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【第9話】父と息子と豚汁と
【9-6】
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「マティアスが現在、並々ならぬ興味と情熱を傾けているのは、俺に関する研究、魔力を持たぬ弟、──そして、ミカ。お前のことだ」
「僕? いや、僕に関しては前者二つと比べたら弱いんじゃ……」
「そんなことはない。かなり強い。ミカに関する何かで気を引けば、マティアスはすぐに釣られるだろう」
そんな、まさか。確かに、マティ様には可愛がっていただいているというか、かなり気を遣っていただいている。ご厚意には感謝しているけれど、だからといって、マティ様が僕そのものに興味を抱いているとも思えない。──いや、正確に言えば、僕が魔力を持たない体質である事実には関心を持たれていると思うけど。
そう冷静に考える僕とは反対に、カミュは心なしかウキウキし始める。ほんのりと頬を染めた悪魔は、どことなく嬉しそうに声を弾ませた。
「実は、ミカさんの新しいお洋服を製作中なのです」
「えっ? また作ってくれてたの? いつもありがとう、カミュ」
「違います。いつものシャツとズボンではありません」
てっきり、僕が毎日愛用しているシンプルなシャツとズボン(どちらもカミュのお手製だ)を増やしてくれているのかと思いきや、どうやら違うらしい。
わずかに膨れっ面をしてみせてから、カミュは再びニコニコと笑った。
「ミカさんは、第十一星図期間の感謝祭に参加されるのでしょう? せっかく王都へ参られるのですし、マティアス様と並ばれるということですから、きちんとした衣装を着ていただこうと思いまして」
「あー……、いつもの格好に外套を羽織るだけじゃ駄目……かな……?」
僕は着るものに頓着していないし、この城において、布地などは食材と比べて格段に貴重なものだ。裁縫魔法の材料にするために、カミュが色々な素材をちまちまと几帳面に集めているのを知っているから、なるべく負担を掛けたくなくて、僕は最低限の衣服だけを作ってもらっていた。
いつもの服も決してみすぼらしいわけではなく、シンプルで品の良い雰囲気だから、どこにでも着ていけると思っていたんだけどな……。ちゃんとコートも作ってもらってあるし。
「駄目ですとも。せっかくの感謝祭なのですから。めいっぱいに楽しんでいただかなくては! ミカさんはせっかく可愛らしいお姿なのに、いつも地味な服しか作らせてもらえなくて、つまらなかったのです。良い機会ですから、楽しませていただきます」
「……まぁ、カミュの趣味は置いておくとしても、感謝祭では頭巾付きの外套を身に纏うのが主流だ。ましてや、ミカは王子の愛人だと誤解されてもいい立場として、マティアスの隣に立つ。第三王子からの寵愛を受けていると分かりやすい格好をしておくべきだろうな」
つまり、それなりに見栄えのする身なりが必要ということかな。確かに、感謝祭は特別なイベントで盛大に祝われるし、その日に合わせた衣装を身に着けるものだという話は、前にも聞いた気がする。ずっとその話題を出されていなかったから、うっかり忘れていたけれども。──もしかしたら、事前に話しても僕が遠慮すると思って、ジルもカミュもあえて言っていなかったのかもしれない。
「完成してからお披露目しようと思っていたのですが、よくよく考えれば、マティアス様の好みを組み込んだ形に仕上げたほうが、それらしくなりますよね。ちょうどいいですから、マティアス様にご確認いただくことにして、それを理由に連れ出してみましょうか」
「そうだな。ミカに秘密で作っているものだから、ミカがいないうちに確認してほしい、とでも言えば不自然ではないだろう。きっと、喜んでついて行く」
「その間に、ジル様が賢者殿に、ミカさんが子どもに、それぞれ聞き込みをされるというわけですね。……その結果は、どのように共有しましょう?」
三人がそれぞれに分かれて行動する以上、得た情報の共有方法は重要だろう。今回の場合、話を聞いた結果を踏まえて次の動きを決めるのだから、余計にそうだ。
「クッ、クッ!」
「ポッ!」
自分たちを使えとばかりに、クックとポッポが魔王の肩の上で胸を張る。ジルは優しく目を細めて彼らを指先で撫でながら、小さく頷いた。
「そうだな、お前たちに助けてもらおう。──俺とカミュは、簡易的な内容であれば脳内で共有が可能だ。クックとポッポも、信号のようなものを俺たちに送れるように、一時的に能力を付与する。これで、俺とカミュは三人それぞれの状態を把握できるだろう」
「ええ。そして、それによってジル様が出された結論を、私がミカさんにお伝えしに参りましょう。マティアス様をジル様の元へお送りした後、ミカさんの様子を見るなり手伝うなり理由付けをすれば、自然な流れで実行できるかと」
だいぶ計画が煮詰まってきたような気がする。誰かと隠密作戦を立てて実行するなんて、初めてのことだ。なんだかドキドキしてきた。
