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【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ
【8-20】
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◇
「あら! ジル、おはよう! ミカもおかえり!」
「おはようございます、ジル様。ミカさんも、おかえりなさい。お身体は大丈夫ですか?」
「おはよう、マレシスカ、カミュ」
「ただいま、キカさん、カミュ。大丈夫、元気だよ」
ジルベールとミカが食堂に到着し、穏やかな会話が交わされている間にクックとポッポは窓際の定位置へと舞い降りる。彼らの餌皿には、既に砕いた木の実が盛られていた。
魔王と悪魔と人間のための食事は、焼きたてのパレド(地球で云うところの丸パン)と、卵を焼いたもの、夏野菜に酸味のある調味油を絡めたもの、鳥肉の燻製である。淹れたてのカボ茶も添えられ、素朴ながらも温かみのある朝食だった。
「わぁ、美味しそう……!」
「そお? お腹いっぱい食べてね!」
マレシスカに促されるまま、各々が着席する。最後に彼女が席に着き、魔王と悪魔とミカが「いただきます」と唱和したところで朝食が始まった。
お腹が空いていたと語っていた通り、ミカは元気よく食事を進めている。まだ声が掠れがちのため、喉は多少腫れているのだろうが、噛みしめることも飲み込むことも、もう問題なさそうだ。
だいぶ回復したことを実感させてくれるミカの姿を見て安心した周囲の三人も、食事の手を進めていく。
「キカさんのパレド、すっごく美味しい……!」
「そーお? ありがと! 料理上手なミカに褒めてもらえると嬉しいわ」
「ミカさんのお料理も勿論おいしいですが、キカさんが作られた食事もとても美味しいですよ。キカさんのお料理をいただくと、あんなに小さかったお嬢さんが、こんな料理を作られるようになったんだなぁと、感慨深くなります」
「確かにな。あのチビ娘が、今では人妻だからな……、時の流れを感じる」
「何よ! ジジくさいこと言わないの!」
「ふふっ。僕も小さい頃のキカさんと会ってみたかったなぁ。可愛かったんだろうなぁ」
「それを言うならミカのちっちゃい頃に会ってみたかったわ! 可愛いミカをぎゅうぎゅう抱っこしたかった!」
マレシスカは明るい口調で語っていて、その真意にミカは気付いていないだろうが、魔王と悪魔には彼女の本音が分かる。
──もしも時間が戻せて、異世界へ行くことが出来たなら。幼い頃の、ひとりぼっちで寂しい想いを抱えていたミカを抱きしめてあげたかった。ひとりではないと、共に歩いていこうと、寄り添ってあげたかった。
しかし、それは不可能だ。ならば、叶わぬ願いに悶々とするより、今この場所で生きている彼の笑顔に繋がることをしてあげたほうがいい。
「私から見れば、今のミカさんだって十分に小さくて可愛らしいですよ」
「そりゃ、カミュから見れば大抵の人は小さいでしょ!?」
「カミュから見ても俺は小さくも可愛くもないだろう」
「どっちも無駄にでかいだけじゃないの! ミカは今の大きさで十分だからね!」
「う、うん……ありがとう……」
他愛ない雑談を交えながら、賑やかに朝食の時間が過ぎてゆく。皆の腹がいい具合に膨らみ、食事の終盤に差し掛かったところで、マレシスカは悪戯めいた緑の瞳でミカを見つめた。
「ねぇ、ミカ。実はね、食後の甘味を用意してあるのよ」
「えっ、ほんと? なんだろう、楽しみ……!」
「ふっふっふっ、きっと驚くわよー! というわけで、カミュ!」
「かしこまりました」
にこやかに頷いたカマルティユが両手を打ち鳴らすと、「食後の甘味」の皿が四つ、テーブルの上に姿を現す。細かくふわふわに削られた氷が盛られており、赤や橙や水色など鮮やかな色味の蜜が掛けられ、端の方に小ぶりな果物の輪切りと食用花が愛らしく飾られていた。
