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【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ
【8-7】
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「ミカ、起きているのか?」
「あっ……、おはよう、ジル。迷惑かけちゃって、ごめんね」
入室したジルベールと目が合うがいなや、横たわっていたミカは慌てて起き上がろうとして咳き込み、カマルティユの手に背を撫でられている。真っ先に謝罪の言葉を紡いでしまうミカを切なく思いながら、ジルベールはあえて笑って見せた。魔王本人が思っているようには表情筋は仕事をしていないが、それでも仄かに微笑んだ表情になる。
「おはよう、ミカ。熱がある身体で急に起き上がったら、しんどいだろう。……具合はどうだ?」
「ちょっと熱はあるけど、平気だよ。昼にはちゃんと料理をするから……、」
「無理ですよ。段々と熱が上がって来ています。少なくとも熱がきっちり下がるまでは、しっかりと寝ていただかなくては」
「そうだぞ。誰も迷惑だなんて思っていないんだから、今はしっかりと休養してくれ」
安心させるように言いつつジルベールがベッドへ近寄っていくと、申し訳なさそうにぐったりしていたミカが何かに気付いたように視線を向けてきた。
「いい匂いがする……?」
「ああ。簡単だが朝食を作ってきたんだ。食べられそうか?」
「……うん、いただくよ。ありがとう、ジル」
本当は食欲が無いのだろうが、ミカはにっこりと笑ってそう言う。ジルベールが作った食事に口を付けないわけにはいかないという遠慮からのものだろうが、今は無理にでも食べさせたほうがいい。そう判断した魔王は、気配り精神に満ちた悪魔がテキパキと用意した椅子へ座り、揃えた太腿の上にトレーを置いた。
「ミカさん、こちらへ寄り掛かれそうですか? ご自分で体勢を維持するのが難しいようでしたら、私が腕で支えておりますので遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとう、カミュ。大丈夫、寄り掛かるくらいできるよ」
ジルベールとは反対側へ回ったカマルティユがベッドの背部分へ枕をいくつか寄せて環境を整えると、ミカはそこへ背を預けて小さな吐息を零す。高熱のせいで身体がだるく、辛いのだろう。彼の寒気を抑えるためか、クックとポッポはミカの両腰のあたりでそれぞれ体を丸めている。
「今回は、俺が食べさせよう。お前を子ども扱いしているわけじゃない。アビーやマリオのことも、そうして看病してきたんだ」
「うん、ありがとう。……あのね、ジル、」
「謝るのは、もうやめろ。ミカだって、俺やカミュが弱っていたら、どうにかしようとするだろう? お互い様なんだ」
「……うん、ありがとう」
顔色は悪いながらも、ミカは安心したように微笑んだ。彼が多少なりとも笑っていることに、ジルベールも安堵する。そして、些か緊張しながらミルク粥の器に被せていた蓋を取り、保温魔法を解除した。途端に、食事の匂いがグッと濃くなる。
「あれ? この匂い、やっぱり、もしかして……」
「……ああ。ミルクガユを作ってみた」
ミルク粥と聞いた瞬間、ミカの表情はどう変化するのか。少しの恐れを抱いていたジルベールの不安を吹き飛ばすかのように、ミカは笑顔の花を咲かせた。
「ミルク粥……! わぁ、嬉しい……!」
「……そうか?」
「うん! 具合が悪いときに、ミルク粥を作ってもらえるだなんて嬉しいなぁ」
淡い茶の瞳はキラキラと輝き、本当に嬉しそうに笑っている。無理をしている様子も遠慮をしている素振りもなく、ミカは純粋に喜んでいるようだ。それを感じ取ったジルベールは肩の力を抜き、ミルク粥を一口分掬った匙を、ゆっくりとミカの口元へ運ぶ。
「……不味くはないと思うが」
「美味しいに決まってるよ。いただきます」
いつも以上に華奢に見える病人は、差し出されたミルク粥へ何度か息を吹きかけて冷ましてから、ぱくりと食らいつく。丁寧に咀嚼してから飲み下したミカは、ふわりと笑った。
「美味しい……!」
「そ、そうか……?」
「うん、とっても美味しい。懐かしいなぁ……、僕が初めてここに来たときのこと、思い出しちゃう」
「……えっ?」
「ジルが衰弱しているって聞いて、この世界のことも自分がどうしてここに来たのかもよく分かっていないのに、急いでミルク粥を作ったっけ」
ジルベールは混乱している。ミルク粥をミカが懐かしがるとして、それは「おじさん」に付随するものだと思っていたのだ。それがまさか、召喚当初のことを思い出して懐かしむとは予想外だ。
「ミカさんにとって、このミルクガユは……、『おじさん』との思い出の味なのではないのですか?」
ジルベールと同様の疑問を抱いたと思われるカマルティユがそう質問すると、ミカはきょとんとした顔をしてから再び微笑む。
「うん、確かに僕にとってのミルク粥は引き取ってくれたおじさんとの思い出の味でもあるけど、でも、ジルやカミュとの大切な思い出の味でもあるんだ。みんなで一緒に『いただきます』をする喜びを思い出させてくれた、あのときのこと。絶対に忘れられないよ」
