魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ

【8-2】

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「風邪……?」

 意外な答えが返ってきたため、ジルベールは黒目を瞬かせて呆然としたものの、すぐに気を取り直す。たかが、風邪。されど、風邪。特に、この時期に引いた風邪は長引きやすいものだ。
 しかも、ミカは魔王の目から見ればあまりにも弱々しい小柄な体躯で、どう見ても病に容易く打ち勝てるとは思えない。だからこそ、彼に怪我や不調が無いよう気をつけていたつもりなのだが……。

「昨夜もお元気なように見えていたのですが、ご本人曰く、軽い頭痛と寒気は感じていらしたそうです」

 カマルティユはジルベール以上に彼の世話を焼き、心身の状態へ常に気を配っているようだったから、ミカの体調不良の兆しに気づけなかったのが悔しいのだろう。その感情が込められた言葉に、魔王も頷きを返す。
 ジルベールとて、同様に悔しいのだ。カマルティユほど直接的では無いが、ジルベールもいつもミカの様子を気にしている。

「……だいぶ心を開いて、素直な気持ちや要望を口にしてくれるようになってきたと思っていたが、まだまだ先は長いのかもな」
「いえ、それが、遠慮して仰らなかったとも言い切れないないようでして……」
「……そうなのか?」
「ええ。昨日の状態では、まだ、ここまで悪化するかどうかは分からなかった、と。一晩寝たら治る可能性もあり、昨夜はとりあえずお休みになられたそうです」
「それが、今朝起きてみると悪化していた
……と?」
「はい。やはり風邪をひいたとハッキリ自覚されたとのことで、部屋を訪れた私へすぐに申告してくださいました。うつしたら大変だから、と」
「ああ……、ミカらしいな」

 魔王と悪魔は顔を見合わせて、互いに苦笑を浮かべた。
 自分が辛いからではなく、それを家族にうつしたら困るという心配から体調不良を打ち明ける、というのが、いかにもあの青年らしい。それでもまだ、他人のためとはいえ、風邪をひいたと口に出来るだけ、まだ打ち解けてきたほうだとも言える。召喚直後の彼ならば、体調不良を必死で隠そうとしただろうし、隠しながらも他者へうつすかもしれない恐れをどうしたものかと思い悩んで胃を痛めていたに違いない。

「ミカさんは、夏場に体調を崩されることがよくあったそうで、一晩寝て落ち着く場合と悪化する場合が半々だったようです」
「だから一晩寝て様子を見たわけか」
「そうでしょうね。チキュウでも夏の風邪は厄介だというのが定説のようで、悪化した以上、しばらくは体調がよろしくないだろうという自覚は持たれているようでした。食事を作るだけなら出来ると思うと仰ってましたが、ひとまず説得して布団の中でジッとしていただいております」

 カマルティユの「説得」は、おそらくそれなりに根気がいるものだったのではないかと、ジルベールにも容易に想像できた。ミカは柔軟性のある思考の持ち主である一方、己の負担に関しては無頓着で、妙に頑固な一面がある──というのが、魔王の見解だ。きっとカマルティユも、ミカに対して似たような印象を抱いていることだろう。

 溜息をひとつ零した魔王は、風邪をひいた人間の容態を詳しく知るべく、美しい悪魔へ質問を投げかける。

「ミカの具合はだいぶ悪そうか?」
「まだそこまでではなさそうですが、これから熱がかなり上がってきそうですね。お顔の色が真っ青でしたし、相当な寒気を感じておられるようで、身震いされておりました」
「この暑さの中、そこまで寒がるのはまずいな。熱がだいぶ上がるだろう。何か温かいものを持たせてやったほうがいいだろうか」
「ひとまず、クックとポッポがミカさんを温めてくれています。魔鳥は体温が高いですし、彼らの柔らかい羽はミカさんもお気に入りですから、癒されているようですよ」

 その光景を思い出したのか、カマルティユの口元に穏やかな微笑が刻まれた。ミカと二羽の魔鳥が寄り添って庭で昼寝をしている姿を目撃したことがあるジルベールもまた、そのときの様子を記憶から蘇らせて小さく笑う。

「それなら、ミカもよく眠れるだろう」
「ええ。とりあえずジル様にご報告してきますから、ゆっくり寝ていてくださいとお伝えして、ここに参ったのです。クックとポッポが傍にいて温めてさしあげれば、ミカさんもじきに眠られると思いますよ。起き上がるだけでも辛そうでしたし、身体は睡眠を欲しているはずです」
「そうだな。とにかく、まずはたっぷりと眠ってもらわなくては」

 ここプレカシオン王国での夏風邪への対処法の基本は、よく食べてよく眠ることだ。それで解熱して症状が改善するにこしたことはないのだが、食事が喉を通らず眠れないほど辛いこともある。
 この世界には風邪薬は無いが、魔法はある。完全に治すことは出来ないが、酷い熱や頭痛等の症状を和らげる効果のある治癒魔法は存在するのだ。
 ──しかし、魔力が無いミカは魔法の効果を受けすぎる。生命の危機を感じるほど悪化した状態であれば微弱な効果に留めて治癒魔法を掛けるのもいいだろうが、風邪のひき始め程度で掛けると、ミカの身体にとっては逆効果なのではないかという懸念があった。

「ジル様、治癒魔法はいかがしましょう? お辛そうでしたし、お可哀想ではあるのですが……」
「……」

 同じ不安を抱いているであろうカマルティユからの質問に対し、ジルベールは渋い面持ちで唇を閉ざした。
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