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【第9話】父と息子と豚汁と
【9-3】
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◇
「確かに、魔物の動きは少々変な気がしておりました」
みんなで「いただきます」をして朝食をある程度食べ終わってから、ジルが今朝の観察で感じた違和感を話したところ、カミュは驚くこともなく、あっさり頷いた。
「ただ、危険なものではなさそうでしたし、相手も生き物ですから、時にはそういうこともあるだろうなと深くは考えておりませんでしたが」
「やはり、お前も異変を感じていたか」
「ええ。ですが、殺気立っているわけでもないので、気にするようなものでもないと思いまして。──ただ、私はジル様ほど魔物の細かい動きを把握できているわけではないですから、改めてお話を聞いて、ここへ向かってきている『何か』というのが気になりました」
ジルが僕に何度も「危険は無い」と言っていたように、カミュも気にしていないくらいなのだから、本当に魔物がこの城を襲いに来ているわけじゃないんだろう。
でも、これもまたカミュが言っていたけれど、それはそれとして、ここへ向かっている「何か」が何なのかという不安はある。──まぁ、ジルはそれを明かす気は無さそうだけれども。
「……その『何か』自体が害悪なわけじゃないんだ。俺とカミュとクックとポッポが揃っていて、その『何か』に敗北することは、まず無いだろうな」
やっぱり「何か」についての正体を語りたがらないジルに対し、カミュは首を傾げる。
「ジル様は、その『何か』にお会いしたことが……?」
「いや、無い。ちなみに、直接知っているわけでもない。名前も知らない。……ただ、そいつが俺の予想通りの奴であれば、そいつ本人がどうのではなく、どうして今この時期に……という疑問がある」
「時期? ……この城にお客様が来る日にどうして、ってこと?」
ジルは肯定も否定もせず、残っていた煮物をひとつ食べた。カミュも栗もどきご飯をもぐもぐしながら、魔王の次の言葉を待っている。一足先に食べ終わっていた僕は、二人の様子を見守りながらマッ茶を一口飲む。
「ミカ」
「ん?」
「マティアスに隠し子がいると思うか?」
飲んでいたお茶を吹き出すかと思った。
いきなり何を言い出すんだ、この魔王は。
「マティ様は恋人もいないって言ってたし……、っていうか、あの方はたぶん、自分の子どもがいたら隠したりしないで、全力で可愛がって育てるような気がするけど」
「そうだよな……、俺もそう思う」
「えっ、何……? 魔物に導かれているのって、誰かの隠し子なの?」
「……」
ジルは渋い面持ちで押し黙る。相変わらずYESもNOも言わない魔王だけれど、今の沈黙は肯定寄りのような気がした。カミュも同じように感じたのか、怪訝そうにジルを見つめる。
「マティアス様のお子様ではないとすると、もう一人のお客人──賢者殿の隠し子がいらっしゃって、その隠し子がこちらへ向かっていると……? 賢者殿がここを訪れる、この日に?」
「……確証は無い」
「ですが、ジル様はそうお考えなのですよね?」
「……単に、俺の予想というだけだ。ここへ向かってきているのが子どもかどうかも、それが隠し子かどうかも、その父親が賢者かどうかも、全ては俺の想像にすぎない」
おそらく、ジルがあえて口にしていなかった情報の大半が、引きずり出されてしまったんじゃないかな。でも、流石にこれ以上は、必要が無い限りは彼も口に出さないだろう。ジルがその想像をするにあたり必要な情報をどこで得たのかとか、その子どもは何か特殊な子なのかとか、そういうことは教えてくれないような気がする。
「──とりあえず、ジル様の予想が的中したら、と仮定します。賢者殿の隠し子が、賢者殿が来る時に合わせてこちらへいらっしゃるというのは……、何か意味深なものを感じますね」
「うん。僕もよく分かってはいないんだけど、何か……親子間での揉めごとが起きそうな予感があるよね」
「ええ。それこそ、我々には何も関係が無い騒乱が起こりそうな……」
僕とカミュが言葉を交わしつつジルをちらりと見ると、魔王は深々と溜息を零した。
「俺もそう思う。──俺たちだけならまだしも、マティアスがいるときに、予想通りの展開で争いごとが起きたとすると、非常に厄介なことになる」
「あー……、王子様の御前を余計なことで騒がせてしまう、的な?」
「違う。あのマティアスがそんなことを気にするものか。あいつは、自分の立場を利用できるときには『王子』であることを思い出すが、それ以外では己の身分を忘れがちだ。……問題はそこじゃない。父親に認知されていない子どもが、父を求めてやって来たとする。そして、その父親が自分の子だということを認めず、冷たく接したとする。その場にマティアスがいる。──どうなると思う?」
「それは……、ものすっっごく怒りそう……」
「そうですね。凄まじい勢いでお怒りになる気がします」
僕とカミュが似たような答えを返したところで、ジルは今日一番の深さと長さで溜息をつく。そして、苦々しい声で宣言した。
