171 / 246
【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ
【8-13】
しおりを挟む
「はぁ……?」
マレシスカが語る内容を聞き、ジルベールは首を傾げる。
そもそも、魔の者には生殖能力が無いため、カマルティユが自身の子孫をもつことは無いのだが、それはジルベールがわざわざ明言すべきことではない。明かすとしても、カマルティユ自身が話すべきことだ。
だからといって、当然ながらジルベールの子どもなどいるはずがない。嘘でも何でもなく、まったく身に覚えが無いのだから。
そうなると、その水色の髪の子どもの父親だという「凄まじい魔力を持つ男」は何者なのか。魔力の保有量や強度にはかなり個人差があり、微弱な者も強大な者もそれなりに多くいるだろう。
ただ、わざわざ魔力が凄いと主張されるということは、並大抵のものではないはずだ。この世界の人間にとっての常識を尺度にするならば、相当な凄まじさを持ち合わせていなければ魔力は誇れない。魔力は持っているのが当然であり、それが弱ければ肩身が狭い思いをするが、多少強かろうが長所として言い触らせるものでもないのだ。
「その子どもが、誇張して言っているわけではなさそうか?」
「絶対ちがうと思う。だって、ちっちゃいのに大人びてて、しっかりして落ち着いた感じの子だったもん。嘘つきのクソガキって感じはぜんぜんしなかったわ。お父さんのことで本当に困っているみたいで、可哀想だった」
「……認知されていないということは、父親は同族の者ではなさそうだな」
「一緒に暮らしたことは無さそうよ。母親だって、その父親から随分と放置されていたみたいだし」
「大体、お前はどこでその子どもを知ったんだ? この近辺の森の中か?」
「そうよ。ここに来る途中の森の中で、一人ぼっちでいるのを見つけたから馬車を止めて声を掛けたの」
「そうか……、では、やはり、父親ではなく母親が湖畔の一族の者で、父親は金眼を持つ余所者という可能性が高そうだな」
「そうなの?」
ジルベールが出した結論を聞き、マレシスカはきょとんとした顔で小首を傾げる。魔王は物憂げな溜息を零し、自身の考えを説明した。
「湖畔の一族の者は、その名の通り、この近くの湖畔のほとりに住み、他の土地にはよっぽどの理由が無ければ行かない。母親と子どもがこの近辺で暮らしていて、父親がずっと不在ならば、母親が湖畔の一族の者で、父親が余所者の可能性が高い。そして、湖畔の一族の者は皆、青い目をしている。その子どもの金色の瞳は、父親側の血統から遺伝したものだろう」
「はー……なるほどねー……、それなら確かに、ジルが父親じゃないわね! ジルの目は黒いもの!」
「……」
元々は黒眼ではなく緑色だったと反論しようとしたジルベールだが、いずれにせよ金の瞳とは関係ないと思い直し、言葉の代わりに溜息を吐き出す。そして、気を取り直して唇を開いた。
「しかし……、なんだってその男は我が子を認めようとしないのか。普通は可愛く思うだろうに」
その呟きは、見ず知らずの水色髪の少年に対してだけではなく、無意識のうちにミカも含めて考えてのものだった。
ミカもまた、父に捨てられ、母にも見捨てられ、遠縁の男に引き取られた経緯の持ち主である。両親から愛されて育ったジルベールにとって、子の存在を認めなかったり捨てたりする者の心情は理解不能だった。
もう成人しているとはいえ、それでも日々成長しているミカの姿は、ジルベールにとって、とても可愛らしいものだ。それが幼い頃であるなら、尚更そうに違いない。ミカを引き取った「おじさん」は随分と彼を可愛がったようだが、その気持ちが痛いほど分かる。
血の繋がりが無くとも、そう思うのだ。それが我が子ともなれば、何より大事な存在になるだろうに。何故、疎んだりするのか。
「……その子どもは、母からはきちんと愛情を受けているのか?」
見ず知らずの子どもにミカの過去を重ねてしまったジルベールは、思わずそう尋ねていた。そろそろ雑談を切り上げてミカの食事を作ろうと促したかったのだが、不憫な幼子が気になって仕方がない。
「どうかしら……、それもなんだか怪しい感じだったわね……」
「発育状態は? 不自然な外傷があったり、妙に目が虚ろだったりはしていないか?」
「そういうのは無さそうだったし、その子自身も母親を憎んだりはしていなさそうだったわ。ただ、困っているというか……」
ミカだって、周りの者を恨んだりはしていなかった。両親に対しても、他の人間に対しても、ただただ諦めていただけだ。水色髪の少年がますますミカに近いものに感じて密かに動揺している魔王の耳に、更に衝撃的な一言が届けられた。
「もしかしたら、あの子──魔物に育てられているのかも」
「……は? 魔物?」
「うん、魔物を従えていたというか、魔物に守られていたというか……、大型じゃなくてちっちゃいやつだったけど、魔物が何匹か、その子に懐いていたの。それもあって、ジルの隠し子なんじゃないかと思ったのよ」
