました。ですから、それまでの長い人生で培ってきた知識に自信を持ち、それに基づいてご自分の意見を通されようとするのは当然のこと。そう考え、自分が人間ではなく魔の者という種族であり、どういう存在であるのか詳しくお話ししました。……そうしたら、鼻で嗤われてしまいました。『それが何だってんだい?』──と」
それはまた、なんというか、流石にアビーさんが我を通しすぎなのでは……? 突然現れた異種族を目の前にして動揺するのは仕方ないけれど、そんなに否定しなくても……。
妙に気持ちがザワついてしまい、それが僕の表情にも出ていたのか、カミュは優しい微笑を浮かべて首を振る。
「アビーさんにも、きちんと考えがあったのです。頭ごなしに私を否定されていたわけではありません」
「そうなの……?」
「ほんとに~? ただの偏屈ばあさんなんじゃねぇの?」
「まさか! アビーさんは、誤解されやすそうなお人柄ではありましたが、他者を思いやる気持ちで溢れた方なんですよ。……私に共に食事をするよう促されたのも、ジル様のことを思われてのことでした」
「ジルのことを?」
「ええ。──当時、ジル様は魔王になられたばかりで、魔王の魂の影響を受けられていない分、困惑と動揺が大きく、気持ちが塞ぎ込まれていた時期でした。アビーさんは異世界に召喚された身でしたから、ジル様のお気持ちがよく分かったのでしょう。アビーさんにとって異世界の魔王と悪魔が異質な存在であるのと同様に、ジル様にとっても、異世界から来た食事係も悪魔も見知らぬ存在なのです。私は、その点の理解が甘かった」
ああ、そうか。言われてみれば、そうだ。
ジルは最初からこの世界の人間で、魔王という存在も元々知っていたけれど、だからといって自分が魔王になるなんて思いもしなかったわけだし、魔王の魂の影響が無い分、恐ろしさや心細さを感じていたはずだ。それまでの歴代の魔王とは違って、傍に悪魔や異世界人を侍らせるのが当然という感覚は無く、見知らぬ場所で見知らぬ人たちと共同生活をする不安が大きかったんだろうな。
「魔王に仕える悪魔であるのなら、魔王が魔王らしく堂々と振る舞えるよう支えてあげるべきなのではないか、と諭されました。ごもっともだと感じました。そのままアビーさんに助言をお願いしたところ、『だから一緒にメシを食うのさ』と笑われました」
「みんなで一緒に、ごはんを……」
「ええ。同じテーブルを囲み、同じ料理をいただくことで、互いの関係にも状況にも馴染んでいけるようになる、と。アビーさんは、そう教えてくださったのです」
「うん、……うん、僕もそう思うよ」
中水上のおじさんの家に引き取られたときも、この世界に召喚されてきたときも、慣れない場所や環境に段々と慣れていくにあたり、食事はとても大切な要素だったと思う。それも、一人で摂るものではなく、みんなで一緒に食べる、そういう食事の時間が。
──そうか。アビーさんは人生経験が豊富なおばあちゃんだったから、そのことをきちんと理解していて、だからこそ、魔王になったばかりの若者と人間への理解を深め始めたばかりの悪魔を歩み寄らせるために、一緒にテーブルを囲んで食事をしなさいとカミュを促したんだ。
ちょっと言葉は乱暴で、確かに誤解されやすい部分もあるだろうけれど、なんて人情味に溢れた素敵な食事係だろう。彼女がいてくれなければ、今のジルとカミュの姿は無かったのかもしれない。
「一緒に食事をするって、そんなに大事なことなわけ? 人間って、ボクたちに寄せて作られてるはずなのに、その辺の感覚がよく分かんねぇなー」
「今日、一緒に食事をしたら、ノヴァユエもきっと、なんとなく何かを感じ取れますよ」
腑に落ちないという顔で唇を尖らせる後輩の頭を撫でたカミュは、「ね?」と僕に向かってウインクした。
それまでカミュの中には人間と一緒にテーブルを囲むなんていう概念は無かっただろうし、ジル以前の魔王たちは異世界の人たちに恐怖心を植え付けていたのだろうから悪魔が食事に誘われる機会も無かったと思う。思いもしない申し出を受けて戸惑うのは当然だ。
「ええ、もう、とても驚きました。共に座って何をするのかと尋ねたら、一緒に食事をするに決まっていると返されたものですから、尚更のことです。私は生態的に食事が不要なのだと説明申し上げたら、『アタシのメシが食えないってのかい! バカにすんじゃないよ!』と怒鳴り返されてしまいましてね。もう、途方に暮れてしまいました」
