魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
182 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と

【9-4】

しおりを挟む
「作戦会議……?」
「そうだ。俺の予想が当たっていた場合、ここにその子どもが来て、ややこしい展開になると困るからな」

 ──確かに、そうかもしれない。
 その親子間の揉めごと自体もそうだけれど、マティ様が怒ってしまった場合、賢者との仲が険悪になってしまう恐れがある。それの何が困るかというと、魔王の魂に関する研究がストップしてしまう可能性があることだ。
 マティ様がせっかく時間を掛けて努力してきたものが崩れてしまいかねないし、ジルが救われる道が見つかるかもしれない希望が絶たれてしまいかねない。そう考えれば、確かに、何らかの対処はしておくべきなのかもしれない。

 カミュも僕と似たような懸念を抱いたのか、表情を改める。神妙な顔をしている僕たちを見比べているジルの眉間にも、くっきりと皺が刻み込まれていた。

「……もしも、本当に賢者の隠し子と思われる子どもが、この城に来たとする。その場合、賢者に見つかるより先に、その子どもの目的を把握しておく必要がある」
「もし、子どもの目的が本当に自分の父親と思われる賢者殿との面会だった場合、それを避ける必要がある──と、いうことでしょうか?」
「まぁ、それに近いが……、完全に避けるというわけにもいかないだろう。子どもの意志を、俺たちが勝手に曲げるわけにはいかない」

 そもそも、魔王に勝負を挑む以外の目的でこの城に来ること自体が本来はよろしくないのだから、子どもが来たとしても拒む権利がジルにはあるはずだ。──でも、この優しい魔王には、子どもを追い返すような真似はできない。追い返すどころか、その子の気持ちを汲んであげようとする。まったくもって、魔王に向いていない。
 ──でも、そういうジルだからこそ、接した人間たちに慕われてしまう魔王になっているのだろうし、僕はそんな彼が大好きだ。

「……じゃあ、僕たちが上手く間に入って、その子と賢者が顔を合わせても大丈夫なように調整する、ってこと?」
「ああ、出来ればそうしたい。──クック、ポッポ、来い」

 僕に頷いてみせてから、ジルは窓辺でくつろいでいた鳥たちの名前を呼ぶ。彼らの直接的な主人は僕ということになっているけれど、クックもポッポもジルやカミュの言うことにも従っていた。今も、呼ばれるままにジルのほうへ飛んでいき、ジルが腕組みしている上へ器用に乗っている。可愛らしい仕草で首を傾げる鳥たちへ向けて、魔王は穏やかに語り掛けた。

「今の話は聞いていたな? お前たちも、魔物が何かをここに導こうとしている気配は察しているんだろう? 危険が無さそうだから、お前たちも特に反応していない。そうだな?」
「クッ」
「ポッ」

 魔鳥たちは素直にカクカクと頷く。とても可愛い。

「今話していた通り、ここに子どもがやって来る可能性が高い。もしも予想通り子どもが来たら、すぐに教えてくれ。お前たちなら、多少は距離があっても分かるだろう? 以前にも、迷子をミカに引き合わせたことがあったな。同じように、迷い込む子どもがいたら、すぐに教えてほしい。出来るか?」
「クッ!」
「ポッ!」
「よしよし、いい子たちだ」

 ジルの肩に飛び移り、胸を張ってドヤ顔を披露するクックとポッポを、ジルの大きな手が交互に撫でる。鳥たちは気持ちよさそうに目を細めて、クルクルと喉を鳴らした。
 ジルが言っていた以前の迷子というのは、春に出会ったアリスちゃんのことだろう。……懐かしいなぁ。アリスちゃんと、妹のアデルちゃんは、それぞれちゃんとお祝いしてもらえたのかな。

「ジル様。クックとポッポが子どもを見つけたとして、その後はどうされるのです? おそらく、マティアス様の目を盗んで賢者殿に真意を問われ、それによって子どもに会わせるべきか会わせないべきかを考慮されるのだと思いますが……」
「そうだな」
「では、どのように……? 賢者殿がどのような方か分かりませんが、我々の手で上手く捌ききれるものでしょうか」

 心配そうに眉根を寄せるカミュだけれど、そんな表情をしていても相変わらず美しい。いや、憂い顔だから、余計に綺麗なんだろうか。見慣れてきたと思っていたけれど、ついつい目を奪われてしまうことも結構ある。

「ミカ」

 ぼーっとカミュに見とれていたところ、ジルに名前を呼ばれてハッと我に返る。

「う、うん、なぁに?」

 慌ててジルへ視線を向けると、彼は呆れと困惑と迷いをごちゃ混ぜにしたような顔をしていた。そして、何か言いづらいことを口にしようとしているのか、唇を薄く開けたり閉じたりを何度か繰り返している。……どうしたんだろう?

「……ジル? どうしたの?」
「いや……、お前は、……子守りは得意か?」
「……えっ?」
「子どもが来たとき、どう対応するかをきちんと決めるまで、城の外であやして待っていてほしい。……頼めるか?」

 予想外のことを言われて、僕は咄嗟に返事が出来ず、無意識に何度も瞬きをしてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...