魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
190 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と

【9-12】

しおりを挟む
 念願の豚汁を作れそうでワクワクすると同時に、そういえば今回は新たなお客様をお迎えしていたんだったと思い出す。

「今夜は、ドノヴァンさんもいるんでした。慣れないものを召し上がるのって、きっと抵抗がありますよね……?」

 王子様に付き合う形で、賢者もこの城に一泊する予定だけれど、普通に考えれば、そもそも魔王の手下が作った料理なんて抵抗をおぼえるだろう。ましてや、見慣れない食材で作られた初見の料理だったら、なおさら警戒するはずだ。
 不安になってきた僕に対し、マティ様は穏やかに首を振る。

「それは大丈夫であろう。あの男は、知的好奇心の塊で作られているような人間だ。未知のもの、誰も到達したことのない知識、そういった類を何よりも好む。秘密裏に私に協力し、ジルに関する研究へ精力的に取り組んでいるのも、そういった人間性ゆえだ。異世界人が振る舞う手料理など、ドノヴァンにとっては金貨を支払ってでも食したいものだろう」
「いえ、そんな大層なものは僕には作れませんが……、でも、ひとまず抵抗感なく食事をしていただけそうなら安心しました」
「あやつは、いつだって好奇心が抵抗感を上回る。……それゆえ、時に倫理観を疑いたくなる言動をするから、こちらも戸惑ってしまうのだが」

 マティ様が控えめに呟いたぼやきを聞き、カミュが微かにピクリと反応した。何か気になることでもあったのだろうか。
 カミュは柔らかい表情のまま、マティ様へ探りを入れるように問い掛ける。

「悪魔の私が申し上げるのもおかしな話ですが、倫理観の欠如とは穏やかではないですね。そう思われるような出来事が、何かおありでしたか?」
「いや……、何か大きな出来事があったわけではないのだが。ただ、何気ないやり取りの中で、あやつの他者への気遣いの無さに驚くことがあるのだ。幼い子どもがいるというのに、あまりにも家族を顧みない。研究への尽力はありがたい限りだが、だからといって家族を蔑ろにされたくはない」
「幼いお子様……、魔力が低い、と賢者殿はしきりに仰っていましたね。蔑ろにされているとのことですが、王都から離れた場所へ追いやっているというようなことはないですか? 王都の貴族は疎ましい家族を遠方へ追い払ってしまう、というお話を耳にしたことがあるものですから、気になってしまいまして」

 カミュはとてもさりげない様子で質問を重ねているけれど、魔物を引き連れてここへ向かっている「何者か」がドノヴァンさんと一緒に暮らしている子どもである可能性を探っているんだろう。
 そこが同一人物だとしたら、少なくともジルの予想の中の「隠し子」という要素は塗り潰されることになる。隠し子ではないなら、「何者か」がドノヴァンさんの子どもで、こんな場所まで父を追い求めて来たのだとしても、親子のすれ違い激情が繰り広げられても、マティ様はさほど怒ったりはしないはずだ。
 カミュもそれを期待して質問したんだと思う。しかし、マティ様は首を振った。

「いや、流石に家を追い出すような真似はしていない。確かに、そういう貴族もいるのは事実だが。ドノヴァンの場合は、むしろそこまでの興味を抱いていないのだろう。憎悪や嫌悪ではなく、無関心なのだ」
「──そうでしたか。……お父様が無関心でも、賑やかな王都内での生活で、お子様の心も慰められているかもしれませんね」
「さぁ、どうであろうな」

 カミュは上手く落胆を隠して誤魔化し、マティ様は訝しがることもなく苦笑している。
 ──ある意味、一番平和的な展開の線は無くなってしまったということだろうか。生活を共にしている我が子にさえ無関心な賢者が、もしも他所で隠し子が産まれていたとして、その子を気に掛けてあげているとは思えない。
 ……いや、待て。もしも、賢者が、その子は魔物を引き連れているという事実を知らなかったとしたら? 好奇心が刺激されて、隠し子(仮)を可愛がり始めて、一緒に暮らしている子を見捨てたりとか、そういう未来もあったりするのだろうか。

「クックッ!」
「ポーッ! ポッ!」

 僕が悶々とし始めたところで不意に、それまでずっと近くの低木の上で大人しくしていたクックとポッポが騒ぎ出した。──これって、もしや、例の「何者か」のお出ましなのではないだろうか。
 急いでカミュを見ると、美しい悪魔の表情には緊張が滲み、神妙な面持ちで僕に向かって小さく頷いた。僕は他のみんなみたいに脳内で合図をそう受信したりする能力は無いから確実ではないけれど、でも、カミュの顔色から察するに、たぶんビンゴなんだろう。──つまり、ジルが予想した通り、魔物たちに導かれて来た子どもが到着したんだ。

 どうしよう。よりにもよって、ここにはマティ様がいるのに。荷馬車を停めてあるここは、森にも近い。来訪者がどの方向から来るのか分からないけど、場合によっては、すぐにも遭遇してしまいかねない。
 子どもとマティ様が直に出会ってしまうのは、可能な限り避けたい。でも、どうしたらいい……!?

 僕が焦りながら思考をグルグルさせている横で、意を決したようにカミュが口を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...