魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
166 / 246
【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ

【8-8】

しおりを挟む
 ジルベールが匙を口元へ運ぶ度に、ミカはそれを素直に食べ続け、少なめによそってきたとはいえ完食する。無理をして食べさせようとは思っていなかった魔王は、病人に限界が見えたら食事を中断するつもりだったが、ミカに気持ち悪さを堪えている様子は無かった。

「ごちそうさまでした。ジル、ありがとう。美味しかったよ」
「そうか、それはよかった」
「ジルもカミュも朝ごはん、まだでしょ? クックもポッポもそうだし……、みんなお腹空いちゃったんじゃない?」
「大丈夫、心配するな。俺たちもきちんと食事をする。……ほら、水を飲め」
「うん」

 相変わらず自分の周りの者たちのことばかり心配しているミカに水を飲ませ、ジルベールは相手の額に手を宛がう。やはり熱は上がり続けているようだ。簡単に快癒するとは思えないことを憂いながら、魔王はミカの頭を撫でる。

「この後は、温かくし、水をしっかりと飲んで、ゆっくりと休むんだ。昼食に何か食べたいものはあるか? ……といっても、俺に作れるものには限りがあるが」
「ありがとう。……もしできれば、あれが食べてみたいな」
「あれ?」
「うん、ほら、ジルの故郷では、熱が出た子どもにミルク粥のようなものを作ってあげるって言ってたでしょ? 僕も食べてみたくて……」

 意外な要望を受けて、ジルベールは黒目を瞬かせた。リクエストされた料理がというよりも、故郷にまつわる話題をごく自然に出してきたことに驚いたのだ。
 ジルベールが魔王になった経緯を気にしてか、ミカはジルベールの過去や故郷に関しての話題を避けるようにしているようだった。既に過去への折り合いをつけていたジルベールとしては、そんなに気にしなくてもいいのにと思っていたが、せっかくの気遣いに水を差すのも悪いと考えて黙っていたのだ。
 しかし、ミカは今、自然な調子でジルベールの故郷のことを話題に出した。高熱のせいで正常な思考能力ではない可能性もあるが、余計な気を回さず屈託なく話してくれたと捉えたほうが嬉しい。

「ああ、分かった。だが、今作ったものとは違って、甘い風味のものだぞ?」
「うん、それが食べてみたいんだ」
「よし、上手く作れるかは分からないがやってみよう」
「楽しみにしているね」

 嬉しそうな顔をしているミカを見下ろし、ジルベールも静かに笑い返した。その様子を微笑ましく見守っていたカマルティユは、清潔な布巾を持った手を伸ばし、ミカの額に滲む汗を拭う。気持ちよさそうに目を細めてから、ミカは不意に不安そうに尋ねてきた。

「ねぇ、本当にジルもカミュも風邪はうつらないんだよね? クックとポッポも大丈夫なんだよね?」
「ああ、本当だ。この城で風邪をひくのはミカだけだ」
「私たちがこうして一緒にいても、何ともありませんからね。安心して、頼ってください」
「クッ!」
「ポッ!」
「うん、みんなありがとう」

 魔王も悪魔も魔鳥も、人間の病気には罹らない。それを改めて確認したミカは、安心したように深く息をつく。だいぶ身体が辛そうだ。カマルティユもそれを察したのか、「そろそろ横になりましょうね」と声を掛けながら、優しい仕草でミカの身体を横たえた。クックとポッポは布団の中に潜り込み、ミカに寄り添っているようだ。

「食べた直後だが、横になって苦しくないか?」
「うん、大丈夫」
「寒くはありませんか?」
「寒気はするけど、クックとポッポがあったかいから大丈夫」
「とにかく、まずは熱を下げないとな。栄養も摂って、しっかり休まなければ。……そのうち、マティアスから果物が届けられるはずだ。この辺では採れないもののはずだから、ミカも新鮮に食べられるだろう。届いたら、冷やして食べさせてやる」
「マティ様が? お中元みたいな感じなのかなぁ……?」
「……オチュー?」
「ぁ……、ううん、なんでもない。たのしみだね」

 ぐったりしながらも気丈に微笑むミカの頭を撫でながら、彼が風邪をひいたことはとてもじゃないがマティアスには報告できない、と考える。見舞いの品を送り付けてくる可能性も高いが、下手をすると本人がここへやって来かねない。──ただ、病人の栄養となる果物の差し入れは今はありがたい。ジルベールの料理にも限度があり、ましてや栄養を重視したものを作ることは難しい。

「そろそろ、キカさんもいらっしゃる頃合いのような気もしますが、今いらっしゃってもミカさんにはお会いできないかもしれないですね」
「うん……、風邪をうつしちゃいけないもんね。キカさんが来る前に治したいなぁ」
「ええ、そうですね。早めに元気になれるよう、たくさん休んで、しっかり食べましょう」
「うん」

 カマルティユとミカの会話に耳を傾けながら、確かにそろそろマレシスカが行商に訪れる頃だとジルベールは考える。ミカがマレシスカに懐いているのは分かっているが、今は少しでも早く彼女から食材を得たいと考えてしまう。それに、マレシスカであれば、看病食について助言もくれるだろう。
 勿論、彼女の訪問までにミカが順調に回復してくれるなら、それに越したことは無いのだが。そんなことをあれこれ考えながら、ジルベールは密かに溜息を零した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...