魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-20】

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「マリオさん、すごいね……。こう……、アビーさんとはまた違った強さがあるというか……」

 自分が死んだという事実でさえ、けっこう衝撃的なものなのに、知らない世界に召喚されて魔王と悪魔が目の前にいるという信じがたい状況に置かれても、それをすぐに「素晴らしい」と認識して喜べるなんて──、僕には想像もつかない心境だ。

「ええ。とても前向きで、何があろうとも良い方向に考えを転換させる術に長けた人でした。アビーさんは、意気地がない我々を叱咤激励してくださる存在でした。いいから立ち上がって前を向くんだよ、と腕を引いて尻を叩いてくれる存在。そんなアビーさんが亡くなって、ジル様も私も悲しみと困惑で足がすくんでいたのです。マリオさんは、そんな我々の背を押して、明るく導いてくださる方でした」
「明るいっつーか、そこまでいくと頭おかしいんじゃねぇのって思っちゃうけど?」
「失礼なことを言わないでください、ノヴァユエ。マリオさんがいてくださったから、ジル様はご自分が思う通りの魔王として歩むことが出来たのです」

 緑の悪魔を叱りつけるように睨みつけた紅い瞳は、すぐに優しく細められる。カミュはきっと、大切な思い出を少しずつ取り出しながら話してくれているのだろう。

「アビーさんの意志を引き継いで調理場の状態を整えられたマリオさんもまた、ミカさんと同じように、魔法に頼るのではなくご自分の手で調理することに拘られた方でした。俺の仕事を取らないでくれよ、料理は喜びであり楽しみであるのだから、と。そして、いつでも愉快に歌いながら、たくさん美味しいものを作ってくださったものです」
「うん。マリオさんが遺してくれた本からも伝わってくるよ。あったかい人だったんだな、って」

 マリオさんが手書きで作ったレシピ本は、優しいタッチの挿絵も、作り方に添えられている一言コメントも、どれも明るくて温かい。会ったことは無いのにマリオさんの人柄を感じられるような、そんな一冊だった。
 カミュは嬉しそうに笑って頷き同意を示してから、続きを語り始める。

「魔王らしくなくたっていい、ジルがしたいようにすればいい、俺は美味しいごはんを作るだけさ、と。マリオさんはそう言って、元気が出るような料理を毎日作ってくださったものです。魔王だからといって残虐非道な行いをしなくてもいいと背中を押していただけたジル様は、少しずつ、魔王として無難にやり過ごす方法を見出していかれました。躓く度に、マリオさんは歌と踊りと料理で励ましてくださって……、あの方の陽気な笑顔に、我々がどれだけ救われたことか」

 きっとマリオさんは、ジルやカミュが何か失敗をしても、温かい笑顔で励まし続けたのだろう。そうして、少しずつ魔王と悪魔は成長していって、現在の穏やかな彼らになっていったんだ。
 マリオさんの話を聞いていると、彼が遺したレシピ本に込められた想いを、ずっしりと感じられる気がする。マリオさんは、次に来る食事係にも同じようにジルとカミュを支えてほしいと願ったに違いない。僕はまだまだその域に到達できていないけれど、いつか、同じくらい存在感のある食事係になりたいなぁ。

「──あれ?そういえば、僕を召喚したときに付けていた条件って、マリオさんが提案したものだったよね?」

 ここに来たばかりのときを思い出しながら、問い掛ける。確か、僕を子どもだと勘違いしたジルが怒っていたとき、そんなようなことを口にしていたはずだ。

「ええ、そうです。マリオさんは、この世界に召喚されたことを後悔はしていないけれど、死んだ後も命が続くのであれば、元の世界で結婚したばかりの娘さんの行く末を見届けたかったという未練もあると仰っていました。それは寂しく辛い気持ちでもあるから、可能であれば何の未練も無い人のほうがいいと助言をくださったのです」
「ああ、そういう流れだったんだね」

 召喚の条件に対して僕が若すぎると言われていた理由も、なかなか条件に合う人を見つけられなくて召喚が難航していた理由も、よく分かった。
 黙って話を聞いていたノヴァユエは、驚いたように僕を見つめてくる。

「えっ!? ミカって、死んだときに何の未練も無かったの!? 変わってるね!?」
「うん、当時は本当に何の未練も無かったんだ。……ここで過ごしているうちに、未練が生まれてきちゃったけどね」

 なんだそれ、と馬鹿にされるかと思いきや、ノヴァユエは複雑な表情で唇を噛みしめている。何を悩んでいるのかと心配していると、緑の悪魔は首を傾げながら曖昧に笑った。

「ミカに未練が出来たのって、良かったねー、って言っていいこと?」

 なんとなく哲学的というか、難しい質問に感じる。少し考えてから、僕は素直に答えた。

「自分の命に執着を持ち始めたのは、それだけここでの生活が幸せってことで、満たされてるということだから、良いことなんだって思いたいな。僕のことを大切にしてくれる人たちのためにも、そう思いたいよ」
「そっか。……うん、それは、悪くないかもって、ボクも思えるかもしれないな★」
「ふふっ、ありがとう。──さぁ、マリオさんの話も聞けたところで、具材が切れたよ。ノヴァユエ、一緒に生地を飾ろう!」
「わぁっ! 何それ! 細けぇのがいっぱい! 楽しそう!」

 カラフルな夏野菜の欠片たちを見せると、ノヴァユエの瞳が輝き始める。そんなことしないと言われるかもと思っていたけど、興味を持ってもらえたようだ。笑い合う僕たちを、カミュは保護者のような眼差しで見ていた。
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