「仕方ない。──作戦会議をするぞ」
「確かに、魔物の動きは少々変な気がしておりました」
みんなで「いただきます」をして朝食をある程度食べ終わってから、ジルが今朝の観察で感じた違和感を話したところ、カミュは驚くこともなく、あっさり頷いた。
「ただ、危険なものではなさそうでしたし、相手も生き物ですから、時にはそういうこともあるだろうなと深くは考えておりませんでしたが」
「やはり、お前も異変を感じていたか」
「ええ。ですが、殺気立っているわけでもないので、気にするようなものでもないと思いまして。──ただ、私はジル様ほど魔物の細かい動きを把握できているわけではないですから、改めてお話を聞いて、ここへ向かってきている『何か』というのが気になりました」
ジルが僕に何度も「危険は無い」と言っていたように、カミュも気にしていないくらいなのだから、本当に魔物がこの城を襲いに来ているわけじゃないんだろう。
でも、これもまたカミュが言っていたけれど、それはそれとして、ここへ向かっている「何か」が何なのかという不安はある。──まぁ、ジルはそれを明かす気は無さそうだけれども。
「……その『何か』自体が害悪なわけじゃないんだ。俺とカミュとクックとポッポが揃っていて、その『何か』に敗北することは、まず無いだろうな」
やっぱり「何か」についての正体を語りたがらないジルに対し、カミュは首を傾げる。
「ジル様は、その『何か』にお会いしたことが……?」
「いや、無い。ちなみに、直接知っているわけでもない。名前も知らない。……ただ、そいつが俺の予想通りの奴であれば、そいつ本人がどうのではなく、どうして今この時期に……という疑問がある」
「時期? ……この城にお客様が来る日にどうして、ってこと?」
ジルは肯定も否定もせず、残っていた煮物をひとつ食べた。カミュも栗もどきご飯をもぐもぐしながら、魔王の次の言葉を待っている。一足先に食べ終わっていた僕は、二人の様子を見守りながらマッ茶を一口飲む。
「ミカ」
「ん?」
「マティアスに隠し子がいると思うか?」
飲んでいたお茶を吹き出すかと思った。
いきなり何を言い出すんだ、この魔王は。
「マティ様は恋人もいないって言ってたし……、っていうか、あの方はたぶん、自分の子どもがいたら隠したりしないで、全力で可愛がって育てるような気がするけど」
「そうだよな……、俺もそう思う」
「えっ、何……? 魔物に導かれているのって、誰かの隠し子なの?」
「……」
ジルは渋い面持ちで押し黙る。相変わらずYESもNOも言わない魔王だけれど、今の沈黙は肯定寄りのような気がした。カミュも同じように感じたのか、怪訝そうにジルを見つめる。
「マティアス様のお子様ではないとすると、もう一人のお客人──賢者殿の隠し子がいらっしゃって、その隠し子がこちらへ向かっていると……? 賢者殿がここを訪れる、この日に?」
「……確証は無い」
「ですが、ジル様はそうお考えなのですよね?」
「……単に、俺の予想というだけだ。ここへ向かってきているのが子どもかどうかも、それが隠し子かどうかも、その父親が賢者かどうかも、全ては俺の想像にすぎない」
おそらく、ジルがあえて口にしていなかった情報の大半が、引きずり出されてしまったんじゃないかな。でも、流石にこれ以上は、必要が無い限りは彼も口に出さないだろう。ジルがその想像をするにあたり必要な情報をどこで得たのかとか、その子どもは何か特殊な子なのかとか、そういうことは教えてくれないような気がする。
「──とりあえず、ジル様の予想が的中したら、と仮定します。賢者殿の隠し子が、賢者殿が来る時に合わせてこちらへいらっしゃるというのは……、何か意味深なものを感じますね」
「うん。僕もよく分かってはいないんだけど、何か……親子間での揉めごとが起きそうな予感があるよね」
「ええ。それこそ、我々には何も関係が無い騒乱が起こりそうな……」
僕とカミュが言葉を交わしつつジルをちらりと見ると、魔王は深々と溜息を零した。
「俺もそう思う。──俺たちだけならまだしも、マティアスがいるときに、予想通りの展開で争いごとが起きたとすると、非常に厄介なことになる」
「あー……、王子様の御前を余計なことで騒がせてしまう、的な?」
「違う。あのマティアスがそんなことを気にするものか。あいつは、自分の立場を利用できるときには『王子』であることを思い出すが、それ以外では己の身分を忘れがちだ。……問題はそこじゃない。父親に認知されていない子どもが、父を求めてやって来たとする。そして、その父親が自分の子だということを認めず、冷たく接したとする。その場にマティアスがいる。──どうなると思う?」
「それは……、ものすっっごく怒りそう……」
「そうですね。凄まじい勢いでお怒りになる気がします」
僕とカミュが似たような答えを返したところで、ジルは今日一番の深さと長さで溜息をつく。そして、苦々しい声で宣言した。
「仕方ない。──作戦会議をするぞ」
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