魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
161 / 246
【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ

【8-3】

しおりを挟む
 少しでもミカの症状を和らげて楽にしてやる可能性に賭けるか、危ない橋は渡らず多少辛くとも着実に癒せる手段を取るべきか。──魔王はしばし悩んだ末、結論を出す。

「……ひとまず、治癒魔法は使わない。栄養と休息で回復していけるように支えながら、様子を見よう」
「承知しました。……そのほうがよろしいのではないかと、私も思います」

 理解と同調を示してくるカマルティユも、ジルベールと同様に考えているのだろう。──どうやらミカは以前の食事係のアビゲールやマリオ以上に魔法耐性が無いようだ、と。

 盗賊の女頭領がミカを攫った際、彼は血を滴らせる程の怪我を負った。しかし、ミカから事後説明を受けたところ、どうも盗賊は威嚇をしたかっただけだったらしく、負傷させるつもりは全く無かったと言っていたらしい。そして、おそらくはミカが魔力が無いか著しく低いと判断した盗賊が、効果をかなり軽減させた治癒魔法で傷を治していた。
魔法の効果を制限することは、増大させるよりも困難で、対象の状態を探りながら繊細に扱わねば成せない。つまり、盗賊の女がそこまで丁寧にミカを治療したということは、彼女には本当に攻撃の意図は無かったと捉える材料にもなる。

 実際、威嚇や注意を引く或いは逸らすため等に用いられるような、簡易な風魔法がある。それをぶつけられて、流血するほどの怪我をするとは、よっぽどのことだ。アビゲールやマリオも魔力を持たない異世界人だったが、同じ魔法をくらったとしても、切り傷くらいはあるかもしれないけれど、ミカほど酷い負傷にはならないだろう。

「魔力を持たない方の中でも、どの程度の影響を受けるか差異があるものなのでしょうか……?」
「さぁ、どうだろうな。何せ、我々にとっては魔力を持って生まれることが当たり前で、能力に差はあれど魔法を使ったり使われたりすることも当たり前なんだ。魔力を持たない者なんて、いないに等しい世界だからな」
「ええ。……マティアス様の弟君も気掛かりですね」

 憂いが込められたカマルティユの一言を聞き、ジルベールもマティアス王子の弟──まだ赤子で魔力を持たないカイ王子のことを思い出す。ミカを見守っているからこそ実感するが、カイ王子の周囲の者たちの困惑も大きいことだろう。自分の常識の通りに動いてしまうと、うっかり魔法に巻き込みかねないのだ。
 その危険や未知の生態への理解を深めるためにミカの協力を仰ぎたいというマティアスの気持ちはよく分かるが、果たしてミカを秋の祭に参加させて大丈夫なのかと、今更ながら不安になってきてしまう。……そもそもの話、祭までミカをきちんと護れるだろうか。

 段々と気落ちしてしまいそうな己を内心で叱咤するジルベールだが、ミカに対して慎重かつ過保護になってしまいがちなのは、もうどうしようもない。それだけ、あの異世界人の青年は弱々しいのだ。
 ジルベールもカマルティユも、ミカを「弱い人間」と見ているわけではない。むしろ、不幸な境遇の中、よくぞ芯が曲がることなく育ってきたものだと感心するほどだ。自分の価値を低く見積もりすぎな性分ではあったが、己の不遇を他者の責任にすることなく懸命に生き抜いてきた人間を「弱い」などと云えるはずもない。

 ──しかし、この世界の常識の前では、ミカの体質は「弱い」とせざるをえないのである。幼子にも掛けるような微弱な魔法すら耐えられない身体は、どう考えても弱い。ミカは小柄で華奢な体躯だから、余計にそういう印象を抱いてしまう。
 だが、治癒魔法を使わない方向で看病すると決めた今、ミカの回復力に期待するしかない。あの細い身体にどれだけの体力があるかは不明だが、それを少しでも増幅できるよう、出来ることをするしかない。

「……アビーとマリオは、風邪の症状は元の世界と変わらないと言っていたよな?」

 ミカと同じ星から召喚したかつての食事係が風邪で寝込んでいたときを思い出しながらジルベールが問うと、カマルティユはすぐに頷いた。

「ええ。確かに、そう仰っていました。ミカさんもきっと、元の世界での不調と似ていたから、ご自分で風邪だと判断されたのでしょうね」
「そうだな。……アビーとマリオは、高熱があっても食欲旺盛だったが、ミカはどうだろうな」
「それは……、どうでしょう。……体調が悪くても元気よく食事やおやつを召し上がるミカさんの姿は、こう……想像しがたいですね」
「……そうだよな。同感だ」

 魔王と悪魔は顔を見合わせて、同時に溜息をつく。治癒魔法が使えないことが、こんなにももどかしいとは。だが、使えないものは仕方がないのだ。誰かに非があるのではなく、どうにもならないことなのだし、割り切るしかない。
 頭を切り替えるように再度ため息を吐き出してから、ジルベールは静かに言った。

「とりあえず、ミカに食べさせられる朝食を作らなくては」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...