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【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ
【8-9】
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◆◆◆
翌日になると、ミカの症状はますます悪化した。熱は全く下がらず、咳も1度出たらなかなか止まらず、寒気も酷く、食欲もかなり低下している。前日の夜も、今朝も、彼は何も食べていない。せめて水分はきちんと摂ってほしいのだが、それもなかなか難しく、意識も朦朧としている。
ジルベールとカマルティユは、交代しながらつきっきりで看病しているのだが、回復の兆しは全く見えない。アビゲールとマリオはしっかり食べてしっかり眠るだけですぐに快癒していただけに、魔王と悪魔は内心で焦っていた。
やはり、治癒魔法を使ってみるべきか。
いや、魔力を持たぬ上に弱りきっているミカの身体への影響の大きさが心配だ。
しかし、このままでは衰弱する一方なのではないか。
そんなやり取りが、ジルベールとカマルティユの間で既に何度も繰り返されている。その度に結論を出すことが出来ず、結局は現状維持で見守っているのだが──、もう限界かもしれない。
ここまで悪化している風邪の症状など、ジルベールは見たことが無かった。普通はこんな状態になる前に、治癒魔法を用いて症状を緩和させるものなのだ。
「……ミカ、少しだけでも食べられないか?冷えていて、熱のある身体には心地いいはずだ」
不安をおぼえているのを上手く隠して優しく声を掛けながら、魔王は丁寧に病人を抱え起こす。自力で起き上がるどころか、首の角度を変えるだけでも辛そうなミカは、ぐったりとされるがままだ。
ジルベールは片腕でミカを抱き支えたまま、もう片方の手で持ったフォークで皮をむいた果実(地球では桃に相当する)を刺し、咳き込んでいる口元へ運んでやる。ミカは弱々しくひと齧りしたものの、すぐに口の動きは止まってしまった。咀嚼するのが辛いのかもしれない。
「ミカ、もう一口だけ食べられないか?」
「ぅ……」
「マティアスから送られてきた果物だ。お前だって、これを食べるのを楽しみにしていたはずだろう? 甘みも強くて、美味いぞ」
「……」
ミカは首を振るでもなく頷くでもなく、茫然と虚空を見つめている。いや、もはや何も見ていないのかもしれない。抱えている細い身体があまりにも熱く、ジルベールは狼狽えた。
その動揺が腕を振るわせ、抱えられているミカにも伝わったのか、虚ろな茶色の瞳がぼんやりとジルベールを見上げようとする。その気配を察した魔王は、病人の口元へ耳を寄せた。
「ん、どうした?」
「……ジル、が、」
「うん? 俺がどうした? 何をしてほしい?」
「ジルが、……僕を、殺しても、」
一瞬、何を言われたのか分からず、ジルベールの脳内は真っ白になる。衝撃のあまり、目を瞠ったまま絶句している魔王の耳に、儚い囁き声で紡がれる言葉がやけにはっきりと伝わってきた。
「ジルが、僕を殺しても、……それは、ジルのせいじゃない、から。……だから、……自分を責めないで、ね」
「……」
「ジルは、ジルだから。……ジルは、僕を殺したり、しない。……僕を殺しても、それは魔王のせいで、……魔王は、ジルじゃないから……ね」
「何を……、言ってるんだ……」
なぜ、ミカがいきなりそんなことを言い始めたのかは、分からない。高熱で思考が混濁しているからなのか、病状の酷さのせいで脳裏に死期がちらついているのか。いずれにせよ、笑って聞き流せる話ではない。
ジルベールは投げ捨てるに近い動作でフォークをトレーに置き、両腕でミカの身体を包み込んだ。
「殺さない」
「……うん、ジルは、殺さないけど、……でも、魔王の、魂が、」
「殺させない。お前を、決して死なせたりはしない」
「……、……いつかは、死ぬよ」
「そうだな。いつか、……いつか遠い日に、年老いたお前は死ぬだろう。こんな世界に召喚されるとは思いもしなかったが、それなりに良い人生になったと、そう言って笑いながらお前は死ぬんだ。魔王に殺されるのではなく、自然に年老いて死ぬんだ。──それまで、お前は殺されてはならない」
ミカは何も答えない。病魔に侵されている脳では、魔王の言葉を理解できないのかもしれない。それでもいいと縋りつくように、ジルベールは震える声を絞り出した。
「頼むから、生きてくれ。……幸せに、生きてくれ」
ミカがわずかに頷いたように感じ、ジルベールは細い身体をしっかりと抱きすくめる。
──そうだ。なんとしても、元気にさせねばならない。もしものときに全力で逃げて生き延びられるくらいには、活力を宿しておいてもらわねばならない。その「もしも」は明日かもしれないのだ。少しでも早く、治さなければ。
やはり、危険を冒してでも治癒魔法を使ってみるべきなのか。──だが、効き目が強すぎた反動で、それこそ命の灯火を掻き消してしまいかねない。
思い悩むジルベールの脳内へ、カマルティユからの合図が届く。何か至急で伝えたいことがあるらしい。応答の念を返すと、すぐに伝言を乗せた思念が返って来る。
