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【第9話】父と息子と豚汁と
【9-7】
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◇
客人たちは予定通り、昼過ぎに無事に魔王の城へ到着した。魔物が導いている「何者か」はまだ来ていないし、クックとポッポも何も反応していない。
訪れた気配を察したカミュが玄関の大扉を開くと、真っ先にマティ様が颯爽と玄関ホールに足を踏み入れ、そうかと思えばまっすぐに僕へ向かって歩み寄って来た。
「ミカ!」
「マティ様、お久しぶりです。長旅、お疲れ様でした」
「うむ。久しいな。ところで、そなた、もう身体は大丈夫なのか? 酷い風邪をひいたと聞いた。すぐに見舞いに来たかったのだが、そこの意地の悪い魔王に強く拒まれてしまってな」
「え、えっと……、そのお気持ちだけでありがたいです」
挨拶の前に意地悪呼ばわりをされてしまったジルは、不機嫌そうに口を真一文字に引き結んでいる。マティ様はそんな魔王のことなど全く気にせず、白手袋を外した素手で僕の額に触れてきた。
「流石にもう熱は無いか。だがしかし、一度体調を崩すと、引きずることもあるだろう。特に夏の体調不良は長引きやすい。くれぐれも、無理をしてくれるな。分かったな?」
「は、はい。ありがとうございます。僕はもう元気ですのでご安心ください」
「マティアス。……そろそろ客を紹介してくれ。あそこで棒立ちになっているぞ」
ジルが冷ややかな声で言うと、マティ様はケロッとした顔で入口を振り向く。嫌味も皮肉も華麗にスルーするマイペースさは、相変わらずご健在のようだ。
「ああ、そういえば、そうだったな。──ドノヴァン、こちらへ」
「はっ、殿下」
外から渋い声が響き、立派な髭をたくわえた紳士が姿を見せる。遠目にも堂々とした立ち姿で、さすがは賢者様と言いたくなる感じだ。
入口付近に佇んでいるカミュに軽く会釈をしてから、賢者様はこちらへ歩いてくる。ゆったりとした足取りで、とても威厳があった。表情に変化が無いというか、ずっと真顔のままだから、余計に貫禄があるのかもしれない。
「紹介しよう。こちらが、ドノヴァン。杖も詠唱も必要とせず魔法を使える賢者だ。魔力量も、かなり多い」
「ご紹介に預かりました、ドノヴァンと申します。魔王閣下、お初にお目に掛かります。何卒、よろしくお願い申し上げる」
「……ジルベールだ。遠路はるばる、ご苦労だった。こちらこそ、よろしく頼む」
──あれ? なんだろう。ジルの機嫌が、ちょっと悪い気がする。先程のマティ様とのやり取りは、あんな感じはいつものことだから、それで不機嫌になっているわけじゃないはずだ。
ちょっと心配になっていると、ジルは僕の肩を抱くようにして引き寄せてきて、次に手招きでカミュを呼ぶ。美しい悪魔がすぐに飛んできて、ふわりと地に足を着けると、魔王は強い目力で賢者を見据えた。
「賢者。こちらが、この国の代々の魔王に仕えてくれている魔の者、カマルティユ。そしてこちらが、今年から食事係を務めてくれているミカだ」
「賢者殿、初めまして。どうぞお気軽にカミュとお呼びください」
「初めまして、ミカと申します。よろしくお願いします」
「……ああ、よろしく頼む」
賢者様──ドノヴァンさんは、僕とカミュをちらっと見て一応は挨拶を返してくれたけれど、興味は無さそうだ。ツンとした感じで目を逸らされてしまって、ジルの纏う空気が険しくなってしまったような気がする。
この優しい魔王は、身内をないがしろにされることを嫌っているから、これはあまり喜ばしくない展開だ。マティ様は呆れたような顔をしているけれど、口を挟むことは無いから、賢者はそういう人間だと把握して諦めているのかもしれない。そんな王子様は、眉間に皺を刻み込んでいる魔王の肩をぽんぽんと叩いた。
「この通り、不愛想な人間だが。ただ、能力は確かだ。魔王の魂に関しての研究にも、尽力してくれている」
「……そうか。それに関しては、感謝している」
「感謝など必要ありませぬ。私は、己の研究欲に従って行動しているまで。失礼を承知で申し上げれば、魔王閣下のために動いているわけではございませぬ」
「おいおい、ドノヴァン。そういうことを言うから、誤解されるのだ。見よ、魔王の眉間の皺が深くなっていく一方だぞ」
「……いや、俺はそれに関してはそれでいいと思っている。俺への無礼など、どうということもない。──だが、賢者よ。ひとつ言っておく」
ジルは表情を改めて、ドノヴァンさんを正面から見つめる。睨みつけるよりも迫力のある、静かだけれども圧のある表情だ。思わずゾクリとしてしまった。
「俺のことは、どう捉えようと、どう扱おうと構わない。──だが、俺の仲間への無礼は許さない。魔王の手下は、魔王と同等の立場にあると弁えよ」
「まぁ、そうだな。私は、ジルだけではなく、彼ら──特に、ミカを大事に思っている。傷つけることは許さぬ」
「……承知しました。心に留めておきましょう」
