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【第9話】父と息子と豚汁と
【9-11】
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◇
「こ、これは……!」
カミュがマティ様の馬車から下ろした荷箱の中を見て、僕は思わず声を上げていた。でも、それも無理はないだろう。とてもよく知っている、そして、僕が求めてやまなかったモノの香りがしているんだ。
「マティ様、手に取ってみてもいいですか?」
「勿論だ。ここにあるものは、全てそなたのものと言っても過言ではあるまい」
「ふふっ、みんなで大事にいただくものですよ。マティ様にもお作りしますからね。──あっ、やっぱり! 味噌だ……!」
そう、なんとか片手で掴める程度の大きさの箱に詰められているのは、どう見ても味噌だ。少し表面がざらついている感じで、色味は八丁味噌に近い赤黒さだけれども、香りは合わせ味噌っぽい感じがする。
いずれにせよ、これはきっと、この世界における「味噌」のように思えてならない。たぶん、全然違う名前なんだろうけど。
「ミソ……? いや、そんな名前ではなかったな。馴染みがないものだし、秋になってから店に並び始めたというものを人伝に仕入れたから、正式な名称は私も分からないのだが……」
「ミカさんがいらした世界に似たようなものがあって、それがミソと呼ばれていたのではないでしょうか」
「うん、カミュの言う通りだよ。味見をして実際に使ってみないと、確実なことは言えないけど、でも、これはきっと味噌と同じようなものだと思う。──ありがとうございます、マティ様。ちょうど、これと同等のものが欲しいと思っていたところでした。とても嬉しいです!」
カミュの言葉を肯定してからマティ様にお礼を伝えると、銀髪の王子様はなんとも嬉しそうに微笑んで頷いてくれた。
「そうか、そうか。そなたがそんなにも喜んでくれるのであれば、仕入れた甲斐があった。これは、どのようにして使うのだ?」
「色々な使い方ができる、万能な材料なんです。肉や魚を漬け込んでもいいですし、炒め物や煮物の隠し味にも重宝します。でも、僕が一番作りたかったのは味噌汁……いえ、えーっと……スープ……、いや、その、汁物です!」
「汁? 煮込むのか? 遠征での野営地で大鍋で汁物を作って皆で飲むのが私は好きなのだが、そういうことか?」
「うーん……、近いと言えば近いですかねぇ……」
マティ様はキャンプのごはんみたいなアウトドアっぽい雰囲気のものがお好きみたいだけど、味噌汁がそこに仲間入りできるかどうか、インドア派だった僕にはよく分からない。でも、キャンプでカレーは定番なイメージもあるし、だったら味噌汁だって作ったりするのかもしれない。
考え込む僕の顔を覗き込みながら、カミュがニコニコと尋ねてくる。
「もしかして、ミカさんが今朝『あれがあれば完璧なのに』というようなことを仰っていたのは、これのことですか?」
「そうそう! 今朝のごはんみたいなのには
、味噌汁がよく合うんだよね。あと、カミュも大好きなおにぎりには、具だくさんの豚汁を付けると最高なんだよ」
「トン……?」
マティ様は何か思い出したのか、ハッとした顔で、足元の木箱を開けた。何事かと様子を見守っていると、王子様は中から何かを取り出す。保冷魔法が掛けられているのか、ひんやりとしている紙包みだ。
折り重なっている薄紙を、マティ様が丁寧に開いていくと、なんとも新鮮で美味しそうな薄切り肉がたっぷりと現れた。牛肉のような赤身ではなく、どちらかというと豚肉の切り落としのような印象だ。
「おや、ピグトンの肉ですね」
マティ様の手元を覗きながら、カミュがにこやかに言う。マティ様も肯定するように頷いた。
ということは、これはピグトンという生き物の肉なんだろう。なんというか……ピッグとトンが合わさった名前っぽくて、ますます豚肉を彷彿とさせるなぁ。
「ピグトンは、この国でよく食べられているもので特に珍しいものというわけではないのだが、夏が終わるのを待ってから食用肉にされるから、今がちょうど出回り始めた時期なのだ。ここにも、毎年の今頃に持参するのが恒例となっている」
「そうですね。毎年、美味しくいただいております。マリオさんも、喜んで料理して召し上がっていらっしゃいましたね。……えぇと、確か、ポォク……と呼んでいらしたような」
ポーク。まさに、豚肉。
味噌だけでなく、豚肉まで届けられたとは。なんて幸運なんだろう! 秋の味覚も色々とあるし、根菜とキノコたっぷりの豚汁なんて最高なのでは!?
