魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-1】

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 ◆◆◆


 第九星図期間に入って、朝夜はだいぶ涼しくなった。畑で収穫できる野菜も、カミュが森で採ってきてくれる木の実や果物も、だいぶ様変わりしている。
 この世界──ディデーレにおいても、秋の味覚は格別なものらしい。マリオさんが遺してくれたレシピ本でも、秋のメニューが一番充実している。次点が春だろうか。僕も地球では秋の味覚が一番好きだったから、マリオさんに親近感を抱きつつ、秋の訪れを密かに楽しみにしていた。

 今はまだ、夏の空気のほうが濃厚だけれども、少しずつ秋の食材が揃ってきたから、今朝は季節に合わせた食事を作ってみたんだ。
 加熱すると栗っぽい木の実を使った炊き込みご飯、カミュが近くの川で釣ってきた魚の塩焼き、葉野菜のおひたし、南瓜っぽい根菜の甘辛煮。──ジルもカミュも抵抗なく和食を食べてくれるから、今日の朝食は日本っぽい感じに寄せてみた。

 南瓜っぽい根菜の名前はガボンといって、見た目は南瓜が三段重ねになって巨大化したような感じで、なかなかインパクトがある。皮が分厚くて包丁が通りにくいから扱いずらさはあるけれど、調理すると深みのある甘みが出て、ほくほくとした食感がクセになるんだよね。お菓子にしても美味しそうだから、ガボンを使ったおやつ作りに近々挑戦予定だ。

「あとは味噌汁があったら完璧なのになぁ……」

 朝食作りの後片付けをしながら何気なく呟いたぼやきを、手伝ってくれていたカミュが拾ってくれる。

「何か足りないものがありましたか?」
「あっ、ううん。必要な物が足りないっていうわけじゃないんだ。ただ、今日の朝ごはんに味噌汁もあったら、もっと最高だったなぁ~っていう、贅沢な愚痴みたいなものだよ」
「……ミソシル?」
「うん。スープみたいなものなんだけど、味噌っていう食材が無いと作れないから、ここで用意するのは難しいかな……。今日のごはんには、味噌汁があると落ち着くし、美味しさも満足感も変わってくると思うんだ」
「今日のお食事に合う、ということは──ホラマロバ王国の食材に、何か近いものがあるかもしれないですね。もしかしたら、いつかマティアス様がお持ちくださるかもしれませんよ」

 確かに、ホラマロバ王国という他所の国の食材は、和食に通じるものが多い。ただ、ここ──プレカシオン王国とホラマロバ王国は、敵対しているというわけじゃないみたいだけど、特別仲が良いというわけでもなさそうで。この国の第三王子であるマティ様は、その立場を上手く利用してホラマロバ王国の食材を仕入れてくれたりしているけれど、あまり無理をしてほしくない。

「カミュ。マティ様には今のことは言わないでね? 欲しがってる食材があるなんて知れたら、あの人はどんな無茶をして入手するか分からないから……」
「ふふっ。ミカさんにも、マティ様から特別視されている自覚が芽生えてこられたのですね」
「いや、だって……。たぶん、年下の異世界人だから物凄く気を遣ってもらえているんだと思うけど、それにしたってマティ様の贈り物は、その……すごいから……」

 マティ様は定期的に物資支援と様子見を兼ねてこの城を訪れていて、それは僕が召喚される前からのことだけれど、最近はそれ以外に荷物が届いたりもしている。
 珍しい食材や高級なお菓子をポンと送ってくれて、ありがたいと同時に申し訳なくもあり、心配でもあった。ジルは歴代の魔王とは全然違うタイプで、人間たちを傷つけたりはしないけれど、だからといって人間の王族と魔王側が親密にしているのは、あまりよくないらしい。魔王と仲良くしている王子、なんて噂を立てられて、マティ様の立場が危うくなってしまったらと思うと、恐ろしくなってしまう。

「単に異世界からいらした若い方だから親切にしている、というわけではないと思いますよ。ミカさんだからこそ、でしょう」
「そうだとしても、やっぱり僕は魔王の食事係だし……、甘えてしまうのは心苦しいし、余計な心配を掛けちゃ駄目だなって思うんだ。だから……、」
「ええ。心得ております。……ご安心ください。本日も、余計なことは申しませんとも。ましてや、今回のご訪問ではマティアス様以外のお客様もいらっしゃるのですし」

 そう。今日のお昼過ぎ、マティ様が来る予定なんだ。そして、いつも一人でお忍びでやって来る王子様だけれど、今回は連れを伴うらしい。誰を連れて来るのかというと、ジルを「魔王」から解放する研究において大きな影響力を持っている賢者だ。
 マティ様とはもうかなり親しくなれているけれど、賢者とは初対面だ。何か失礼があったり、負の印象を与えてしまうと、ジルを助ける足引っ張りをしてしまうかもしれない。そう考えると、どうしても緊張してしまう。

「──とりあえず、元気に朝食をいただきましょう。配膳しておきますので、ミカさんはジル様を呼びに行っていただけますか?」
「うん、分かった」

 僕が緊張しているのを察してか、カミュが優しく促してくる。温かい気遣いに感謝しつつ、僕は二羽の愛鳥を連れて調理場を出た。
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