魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
196 / 246
【第9話】父と息子と豚汁と

【9-18】

しおりを挟む
「うっわ……美人……」

 思わずといったようにアマネくんが呟く。僕以外でカミュの美貌について言及している人に、初めて出会った気がする。なんだか嬉しい。

「綺麗な人でしょ? とっても優しいんだよ」
「……でも、悪魔なんだろ?」

 無垢な少年の指先が、カミュの黒い羽をまっすぐに示す。カミュは気を悪くした様子も無く、アマネくんに笑いかけた。

「ええ。坊ちゃんの仰る通り、私は悪魔です。正確には、『魔の者』という種族ですが。……怖いですか?」
「いーや、全然。だって、こんな弱っちそうなミカが怖がってないんだぜ? 怖くない」

 うっ……、こんな小さな男の子から見ても、僕は弱々しいんだろうか。もっと身体を鍛えないとダメだなぁ。
 僕が密かにショックを受けていることに気付いたのか、カミュは柔らかい苦笑を浮かべる。

「ミカさんは、弱い人間ではありませんよ。私や魔王様の傍にいても怯えたりせず、伸び伸びと過ごしていらっしゃるのですから」
「せーしん的には強そうだけど、筋肉は無いだろ。喧嘩は弱そうじゃん。魔力も無いみたいだし」

 うっ……、言い返せそうな隙が何も無い。カミュは苦笑を深め、アマネくんの視線の高さに合わせて屈み込む。そして、表情を優しい微笑に戻してから、穏やかに話しかけ始めた。

「改めまして、こんにちは。私の名は、カマルティユ。カミュ、でいいですよ。……青空のような髪のお坊ちゃん、お名前をお聞きしても?」
「坊ちゃんって言うな! オレ、アマネ」
「アマネ殿ですね」
「えー……、なんかその呼ばれ方きもちわりぃ! アマネでいいよ」
「そうですか。では、アマネ。ここは魔王の城だと知っていますか?」

 相手が魔の者でも臆することなく言葉を返してくる少年を微笑ましそうに見つめながら、カミュは真摯に問い掛ける。アマネくんは堂々と頷いた。

「知ってる!」
「そうでしたか。……では、魔王の城を訪れてもよいのは、一部の特例を除いて、魔王に勝負を挑む者に限られるというのは知っていますか?」

 カミュの声音はあくまでも柔らかい。アマネくんを責める意図は無いと、十分に伝わってくる。しかし、その一方で、彼は少年を帰そうとしているのだと予感させるような言葉でもあった。
アマネくんもそれを敏感に察したのか、表情を曇らせる。

「──オレ、魔王と勝負しに来たんじゃない。父さんを探しに来たんだ」
「そうでしたか。……それでしたら、貴方が望むような結果は得られないかと。日が傾きつつありますが、今ならまだ、夜になる前に家まで帰れるのでは? 森が暗闇に包まれる前に、お帰りになったほうがよろしいかと思いますよ」

 カミュは不必要な嘘を口にしない性格だ。今も「父親はいない」と明言は避けつつも、ここで父親を探しても無駄だと暗に諭している。
 ──つまり、それが、ジルの得た情報も交えて出した結論なんだろう。アマネくんのお父さんはドノヴァンさんである可能性が高いけれども、賢者様はアマネくんの存在を否定したり拒んだりしているんだ。だから、二人が顔を合わせる前にアマネくんを帰したほうがいいと、そういうことなんだろう。

 それでも、アマネくんは簡単に諦めてくれそうにない。キリッと表情を引き締めて立ち上がり、カミュをまっすぐに見上げる。

「なぁ! ちょっとだけでいいんだ。魔王にオレの父さんのこと、訊いてみたい! オレの父さん、魔力が強いんだって!魔王と強いんだろっ? 魔力が強い同士でさ、何か知ってるかもしれないじゃん!」
「それは……どうでしょうね……」

 アマネくんの真剣な澄んだ眼差しを受け取るカミュは、困ったように眉尻を下げた。彼は、こんなに小さい子どものひたむきな願いごとを無碍に出来るひとじゃない。人間よりもよほど深い優しさと慈しみの心を持った悪魔なんだ。
カミュは切ない面持ちで、心苦しそうに言葉を続けた。

「意地悪で言っているのではありません。貴方のためを思って言っているのです。……貴方が傷つかないためにも、早く帰ったほうがいいでしょう」
「魔王も手下も優しいのに、何を傷つくんだよ! オレ、知ってるんだからな! 今の魔王は人間を傷つけたりしないって! 魔物から聞いて知ってるんだからな!」
「いえ、それは……」
「ほう。魔物と意思の疎通が出来るのか」

 カミュがアマネくんの言葉に答えるのを遮るようにして、渋い声が背後から響く。驚いて振り向くと、いつの間にか賢者が立っていた。転移魔法で現れたのだろうか。

「おい、賢者! 待てと言っているだろうが!」

 ドノヴァンさんを慌てて追いかけて転移してきたらしいジルは、妙に焦った顔をしている。アマネくんは、頭から角が生えている魔王には見向きもせず、その隣に立つ中年紳士をじっと見つめていた。

「……もしかして、父さん?」
「どうだかな。その問いに答える前に、その手を貸しなさい」
「よせ、賢者!」
「止めてくださいますな、閣下。これは人間たちの問題ですからな。貴殿の入る余地は無いはずですぞ。……さぁ、少年。こちらへ来るのだ」

 不気味な笑みを浮かべる賢者に誘われるまま、アマネくんはフラフラとそちらへ近づいて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...