魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
193 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と

【9-15】

しおりを挟む
「オレだって、魔物と会話が成立しているわけじゃない」
「そうなんだ? じゃあ、僕とこの子たちみたいに、なんとなく通じ合ってる……みたいな感じ?」

 アマネくんは、こくりと頷く。どうやら、僕の話を聞いてくれる気も、素直に話してくれる気もあるみたいだ。そうなると、ゆっくりと腰を据えて話したいんだけど──、思っていた流れと違う感じで来ちゃったから、おやつも飲み物も無いんだよね。

「アマネくん、喉乾いてたりお腹空いてたりしない?」
「は? 急になんだよ。別に平気だけど」
「ほんと? 僕、アマネくんの話をゆっくり聞かせてほしくて……、でも、ほら、何か飲むものとか食べるものとかあったほうがいいかもしれないなって思って……」
「ほんと、変なヤツ。……オレは平気。ここに来る途中、果物いっぱい食ったし、水もいっぱい飲んだし。でも、その辺に座ってもいい?」
「うん、勿論! じゃあ、そこの大きな切株に並んで座ろうか。もしも喉が渇いたりお腹が空いたりしたら、すぐに言ってね」
「分かった、分かった」

 アマネくんは呆れたように溜息をついてから、僕が指し示した切株にちょこんと座ってくれる。ちゃんと交流が出来ている感じがして、なんだか嬉しい。無意識に鼻歌を奏でながら隣に座る僕を、アマネくんは不気味なものを発見したかのような眼差しで見上げてきた。

「……なんで、そんなに浮かれてんの?」
「アマネくんとおはなし出来るのが嬉しくて!」
「……はぁ。ほんっっと、変なヤツ」
「そうかな? ──じゃあ、アマネくんは、どうしてそんな変な奴とお喋りしようっていう気持ちになったの?」

 いきなり主題に入るより遠回りにじわじわと交流したほうがいいと考えて、素朴な疑問をぶつけてみる。賢い少年は、幼い唇をとがらせて、ぽそぽそと呟いた。

「だって、オレと魔物がしゃべってるって分かっても、アンタは全然平気そうだったじゃん。そんなヤツ、他に会ったことねぇもん」
「そうなの? 珍しいことなのかな?」
「オレみたいに魔力がちょっとしか無いくせに魔物の言ってること理解してるようなのは、うちの一族の中でも頭がおかしいんだって。やべぇヤツだって思われてるよ、オレ」

 悲しんでいるというより、諦めた口調でぼやいている姿が、幼い頃の自分と重なって見えて、心臓がキュッとなる。そんな僕の心の内など知らないアマネくんは、自分の一族や事情について話してくれた。

 彼は、この城からそんなに離れていない大きな湖のほとりに住む一族の一員のようだ。その一族は、かつては魔王の城周辺の魔物たちが領域を出て人間の住処を襲いに行かないよう見張る役目を担っていたらしい。今は一族の人数も減り続けていることもあり、単に湖のほとりに住んでいて、魔力が高めの者が多い水色の髪の民族、というだけみたいだけど。
 そんなわけで、一族の中でも魔力が高い人なら、魔物と意思の疎通が出来る可能性もあるみたいで、実際に過去にはそういう能力を持った同胞もいたようだ。ただ、そういった能力者の魔力は、それこそ大魔法使いや賢者に相当する強さだったという。

「オレの母さんは、すっごく魔力が強いんだ。そんな母さんでも、魔物の言っていることを理解できない。それなのに、ちっぽけな魔力しか無いオレが魔物としゃべってるのはおかしいって。みんな言ってる」
「うーん……、でも、僕は魔法とか魔力とかよく分かってないんだけど、成長するうちに魔力が増えていったりもするんでしょ?」
「まぁ、そりゃあ、もうちょっとは増えるだろうけど。でも、将来の賢者様なんかは、生まれたばっかりのときでも、もう魔力がすっごく強い感じがするんだってさ。……オレみたいに、六歳になってもちっぽけな魔力のままじゃあ、もうどうにもならねぇよ」

 アマネくんは強がって、フンッと鼻を鳴らしてツンとして見せているけれど、本当はきっと傷ついているはずだ。思わず水色の頭を撫でてしまうと、アマネくんにギロリと睨まれたけど、手を振り払われたりはしなかった。

「……魔力が少ないのって、辛い?」
「うーん……、オレは別に。大人になったら困りそうだけど、今はそーでもない。……でも、母さんは困ってるし、泣いちゃうからさ。本当は、どうにかしてやりたいんだけど。……だけど、魔力の量とか強さって、頑張ってどーにかなることじゃねぇし」
「そっかぁ、大変だね。……お母さんが、困ってるの?」

 僕に撫でられるがままのアマネくんは、子どもらしくなく眉間に皺を寄せて、うーっと唸る。そして、ひとつ頷いてから、呟くように話し始めた。

「……オレは別に、母さんがいればいいんだけど。でも、母さんには父さんが必要みたいで。……父さんって、一族の人間じゃないみたいだし、オレも一回も会ったことないんだけど。そうやって母さんとオレが捨てられちゃったのは、オレの魔力が低かったせいなんだってさ」
「──え?」
「母さんが、オレを怒ったりするわけじゃない。強い魔力をもたせて産んであげられなくてゴメンね、って毎日泣くんだよ。オレの成長には父さんが必要だし、母さんも父さんに会いたい、って。そんなこと言って、毎日泣くからさ。どーにかしてやりてぇじゃん。……だから、ここに来たんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

処理中です...