マレシスカが語る内容を聞き、ジルベールは首を傾げる。
そもそも、魔の者には生殖能力が無いため、カマルティユが自身の子孫をもつことは無いのだが、それはジルベールがわざわざ明言すべきことではない。明かすとしても、カマルティユ自身が話すべきことだ。
だからといって、当然ながらジルベールの子どもなどいるはずがない。嘘でも何でもなく、まったく身に覚えが無いのだから。
そうなると、その水色の髪の子どもの父親だという「凄まじい魔力を持つ男」は何者なのか。魔力の保有量や強度にはかなり個人差があり、微弱な者も強大な者もそれなりに多くいるだろう。
ただ、わざわざ魔力が凄いと主張されるということは、並大抵のものではないはずだ。この世界の人間にとっての常識を尺度にするならば、相当な凄まじさを持ち合わせていなければ魔力は誇れない。魔力は持っているのが当然であり、それが弱ければ肩身が狭い思いをするが、多少強かろうが長所として言い触らせるものでもないのだ。
「その子どもが、誇張して言っているわけではなさそうか?」
「絶対ちがうと思う。だって、ちっちゃいのに大人びてて、しっかりして落ち着いた感じの子だったもん。嘘つきのクソガキって感じはぜんぜんしなかったわ。お父さんのことで本当に困っているみたいで、可哀想だった」
「……認知されていないということは、父親は同族の者ではなさそうだな」
「一緒に暮らしたことは無さそうよ。母親だって、その父親から随分と放置されていたみたいだし」
「大体、お前はどこでその子どもを知ったんだ? この近辺の森の中か?」
「そうよ。ここに来る途中の森の中で、一人ぼっちでいるのを見つけたから馬車を止めて声を掛けたの」
「そうか……、では、やはり、父親ではなく母親が湖畔の一族の者で、父親は金眼を持つ余所者という可能性が高そうだな」
「そうなの?」
ジルベールが出した結論を聞き、マレシスカはきょとんとした顔で小首を傾げる。魔王は物憂げな溜息を零し、自身の考えを説明した。
「湖畔の一族の者は、その名の通り、この近くの湖畔のほとりに住み、他の土地にはよっぽどの理由が無ければ行かない。母親と子どもがこの近辺で暮らしていて、父親がずっと不在ならば、母親が湖畔の一族の者で、父親が余所者の可能性が高い。そして、湖畔の一族の者は皆、青い目をしている。その子どもの金色の瞳は、父親側の血統から遺伝したものだろう」
「はー……なるほどねー……、それなら確かに、ジルが父親じゃないわね! ジルの目は黒いもの!」
「……」
元々は黒眼ではなく緑色だったと反論しようとしたジルベールだが、いずれにせよ金の瞳とは関係ないと思い直し、言葉の代わりに溜息を吐き出す。そして、気を取り直して唇を開いた。
「しかし……、なんだってその男は我が子を認めようとしないのか。普通は可愛く思うだろうに」
その呟きは、見ず知らずの水色髪の少年に対してだけではなく、無意識のうちにミカも含めて考えてのものだった。
ミカもまた、父に捨てられ、母にも見捨てられ、遠縁の男に引き取られた経緯の持ち主である。両親から愛されて育ったジルベールにとって、子の存在を認めなかったり捨てたりする者の心情は理解不能だった。
もう成人しているとはいえ、それでも日々成長しているミカの姿は、ジルベールにとって、とても可愛らしいものだ。それが幼い頃であるなら、尚更そうに違いない。ミカを引き取った「おじさん」は随分と彼を可愛がったようだが、その気持ちが痛いほど分かる。
血の繋がりが無くとも、そう思うのだ。それが我が子ともなれば、何より大事な存在になるだろうに。何故、疎んだりするのか。
「……その子どもは、母からはきちんと愛情を受けているのか?」
見ず知らずの子どもにミカの過去を重ねてしまったジルベールは、思わずそう尋ねていた。そろそろ雑談を切り上げてミカの食事を作ろうと促したかったのだが、不憫な幼子が気になって仕方がない。
「どうかしら……、それもなんだか怪しい感じだったわね……」
「発育状態は? 不自然な外傷があったり、妙に目が虚ろだったりはしていないか?」
「そういうのは無さそうだったし、その子自身も母親を憎んだりはしていなさそうだったわ。ただ、困っているというか……」
ミカだって、周りの者を恨んだりはしていなかった。両親に対しても、他の人間に対しても、ただただ諦めていただけだ。水色髪の少年がますますミカに近いものに感じて密かに動揺している魔王の耳に、更に衝撃的な一言が届けられた。
「もしかしたら、あの子──魔物に育てられているのかも」
「……は? 魔物?」
「うん、魔物を従えていたというか、魔物に守られていたというか……、大型じゃなくてちっちゃいやつだったけど、魔物が何匹か、その子に懐いていたの。それもあって、ジルの隠し子なんじゃないかと思ったのよ」
1
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる