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【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ
【8-3】
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少しでもミカの症状を和らげて楽にしてやる可能性に賭けるか、危ない橋は渡らず多少辛くとも着実に癒せる手段を取るべきか。──魔王はしばし悩んだ末、結論を出す。
「……ひとまず、治癒魔法は使わない。栄養と休息で回復していけるように支えながら、様子を見よう」
「承知しました。……そのほうがよろしいのではないかと、私も思います」
理解と同調を示してくるカマルティユも、ジルベールと同様に考えているのだろう。──どうやらミカは以前の食事係のアビゲールやマリオ以上に魔法耐性が無いようだ、と。
盗賊の女頭領がミカを攫った際、彼は血を滴らせる程の怪我を負った。しかし、ミカから事後説明を受けたところ、どうも盗賊は威嚇をしたかっただけだったらしく、負傷させるつもりは全く無かったと言っていたらしい。そして、おそらくはミカが魔力が無いか著しく低いと判断した盗賊が、効果をかなり軽減させた治癒魔法で傷を治していた。
魔法の効果を制限することは、増大させるよりも困難で、対象の状態を探りながら繊細に扱わねば成せない。つまり、盗賊の女がそこまで丁寧にミカを治療したということは、彼女には本当に攻撃の意図は無かったと捉える材料にもなる。
実際、威嚇や注意を引く或いは逸らすため等に用いられるような、簡易な風魔法がある。それをぶつけられて、流血するほどの怪我をするとは、よっぽどのことだ。アビゲールやマリオも魔力を持たない異世界人だったが、同じ魔法をくらったとしても、切り傷くらいはあるかもしれないけれど、ミカほど酷い負傷にはならないだろう。
「魔力を持たない方の中でも、どの程度の影響を受けるか差異があるものなのでしょうか……?」
「さぁ、どうだろうな。何せ、我々にとっては魔力を持って生まれることが当たり前で、能力に差はあれど魔法を使ったり使われたりすることも当たり前なんだ。魔力を持たない者なんて、いないに等しい世界だからな」
「ええ。……マティアス様の弟君も気掛かりですね」
憂いが込められたカマルティユの一言を聞き、ジルベールもマティアス王子の弟──まだ赤子で魔力を持たないカイ王子のことを思い出す。ミカを見守っているからこそ実感するが、カイ王子の周囲の者たちの困惑も大きいことだろう。自分の常識の通りに動いてしまうと、うっかり魔法に巻き込みかねないのだ。
その危険や未知の生態への理解を深めるためにミカの協力を仰ぎたいというマティアスの気持ちはよく分かるが、果たしてミカを秋の祭に参加させて大丈夫なのかと、今更ながら不安になってきてしまう。……そもそもの話、祭までミカをきちんと護れるだろうか。
段々と気落ちしてしまいそうな己を内心で叱咤するジルベールだが、ミカに対して慎重かつ過保護になってしまいがちなのは、もうどうしようもない。それだけ、あの異世界人の青年は弱々しいのだ。
ジルベールもカマルティユも、ミカを「弱い人間」と見ているわけではない。むしろ、不幸な境遇の中、よくぞ芯が曲がることなく育ってきたものだと感心するほどだ。自分の価値を低く見積もりすぎな性分ではあったが、己の不遇を他者の責任にすることなく懸命に生き抜いてきた人間を「弱い」などと云えるはずもない。
──しかし、この世界の常識の前では、ミカの体質は「弱い」とせざるをえないのである。幼子にも掛けるような微弱な魔法すら耐えられない身体は、どう考えても弱い。ミカは小柄で華奢な体躯だから、余計にそういう印象を抱いてしまう。
だが、治癒魔法を使わない方向で看病すると決めた今、ミカの回復力に期待するしかない。あの細い身体にどれだけの体力があるかは不明だが、それを少しでも増幅できるよう、出来ることをするしかない。
「……アビーとマリオは、風邪の症状は元の世界と変わらないと言っていたよな?」
ミカと同じ星から召喚したかつての食事係が風邪で寝込んでいたときを思い出しながらジルベールが問うと、カマルティユはすぐに頷いた。
「ええ。確かに、そう仰っていました。ミカさんもきっと、元の世界での不調と似ていたから、ご自分で風邪だと判断されたのでしょうね」
「そうだな。……アビーとマリオは、高熱があっても食欲旺盛だったが、ミカはどうだろうな」
「それは……、どうでしょう。……体調が悪くても元気よく食事やおやつを召し上がるミカさんの姿は、こう……想像しがたいですね」
「……そうだよな。同感だ」
魔王と悪魔は顔を見合わせて、同時に溜息をつく。治癒魔法が使えないことが、こんなにももどかしいとは。だが、使えないものは仕方がないのだ。誰かに非があるのではなく、どうにもならないことなのだし、割り切るしかない。