魔王と王子の二人からの牽制を受けた賢者は、無表情のまま、恭しく頭を下げた。
客人たちは予定通り、昼過ぎに無事に魔王の城へ到着した。魔物が導いている「何者か」はまだ来ていないし、クックとポッポも何も反応していない。
訪れた気配を察したカミュが玄関の大扉を開くと、真っ先にマティ様が颯爽と玄関ホールに足を踏み入れ、そうかと思えばまっすぐに僕へ向かって歩み寄って来た。
「ミカ!」
「マティ様、お久しぶりです。長旅、お疲れ様でした」
「うむ。久しいな。ところで、そなた、もう身体は大丈夫なのか? 酷い風邪をひいたと聞いた。すぐに見舞いに来たかったのだが、そこの意地の悪い魔王に強く拒まれてしまってな」
「え、えっと……、そのお気持ちだけでありがたいです」
挨拶の前に意地悪呼ばわりをされてしまったジルは、不機嫌そうに口を真一文字に引き結んでいる。マティ様はそんな魔王のことなど全く気にせず、白手袋を外した素手で僕の額に触れてきた。
「流石にもう熱は無いか。だがしかし、一度体調を崩すと、引きずることもあるだろう。特に夏の体調不良は長引きやすい。くれぐれも、無理をしてくれるな。分かったな?」
「は、はい。ありがとうございます。僕はもう元気ですのでご安心ください」
「マティアス。……そろそろ客を紹介してくれ。あそこで棒立ちになっているぞ」
ジルが冷ややかな声で言うと、マティ様はケロッとした顔で入口を振り向く。嫌味も皮肉も華麗にスルーするマイペースさは、相変わらずご健在のようだ。
「ああ、そういえば、そうだったな。──ドノヴァン、こちらへ」
「はっ、殿下」
外から渋い声が響き、立派な髭をたくわえた紳士が姿を見せる。遠目にも堂々とした立ち姿で、さすがは賢者様と言いたくなる感じだ。
入口付近に佇んでいるカミュに軽く会釈をしてから、賢者様はこちらへ歩いてくる。ゆったりとした足取りで、とても威厳があった。表情に変化が無いというか、ずっと真顔のままだから、余計に貫禄があるのかもしれない。
「紹介しよう。こちらが、ドノヴァン。杖も詠唱も必要とせず魔法を使える賢者だ。魔力量も、かなり多い」
「ご紹介に預かりました、ドノヴァンと申します。魔王閣下、お初にお目に掛かります。何卒、よろしくお願い申し上げる」
「……ジルベールだ。遠路はるばる、ご苦労だった。こちらこそ、よろしく頼む」
──あれ? なんだろう。ジルの機嫌が、ちょっと悪い気がする。先程のマティ様とのやり取りは、あんな感じはいつものことだから、それで不機嫌になっているわけじゃないはずだ。
ちょっと心配になっていると、ジルは僕の肩を抱くようにして引き寄せてきて、次に手招きでカミュを呼ぶ。美しい悪魔がすぐに飛んできて、ふわりと地に足を着けると、魔王は強い目力で賢者を見据えた。
「賢者。こちらが、この国の代々の魔王に仕えてくれている魔の者、カマルティユ。そしてこちらが、今年から食事係を務めてくれているミカだ」
「賢者殿、初めまして。どうぞお気軽にカミュとお呼びください」
「初めまして、ミカと申します。よろしくお願いします」
「……ああ、よろしく頼む」
賢者様──ドノヴァンさんは、僕とカミュをちらっと見て一応は挨拶を返してくれたけれど、興味は無さそうだ。ツンとした感じで目を逸らされてしまって、ジルの纏う空気が険しくなってしまったような気がする。
この優しい魔王は、身内をないがしろにされることを嫌っているから、これはあまり喜ばしくない展開だ。マティ様は呆れたような顔をしているけれど、口を挟むことは無いから、賢者はそういう人間だと把握して諦めているのかもしれない。そんな王子様は、眉間に皺を刻み込んでいる魔王の肩をぽんぽんと叩いた。
「この通り、不愛想な人間だが。ただ、能力は確かだ。魔王の魂に関しての研究にも、尽力してくれている」
「……そうか。それに関しては、感謝している」
「感謝など必要ありませぬ。私は、己の研究欲に従って行動しているまで。失礼を承知で申し上げれば、魔王閣下のために動いているわけではございませぬ」
「おいおい、ドノヴァン。そういうことを言うから、誤解されるのだ。見よ、魔王の眉間の皺が深くなっていく一方だぞ」
「……いや、俺はそれに関してはそれでいいと思っている。俺への無礼など、どうということもない。──だが、賢者よ。ひとつ言っておく」
ジルは表情を改めて、ドノヴァンさんを正面から見つめる。睨みつけるよりも迫力のある、静かだけれども圧のある表情だ。思わずゾクリとしてしまった。
「俺のことは、どう捉えようと、どう扱おうと構わない。──だが、俺の仲間への無礼は許さない。魔王の手下は、魔王と同等の立場にあると弁えよ」
「まぁ、そうだな。私は、ジルだけではなく、彼ら──特に、ミカを大事に思っている。傷つけることは許さぬ」
「……承知しました。心に留めておきましょう」
魔王と王子の二人からの牽制を受けた賢者は、無表情のまま、恭しく頭を下げた。
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