魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
179 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と

【9-1】

しおりを挟む
 ◆◆◆


 第九星図期間に入って、朝夜はだいぶ涼しくなった。畑で収穫できる野菜も、カミュが森で採ってきてくれる木の実や果物も、だいぶ様変わりしている。
 この世界──ディデーレにおいても、秋の味覚は格別なものらしい。マリオさんが遺してくれたレシピ本でも、秋のメニューが一番充実している。次点が春だろうか。僕も地球では秋の味覚が一番好きだったから、マリオさんに親近感を抱きつつ、秋の訪れを密かに楽しみにしていた。

 今はまだ、夏の空気のほうが濃厚だけれども、少しずつ秋の食材が揃ってきたから、今朝は季節に合わせた食事を作ってみたんだ。
 加熱すると栗っぽい木の実を使った炊き込みご飯、カミュが近くの川で釣ってきた魚の塩焼き、葉野菜のおひたし、南瓜っぽい根菜の甘辛煮。──ジルもカミュも抵抗なく和食を食べてくれるから、今日の朝食は日本っぽい感じに寄せてみた。

 南瓜っぽい根菜の名前はガボンといって、見た目は南瓜が三段重ねになって巨大化したような感じで、なかなかインパクトがある。皮が分厚くて包丁が通りにくいから扱いずらさはあるけれど、調理すると深みのある甘みが出て、ほくほくとした食感がクセになるんだよね。お菓子にしても美味しそうだから、ガボンを使ったおやつ作りに近々挑戦予定だ。

「あとは味噌汁があったら完璧なのになぁ……」

 朝食作りの後片付けをしながら何気なく呟いたぼやきを、手伝ってくれていたカミュが拾ってくれる。

「何か足りないものがありましたか?」
「あっ、ううん。必要な物が足りないっていうわけじゃないんだ。ただ、今日の朝ごはんに味噌汁もあったら、もっと最高だったなぁ~っていう、贅沢な愚痴みたいなものだよ」
「……ミソシル?」
「うん。スープみたいなものなんだけど、味噌っていう食材が無いと作れないから、ここで用意するのは難しいかな……。今日のごはんには、味噌汁があると落ち着くし、美味しさも満足感も変わってくると思うんだ」
「今日のお食事に合う、ということは──ホラマロバ王国の食材に、何か近いものがあるかもしれないですね。もしかしたら、いつかマティアス様がお持ちくださるかもしれませんよ」

 確かに、ホラマロバ王国という他所の国の食材は、和食に通じるものが多い。ただ、ここ──プレカシオン王国とホラマロバ王国は、敵対しているというわけじゃないみたいだけど、特別仲が良いというわけでもなさそうで。この国の第三王子であるマティ様は、その立場を上手く利用してホラマロバ王国の食材を仕入れてくれたりしているけれど、あまり無理をしてほしくない。

「カミュ。マティ様には今のことは言わないでね? 欲しがってる食材があるなんて知れたら、あの人はどんな無茶をして入手するか分からないから……」
「ふふっ。ミカさんにも、マティ様から特別視されている自覚が芽生えてこられたのですね」
「いや、だって……。たぶん、年下の異世界人だから物凄く気を遣ってもらえているんだと思うけど、それにしたってマティ様の贈り物は、その……すごいから……」

 マティ様は定期的に物資支援と様子見を兼ねてこの城を訪れていて、それは僕が召喚される前からのことだけれど、最近はそれ以外に荷物が届いたりもしている。
 珍しい食材や高級なお菓子をポンと送ってくれて、ありがたいと同時に申し訳なくもあり、心配でもあった。ジルは歴代の魔王とは全然違うタイプで、人間たちを傷つけたりはしないけれど、だからといって人間の王族と魔王側が親密にしているのは、あまりよくないらしい。魔王と仲良くしている王子、なんて噂を立てられて、マティ様の立場が危うくなってしまったらと思うと、恐ろしくなってしまう。

「単に異世界からいらした若い方だから親切にしている、というわけではないと思いますよ。ミカさんだからこそ、でしょう」
「そうだとしても、やっぱり僕は魔王の食事係だし……、甘えてしまうのは心苦しいし、余計な心配を掛けちゃ駄目だなって思うんだ。だから……、」
「ええ。心得ております。……ご安心ください。本日も、余計なことは申しませんとも。ましてや、今回のご訪問ではマティアス様以外のお客様もいらっしゃるのですし」

 そう。今日のお昼過ぎ、マティ様が来る予定なんだ。そして、いつも一人でお忍びでやって来る王子様だけれど、今回は連れを伴うらしい。誰を連れて来るのかというと、ジルを「魔王」から解放する研究において大きな影響力を持っている賢者だ。
 マティ様とはもうかなり親しくなれているけれど、賢者とは初対面だ。何か失礼があったり、負の印象を与えてしまうと、ジルを助ける足引っ張りをしてしまうかもしれない。そう考えると、どうしても緊張してしまう。

「──とりあえず、元気に朝食をいただきましょう。配膳しておきますので、ミカさんはジル様を呼びに行っていただけますか?」
「うん、分かった」

 僕が緊張しているのを察してか、カミュが優しく促してくる。温かい気遣いに感謝しつつ、僕は二羽の愛鳥を連れて調理場を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

処理中です...