その氷菓をまじまじと見つめるミカの頬が段々と紅潮し、薄茶の瞳の煌めきが強くなっていく。なぜなら、
「かき氷だ……!」
──そう、そこに鎮座している甘味は、この世界の基準であればヒャココと呼ばれるべきものだろうが、昨日のものよりもずっと「かき氷」の印象を強めていた。
嬉しそうなミカの表情を見て、マレシスカとカマルティユは成功を喜ぶ視線を交わす。彼らの秘密の甘味が何のために作られたのかを察したジルベールも、黒眼に優しい色を滲ませた。
「ミカは、カキゴォイをみんなで食べたかったんでしょう?昨夜聞いた話を元に、カミュに花蜜の色染めをしてもらったりして作ってみたのよ」
「どうでしょう、ミカさん。カキゴーリに近いものになりましたか?」
「うん、かき氷だよ!すごい……! お祭りで見たのとそっくり!」
「よかったな、ミカ。……皆でいただこうか」
喜んで頷くミカの前に「かき氷」が置かれ、他の面々の前にも順に置かれていく。二度目の「いただきます」の唱和の後、ミカは氷菓を一口食べて、くしゃりと笑う。年齢以上に幼い笑顔だった。彼の笑顔が嬉しいのか、クックとポッポも小さく囀っている。
「美味しい! みんなで食べているからかな、昨日のヒャココも美味しかったけど、今のかき氷はもっともっと美味しい……!」
「よかったな、ミカ」
魔王が手を伸ばして頭を撫でると、青年は幸せそうに微笑んで頷いた。
美味しいだとか、嬉しいだとか、そんな温かな幸福を噛みしめて共に笑顔で過ごせる時間が、少しでも長く続いていくように。
そんな願いと祈りをそれぞれの胸に秘めながら、穏やかな朝食は終了したのだった。
願わくば、明日も明後日も、その先も、こうして笑い合えますように。
--------------------------------------------------
第8話はここまでとなります。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
よろしければ、ご感想などいただけると励みになります。
次の第9話からは、また海風の一人称視点に戻ります。
次話からも引き続きお付き合いいただけますと幸いです^^
「あら! ジル、おはよう! ミカもおかえり!」
「おはようございます、ジル様。ミカさんも、おかえりなさい。お身体は大丈夫ですか?」
「おはよう、マレシスカ、カミュ」
「ただいま、キカさん、カミュ。大丈夫、元気だよ」
ジルベールとミカが食堂に到着し、穏やかな会話が交わされている間にクックとポッポは窓際の定位置へと舞い降りる。彼らの餌皿には、既に砕いた木の実が盛られていた。
魔王と悪魔と人間のための食事は、焼きたてのパレド(地球で云うところの丸パン)と、卵を焼いたもの、夏野菜に酸味のある調味油を絡めたもの、鳥肉の燻製である。淹れたてのカボ茶も添えられ、素朴ながらも温かみのある朝食だった。
「わぁ、美味しそう……!」
「そお? お腹いっぱい食べてね!」
マレシスカに促されるまま、各々が着席する。最後に彼女が席に着き、魔王と悪魔とミカが「いただきます」と唱和したところで朝食が始まった。
お腹が空いていたと語っていた通り、ミカは元気よく食事を進めている。まだ声が掠れがちのため、喉は多少腫れているのだろうが、噛みしめることも飲み込むことも、もう問題なさそうだ。
だいぶ回復したことを実感させてくれるミカの姿を見て安心した周囲の三人も、食事の手を進めていく。
「キカさんのパレド、すっごく美味しい……!」
「そーお? ありがと! 料理上手なミカに褒めてもらえると嬉しいわ」
「ミカさんのお料理も勿論おいしいですが、キカさんが作られた食事もとても美味しいですよ。キカさんのお料理をいただくと、あんなに小さかったお嬢さんが、こんな料理を作られるようになったんだなぁと、感慨深くなります」
「確かにな。あのチビ娘が、今では人妻だからな……、時の流れを感じる」
「何よ! ジジくさいこと言わないの!」
「ふふっ。僕も小さい頃のキカさんと会ってみたかったなぁ。可愛かったんだろうなぁ」
