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【第9話】父と息子と豚汁と
【9-15】
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「オレだって、魔物と会話が成立しているわけじゃない」
「そうなんだ? じゃあ、僕とこの子たちみたいに、なんとなく通じ合ってる……みたいな感じ?」
アマネくんは、こくりと頷く。どうやら、僕の話を聞いてくれる気も、素直に話してくれる気もあるみたいだ。そうなると、ゆっくりと腰を据えて話したいんだけど──、思っていた流れと違う感じで来ちゃったから、おやつも飲み物も無いんだよね。
「アマネくん、喉乾いてたりお腹空いてたりしない?」
「は? 急になんだよ。別に平気だけど」
「ほんと? 僕、アマネくんの話をゆっくり聞かせてほしくて……、でも、ほら、何か飲むものとか食べるものとかあったほうがいいかもしれないなって思って……」
「ほんと、変なヤツ。……オレは平気。ここに来る途中、果物いっぱい食ったし、水もいっぱい飲んだし。でも、その辺に座ってもいい?」
「うん、勿論! じゃあ、そこの大きな切株に並んで座ろうか。もしも喉が渇いたりお腹が空いたりしたら、すぐに言ってね」
「分かった、分かった」
アマネくんは呆れたように溜息をついてから、僕が指し示した切株にちょこんと座ってくれる。ちゃんと交流が出来ている感じがして、なんだか嬉しい。無意識に鼻歌を奏でながら隣に座る僕を、アマネくんは不気味なものを発見したかのような眼差しで見上げてきた。
「……なんで、そんなに浮かれてんの?」
「アマネくんとおはなし出来るのが嬉しくて!」
「……はぁ。ほんっっと、変なヤツ」
「そうかな? ──じゃあ、アマネくんは、どうしてそんな変な奴とお喋りしようっていう気持ちになったの?」
いきなり主題に入るより遠回りにじわじわと交流したほうがいいと考えて、素朴な疑問をぶつけてみる。賢い少年は、幼い唇をとがらせて、ぽそぽそと呟いた。
「だって、オレと魔物がしゃべってるって分かっても、アンタは全然平気そうだったじゃん。そんなヤツ、他に会ったことねぇもん」
「そうなの? 珍しいことなのかな?」
「オレみたいに魔力がちょっとしか無いくせに魔物の言ってること理解してるようなのは、うちの一族の中でも頭がおかしいんだって。やべぇヤツだって思われてるよ、オレ」
悲しんでいるというより、諦めた口調でぼやいている姿が、幼い頃の自分と重なって見えて、心臓がキュッとなる。そんな僕の心の内など知らないアマネくんは、自分の一族や事情について話してくれた。
彼は、この城からそんなに離れていない大きな湖のほとりに住む一族の一員のようだ。その一族は、かつては魔王の城周辺の魔物たちが領域を出て人間の住処を襲いに行かないよう見張る役目を担っていたらしい。今は一族の人数も減り続けていることもあり、単に湖のほとりに住んでいて、魔力が高めの者が多い水色の髪の民族、というだけみたいだけど。
そんなわけで、一族の中でも魔力が高い人なら、魔物と意思の疎通が出来る可能性もあるみたいで、実際に過去にはそういう能力を持った同胞もいたようだ。ただ、そういった能力者の魔力は、それこそ大魔法使いや賢者に相当する強さだったという。
「オレの母さんは、すっごく魔力が強いんだ。そんな母さんでも、魔物の言っていることを理解できない。それなのに、ちっぽけな魔力しか無いオレが魔物としゃべってるのはおかしいって。みんな言ってる」
「うーん……、でも、僕は魔法とか魔力とかよく分かってないんだけど、成長するうちに魔力が増えていったりもするんでしょ?」
「まぁ、そりゃあ、もうちょっとは増えるだろうけど。でも、将来の賢者様なんかは、生まれたばっかりのときでも、もう魔力がすっごく強い感じがするんだってさ。……オレみたいに、六歳になってもちっぽけな魔力のままじゃあ、もうどうにもならねぇよ」
アマネくんは強がって、フンッと鼻を鳴らしてツンとして見せているけれど、本当はきっと傷ついているはずだ。思わず水色の頭を撫でてしまうと、アマネくんにギロリと睨まれたけど、手を振り払われたりはしなかった。
「……魔力が少ないのって、辛い?」
「うーん……、オレは別に。大人になったら困りそうだけど、今はそーでもない。……でも、母さんは困ってるし、泣いちゃうからさ。本当は、どうにかしてやりたいんだけど。……だけど、魔力の量とか強さって、頑張ってどーにかなることじゃねぇし」
「そっかぁ、大変だね。……お母さんが、困ってるの?」
僕に撫でられるがままのアマネくんは、子どもらしくなく眉間に皺を寄せて、うーっと唸る。そして、ひとつ頷いてから、呟くように話し始めた。
「……オレは別に、母さんがいればいいんだけど。でも、母さんには父さんが必要みたいで。……父さんって、一族の人間じゃないみたいだし、オレも一回も会ったことないんだけど。そうやって母さんとオレが捨てられちゃったのは、オレの魔力が低かったせいなんだってさ」
「──え?」
「母さんが、オレを怒ったりするわけじゃない。強い魔力をもたせて産んであげられなくてゴメンね、って毎日泣くんだよ。オレの成長には父さんが必要だし、母さんも父さんに会いたい、って。そんなこと言って、毎日泣くからさ。どーにかしてやりてぇじゃん。……だから、ここに来たんだ」