頭を切り替えるように再度ため息を吐き出してから、ジルベールは静かに言った。
「とりあえず、ミカに食べさせられる朝食を作らなくては」
「……ひとまず、治癒魔法は使わない。栄養と休息で回復していけるように支えながら、様子を見よう」
「承知しました。……そのほうがよろしいのではないかと、私も思います」
理解と同調を示してくるカマルティユも、ジルベールと同様に考えているのだろう。──どうやらミカは以前の食事係のアビゲールやマリオ以上に魔法耐性が無いようだ、と。
盗賊の女頭領がミカを攫った際、彼は血を滴らせる程の怪我を負った。しかし、ミカから事後説明を受けたところ、どうも盗賊は威嚇をしたかっただけだったらしく、負傷させるつもりは全く無かったと言っていたらしい。そして、おそらくはミカが魔力が無いか著しく低いと判断した盗賊が、効果をかなり軽減させた治癒魔法で傷を治していた。
魔法の効果を制限することは、増大させるよりも困難で、対象の状態を探りながら繊細に扱わねば成せない。つまり、盗賊の女がそこまで丁寧にミカを治療したということは、彼女には本当に攻撃の意図は無かったと捉える材料にもなる。
実際、威嚇や注意を引く或いは逸らすため等に用いられるような、簡易な風魔法がある。それをぶつけられて、流血するほどの怪我をするとは、よっぽどのことだ。アビゲールやマリオも魔力を持たない異世界人だったが、同じ魔法をくらったとしても、切り傷くらいはあるかもしれないけれど、ミカほど酷い負傷にはならないだろう。
「魔力を持たない方の中でも、どの程度の影響を受けるか差異があるものなのでしょうか……?」
「さぁ、どうだろうな。何せ、我々にとっては魔力を持って生まれることが当たり前で、能力に差はあれど魔法を使ったり使われたりすることも当たり前なんだ。魔力を持たない者なんて、いないに等しい世界だからな」
「ええ。……マティアス様の弟君も気掛かりですね」
憂いが込められたカマルティユの一言を聞き、ジルベールもマティアス王子の弟──まだ赤子で魔力を持たないカイ王子のことを思い出す。ミカを見守っているからこそ実感するが、カイ王子の周囲の者たちの困惑も大きいことだろう。自分の常識の通りに動いてしまうと、うっかり魔法に巻き込みかねないのだ。
その危険や未知の生態への理解を深めるためにミカの協力を仰ぎたいというマティアスの気持ちはよく分かるが、果たしてミカを秋の祭に参加させて大丈夫なのかと、今更ながら不安になってきてしまう。……そもそもの話、祭までミカをきちんと護れるだろうか。
段々と気落ちしてしまいそうな己を内心で叱咤するジルベールだが、ミカに対して慎重かつ過保護になってしまいがちなのは、もうどうしようもない。それだけ、あの異世界人の青年は弱々しいのだ。
ジルベールもカマルティユも、ミカを「弱い人間」と見ているわけではない。むしろ、不幸な境遇の中、よくぞ芯が曲がることなく育ってきたものだと感心するほどだ。自分の価値を低く見積もりすぎな性分ではあったが、己の不遇を他者の責任にすることなく懸命に生き抜いてきた人間を「弱い」などと云えるはずもない。
──しかし、この世界の常識の前では、ミカの体質は「弱い」とせざるをえないのである。幼子にも掛けるような微弱な魔法すら耐えられない身体は、どう考えても弱い。ミカは小柄で華奢な体躯だから、余計にそういう印象を抱いてしまう。
だが、治癒魔法を使わない方向で看病すると決めた今、ミカの回復力に期待するしかない。あの細い身体にどれだけの体力があるかは不明だが、それを少しでも増幅できるよう、出来ることをするしかない。
「……アビーとマリオは、風邪の症状は元の世界と変わらないと言っていたよな?」
ミカと同じ星から召喚したかつての食事係が風邪で寝込んでいたときを思い出しながらジルベールが問うと、カマルティユはすぐに頷いた。
「ええ。確かに、そう仰っていました。ミカさんもきっと、元の世界での不調と似ていたから、ご自分で風邪だと判断されたのでしょうね」
「そうだな。……アビーとマリオは、高熱があっても食欲旺盛だったが、ミカはどうだろうな」
「それは……、どうでしょう。……体調が悪くても元気よく食事やおやつを召し上がるミカさんの姿は、こう……想像しがたいですね」
「……そうだよな。同感だ」
魔王と悪魔は顔を見合わせて、同時に溜息をつく。治癒魔法が使えないことが、こんなにももどかしいとは。だが、使えないものは仕方がないのだ。誰かに非があるのではなく、どうにもならないことなのだし、割り切るしかない。
頭を切り替えるように再度ため息を吐き出してから、ジルベールは静かに言った。
「とりあえず、ミカに食べさせられる朝食を作らなくては」
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