自分の存在を「大切な思い出」の中に組み込んでもらえているという事実に、魔王と悪魔の心のどこかが熱くなる。その衝動と感情を視線で交わし合っている二人の間で、ミカは「ほんとにおいしい」と笑みを深めた。
「あっ……、おはよう、ジル。迷惑かけちゃって、ごめんね」
入室したジルベールと目が合うがいなや、横たわっていたミカは慌てて起き上がろうとして咳き込み、カマルティユの手に背を撫でられている。真っ先に謝罪の言葉を紡いでしまうミカを切なく思いながら、ジルベールはあえて笑って見せた。魔王本人が思っているようには表情筋は仕事をしていないが、それでも仄かに微笑んだ表情になる。
「おはよう、ミカ。熱がある身体で急に起き上がったら、しんどいだろう。……具合はどうだ?」
「ちょっと熱はあるけど、平気だよ。昼にはちゃんと料理をするから……、」
「無理ですよ。段々と熱が上がって来ています。少なくとも熱がきっちり下がるまでは、しっかりと寝ていただかなくては」
「そうだぞ。誰も迷惑だなんて思っていないんだから、今はしっかりと休養してくれ」
安心させるように言いつつジルベールがベッドへ近寄っていくと、申し訳なさそうにぐったりしていたミカが何かに気付いたように視線を向けてきた。
「いい匂いがする……?」
「ああ。簡単だが朝食を作ってきたんだ。食べられそうか?」
「……うん、いただくよ。ありがとう、ジル」
本当は食欲が無いのだろうが、ミカはにっこりと笑ってそう言う。ジルベールが作った食事に口を付けないわけにはいかないという遠慮からのものだろうが、今は無理にでも食べさせたほうがいい。そう判断した魔王は、気配り精神に満ちた悪魔がテキパキと用意した椅子へ座り、揃えた太腿の上にトレーを置いた。
「ミカさん、こちらへ寄り掛かれそうですか? ご自分で体勢を維持するのが難しいようでしたら、私が腕で支えておりますので遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとう、カミュ。大丈夫、寄り掛かるくらいできるよ」
ジルベールとは反対側へ回ったカマルティユがベッドの背部分へ枕をいくつか寄せて環境を整えると、ミカはそこへ背を預けて小さな吐息を零す。高熱のせいで身体がだるく、辛いのだろう。彼の寒気を抑えるためか、クックとポッポはミカの両腰のあたりでそれぞれ体を丸めている。
「今回は、俺が食べさせよう。お前を子ども扱いしているわけじゃない。アビーやマリオのことも、そうして看病してきたんだ」
「うん、ありがとう。……あのね、ジル、」
「謝るのは、もうやめろ。ミカだって、俺やカミュが弱っていたら、どうにかしようとするだろう? お互い様なんだ」
「……うん、ありがとう」
顔色は悪いながらも、ミカは安心したように微笑んだ。彼が多少なりとも笑っていることに、ジルベールも安堵する。そして、些か緊張しながらミルク粥の器に被せていた蓋を取り、保温魔法を解除した。途端に、食事の匂いがグッと濃くなる。
「あれ? この匂い、やっぱり、もしかして……」
「……ああ。ミルクガユを作ってみた」
ミルク粥と聞いた瞬間、ミカの表情はどう変化するのか。少しの恐れを抱いていたジルベールの不安を吹き飛ばすかのように、ミカは笑顔の花を咲かせた。
「ミルク粥……! わぁ、嬉しい……!」
「……そうか?」
「うん! 具合が悪いときに、ミルク粥を作ってもらえるだなんて嬉しいなぁ」
淡い茶の瞳はキラキラと輝き、本当に嬉しそうに笑っている。無理をしている様子も遠慮をしている素振りもなく、ミカは純粋に喜んでいるようだ。それを感じ取ったジルベールは肩の力を抜き、ミルク粥を一口分掬った匙を、ゆっくりとミカの口元へ運ぶ。
「……不味くはないと思うが」
「美味しいに決まってるよ。いただきます」
いつも以上に華奢に見える病人は、差し出されたミルク粥へ何度か息を吹きかけて冷ましてから、ぱくりと食らいつく。丁寧に咀嚼してから飲み下したミカは、ふわりと笑った。
「美味しい……!」
「そ、そうか……?」
「うん、とっても美味しい。懐かしいなぁ……、僕が初めてここに来たときのこと、思い出しちゃう」
「……えっ?」
「ジルが衰弱しているって聞いて、この世界のことも自分がどうしてここに来たのかもよく分かっていないのに、急いでミルク粥を作ったっけ」
ジルベールは混乱している。ミルク粥をミカが懐かしがるとして、それは「おじさん」に付随するものだと思っていたのだ。それがまさか、召喚当初のことを思い出して懐かしむとは予想外だ。
「ミカさんにとって、このミルクガユは……、『おじさん』との思い出の味なのではないのですか?」
ジルベールと同様の疑問を抱いたと思われるカマルティユがそう質問すると、ミカはきょとんとした顔をしてから再び微笑む。
「うん、確かに僕にとってのミルク粥は引き取ってくれたおじさんとの思い出の味でもあるけど、でも、ジルやカミュとの大切な思い出の味でもあるんだ。みんなで一緒に『いただきます』をする喜びを思い出させてくれた、あのときのこと。絶対に忘れられないよ」
自分の存在を「大切な思い出」の中に組み込んでもらえているという事実に、魔王と悪魔の心のどこかが熱くなる。その衝動と感情を視線で交わし合っている二人の間で、ミカは「ほんとにおいしい」と笑みを深めた。
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