魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-5】

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 僕が呆けている間に、横からカミュが口を挟んでくる。美しい悪魔の横顔には、今度は少し苛立ちが滲んでいた。

「まさか、我々がマティアス様や賢者殿のお相手をしている間、ミカさんだけに、その子どもの相手をしていただくと……? 以前の迷子の際、ミカさんは上手に子どもの相手をされておりましたし、その点には何の心配もありませんが……、ただ、そのときには影から私がずっと見守っておりました。しかし、今回のように他に注意を割かねばならない状況では、ミカさんに危険が迫った場合、一歩出遅れる可能性もあります」
「ミカ一人ではない。勿論、クックとポッポを付ける。彼らは全力でミカを守るだろう」
「ですが、相手は魔物を従えている子どもなのでしょう?」
「だからこそ、クックとポッポが有効なんだ。──忘れたのか?」

 ジルの静かな声での指摘を受けて、カミュがハッとした顔をする。聡い彼とは違って思い当たることがない僕の思考を見抜いたように、魔王の黒い瞳はじっとこちらを見つめてきた。

「クックとポッポには、色々な能力を与えている。……そのうちのひとつを、ミカも上手く活用したことがあるだろう?それこそ、迷い子の相手をしていたときに」
「あっ……、クックとポッポには魔除けの効果がある……!」

 そうだ、と肯定するように、ジルは頷く。
 ──そうだった。この魔鳥たちには通常種の魔物が寄り付かないという、能力というか魔王の加護のようなものが付与されている。ジルやカミュの観察が正しければ(たぶん正しいだろう)この周辺にいる、そしてここへ何かを導こうとしている魔物は通常種のはずだから、クックとポッポの二羽が揃っている場所までは入り込んでこないだろう。

「側に魔物がいなければ、ただの子どもだ。もし、子どもではない何者かが来たのならば、クックとポッポはそう知らせるだろう。いずれにせよ、ミカに迫る危険は無いに等しいはずだ。今は魔鳥たちがへばっているわけでもないし、女盗賊が来たときのように精霊の加護の保持者が現れたとしても、十分に対処できるだろう」
「なるほど。……まぁ、そうですよね。ジル様がミカさんの身の安全について何も考慮されないはずがありません」

 ジルは肯定も否定もせず、何かを誤魔化すようにお茶を飲んだ。……照れ隠しなのかな?何に照れているのかは不明だけど。
 ひとつ咳払いをしたジルは、計画についての話を再開した。

「クックとポッポから、子どもの来訪を告げられたとする。そのとき、俺たちが何をしているのかは分からないが、いずれにせよ、ミカは食事係という立場を利用すれば上手く場を抜けることが出来るだろう」
「食事の仕込みがあるとか、そういう理由でいいのかな?」
「そうだ。その間にマティアスの目を盗みながら、賢者に隠し子について確認しておかねばならないだろう。同時に、ミカはミカで子どもに来訪の目的を聞いてほしい」

 子どもが父親を探し求めてこの城を訪れ、賢者のほうも隠し子に心当たりがあって面会を望むのであれば、一番理想的な形になるだろう。それで顔合わせをしてもらって、親子関係を結ぶなり修復するなりしてもらえたら、マティ様もにこやかに見守ってくれそうだ。

 子どもが悪戯目的で訪れたり、もしくは全然関係ない子どもでもない誰かだった場合もまた、マシな展開だろうか。カミュあたりが上手くあしらって帰してくれそうだ。

 ──問題は、本当に父親を探している子どもが来て、賢者が心当たりがありながらも拒んだ場合だろうか。なかなかに厄介なことになる予感がする。

「最悪の状況を避けるためにも、双方の情報を得ながら上手く立ち回るのが重要かと思いますが、私は悪魔ですので。賢者と崇められている立場にいる御方なのですから多少は肝が据わっておられるとは思いますが、いきなり私と二人きりというのは……些か、先方への負担が大きすぎるのでは?」

 魔の者は「悪魔」だと人間から恐れられている立場だとよく理解しているカミュは、悩ましげに首を傾げた。ジルは、分かっていると云うように頷きを返す。

「そうだろうな。だから、お前にはマティアスの相手を頼みたい。あいつは、お前にもすっかり慣れている。二人きりになろうと恐れはしないだろう」
「ええ、まぁ……、ただ、その場合、マティアス様を連れ出す理由が必要になりますよね。私がマティアス様お一人をどこかへ誘うというのも、難易度が高いです」
「ちょうどいい理由があるだろうが。賢者は興味を持たないはずだが、マティアスは興味をそそられて仕方がない逸材が」
「あ……、なるほど……」
「──えっ?」

 漆黒と深紅の瞳がこちらをまじまじと見つめてくるので、僕は狼狽えながら首を傾げた。
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