186 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と
【9-8】
しおりを挟む
お客様たちがお腹を空かせていたらと思って、昼食に出せるものも用意してあったのだけれど、昼食は途中で摂れたということで、とりあえずお茶を出すことにした。
みんなで食堂に移動して、フルーツティーにしたマッ茶と、シンプルな焼菓子を三種類盛り合わせたものを各自の前に置いていく。なんとなくギスギスしているというか、ちょっと不穏で妙に静かだ。……大丈夫かな、これ。
「ミカ、お疲れ様。お前も座ってくれ」
「あ、うん……」
ジルに促されて、おずおずと下座に着く。ドノヴァンさんに冷ややかな目で見られている気がして、少し緊張してしまう。──いや、僕が無駄にビクビクしていると、ジルに恥をかかせてしまいかねない。しっかりしなくては。
僕が背筋を伸ばしたところで、マティ様がお茶を手に取り、続いてドノヴァンさんもお茶を飲む。それぞれが一口ずつ喉を潤したところで、早速、本題の話し合いが開幕した。
「──さて。この賢者は、雑談を楽しめるような男ではない。だから、早速主題に突き進ませてもらうが、……まぁ、初めに断っておくと、芳しい結論があるわけではない。だから、そこまで期待はしないでほしい。だが、希望が無いわけでもない」
「分かった。……心して聞こう」
マティ様からの前置きにジルが頷くと、ドノヴァンさんがひとつ咳払いをする。そして、渋い声で淡々と語り始めた。
「まず、先に結論から申し上げましょうかな。ジルベール閣下の中に宿る魔王の魂の欠片をどうにかする方法は、ございます。ただ、非常に難しい。──まず、閣下には、己の中の魂の欠片が暴走しないよう抑えていただかねばなりません。その方法は不明です。──そして、暴走を抑えている間に、閣下は誰かに倒されなければなりません。殺される必要はございませんが、負かされなければならない。そんな強者が存在するか否かは不明です。──そのうえで、閣下の肉体への執着を喪った『魔王の魂の欠片』が次の器を探すべく外へ出てきた隙に、その魂の欠片を封印せねばなりません。ちなみに、これは喜ばしいご報告になるかと存じますが、その封印魔法に関しては創り出すことに概ね成功しております。ただ、私の魔力だけでは、封印魔法を完全に成すことが出来ませぬ。現状、その対策を模索中といったところですな。──以上です」
賢者が話を切り上げると、食堂内に静寂が満ちていく。
──今の話を、どう捉えたらいいんだろう。ジルが魔王の魂の欠片から解放される手段が無い、と言われるよりはマシだと思う。ただ、成功率が恐ろしく低そうな気がして、なんとも微妙な心境だ。
……そもそも、ジルが魔王の魂の欠片から解放されたとして、彼自身は助かることになるのだろうか。
「賢者殿、ひとつ伺ってもよろしいですか?」
「ええ。ひとつと言われずとも、いくつでも」
スッと挙手して発言したカミュを一瞥し、ドノヴァンさんは鷹揚に頷く。魔王と王子から釘を刺されたからか、賢者様なりに丁寧に接しようとしているのかな、と感じられた。
「ジル様が魔王の魂の欠片から解放されたとして、その後はどうなるのでしょう? 普通の人間としての生を送れるのでしょうか?」
「それは不明です。何分、前例が無いですからな。──その後の生を望めないのであれば、この研究に意味は無いと思われますか?」
その問い掛けは、ジルに向けられたものだ。質問を投げ掛けられた魔王は、静かに首を振った。
「いや。俺は、自分の命を永らえたいわけじゃない。年数で云えば、もう十分すぎるほど生きた。俺が暴走化することで大切な者たちが傷つけられるのを防げるのであれば、それでいい」
「それをお聞きして、安心いたしました。それでは、引き続き研究を続けてまいりましょう」
「……ああ、頼む」
ジルの声があまりにも穏やかで、なんだか切なくなってしまう。彼は、自分の暴走は許せないけれど、死ぬことに関しては受け入れてしまっている。
もしも魔王の魂の欠片から解放されるのだとしたら、ジルも一緒に生きていてほしい。でも、それは、口に出すにはあまりにも儚い願いだ。
「……まぁ、まだ先は分からない。全てが丸く収まる方向にいくかもしれぬ。その突破口を探すためにも、今の説明にもう少し細かく補足を付けていってもらおう。ドノヴァン、頼めるか?」
「はっ。殿下の仰せのままに」
「ミカも、話を聞いていて何か気になることがあれば、遠慮なく言ってくれ。何も恐れることはない。そなたには魔王も悪魔も、私も付いている」
マティ様が、僕の緊張をほぐすかのように穏やかに話し掛けてくれる。おかげで、気持ちが落ち着いてきた。
「はい。ありがとうございます、マティ様」
「うむ。──では、ドノヴァン。始めてくれ」
