192 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と
【9-14】
しおりを挟む
「誰?」
こちらの様子を窺っているらしい気配へ声を掛けると、ハッとしたように後ずさるような音が聞こえてきた。怯えさせてしまっただろうか。
「誰かな? 大丈夫、怖くないよ。どんな人が来たのかなって気になっただけなんだ」
「……」
「おいで。一緒に話をしよう。怖いことは何もしないよ」
僕は相手が子どもだと分かっているけど、相手はそうじゃない。ましてや、ここは魔王の城だ。怖がるのが当たり前だと思う。
それでも、荷馬車の影に隠れていた子は、そっと顔を覗かせた。
──男の子だ。猫のような金色の瞳と、晴れた日の青空のようや水色の髪が、僕にとっては珍しいと共に印象的に感じさせる。五歳前後だろうか。身につけている衣服は少しボロボロだけれども、不自然に痩せているということもなく、元気そうだ。気を抜いて眺めると女の子に見えなくもない可愛らしい顔立ちだけれども、意思の強い眼差しが男の子なんだと思わせる。
「こんにちは。顔を見せてくれてありがとう。僕は、海風。こっちの鳥たちは、白いほうがクック、黒いほうがポッポだよ。よろしくね」
中水上のおじさんがそうしてくれていたように、男の子の視線より下になるように屈みこんで、なるべく威圧感を与えないようにする。クックとポッポも、挨拶をするように可愛らしく鳴いてくれた。
すると、男の子はジットリとした目で睨みつけてくる。……おや? 思った反応とちょっと違うな?
「よろしくするかどうか、まだ分かんない」
「……うん?」
「だって、オレとアンタ、相手のこと何も知らないだろ。よろしくするかどうか分からないのに、よろしくなんて言えない」
──なるほど、そうきたか。しっかりしているというか、大人びた子というか。ちょっと生意気な感じが、なんだか可愛らしい。
「よろしくするかどうかは、じっくり考えてくれていいよ。じゃあ……、君の名前は? 教えてもらってもいい?」
「……アンタの名前を教えてもらったし、オレのも教えてやる。オレ、アマネ」
「アマネくん? そっか。教えてくれてありがとう」
中水上のおじさんは、僕の言葉を決して否定せず、根気強く話してくれた。だからこそ、僕もすぐに、少しずつとはいえ自分の言葉で話が出来るようになった。
それと同じように、今は僕がこの子の気持ちに寄り添って、話を聞いてあげたい。こんなに小さな子が、何を思って一人でこんなところまで来たのか、きちんと知って、出来れば力になってあげたい。
そんな僕の気持ちが伝わったかどうかは分からないけれど、アマネくんは荷馬車の影から完全に姿を出してくれた。少なくとも、僕が危険人物ではないと分かってくれたのかな? そうだといいな。
春に出会ったアリスちゃんも、はじめは警戒していたけれど、じきに腹を割って素直に話をしてくれた。アマネくんとも、きちんと話をしたい。
「アマネくん、ここがどこだか分かってる?」
「知ってる。魔王の城だろ」
「その通りだよ。……怖くないの?」
「別に。……今の魔王は人間のことが好きみたいだって、魔物たちが言ってたし」
「魔物? アマネくんは、魔物と話が出来るのかな?」
「……」
そこでアマネくんは、小さな唇を閉ざす。気を悪くしたというよりも、何かを迷っているみたいだ。魔物と会話が成立している、もしくは、意思の疎通が出来るとしたら、それはとても便利である一方、この世界の人間的には奇異な存在なのかもしれない。
地球でも、霊感があるとか、オバケが見えるとか、そういう能力がある人って、すごいすごいって言われる一方で気味悪がられたりしていたもんね。きっと、この世界でも、状況は違えど似たような人間関係の展開はあるんだろう。──この子はとても賢そうだから、子どもながらに、そういったことを敏感に察しているのかもしれない。
「え、っと……、僕は、魔王の食事係として、他の世界から召喚されてきたんだ。だから、魔力が全然無くて」
「……そうなのか?」
「うん、そうなんだ。本当に、これっぽっちも無くてさ。だから、魔法は使えないんだけど、この子たち──魔鳥が僕の傍にいて、色々なものから守ってくれるんだよ。この子たちは人の言葉を話せないけど、僕の言っていることは伝わるし、僕もこの子たちが言いたいことってなんとなくだけど分かったりするんだよね。だから、アマネくんにとっても、そういう魔物が傍にいたりするのかな? 実際に会話が出来ているんだとしたら、羨ましいな、すごいなって思ったんだ」
「クックッ」
「ポッポッ」
アマネくんとの会話を繋げるために一生懸命に話す僕を後押しするかのように、クックとポッポも同調して鳴きながらカクカクと頷いてくれた。
「ははっ。……変なヤツと、変な鳥」
僕たちの様子が面白く見えたのか、アマネくんは少し笑う。咲きたての笑顔は、年相応の無邪気なものだった。
こちらの様子を窺っているらしい気配へ声を掛けると、ハッとしたように後ずさるような音が聞こえてきた。怯えさせてしまっただろうか。
「誰かな? 大丈夫、怖くないよ。どんな人が来たのかなって気になっただけなんだ」
「……」
「おいで。一緒に話をしよう。怖いことは何もしないよ」
僕は相手が子どもだと分かっているけど、相手はそうじゃない。ましてや、ここは魔王の城だ。怖がるのが当たり前だと思う。
それでも、荷馬車の影に隠れていた子は、そっと顔を覗かせた。
──男の子だ。猫のような金色の瞳と、晴れた日の青空のようや水色の髪が、僕にとっては珍しいと共に印象的に感じさせる。五歳前後だろうか。身につけている衣服は少しボロボロだけれども、不自然に痩せているということもなく、元気そうだ。気を抜いて眺めると女の子に見えなくもない可愛らしい顔立ちだけれども、意思の強い眼差しが男の子なんだと思わせる。
「こんにちは。顔を見せてくれてありがとう。僕は、海風。こっちの鳥たちは、白いほうがクック、黒いほうがポッポだよ。よろしくね」
中水上のおじさんがそうしてくれていたように、男の子の視線より下になるように屈みこんで、なるべく威圧感を与えないようにする。クックとポッポも、挨拶をするように可愛らしく鳴いてくれた。
すると、男の子はジットリとした目で睨みつけてくる。……おや? 思った反応とちょっと違うな?