「なんというか……、アビーさんってすごく勢いのある人だったんだね……」
ロックというか、パンクというか、とにかく激しい。当時のジルとカミュは現在ほど異世界人との交流に馴染んでいなかったはずだし、そんな彼らしかいない見知らぬ世界の城に来たというのに、アビーさんは最初から堂々と自分の意見を主張していたのだから、本当に強い人だ。
「アビーさんは人間としてはご高齢でしたし、人生経験を重ねてきたという誇りをもって寿命を全うされた方のように感じました。ですから、それまでの長い人生で培ってきた知識に自信を持ち、それに基づいてご自分の意見を通されようとするのは当然のこと。そう考え、自分が人間ではなく魔の者という種族であり、どういう存在であるのか詳しくお話ししました。……そうしたら、鼻で嗤われてしまいました。『それが何だってんだい?』──と」
それはまた、なんというか、流石にアビーさんが我を通しすぎなのでは……? 突然現れた異種族を目の前にして動揺するのは仕方ないけれど、そんなに否定しなくても……。
妙に気持ちがザワついてしまい、それが僕の表情にも出ていたのか、カミュは優しい微笑を浮かべて首を振る。
「アビーさんにも、きちんと考えがあったのです。頭ごなしに私を否定されていたわけではありません」
「そうなの……?」
「ほんとに~? ただの偏屈ばあさんなんじゃねぇの?」
「まさか! アビーさんは、誤解されやすそうなお人柄ではありましたが、他者を思いやる気持ちで溢れた方なんですよ。……私に共に食事をするよう促されたのも、ジル様のことを思われてのことでした」
「ジルのことを?」
「ええ。──当時、ジル様は魔王になられたばかりで、魔王の魂の影響を受けられていない分、困惑と動揺が大きく、気持ちが塞ぎ込まれていた時期でした。アビーさんは異世界に召喚された身でしたから、ジル様のお気持ちがよく分かったのでしょう。アビーさんにとって異世界の魔王と悪魔が異質な存在であるのと同様に、ジル様にとっても、異世界から来た食事係も悪魔も見知らぬ存在なのです。私は、その点の理解が甘かった」
ああ、そうか。言われてみれば、そうだ。
ジルは最初からこの世界の人間で、魔王という存在も元々知っていたけれど、だからといって自分が魔王になるなんて思いもしなかったわけだし、魔王の魂の影響が無い分、恐ろしさや心細さを感じていたはずだ。それまでの歴代の魔王とは違って、傍に悪魔や異世界人を侍らせるのが当然という感覚は無く、見知らぬ場所で見知らぬ人たちと共同生活をする不安が大きかったんだろうな。
「魔王に仕える悪魔であるのなら、魔王が魔王らしく堂々と振る舞えるよう支えてあげるべきなのではないか、と諭されました。ごもっともだと感じました。そのままアビーさんに助言をお願いしたところ、『だから一緒にメシを食うのさ』と笑われました」
「みんなで一緒に、ごはんを……」
「ええ。同じテーブルを囲み、同じ料理をいただくことで、互いの関係にも状況にも馴染んでいけるようになる、と。アビーさんは、そう教えてくださったのです」
「うん、……うん、僕もそう思うよ」
中水上のおじさんの家に引き取られたときも、この世界に召喚されてきたときも、慣れない場所や環境に段々と慣れていくにあたり、食事はとても大切な要素だったと思う。それも、一人で摂るものではなく、みんなで一緒に食べる、そういう食事の時間が。
──そうか。アビーさんは人生経験が豊富なおばあちゃんだったから、そのことをきちんと理解していて、だからこそ、魔王になったばかりの若者と人間への理解を深め始めたばかりの悪魔を歩み寄らせるために、一緒にテーブルを囲んで食事をしなさいとカミュを促したんだ。
ちょっと言葉は乱暴で、確かに誤解されやすい部分もあるだろうけれど、なんて人情味に溢れた素敵な食事係だろう。彼女がいてくれなければ、今のジルとカミュの姿は無かったのかもしれない。
「一緒に食事をするって、そんなに大事なことなわけ? 人間って、ボクたちに寄せて作られてるはずなのに、その辺の感覚がよく分かんねぇなー」
「今日、一緒に食事をしたら、ノヴァユエもきっと、なんとなく何かを感じ取れますよ」
腑に落ちないという顔で唇を尖らせる後輩の頭を撫でたカミュは、「ね?」と僕に向かってウインクした。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる