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【第9話】父と息子と豚汁と
【9-4】
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「作戦会議……?」
「そうだ。俺の予想が当たっていた場合、ここにその子どもが来て、ややこしい展開になると困るからな」
──確かに、そうかもしれない。
その親子間の揉めごと自体もそうだけれど、マティ様が怒ってしまった場合、賢者との仲が険悪になってしまう恐れがある。それの何が困るかというと、魔王の魂に関する研究がストップしてしまう可能性があることだ。
マティ様がせっかく時間を掛けて努力してきたものが崩れてしまいかねないし、ジルが救われる道が見つかるかもしれない希望が絶たれてしまいかねない。そう考えれば、確かに、何らかの対処はしておくべきなのかもしれない。
カミュも僕と似たような懸念を抱いたのか、表情を改める。神妙な顔をしている僕たちを見比べているジルの眉間にも、くっきりと皺が刻み込まれていた。
「……もしも、本当に賢者の隠し子と思われる子どもが、この城に来たとする。その場合、賢者に見つかるより先に、その子どもの目的を把握しておく必要がある」
「もし、子どもの目的が本当に自分の父親と思われる賢者殿との面会だった場合、それを避ける必要がある──と、いうことでしょうか?」
「まぁ、それに近いが……、完全に避けるというわけにもいかないだろう。子どもの意志を、俺たちが勝手に曲げるわけにはいかない」
そもそも、魔王に勝負を挑む以外の目的でこの城に来ること自体が本来はよろしくないのだから、子どもが来たとしても拒む権利がジルにはあるはずだ。──でも、この優しい魔王には、子どもを追い返すような真似はできない。追い返すどころか、その子の気持ちを汲んであげようとする。まったくもって、魔王に向いていない。
──でも、そういうジルだからこそ、接した人間たちに慕われてしまう魔王になっているのだろうし、僕はそんな彼が大好きだ。
「……じゃあ、僕たちが上手く間に入って、その子と賢者が顔を合わせても大丈夫なように調整する、ってこと?」
「ああ、出来ればそうしたい。──クック、ポッポ、来い」
僕に頷いてみせてから、ジルは窓辺でくつろいでいた鳥たちの名前を呼ぶ。彼らの直接的な主人は僕ということになっているけれど、クックもポッポもジルやカミュの言うことにも従っていた。今も、呼ばれるままにジルのほうへ飛んでいき、ジルが腕組みしている上へ器用に乗っている。可愛らしい仕草で首を傾げる鳥たちへ向けて、魔王は穏やかに語り掛けた。
「今の話は聞いていたな? お前たちも、魔物が何かをここに導こうとしている気配は察しているんだろう? 危険が無さそうだから、お前たちも特に反応していない。そうだな?」
「クッ」
「ポッ」
魔鳥たちは素直にカクカクと頷く。とても可愛い。
「今話していた通り、ここに子どもがやって来る可能性が高い。もしも予想通り子どもが来たら、すぐに教えてくれ。お前たちなら、多少は距離があっても分かるだろう? 以前にも、迷子をミカに引き合わせたことがあったな。同じように、迷い込む子どもがいたら、すぐに教えてほしい。出来るか?」
「クッ!」
「ポッ!」
「よしよし、いい子たちだ」
ジルの肩に飛び移り、胸を張ってドヤ顔を披露するクックとポッポを、ジルの大きな手が交互に撫でる。鳥たちは気持ちよさそうに目を細めて、クルクルと喉を鳴らした。
ジルが言っていた以前の迷子というのは、春に出会ったアリスちゃんのことだろう。……懐かしいなぁ。アリスちゃんと、妹のアデルちゃんは、それぞれちゃんとお祝いしてもらえたのかな。
「ジル様。クックとポッポが子どもを見つけたとして、その後はどうされるのです? おそらく、マティアス様の目を盗んで賢者殿に真意を問われ、それによって子どもに会わせるべきか会わせないべきかを考慮されるのだと思いますが……」
「そうだな」
「では、どのように……? 賢者殿がどのような方か分かりませんが、我々の手で上手く捌ききれるものでしょうか」
心配そうに眉根を寄せるカミュだけれど、そんな表情をしていても相変わらず美しい。いや、憂い顔だから、余計に綺麗なんだろうか。見慣れてきたと思っていたけれど、ついつい目を奪われてしまうことも結構ある。
「ミカ」
ぼーっとカミュに見とれていたところ、ジルに名前を呼ばれてハッと我に返る。
「う、うん、なぁに?」
慌ててジルへ視線を向けると、彼は呆れと困惑と迷いをごちゃ混ぜにしたような顔をしていた。そして、何か言いづらいことを口にしようとしているのか、唇を薄く開けたり閉じたりを何度か繰り返している。……どうしたんだろう?
「……ジル? どうしたの?」
「いや……、お前は、……子守りは得意か?」
「……えっ?」
「子どもが来たとき、どう対応するかをきちんと決めるまで、城の外であやして待っていてほしい。……頼めるか?」
予想外のことを言われて、僕は咄嗟に返事が出来ず、無意識に何度も瞬きをしてしまった。
「そうだ。俺の予想が当たっていた場合、ここにその子どもが来て、ややこしい展開になると困るからな」
──確かに、そうかもしれない。
その親子間の揉めごと自体もそうだけれど、マティ様が怒ってしまった場合、賢者との仲が険悪になってしまう恐れがある。それの何が困るかというと、魔王の魂に関する研究がストップしてしまう可能性があることだ。
マティ様がせっかく時間を掛けて努力してきたものが崩れてしまいかねないし、ジルが救われる道が見つかるかもしれない希望が絶たれてしまいかねない。そう考えれば、確かに、何らかの対処はしておくべきなのかもしれない。
カミュも僕と似たような懸念を抱いたのか、表情を改める。神妙な顔をしている僕たちを見比べているジルの眉間にも、くっきりと皺が刻み込まれていた。
「……もしも、本当に賢者の隠し子と思われる子どもが、この城に来たとする。その場合、賢者に見つかるより先に、その子どもの目的を把握しておく必要がある」
「もし、子どもの目的が本当に自分の父親と思われる賢者殿との面会だった場合、それを避ける必要がある──と、いうことでしょうか?」
「まぁ、それに近いが……、完全に避けるというわけにもいかないだろう。子どもの意志を、俺たちが勝手に曲げるわけにはいかない」
そもそも、魔王に勝負を挑む以外の目的でこの城に来ること自体が本来はよろしくないのだから、子どもが来たとしても拒む権利がジルにはあるはずだ。──でも、この優しい魔王には、子どもを追い返すような真似はできない。追い返すどころか、その子の気持ちを汲んであげようとする。まったくもって、魔王に向いていない。
──でも、そういうジルだからこそ、接した人間たちに慕われてしまう魔王になっているのだろうし、僕はそんな彼が大好きだ。
「……じゃあ、僕たちが上手く間に入って、その子と賢者が顔を合わせても大丈夫なように調整する、ってこと?」
「ああ、出来ればそうしたい。──クック、ポッポ、来い」
僕に頷いてみせてから、ジルは窓辺でくつろいでいた鳥たちの名前を呼ぶ。彼らの直接的な主人は僕ということになっているけれど、クックもポッポもジルやカミュの言うことにも従っていた。今も、呼ばれるままにジルのほうへ飛んでいき、ジルが腕組みしている上へ器用に乗っている。可愛らしい仕草で首を傾げる鳥たちへ向けて、魔王は穏やかに語り掛けた。
「今の話は聞いていたな? お前たちも、魔物が何かをここに導こうとしている気配は察しているんだろう? 危険が無さそうだから、お前たちも特に反応していない。そうだな?」
「クッ」
「ポッ」
魔鳥たちは素直にカクカクと頷く。とても可愛い。
「今話していた通り、ここに子どもがやって来る可能性が高い。もしも予想通り子どもが来たら、すぐに教えてくれ。お前たちなら、多少は距離があっても分かるだろう? 以前にも、迷子をミカに引き合わせたことがあったな。同じように、迷い込む子どもがいたら、すぐに教えてほしい。出来るか?」
「クッ!」
「ポッ!」
「よしよし、いい子たちだ」
ジルの肩に飛び移り、胸を張ってドヤ顔を披露するクックとポッポを、ジルの大きな手が交互に撫でる。鳥たちは気持ちよさそうに目を細めて、クルクルと喉を鳴らした。
ジルが言っていた以前の迷子というのは、春に出会ったアリスちゃんのことだろう。……懐かしいなぁ。アリスちゃんと、妹のアデルちゃんは、それぞれちゃんとお祝いしてもらえたのかな。
「ジル様。クックとポッポが子どもを見つけたとして、その後はどうされるのです? おそらく、マティアス様の目を盗んで賢者殿に真意を問われ、それによって子どもに会わせるべきか会わせないべきかを考慮されるのだと思いますが……」
「そうだな」
「では、どのように……? 賢者殿がどのような方か分かりませんが、我々の手で上手く捌ききれるものでしょうか」
心配そうに眉根を寄せるカミュだけれど、そんな表情をしていても相変わらず美しい。いや、憂い顔だから、余計に綺麗なんだろうか。見慣れてきたと思っていたけれど、ついつい目を奪われてしまうことも結構ある。
「ミカ」
ぼーっとカミュに見とれていたところ、ジルに名前を呼ばれてハッと我に返る。
「う、うん、なぁに?」
慌ててジルへ視線を向けると、彼は呆れと困惑と迷いをごちゃ混ぜにしたような顔をしていた。そして、何か言いづらいことを口にしようとしているのか、唇を薄く開けたり閉じたりを何度か繰り返している。……どうしたんだろう?
「……ジル? どうしたの?」
「いや……、お前は、……子守りは得意か?」
「……えっ?」
「子どもが来たとき、どう対応するかをきちんと決めるまで、城の外であやして待っていてほしい。……頼めるか?」
予想外のことを言われて、僕は咄嗟に返事が出来ず、無意識に何度も瞬きをしてしまった。
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