「……よし、とりあえず朝食を終えよう。ごちそうさまでしたの後、もう少し話を詰めていくぞ」
ジルの言葉に同意して、僕たちはすっかり冷めてしまった朝食と再び向き合うのだった。
「僕? いや、僕に関しては前者二つと比べたら弱いんじゃ……」
「そんなことはない。かなり強い。ミカに関する何かで気を引けば、マティアスはすぐに釣られるだろう」
そんな、まさか。確かに、マティ様には可愛がっていただいているというか、かなり気を遣っていただいている。ご厚意には感謝しているけれど、だからといって、マティ様が僕そのものに興味を抱いているとも思えない。──いや、正確に言えば、僕が魔力を持たない体質である事実には関心を持たれていると思うけど。
そう冷静に考える僕とは反対に、カミュは心なしかウキウキし始める。ほんのりと頬を染めた悪魔は、どことなく嬉しそうに声を弾ませた。
「実は、ミカさんの新しいお洋服を製作中なのです」
「えっ? また作ってくれてたの? いつもありがとう、カミュ」
「違います。いつものシャツとズボンではありません」
てっきり、僕が毎日愛用しているシンプルなシャツとズボン(どちらもカミュのお手製だ)を増やしてくれているのかと思いきや、どうやら違うらしい。
わずかに膨れっ面をしてみせてから、カミュは再びニコニコと笑った。
「ミカさんは、第十一星図期間の感謝祭に参加されるのでしょう? せっかく王都へ参られるのですし、マティアス様と並ばれるということですから、きちんとした衣装を着ていただこうと思いまして」
「あー……、いつもの格好に外套を羽織るだけじゃ駄目……かな……?」
僕は着るものに頓着していないし、この城において、布地などは食材と比べて格段に貴重なものだ。裁縫魔法の材料にするために、カミュが色々な素材をちまちまと几帳面に集めているのを知っているから、なるべく負担を掛けたくなくて、僕は最低限の衣服だけを作ってもらっていた。
いつもの服も決してみすぼらしいわけではなく、シンプルで品の良い雰囲気だから、どこにでも着ていけると思っていたんだけどな……。ちゃんとコートも作ってもらってあるし。
「駄目ですとも。せっかくの感謝祭なのですから。めいっぱいに楽しんでいただかなくては! ミカさんはせっかく可愛らしいお姿なのに、いつも地味な服しか作らせてもらえなくて、つまらなかったのです。良い機会ですから、楽しませていただきます」
「……まぁ、カミュの趣味は置いておくとしても、感謝祭では頭巾付きの外套を身に纏うのが主流だ。ましてや、ミカは王子の愛人だと誤解されてもいい立場として、マティアスの隣に立つ。第三王子からの寵愛を受けていると分かりやすい格好をしておくべきだろうな」
つまり、それなりに見栄えのする身なりが必要ということかな。確かに、感謝祭は特別なイベントで盛大に祝われるし、その日に合わせた衣装を身に着けるものだという話は、前にも聞いた気がする。ずっとその話題を出されていなかったから、うっかり忘れていたけれども。──もしかしたら、事前に話しても僕が遠慮すると思って、ジルもカミュもあえて言っていなかったのかもしれない。
「完成してからお披露目しようと思っていたのですが、よくよく考えれば、マティアス様の好みを組み込んだ形に仕上げたほうが、それらしくなりますよね。ちょうどいいですから、マティアス様にご確認いただくことにして、それを理由に連れ出してみましょうか」
「そうだな。ミカに秘密で作っているものだから、ミカがいないうちに確認してほしい、とでも言えば不自然ではないだろう。きっと、喜んでついて行く」
「その間に、ジル様が賢者殿に、ミカさんが子どもに、それぞれ聞き込みをされるというわけですね。……その結果は、どのように共有しましょう?」
三人がそれぞれに分かれて行動する以上、得た情報の共有方法は重要だろう。今回の場合、話を聞いた結果を踏まえて次の動きを決めるのだから、余計にそうだ。
「クッ、クッ!」
「ポッ!」
自分たちを使えとばかりに、クックとポッポが魔王の肩の上で胸を張る。ジルは優しく目を細めて彼らを指先で撫でながら、小さく頷いた。
「そうだな、お前たちに助けてもらおう。──俺とカミュは、簡易的な内容であれば脳内で共有が可能だ。クックとポッポも、信号のようなものを俺たちに送れるように、一時的に能力を付与する。これで、俺とカミュは三人それぞれの状態を把握できるだろう」
「ええ。そして、それによってジル様が出された結論を、私がミカさんにお伝えしに参りましょう。マティアス様をジル様の元へお送りした後、ミカさんの様子を見るなり手伝うなり理由付けをすれば、自然な流れで実行できるかと」
だいぶ計画が煮詰まってきたような気がする。誰かと隠密作戦を立てて実行するなんて、初めてのことだ。なんだかドキドキしてきた。
「……よし、とりあえず朝食を終えよう。ごちそうさまでしたの後、もう少し話を詰めていくぞ」
ジルの言葉に同意して、僕たちはすっかり冷めてしまった朝食と再び向き合うのだった。
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