魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-8】

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 お客様たちがお腹を空かせていたらと思って、昼食に出せるものも用意してあったのだけれど、昼食は途中で摂れたということで、とりあえずお茶を出すことにした。
 みんなで食堂に移動して、フルーツティーにしたマッ茶と、シンプルな焼菓子を三種類盛り合わせたものを各自の前に置いていく。なんとなくギスギスしているというか、ちょっと不穏で妙に静かだ。……大丈夫かな、これ。

「ミカ、お疲れ様。お前も座ってくれ」
「あ、うん……」

 ジルに促されて、おずおずと下座に着く。ドノヴァンさんに冷ややかな目で見られている気がして、少し緊張してしまう。──いや、僕が無駄にビクビクしていると、ジルに恥をかかせてしまいかねない。しっかりしなくては。
 僕が背筋を伸ばしたところで、マティ様がお茶を手に取り、続いてドノヴァンさんもお茶を飲む。それぞれが一口ずつ喉を潤したところで、早速、本題の話し合いが開幕した。

「──さて。この賢者は、雑談を楽しめるような男ではない。だから、早速主題に突き進ませてもらうが、……まぁ、初めに断っておくと、芳しい結論があるわけではない。だから、そこまで期待はしないでほしい。だが、希望が無いわけでもない」
「分かった。……心して聞こう」

 マティ様からの前置きにジルが頷くと、ドノヴァンさんがひとつ咳払いをする。そして、渋い声で淡々と語り始めた。

「まず、先に結論から申し上げましょうかな。ジルベール閣下の中に宿る魔王の魂の欠片をどうにかする方法は、ございます。ただ、非常に難しい。──まず、閣下には、己の中の魂の欠片が暴走しないよう抑えていただかねばなりません。その方法は不明です。──そして、暴走を抑えている間に、閣下は誰かに倒されなければなりません。殺される必要はございませんが、負かされなければならない。そんな強者が存在するか否かは不明です。──そのうえで、閣下の肉体への執着を喪った『魔王の魂の欠片』が次の器を探すべく外へ出てきた隙に、その魂の欠片を封印せねばなりません。ちなみに、これは喜ばしいご報告になるかと存じますが、その封印魔法に関しては創り出すことに概ね成功しております。ただ、私の魔力だけでは、封印魔法を完全に成すことが出来ませぬ。現状、その対策を模索中といったところですな。──以上です」

 賢者が話を切り上げると、食堂内に静寂が満ちていく。
 ──今の話を、どう捉えたらいいんだろう。ジルが魔王の魂の欠片から解放される手段が無い、と言われるよりはマシだと思う。ただ、成功率が恐ろしく低そうな気がして、なんとも微妙な心境だ。
 ……そもそも、ジルが魔王の魂の欠片から解放されたとして、彼自身は助かることになるのだろうか。

「賢者殿、ひとつ伺ってもよろしいですか?」
「ええ。ひとつと言われずとも、いくつでも」

 スッと挙手して発言したカミュを一瞥し、ドノヴァンさんは鷹揚に頷く。魔王と王子から釘を刺されたからか、賢者様なりに丁寧に接しようとしているのかな、と感じられた。

「ジル様が魔王の魂の欠片から解放されたとして、その後はどうなるのでしょう? 普通の人間としての生を送れるのでしょうか?」
「それは不明です。何分、前例が無いですからな。──その後の生を望めないのであれば、この研究に意味は無いと思われますか?」

 その問い掛けは、ジルに向けられたものだ。質問を投げ掛けられた魔王は、静かに首を振った。

「いや。俺は、自分の命を永らえたいわけじゃない。年数で云えば、もう十分すぎるほど生きた。俺が暴走化することで大切な者たちが傷つけられるのを防げるのであれば、それでいい」
「それをお聞きして、安心いたしました。それでは、引き続き研究を続けてまいりましょう」
「……ああ、頼む」

 ジルの声があまりにも穏やかで、なんだか切なくなってしまう。彼は、自分の暴走は許せないけれど、死ぬことに関しては受け入れてしまっている。
 もしも魔王の魂の欠片から解放されるのだとしたら、ジルも一緒に生きていてほしい。でも、それは、口に出すにはあまりにも儚い願いだ。

「……まぁ、まだ先は分からない。全てが丸く収まる方向にいくかもしれぬ。その突破口を探すためにも、今の説明にもう少し細かく補足を付けていってもらおう。ドノヴァン、頼めるか?」
「はっ。殿下の仰せのままに」
「ミカも、話を聞いていて何か気になることがあれば、遠慮なく言ってくれ。何も恐れることはない。そなたには魔王も悪魔も、私も付いている」

 マティ様が、僕の緊張をほぐすかのように穏やかに話し掛けてくれる。おかげで、気持ちが落ち着いてきた。

「はい。ありがとうございます、マティ様」
「うむ。──では、ドノヴァン。始めてくれ」
「かしこまりました」

 王子から合図を送られた賢者は軽く頭を下げてから、小さな咳払いをした。
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