「かしこまりました」
王子から合図を送られた賢者は軽く頭を下げてから、小さな咳払いをした。
みんなで食堂に移動して、フルーツティーにしたマッ茶と、シンプルな焼菓子を三種類盛り合わせたものを各自の前に置いていく。なんとなくギスギスしているというか、ちょっと不穏で妙に静かだ。……大丈夫かな、これ。
「ミカ、お疲れ様。お前も座ってくれ」
「あ、うん……」
ジルに促されて、おずおずと下座に着く。ドノヴァンさんに冷ややかな目で見られている気がして、少し緊張してしまう。──いや、僕が無駄にビクビクしていると、ジルに恥をかかせてしまいかねない。しっかりしなくては。
僕が背筋を伸ばしたところで、マティ様がお茶を手に取り、続いてドノヴァンさんもお茶を飲む。それぞれが一口ずつ喉を潤したところで、早速、本題の話し合いが開幕した。
「──さて。この賢者は、雑談を楽しめるような男ではない。だから、早速主題に突き進ませてもらうが、……まぁ、初めに断っておくと、芳しい結論があるわけではない。だから、そこまで期待はしないでほしい。だが、希望が無いわけでもない」
「分かった。……心して聞こう」
マティ様からの前置きにジルが頷くと、ドノヴァンさんがひとつ咳払いをする。そして、渋い声で淡々と語り始めた。
「まず、先に結論から申し上げましょうかな。ジルベール閣下の中に宿る魔王の魂の欠片をどうにかする方法は、ございます。ただ、非常に難しい。──まず、閣下には、己の中の魂の欠片が暴走しないよう抑えていただかねばなりません。その方法は不明です。──そして、暴走を抑えている間に、閣下は誰かに倒されなければなりません。殺される必要はございませんが、負かされなければならない。そんな強者が存在するか否かは不明です。──そのうえで、閣下の肉体への執着を喪った『魔王の魂の欠片』が次の器を探すべく外へ出てきた隙に、その魂の欠片を封印せねばなりません。ちなみに、これは喜ばしいご報告になるかと存じますが、その封印魔法に関しては創り出すことに概ね成功しております。ただ、私の魔力だけでは、封印魔法を完全に成すことが出来ませぬ。現状、その対策を模索中といったところですな。──以上です」
賢者が話を切り上げると、食堂内に静寂が満ちていく。
──今の話を、どう捉えたらいいんだろう。ジルが魔王の魂の欠片から解放される手段が無い、と言われるよりはマシだと思う。ただ、成功率が恐ろしく低そうな気がして、なんとも微妙な心境だ。
……そもそも、ジルが魔王の魂の欠片から解放されたとして、彼自身は助かることになるのだろうか。
「賢者殿、ひとつ伺ってもよろしいですか?」
「ええ。ひとつと言われずとも、いくつでも」
スッと挙手して発言したカミュを一瞥し、ドノヴァンさんは鷹揚に頷く。魔王と王子から釘を刺されたからか、賢者様なりに丁寧に接しようとしているのかな、と感じられた。
「ジル様が魔王の魂の欠片から解放されたとして、その後はどうなるのでしょう? 普通の人間としての生を送れるのでしょうか?」
「それは不明です。何分、前例が無いですからな。──その後の生を望めないのであれば、この研究に意味は無いと思われますか?」
その問い掛けは、ジルに向けられたものだ。質問を投げ掛けられた魔王は、静かに首を振った。
「いや。俺は、自分の命を永らえたいわけじゃない。年数で云えば、もう十分すぎるほど生きた。俺が暴走化することで大切な者たちが傷つけられるのを防げるのであれば、それでいい」
「それをお聞きして、安心いたしました。それでは、引き続き研究を続けてまいりましょう」
「……ああ、頼む」
ジルの声があまりにも穏やかで、なんだか切なくなってしまう。彼は、自分の暴走は許せないけれど、死ぬことに関しては受け入れてしまっている。
もしも魔王の魂の欠片から解放されるのだとしたら、ジルも一緒に生きていてほしい。でも、それは、口に出すにはあまりにも儚い願いだ。
「……まぁ、まだ先は分からない。全てが丸く収まる方向にいくかもしれぬ。その突破口を探すためにも、今の説明にもう少し細かく補足を付けていってもらおう。ドノヴァン、頼めるか?」
「はっ。殿下の仰せのままに」
「ミカも、話を聞いていて何か気になることがあれば、遠慮なく言ってくれ。何も恐れることはない。そなたには魔王も悪魔も、私も付いている」
マティ様が、僕の緊張をほぐすかのように穏やかに話し掛けてくれる。おかげで、気持ちが落ち着いてきた。
「はい。ありがとうございます、マティ様」
「うむ。──では、ドノヴァン。始めてくれ」
「かしこまりました」
王子から合図を送られた賢者は軽く頭を下げてから、小さな咳払いをした。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる