魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
189 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と

【9-11】

しおりを挟む
 ◇


「こ、これは……!」

 カミュがマティ様の馬車から下ろした荷箱の中を見て、僕は思わず声を上げていた。でも、それも無理はないだろう。とてもよく知っている、そして、僕が求めてやまなかったモノの香りがしているんだ。

「マティ様、手に取ってみてもいいですか?」
「勿論だ。ここにあるものは、全てそなたのものと言っても過言ではあるまい」
「ふふっ、みんなで大事にいただくものですよ。マティ様にもお作りしますからね。──あっ、やっぱり! 味噌だ……!」

 そう、なんとか片手で掴める程度の大きさの箱に詰められているのは、どう見ても味噌だ。少し表面がざらついている感じで、色味は八丁味噌に近い赤黒さだけれども、香りは合わせ味噌っぽい感じがする。
 いずれにせよ、これはきっと、この世界における「味噌」のように思えてならない。たぶん、全然違う名前なんだろうけど。

「ミソ……? いや、そんな名前ではなかったな。馴染みがないものだし、秋になってから店に並び始めたというものを人伝に仕入れたから、正式な名称は私も分からないのだが……」
「ミカさんがいらした世界に似たようなものがあって、それがミソと呼ばれていたのではないでしょうか」
「うん、カミュの言う通りだよ。味見をして実際に使ってみないと、確実なことは言えないけど、でも、これはきっと味噌と同じようなものだと思う。──ありがとうございます、マティ様。ちょうど、これと同等のものが欲しいと思っていたところでした。とても嬉しいです!」

 カミュの言葉を肯定してからマティ様にお礼を伝えると、銀髪の王子様はなんとも嬉しそうに微笑んで頷いてくれた。

「そうか、そうか。そなたがそんなにも喜んでくれるのであれば、仕入れた甲斐があった。これは、どのようにして使うのだ?」
「色々な使い方ができる、万能な材料なんです。肉や魚を漬け込んでもいいですし、炒め物や煮物の隠し味にも重宝します。でも、僕が一番作りたかったのは味噌汁……いえ、えーっと……スープ……、いや、その、汁物です!」
「汁? 煮込むのか? 遠征での野営地で大鍋で汁物を作って皆で飲むのが私は好きなのだが、そういうことか?」
「うーん……、近いと言えば近いですかねぇ……」

 マティ様はキャンプのごはんみたいなアウトドアっぽい雰囲気のものがお好きみたいだけど、味噌汁がそこに仲間入りできるかどうか、インドア派だった僕にはよく分からない。でも、キャンプでカレーは定番なイメージもあるし、だったら味噌汁だって作ったりするのかもしれない。
 考え込む僕の顔を覗き込みながら、カミュがニコニコと尋ねてくる。

「もしかして、ミカさんが今朝『あれがあれば完璧なのに』というようなことを仰っていたのは、これのことですか?」
「そうそう! 今朝のごはんみたいなのには
、味噌汁がよく合うんだよね。あと、カミュも大好きなおにぎりには、具だくさんの豚汁を付けると最高なんだよ」
「トン……?」

 マティ様は何か思い出したのか、ハッとした顔で、足元の木箱を開けた。何事かと様子を見守っていると、王子様は中から何かを取り出す。保冷魔法が掛けられているのか、ひんやりとしている紙包みだ。
 折り重なっている薄紙を、マティ様が丁寧に開いていくと、なんとも新鮮で美味しそうな薄切り肉がたっぷりと現れた。牛肉のような赤身ではなく、どちらかというと豚肉の切り落としのような印象だ。

「おや、ピグトンの肉ですね」

 マティ様の手元を覗きながら、カミュがにこやかに言う。マティ様も肯定するように頷いた。
 ということは、これはピグトンという生き物の肉なんだろう。なんというか……ピッグとトンが合わさった名前っぽくて、ますます豚肉を彷彿とさせるなぁ。

「ピグトンは、この国でよく食べられているもので特に珍しいものというわけではないのだが、夏が終わるのを待ってから食用肉にされるから、今がちょうど出回り始めた時期なのだ。ここにも、毎年の今頃に持参するのが恒例となっている」
「そうですね。毎年、美味しくいただいております。マリオさんも、喜んで料理して召し上がっていらっしゃいましたね。……えぇと、確か、ポォク……と呼んでいらしたような」

 ポーク。まさに、豚肉。
 味噌だけでなく、豚肉まで届けられたとは。なんて幸運なんだろう! 秋の味覚も色々とあるし、根菜とキノコたっぷりの豚汁なんて最高なのでは!?

「マティ様、本当にありがとうございます! 僕、今日の夜ごはんに、美味しい豚汁を作りますから! ぜひ、召し上がってください!」
「お、おお……、元気だな、ミカ。ははっ、目が輝いておる。うむ、そのトンジル……? とやらを、楽しみにしていよう」

 微笑ましそうに目を細めたマティ様は、まるで弟に接するような優しい仕草で、僕の頭をぽんぽんと撫でてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...