「それを言うならミカのちっちゃい頃に会ってみたかったわ! 可愛いミカをぎゅうぎゅう抱っこしたかった!」
マレシスカは明るい口調で語っていて、その真意にミカは気付いていないだろうが、魔王と悪魔には彼女の本音が分かる。
──もしも時間が戻せて、異世界へ行くことが出来たなら。幼い頃の、ひとりぼっちで寂しい想いを抱えていたミカを抱きしめてあげたかった。ひとりではないと、共に歩いていこうと、寄り添ってあげたかった。
しかし、それは不可能だ。ならば、叶わぬ願いに悶々とするより、今この場所で生きている彼の笑顔に繋がることをしてあげたほうがいい。
「私から見れば、今のミカさんだって十分に小さくて可愛らしいですよ」
「そりゃ、カミュから見れば大抵の人は小さいでしょ!?」
「カミュから見ても俺は小さくも可愛くもないだろう」
「どっちも無駄にでかいだけじゃないの! ミカは今の大きさで十分だからね!」
「う、うん……ありがとう……」
他愛ない雑談を交えながら、賑やかに朝食の時間が過ぎてゆく。皆の腹がいい具合に膨らみ、食事の終盤に差し掛かったところで、マレシスカは悪戯めいた緑の瞳でミカを見つめた。
「ねぇ、ミカ。実はね、食後の甘味を用意してあるのよ」
「えっ、ほんと? なんだろう、楽しみ……!」
「ふっふっふっ、きっと驚くわよー! というわけで、カミュ!」
「かしこまりました」
にこやかに頷いたカマルティユが両手を打ち鳴らすと、「食後の甘味」の皿が四つ、テーブルの上に姿を現す。細かくふわふわに削られた氷が盛られており、赤や橙や水色など鮮やかな色味の蜜が掛けられ、端の方に小ぶりな果物の輪切りと食用花が愛らしく飾られていた。
その氷菓をまじまじと見つめるミカの頬が段々と紅潮し、薄茶の瞳の煌めきが強くなっていく。なぜなら、
「かき氷だ……!」
──そう、そこに鎮座している甘味は、この世界の基準であればヒャココと呼ばれるべきものだろうが、昨日のものよりもずっと「かき氷」の印象を強めていた。
嬉しそうなミカの表情を見て、マレシスカとカマルティユは成功を喜ぶ視線を交わす。彼らの秘密の甘味が何のために作られたのかを察したジルベールも、黒眼に優しい色を滲ませた。
「ミカは、カキゴォイをみんなで食べたかったんでしょう?昨夜聞いた話を元に、カミュに花蜜の色染めをしてもらったりして作ってみたのよ」
「どうでしょう、ミカさん。カキゴーリに近いものになりましたか?」
「うん、かき氷だよ!すごい……! お祭りで見たのとそっくり!」
「よかったな、ミカ。……皆でいただこうか」
喜んで頷くミカの前に「かき氷」が置かれ、他の面々の前にも順に置かれていく。二度目の「いただきます」の唱和の後、ミカは氷菓を一口食べて、くしゃりと笑う。年齢以上に幼い笑顔だった。彼の笑顔が嬉しいのか、クックとポッポも小さく囀っている。
「美味しい! みんなで食べているからかな、昨日のヒャココも美味しかったけど、今のかき氷はもっともっと美味しい……!」
「よかったな、ミカ」
魔王が手を伸ばして頭を撫でると、青年は幸せそうに微笑んで頷いた。
美味しいだとか、嬉しいだとか、そんな温かな幸福を噛みしめて共に笑顔で過ごせる時間が、少しでも長く続いていくように。
そんな願いと祈りをそれぞれの胸に秘めながら、穏やかな朝食は終了したのだった。
願わくば、明日も明後日も、その先も、こうして笑い合えますように。
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第8話はここまでとなります。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
よろしければ、ご感想などいただけると励みになります。
次の第9話からは、また海風の一人称視点に戻ります。
次話からも引き続きお付き合いいただけますと幸いです^^
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