「そうなんだ? じゃあ、僕とこの子たちみたいに、なんとなく通じ合ってる……みたいな感じ?」
アマネくんは、こくりと頷く。どうやら、僕の話を聞いてくれる気も、素直に話してくれる気もあるみたいだ。そうなると、ゆっくりと腰を据えて話したいんだけど──、思っていた流れと違う感じで来ちゃったから、おやつも飲み物も無いんだよね。
「アマネくん、喉乾いてたりお腹空いてたりしない?」
「は? 急になんだよ。別に平気だけど」
「ほんと? 僕、アマネくんの話をゆっくり聞かせてほしくて……、でも、ほら、何か飲むものとか食べるものとかあったほうがいいかもしれないなって思って……」
「ほんと、変なヤツ。……オレは平気。ここに来る途中、果物いっぱい食ったし、水もいっぱい飲んだし。でも、その辺に座ってもいい?」
「うん、勿論! じゃあ、そこの大きな切株に並んで座ろうか。もしも喉が渇いたりお腹が空いたりしたら、すぐに言ってね」
「分かった、分かった」
アマネくんは呆れたように溜息をついてから、僕が指し示した切株にちょこんと座ってくれる。ちゃんと交流が出来ている感じがして、なんだか嬉しい。無意識に鼻歌を奏でながら隣に座る僕を、アマネくんは不気味なものを発見したかのような眼差しで見上げてきた。
「……なんで、そんなに浮かれてんの?」
「アマネくんとおはなし出来るのが嬉しくて!」
「……はぁ。ほんっっと、変なヤツ」
「そうかな? ──じゃあ、アマネくんは、どうしてそんな変な奴とお喋りしようっていう気持ちになったの?」
いきなり主題に入るより遠回りにじわじわと交流したほうがいいと考えて、素朴な疑問をぶつけてみる。賢い少年は、幼い唇をとがらせて、ぽそぽそと呟いた。
「だって、オレと魔物がしゃべってるって分かっても、アンタは全然平気そうだったじゃん。そんなヤツ、他に会ったことねぇもん」
「そうなの? 珍しいことなのかな?」
「オレみたいに魔力がちょっとしか無いくせに魔物の言ってること理解してるようなのは、うちの一族の中でも頭がおかしいんだって。やべぇヤツだって思われてるよ、オレ」
悲しんでいるというより、諦めた口調でぼやいている姿が、幼い頃の自分と重なって見えて、心臓がキュッとなる。そんな僕の心の内など知らないアマネくんは、自分の一族や事情について話してくれた。
彼は、この城からそんなに離れていない大きな湖のほとりに住む一族の一員のようだ。その一族は、かつては魔王の城周辺の魔物たちが領域を出て人間の住処を襲いに行かないよう見張る役目を担っていたらしい。今は一族の人数も減り続けていることもあり、単に湖のほとりに住んでいて、魔力が高めの者が多い水色の髪の民族、というだけみたいだけど。
そんなわけで、一族の中でも魔力が高い人なら、魔物と意思の疎通が出来る可能性もあるみたいで、実際に過去にはそういう能力を持った同胞もいたようだ。ただ、そういった能力者の魔力は、それこそ大魔法使いや賢者に相当する強さだったという。
「オレの母さんは、すっごく魔力が強いんだ。そんな母さんでも、魔物の言っていることを理解できない。それなのに、ちっぽけな魔力しか無いオレが魔物としゃべってるのはおかしいって。みんな言ってる」
「うーん……、でも、僕は魔法とか魔力とかよく分かってないんだけど、成長するうちに魔力が増えていったりもするんでしょ?」
「まぁ、そりゃあ、もうちょっとは増えるだろうけど。でも、将来の賢者様なんかは、生まれたばっかりのときでも、もう魔力がすっごく強い感じがするんだってさ。……オレみたいに、六歳になってもちっぽけな魔力のままじゃあ、もうどうにもならねぇよ」
アマネくんは強がって、フンッと鼻を鳴らしてツンとして見せているけれど、本当はきっと傷ついているはずだ。思わず水色の頭を撫でてしまうと、アマネくんにギロリと睨まれたけど、手を振り払われたりはしなかった。
「……魔力が少ないのって、辛い?」
「うーん……、オレは別に。大人になったら困りそうだけど、今はそーでもない。……でも、母さんは困ってるし、泣いちゃうからさ。本当は、どうにかしてやりたいんだけど。……だけど、魔力の量とか強さって、頑張ってどーにかなることじゃねぇし」
「そっかぁ、大変だね。……お母さんが、困ってるの?」
僕に撫でられるがままのアマネくんは、子どもらしくなく眉間に皺を寄せて、うーっと唸る。そして、ひとつ頷いてから、呟くように話し始めた。
「……オレは別に、母さんがいればいいんだけど。でも、母さんには父さんが必要みたいで。……父さんって、一族の人間じゃないみたいだし、オレも一回も会ったことないんだけど。そうやって母さんとオレが捨てられちゃったのは、オレの魔力が低かったせいなんだってさ」
「──え?」
「母さんが、オレを怒ったりするわけじゃない。強い魔力をもたせて産んであげられなくてゴメンね、って毎日泣くんだよ。オレの成長には父さんが必要だし、母さんも父さんに会いたい、って。そんなこと言って、毎日泣くからさ。どーにかしてやりてぇじゃん。……だから、ここに来たんだ」
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