カマルティユからの報せは、マレシスカがこの城へ向かってきている馬車の音が聞こえてきた、到着は夕刻だろう、というものだった。
翌日になると、ミカの症状はますます悪化した。熱は全く下がらず、咳も1度出たらなかなか止まらず、寒気も酷く、食欲もかなり低下している。前日の夜も、今朝も、彼は何も食べていない。せめて水分はきちんと摂ってほしいのだが、それもなかなか難しく、意識も朦朧としている。
ジルベールとカマルティユは、交代しながらつきっきりで看病しているのだが、回復の兆しは全く見えない。アビゲールとマリオはしっかり食べてしっかり眠るだけですぐに快癒していただけに、魔王と悪魔は内心で焦っていた。
やはり、治癒魔法を使ってみるべきか。
いや、魔力を持たぬ上に弱りきっているミカの身体への影響の大きさが心配だ。
しかし、このままでは衰弱する一方なのではないか。
そんなやり取りが、ジルベールとカマルティユの間で既に何度も繰り返されている。その度に結論を出すことが出来ず、結局は現状維持で見守っているのだが──、もう限界かもしれない。
ここまで悪化している風邪の症状など、ジルベールは見たことが無かった。普通はこんな状態になる前に、治癒魔法を用いて症状を緩和させるものなのだ。
「……ミカ、少しだけでも食べられないか?冷えていて、熱のある身体には心地いいはずだ」
不安をおぼえているのを上手く隠して優しく声を掛けながら、魔王は丁寧に病人を抱え起こす。自力で起き上がるどころか、首の角度を変えるだけでも辛そうなミカは、ぐったりとされるがままだ。
ジルベールは片腕でミカを抱き支えたまま、もう片方の手で持ったフォークで皮をむいた果実(地球では桃に相当する)を刺し、咳き込んでいる口元へ運んでやる。ミカは弱々しくひと齧りしたものの、すぐに口の動きは止まってしまった。咀嚼するのが辛いのかもしれない。
「ミカ、もう一口だけ食べられないか?」
「ぅ……」
「マティアスから送られてきた果物だ。お前だって、これを食べるのを楽しみにしていたはずだろう? 甘みも強くて、美味いぞ」
「……」
ミカは首を振るでもなく頷くでもなく、茫然と虚空を見つめている。いや、もはや何も見ていないのかもしれない。抱えている細い身体があまりにも熱く、ジルベールは狼狽えた。
その動揺が腕を振るわせ、抱えられているミカにも伝わったのか、虚ろな茶色の瞳がぼんやりとジルベールを見上げようとする。その気配を察した魔王は、病人の口元へ耳を寄せた。
「ん、どうした?」
「……ジル、が、」
「うん? 俺がどうした? 何をしてほしい?」
「ジルが、……僕を、殺しても、」
一瞬、何を言われたのか分からず、ジルベールの脳内は真っ白になる。衝撃のあまり、目を瞠ったまま絶句している魔王の耳に、儚い囁き声で紡がれる言葉がやけにはっきりと伝わってきた。
「ジルが、僕を殺しても、……それは、ジルのせいじゃない、から。……だから、……自分を責めないで、ね」
「……」
「ジルは、ジルだから。……ジルは、僕を殺したり、しない。……僕を殺しても、それは魔王のせいで、……魔王は、ジルじゃないから……ね」
「何を……、言ってるんだ……」
なぜ、ミカがいきなりそんなことを言い始めたのかは、分からない。高熱で思考が混濁しているからなのか、病状の酷さのせいで脳裏に死期がちらついているのか。いずれにせよ、笑って聞き流せる話ではない。
ジルベールは投げ捨てるに近い動作でフォークをトレーに置き、両腕でミカの身体を包み込んだ。
「殺さない」
「……うん、ジルは、殺さないけど、……でも、魔王の、魂が、」
「殺させない。お前を、決して死なせたりはしない」
「……、……いつかは、死ぬよ」
「そうだな。いつか、……いつか遠い日に、年老いたお前は死ぬだろう。こんな世界に召喚されるとは思いもしなかったが、それなりに良い人生になったと、そう言って笑いながらお前は死ぬんだ。魔王に殺されるのではなく、自然に年老いて死ぬんだ。──それまで、お前は殺されてはならない」
ミカは何も答えない。病魔に侵されている脳では、魔王の言葉を理解できないのかもしれない。それでもいいと縋りつくように、ジルベールは震える声を絞り出した。
「頼むから、生きてくれ。……幸せに、生きてくれ」
ミカがわずかに頷いたように感じ、ジルベールは細い身体をしっかりと抱きすくめる。
──そうだ。なんとしても、元気にさせねばならない。もしものときに全力で逃げて生き延びられるくらいには、活力を宿しておいてもらわねばならない。その「もしも」は明日かもしれないのだ。少しでも早く、治さなければ。
やはり、危険を冒してでも治癒魔法を使ってみるべきなのか。──だが、効き目が強すぎた反動で、それこそ命の灯火を掻き消してしまいかねない。
思い悩むジルベールの脳内へ、カマルティユからの合図が届く。何か至急で伝えたいことがあるらしい。応答の念を返すと、すぐに伝言を乗せた思念が返って来る。
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