魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-10】

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「賢者。その子どもとは、共に暮らしているのか?」

 魔王からの問いを受けた賢者は、ほんのわずかだけれども、動揺しているようだった。しかし、すぐに気を取り直したのか、冷静に言葉を返す。

「左様でございます。王都にて、共に暮らしております。──ただ、先程も申し上げた通り、幼いながらもあまりにも魔力が低いゆえ、魔王閣下のお役には立たぬかと存じます」
「子どもの手を借りようとは思っていない。それはどうでもいい。……それより、お前には他に子どもがいないか? 共に暮らしていない、そんな子どもが」

 ドノヴァンさんは真顔を保とうと頑張っているけれど、気の乱れが表情に見え隠れしている。──やはり、本当に、彼には隠し子がいるのだろうか。

「いえ、……私の子どもは一人のみ。閣下が何を仰っているのか分かりかねますな」
「……そうか。それならいい」

 たぶんジルは納得していないはずだけど、マティ様の前だからか、それ以上は追求しなかった。それでも何か引っかかるものを感じたのか、マティ様はジルの様子を窺っていた。

「ジル。何か気になることでも?」
「いや、いい。なんでもない」
「ふぅん……?」

 ジルはすぐに平静を装って、いつも通りの雰囲気に戻ったけれど、マティ様はそんな魔王をじっくりと眺めて何かを考え込んでいる。この王子様は、察しがいいし、頭もいい。何か勘づいたのではないかとヒヤヒヤしていると、マティ様はおもむろに僕へ視線を向けて、にっこりと微笑んだ。なんとも麗しい王子様スマイルだけど、ちょっも嫌な予感がするのは何故だろうか。

「ミカ」
「はっ、はい……!」
「今回運んできたものを、そなたに見せよう。また、ホラマロバ王国の食材を持ってきたのだ。ミカが気に入ってくれるか心配でな。早く、そなたの反応を知りたい」
「え、っと……、ありがとうございます、マティ様。その……、それは、今すぐに、ですか?」
「ああ、今すぐに!」

 本来はキリッとした表情をしていることの多いマティ様が、わざとらしいくらいニコニコしている。な、何を考えているんだ……?
 スッと立ち上がった王子様は優雅な足取りながらも素早く僕の側へ歩み寄り、耳元に囁きかけてくる。

「ジルは、ドノヴァンに何か尋ねたいことがあるようだ。我々がいては訊きづらいことやもしれぬ。ミカ、協力してくれないか」
「あ、あの……」
「私が一人で城内を歩き回るのも不自然であろう? いい子だから、供をしておくれ」

 この王子様は、本当に鋭い。なかなかいい線まで迫っているし、さりげなくジルに協力してくださろうという姿勢はとても有難い。
 ──ただ、ここで僕が別行動を取るというのは想定外だ。勿論、全てが計画通りにいくはずがないというのは分かっている。ジルが賢者から話を聞き出す機会が前倒しになったのは、それはそれでいいのかもしれない。

判断に迷って、思わずカミュへ視線を向けると、美しい悪魔は穏やかな微笑みで、「大丈夫」と言うかのように頷いてくれた。それだけで、どうしようもなく安心できた。

「マティアス様、私もご一緒してもよろしいでしょうか? 品物を見せていただいたついでに、荷運びもしたほうが効率的かと思いまして」
「ああ、かまわぬぞ。ほら、ミカ。カミュも来てくれるのだから、そなたも私と共に来てくれるな?」

 ジルとドノヴァンさんを二人きりにしたいだろうマティ様は、カミュの申し出を快く受け入れてくれる。カミュが側にいてくれるなら、何かアクシデントがあっても対応できそうだ。
 心強い味方を得た僕は、今度こそ素直にマティ様へ頷くことが出来た。

「はい! 僕もご一緒してください、マティ様」
「よしよし、いい子だ。では、早速参ろうか。ジルとドノヴァンはゆっくり話しているといい」

 マティ様はジルへ意味深な目配せをしている。その眼差しを受け取ったジルは複雑そうな表情になり、僕とカミュを心配そうに見てきた。けれども、僕が何か反応する前に、魔王は静かに視線を逸らす。──もしかしたら、カミュと脳内で何らかのやり取りを交わしたのかもしれない。

「ミカ、カミュ、行くぞ」
「はい、すぐに行きます! クック、ポッポ、おいで」
「クッ!」
「ポッ!」

 名を呼ばれた愛鳥たちはすぐに飛び寄ってきて、僕のそれぞれの肩に乗る。すっかり慣れた彼らの重みを感じると、さらに気持ちが落ち着いてきた。

「では、ジル様。私たちは少し席を外しますので」
「ああ、分かった。──カミュ、ミカを頼んだぞ」
「お任せください」

 立ち上がったカミュが恭しく一礼してから食堂を出るのに続いて、マティ様と僕も廊下へ出た。すると、次に先導し始めたのはマティ様だ。

「ミカに喜んでもらえそうな物を持ってきたのは、本当だ。私ではよく分からない食材たちだが、そなたならきっと、上手く扱えるであろう」
「ありがとうございます、マティ様。拝見するのが楽しみです」
「うむ。では、皆の者、参るぞ」

 嬉しそうに颯爽と歩いていく王子の背を追って、僕たちものんびりと歩き出した。
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