魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-9】

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「まず、ジルベール閣下が、魔王の魂の欠片の暴走を抑えることが可能かどうか、という点でございますが。ひとつ確認をさせていただきたく。──閣下はこれまで、魔王の魂の欠片の影響を強く感じられたり、操られそうになっているという感覚はありましたかな?」

 ドノヴァンさんから尋ねられたジルは、口元を手で覆うようにして視線を下に向ける。彼は、何かを熟考するときに、このポーズというか体勢になることが多い。深く考え込むときの癖なのかもしれない。
 じっくりと記憶を辿ったジルは、顔を上げて緩く首を振った。

「いや……、魔王の魂の欠片に強く干渉されているという感覚は、今のところは覚えが無いな。急に髪と眼の色が変わり、角が生え、魔王としての魔力と能力を付与されたが、それきりというか……、そのくらいしか魔王の魂の欠片の影響が分からない。おそらく、今の俺の在り方は『大魔王』が望んでいるものではないんだろうが、それでも魂の欠片が何かを訴えてきているという感じはしない」
「左様ですか。魔王の魂の欠片が悪さをしないよう、ジルベール閣下ご自身が制御されているという可能性は?」
「無いな。──少なくとも、意識はしていない」
「成程。それでは今後、閣下には魔王の魂の欠片の気配に気をつけていただきたいですな。その気配を追えるようになれば、暴走化の際に有利に動ける可能性が高まりますゆえ」
「分かった。心掛けておこう」

 改めて考えてみると、ジルは明らかに魔王らしくない魔王で、それは大魔王としても歓迎していないはずで、それこそ、魔王の魂の欠片がジルを無理に従わせようとするか、もしくは別の器を探してもおかしくはないんだよね。そもそも、どうしてジルのような人を魔王の「器」に選出したのだろう。
 疑問は多々残っているけれど、話題はすぐに次の問題点へと移ってしまう。

「ジルが、魔王の魂の欠片の暴走化を抑え込むことが出来たと仮定しよう。そなたは先程、その上で彼が人間に負かされる必要があると述べていたように思うが、それは魔王の魂の欠片が『器』であるジルに愛想を尽かして、他の器を探すべくジルから出ようとする隙を狙ってのこと──という認識で相違無いか?」
「殿下の仰る通りでございます」
「うむ。……だが、本来、勇者とは暴走化した魔王に呼応して現れるもの。勇者の素質を持つ者も、魔王が暴走化するまでは才能が開花せず凡人のままだと云われている。──そんな中、ジルを倒せるほどの能力の持ち主がいると思うか?」

 マティ様はいつも通り心底からジルを案じて、真摯に考えて質問をしているのだろう。その誠意をきちんと受け止めたというかのように深々と頷いた賢者は、相変わらず淡々とした口調ながらも丁寧に答えた。

「正直に申し上げれば、そのような存在がいるとは思えませぬ。ある意味、勇者をも超える存在ということになります。実在するとしたら、相当に規格外な存在でしょう」
「規格外とは?」
「規格外は規格外。我々が想定している強者の範疇を超える者としか言い様がございませんな、殿下。──確定ではなく、私の個人的な見解を付け加えるとするならば、順当な最強ではなく、何かしらの制限の反動で想像を超える強さを出せる者なのではないか……、という気はします」

 すごくふわっとした意見だけれども、ドノヴァンさんとしても、自分がハッキリと答えを見つけられていないことを堂々と語るわけにもいかないんだろうな。
 ジルとカミュも納得がいっているわけじゃなさそうだけど、それ以上を追求しようとはしない。マティ様もその件については置いておくことにしたのか、次の疑問を口にした。

「それでは、そなたが編み出した魔王の魂の欠片の封印魔法についてだ。ドノヴァンだけでは魔力量が足りないということだが、他の魔力が強い者の協力を仰げばどうにかなるのではないか?」
「いえ、それが……、そういうわけにはいかないのです。この封印魔法を発動できるのは、私だけ。他の者では脳内で魔法式を組むことが出来ないでしょう。これは創り出した私しか分からぬ感覚でしょうが、教示したところで他者が扱えるような魔法ではないのです。非常に複雑でしてな。──複雑ゆえ、魔法に流し込める魔力の質にも制限があるようでして。私の血縁者でなくては、魔力を乗せることは叶いませぬ。……それも、相当に強い魔力を持った血縁者でなくては。残念ながら、思い当たる者はおりませぬ」
「そうか……。ドノヴァン、そなたに子どもはいなかったか? そなたと血を分けた者が、一番可能性は高そうだが」

 すると、それまで静かに流れるように言葉を繰り出していたドノヴァンさんが、一瞬言葉に詰まったように見えた。複雑な表情の賢者は、眉間に皺を寄せて首を振る。

「一人、生まれて数年の息子がおりますが……、あれは魔力がとても低く、お役に立てそうにありません」

 その言葉を聞き、ジルはドノヴァンさんへ強い視線を向けた。
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