魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-14】

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「誰?」

 こちらの様子を窺っているらしい気配へ声を掛けると、ハッとしたように後ずさるような音が聞こえてきた。怯えさせてしまっただろうか。

「誰かな? 大丈夫、怖くないよ。どんな人が来たのかなって気になっただけなんだ」
「……」
「おいで。一緒に話をしよう。怖いことは何もしないよ」

 僕は相手が子どもだと分かっているけど、相手はそうじゃない。ましてや、ここは魔王の城だ。怖がるのが当たり前だと思う。
 それでも、荷馬車の影に隠れていた子は、そっと顔を覗かせた。
 ──男の子だ。猫のような金色の瞳と、晴れた日の青空のようや水色の髪が、僕にとっては珍しいと共に印象的に感じさせる。五歳前後だろうか。身につけている衣服は少しボロボロだけれども、不自然に痩せているということもなく、元気そうだ。気を抜いて眺めると女の子に見えなくもない可愛らしい顔立ちだけれども、意思の強い眼差しが男の子なんだと思わせる。

「こんにちは。顔を見せてくれてありがとう。僕は、海風みか。こっちの鳥たちは、白いほうがクック、黒いほうがポッポだよ。よろしくね」

 中水上なかみかみのおじさんがそうしてくれていたように、男の子の視線より下になるように屈みこんで、なるべく威圧感を与えないようにする。クックとポッポも、挨拶をするように可愛らしく鳴いてくれた。
すると、男の子はジットリとした目で睨みつけてくる。……おや? 思った反応とちょっと違うな?

「よろしくするかどうか、まだ分かんない」
「……うん?」
「だって、オレとアンタ、相手のこと何も知らないだろ。よろしくするかどうか分からないのに、よろしくなんて言えない」

 ──なるほど、そうきたか。しっかりしているというか、大人びた子というか。ちょっと生意気な感じが、なんだか可愛らしい。

「よろしくするかどうかは、じっくり考えてくれていいよ。じゃあ……、君の名前は? 教えてもらってもいい?」
「……アンタの名前を教えてもらったし、オレのも教えてやる。オレ、アマネ」
「アマネくん? そっか。教えてくれてありがとう」

 中水上のおじさんは、僕の言葉を決して否定せず、根気強く話してくれた。だからこそ、僕もすぐに、少しずつとはいえ自分の言葉で話が出来るようになった。
 それと同じように、今は僕がこの子の気持ちに寄り添って、話を聞いてあげたい。こんなに小さな子が、何を思って一人でこんなところまで来たのか、きちんと知って、出来れば力になってあげたい。

 そんな僕の気持ちが伝わったかどうかは分からないけれど、アマネくんは荷馬車の影から完全に姿を出してくれた。少なくとも、僕が危険人物ではないと分かってくれたのかな? そうだといいな。
 春に出会ったアリスちゃんも、はじめは警戒していたけれど、じきに腹を割って素直に話をしてくれた。アマネくんとも、きちんと話をしたい。

「アマネくん、ここがどこだか分かってる?」
「知ってる。魔王の城だろ」
「その通りだよ。……怖くないの?」
「別に。……今の魔王は人間のことが好きみたいだって、魔物たちが言ってたし」
「魔物? アマネくんは、魔物と話が出来るのかな?」
「……」

 そこでアマネくんは、小さな唇を閉ざす。気を悪くしたというよりも、何かを迷っているみたいだ。魔物と会話が成立している、もしくは、意思の疎通が出来るとしたら、それはとても便利である一方、この世界の人間的には奇異な存在なのかもしれない。
 地球でも、霊感があるとか、オバケが見えるとか、そういう能力がある人って、すごいすごいって言われる一方で気味悪がられたりしていたもんね。きっと、この世界でも、状況は違えど似たような人間関係の展開はあるんだろう。──この子はとても賢そうだから、子どもながらに、そういったことを敏感に察しているのかもしれない。

「え、っと……、僕は、魔王の食事係として、他の世界から召喚されてきたんだ。だから、魔力が全然無くて」
「……そうなのか?」
「うん、そうなんだ。本当に、これっぽっちも無くてさ。だから、魔法は使えないんだけど、この子たち──魔鳥が僕の傍にいて、色々なものから守ってくれるんだよ。この子たちは人の言葉を話せないけど、僕の言っていることは伝わるし、僕もこの子たちが言いたいことってなんとなくだけど分かったりするんだよね。だから、アマネくんにとっても、そういう魔物が傍にいたりするのかな? 実際に会話が出来ているんだとしたら、羨ましいな、すごいなって思ったんだ」
「クックッ」
「ポッポッ」

 アマネくんとの会話を繋げるために一生懸命に話す僕を後押しするかのように、クックとポッポも同調して鳴きながらカクカクと頷いてくれた。

「ははっ。……変なヤツと、変な鳥」

 僕たちの様子が面白く見えたのか、アマネくんは少し笑う。咲きたての笑顔は、年相応の無邪気なものだった。
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