魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第9話】父と息子と豚汁と

【9-17】

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「……オレ、父さんがどんなヤツなのか知らない。魔力が強いヤツってことしか、知らねぇんだ。でも、母さんのために、父さんを探したくて……、魔物に相談してたんだよ」
「魔物に? 魔物も一緒に探してくれてたのかな?」
「うん。……オレ、魔力が強いっていえば魔王だろって思ってさ。魔王が父さんなんじゃないかって考えたこともある。……でも、それは違うって。オレの中から魔王の気配はしないって、魔物が教えてくれた」
「そっか……」

 どうやら、アマネくんは自分の父親が魔王──すなわちジルではないと明確に分かっているらしい。
 そして、僕も何故だか安心していた。理由はよく分からないし、もしもジルがこの子の父親だったなら不憫な思いはさせないように努めるだろうとも思うのに、それでも不思議なことにホッとしてしまう。
 そんな自分を誤魔化すかのように、僕はアマネくんの話の続きを求めた。

「……じゃあ、アマネくんはどうしてここに?お父さんが魔王じゃないって分かったんだよね?」
「うん。でも、魔物たちが言うんだよ。ここに向かってる魔力が強い男の気配が、オレと似てるって。きっとソイツが父さんだって、案内してやるから行ってこいって」
「……魔物たちが?」
「うん。アイツら、オレのこと心配してんだよ。母さんにあんまり世話してもらえてないだろって、果物とか木の実とかやたらとくれるんだ。そんなに心配しなくてもいいのにさ。……でも、悪いヤツらじゃないから。だから、アイツらが行ったほうがいいって言うならきっとそうなんだろうなって、そう思ったから」

 なるほど。アマネくんからはあんまり「歪み」というか、病んだ部分というか、蝕まれている箇所というか、要は幼い頃の僕にあったような負の状態が伝わってこないのは、彼を気に掛けている魔物たちの力が大きいのかもしれない。
勿論、アマネくん自身がまっすぐで強い子なのは確かだと思う。芯が通ってしっかりしているし、お母さんへの思いやりも深い。ただ、そうして素直な心を保っているのは、周囲の支えも多いんじゃないかと僕は思う。──誰にも頼れないのは、今思い返せば、とても寂しくて苦しいものだからね。

 とにもかくにも、魔物とはいえアマネくんを気に掛けてくれている存在がいるのは安心だけれども、その魔物たちが「アマネくんのお父さん」として認識しているのが誰なのか──、当然、一人しか思い浮かばない。
 わざわざ「ここに向かってきている」と言っていたということは、常にこの城にいる者ではなく、対象は訪問者に限られる。今日の訪問者は、二人。マティ様はアマネくんのお父さんじゃないはずだ。もしも、自分が子どもを持った可能性があるのなら、あの方ならば全力で守ろうとするだろう。少なくとも、見捨てたりなんて、絶対にしない。
 となると、必然的に──、ジルが予想していた通り、賢者様に隠し子がいた、となるんだろうか。……そういえば、ドノヴァンさんの目の色は、金色だったような。

「なぁ、ミカ! ミカってば!」
「ぅわっ。ビックリした! ど、どうしたの、アマネくん?」
「どうしたのー、じゃねぇよ! さっきから呼んでんじゃん!」
「わっ、わっ、ごめんねっ」

 小さな拳に脇腹をポカポカ殴られて、痛くは無いけど、なんだかくすぐったい。元気な子どもって、可愛いなぁ。微笑ましくなりつつ、膨れっ面のアマネくんの目を覗き込む。

「それで、どうしたの?」
「だーかーらー、ミカはここに住んでんだろ? オレの父さんっぽいの、ここに来てる? 会ってねぇ?」
「う、うーん……、それをずっと考えているんだけど……、どうかなぁ」

 アマネくんの来訪の目的はハッキリしたけれど、ジルのドノヴァンさんに対する探りの結果が共有されていない以上、どうしたらいいのか判断が難しい。考えているフリをして誤魔化してみたとしても、賢そうなアマネくんならすぐに何かを察してしまう気がする。
 ジルとカミュのほうの首尾はどうなんだろう。気になってクックとポッポをちらっと見てみると、愛鳥たちはドヤ顔をして「任せろ!」と胸を張った後、何故か地面へ飛び降りた。そして、二羽揃ってプルプルプルプルッと高速で首を横に振り始める。

「……、……えっ?」
「…………なぁ、ミカ。この鳥、何やってんの?」
「えっと……、どうしたんだろうね」

 たぶん、ジルやカミュと脳内で通信し合っているんだと思うけど、こんな方法だとは思いもしなかったな……。いや、必死にプルプルしてて可愛いんだけど、頭が痛くなったりしないだろうか。頭と一緒にお尻も振っていて、結構な勢いだから、なんだか心配になってしまう。
 アマネくんと一緒にハラハラしながら見守っていると、鳥たちは同時にピタッと止まる。思わず二人揃ってビクッと肩を震わせた瞬間、不意に背後で重ための羽音が響いた。もしかして、と振り向くと、紅い髪をサラリと風に靡かせながら美しい悪魔が微笑んでいた。
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