「マティ様、本当にありがとうございます! 僕、今日の夜ごはんに、美味しい豚汁を作りますから! ぜひ、召し上がってください!」
「お、おお……、元気だな、ミカ。ははっ、目が輝いておる。うむ、そのトンジル……? とやらを、楽しみにしていよう」
微笑ましそうに目を細めたマティ様は、まるで弟に接するような優しい仕草で、僕の頭をぽんぽんと撫でてきた。
「こ、これは……!」
カミュがマティ様の馬車から下ろした荷箱の中を見て、僕は思わず声を上げていた。でも、それも無理はないだろう。とてもよく知っている、そして、僕が求めてやまなかったモノの香りがしているんだ。
「マティ様、手に取ってみてもいいですか?」
「勿論だ。ここにあるものは、全てそなたのものと言っても過言ではあるまい」
「ふふっ、みんなで大事にいただくものですよ。マティ様にもお作りしますからね。──あっ、やっぱり! 味噌だ……!」
そう、なんとか片手で掴める程度の大きさの箱に詰められているのは、どう見ても味噌だ。少し表面がざらついている感じで、色味は八丁味噌に近い赤黒さだけれども、香りは合わせ味噌っぽい感じがする。
いずれにせよ、これはきっと、この世界における「味噌」のように思えてならない。たぶん、全然違う名前なんだろうけど。
「ミソ……? いや、そんな名前ではなかったな。馴染みがないものだし、秋になってから店に並び始めたというものを人伝に仕入れたから、正式な名称は私も分からないのだが……」
「ミカさんがいらした世界に似たようなものがあって、それがミソと呼ばれていたのではないでしょうか」
「うん、カミュの言う通りだよ。味見をして実際に使ってみないと、確実なことは言えないけど、でも、これはきっと味噌と同じようなものだと思う。──ありがとうございます、マティ様。ちょうど、これと同等のものが欲しいと思っていたところでした。とても嬉しいです!」
カミュの言葉を肯定してからマティ様にお礼を伝えると、銀髪の王子様はなんとも嬉しそうに微笑んで頷いてくれた。
「そうか、そうか。そなたがそんなにも喜んでくれるのであれば、仕入れた甲斐があった。これは、どのようにして使うのだ?」
「色々な使い方ができる、万能な材料なんです。肉や魚を漬け込んでもいいですし、炒め物や煮物の隠し味にも重宝します。でも、僕が一番作りたかったのは味噌汁……いえ、えーっと……スープ……、いや、その、汁物です!」
「汁? 煮込むのか? 遠征での野営地で大鍋で汁物を作って皆で飲むのが私は好きなのだが、そういうことか?」
「うーん……、近いと言えば近いですかねぇ……」
マティ様はキャンプのごはんみたいなアウトドアっぽい雰囲気のものがお好きみたいだけど、味噌汁がそこに仲間入りできるかどうか、インドア派だった僕にはよく分からない。でも、キャンプでカレーは定番なイメージもあるし、だったら味噌汁だって作ったりするのかもしれない。
考え込む僕の顔を覗き込みながら、カミュがニコニコと尋ねてくる。
「もしかして、ミカさんが今朝『あれがあれば完璧なのに』というようなことを仰っていたのは、これのことですか?」
「そうそう! 今朝のごはんみたいなのには
、味噌汁がよく合うんだよね。あと、カミュも大好きなおにぎりには、具だくさんの豚汁を付けると最高なんだよ」
「トン……?」
マティ様は何か思い出したのか、ハッとした顔で、足元の木箱を開けた。何事かと様子を見守っていると、王子様は中から何かを取り出す。保冷魔法が掛けられているのか、ひんやりとしている紙包みだ。
折り重なっている薄紙を、マティ様が丁寧に開いていくと、なんとも新鮮で美味しそうな薄切り肉がたっぷりと現れた。牛肉のような赤身ではなく、どちらかというと豚肉の切り落としのような印象だ。
「おや、ピグトンの肉ですね」
マティ様の手元を覗きながら、カミュがにこやかに言う。マティ様も肯定するように頷いた。
ということは、これはピグトンという生き物の肉なんだろう。なんというか……ピッグとトンが合わさった名前っぽくて、ますます豚肉を彷彿とさせるなぁ。
「ピグトンは、この国でよく食べられているもので特に珍しいものというわけではないのだが、夏が終わるのを待ってから食用肉にされるから、今がちょうど出回り始めた時期なのだ。ここにも、毎年の今頃に持参するのが恒例となっている」
「そうですね。毎年、美味しくいただいております。マリオさんも、喜んで料理して召し上がっていらっしゃいましたね。……えぇと、確か、ポォク……と呼んでいらしたような」
ポーク。まさに、豚肉。
味噌だけでなく、豚肉まで届けられたとは。なんて幸運なんだろう! 秋の味覚も色々とあるし、根菜とキノコたっぷりの豚汁なんて最高なのでは!?
「マティ様、本当にありがとうございます! 僕、今日の夜ごはんに、美味しい豚汁を作りますから! ぜひ、召し上がってください!」
「お、おお……、元気だな、ミカ。ははっ、目が輝いておる。うむ、そのトンジル……? とやらを、楽しみにしていよう」
微笑ましそうに目を細めたマティ様は、まるで弟に接するような優しい仕草で、僕の頭をぽんぽんと撫でてきた。
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