「よろしくするかどうか、まだ分かんない」
「……うん?」
「だって、オレとアンタ、相手のこと何も知らないだろ。よろしくするかどうか分からないのに、よろしくなんて言えない」
──なるほど、そうきたか。しっかりしているというか、大人びた子というか。ちょっと生意気な感じが、なんだか可愛らしい。
「よろしくするかどうかは、じっくり考えてくれていいよ。じゃあ……、君の名前は? 教えてもらってもいい?」
「……アンタの名前を教えてもらったし、オレのも教えてやる。オレ、アマネ」
「アマネくん? そっか。教えてくれてありがとう」
中水上のおじさんは、僕の言葉を決して否定せず、根気強く話してくれた。だからこそ、僕もすぐに、少しずつとはいえ自分の言葉で話が出来るようになった。
それと同じように、今は僕がこの子の気持ちに寄り添って、話を聞いてあげたい。こんなに小さな子が、何を思って一人でこんなところまで来たのか、きちんと知って、出来れば力になってあげたい。
そんな僕の気持ちが伝わったかどうかは分からないけれど、アマネくんは荷馬車の影から完全に姿を出してくれた。少なくとも、僕が危険人物ではないと分かってくれたのかな? そうだといいな。
春に出会ったアリスちゃんも、はじめは警戒していたけれど、じきに腹を割って素直に話をしてくれた。アマネくんとも、きちんと話をしたい。
「アマネくん、ここがどこだか分かってる?」
「知ってる。魔王の城だろ」
「その通りだよ。……怖くないの?」
「別に。……今の魔王は人間のことが好きみたいだって、魔物たちが言ってたし」
「魔物? アマネくんは、魔物と話が出来るのかな?」
「……」
そこでアマネくんは、小さな唇を閉ざす。気を悪くしたというよりも、何かを迷っているみたいだ。魔物と会話が成立している、もしくは、意思の疎通が出来るとしたら、それはとても便利である一方、この世界の人間的には奇異な存在なのかもしれない。
地球でも、霊感があるとか、オバケが見えるとか、そういう能力がある人って、すごいすごいって言われる一方で気味悪がられたりしていたもんね。きっと、この世界でも、状況は違えど似たような人間関係の展開はあるんだろう。──この子はとても賢そうだから、子どもながらに、そういったことを敏感に察しているのかもしれない。
「え、っと……、僕は、魔王の食事係として、他の世界から召喚されてきたんだ。だから、魔力が全然無くて」
「……そうなのか?」
「うん、そうなんだ。本当に、これっぽっちも無くてさ。だから、魔法は使えないんだけど、この子たち──魔鳥が僕の傍にいて、色々なものから守ってくれるんだよ。この子たちは人の言葉を話せないけど、僕の言っていることは伝わるし、僕もこの子たちが言いたいことってなんとなくだけど分かったりするんだよね。だから、アマネくんにとっても、そういう魔物が傍にいたりするのかな? 実際に会話が出来ているんだとしたら、羨ましいな、すごいなって思ったんだ」
「クックッ」
「ポッポッ」
アマネくんとの会話を繋げるために一生懸命に話す僕を後押しするかのように、クックとポッポも同調して鳴きながらカクカクと頷いてくれた。
「ははっ。……変なヤツと、変な鳥」
僕たちの様子が面白く見えたのか、アマネくんは少し笑う。咲きたての笑顔は、年相応の無邪気なものだった。
1
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
スキル買います
モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」
ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。
見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。
婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。
レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。
そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。
かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる