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【第9話】父と息子と豚汁と
【9-18】
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「うっわ……美人……」
思わずといったようにアマネくんが呟く。僕以外でカミュの美貌について言及している人に、初めて出会った気がする。なんだか嬉しい。
「綺麗な人でしょ? とっても優しいんだよ」
「……でも、悪魔なんだろ?」
無垢な少年の指先が、カミュの黒い羽をまっすぐに示す。カミュは気を悪くした様子も無く、アマネくんに笑いかけた。
「ええ。坊ちゃんの仰る通り、私は悪魔です。正確には、『魔の者』という種族ですが。……怖いですか?」
「いーや、全然。だって、こんな弱っちそうなミカが怖がってないんだぜ? 怖くない」
うっ……、こんな小さな男の子から見ても、僕は弱々しいんだろうか。もっと身体を鍛えないとダメだなぁ。
僕が密かにショックを受けていることに気付いたのか、カミュは柔らかい苦笑を浮かべる。
「ミカさんは、弱い人間ではありませんよ。私や魔王様の傍にいても怯えたりせず、伸び伸びと過ごしていらっしゃるのですから」
「せーしん的には強そうだけど、筋肉は無いだろ。喧嘩は弱そうじゃん。魔力も無いみたいだし」
うっ……、言い返せそうな隙が何も無い。カミュは苦笑を深め、アマネくんの視線の高さに合わせて屈み込む。そして、表情を優しい微笑に戻してから、穏やかに話しかけ始めた。
「改めまして、こんにちは。私の名は、カマルティユ。カミュ、でいいですよ。……青空のような髪のお坊ちゃん、お名前をお聞きしても?」
「坊ちゃんって言うな! オレ、アマネ」
「アマネ殿ですね」
「えー……、なんかその呼ばれ方きもちわりぃ! アマネでいいよ」
「そうですか。では、アマネ。ここは魔王の城だと知っていますか?」
相手が魔の者でも臆することなく言葉を返してくる少年を微笑ましそうに見つめながら、カミュは真摯に問い掛ける。アマネくんは堂々と頷いた。
「知ってる!」
「そうでしたか。……では、魔王の城を訪れてもよいのは、一部の特例を除いて、魔王に勝負を挑む者に限られるというのは知っていますか?」
カミュの声音はあくまでも柔らかい。アマネくんを責める意図は無いと、十分に伝わってくる。しかし、その一方で、彼は少年を帰そうとしているのだと予感させるような言葉でもあった。
アマネくんもそれを敏感に察したのか、表情を曇らせる。
「──オレ、魔王と勝負しに来たんじゃない。父さんを探しに来たんだ」
「そうでしたか。……それでしたら、貴方が望むような結果は得られないかと。日が傾きつつありますが、今ならまだ、夜になる前に家まで帰れるのでは? 森が暗闇に包まれる前に、お帰りになったほうがよろしいかと思いますよ」
カミュは不必要な嘘を口にしない性格だ。今も「父親はいない」と明言は避けつつも、ここで父親を探しても無駄だと暗に諭している。
──つまり、それが、ジルの得た情報も交えて出した結論なんだろう。アマネくんのお父さんはドノヴァンさんである可能性が高いけれども、賢者様はアマネくんの存在を否定したり拒んだりしているんだ。だから、二人が顔を合わせる前にアマネくんを帰したほうがいいと、そういうことなんだろう。
それでも、アマネくんは簡単に諦めてくれそうにない。キリッと表情を引き締めて立ち上がり、カミュをまっすぐに見上げる。
「なぁ! ちょっとだけでいいんだ。魔王にオレの父さんのこと、訊いてみたい! オレの父さん、魔力が強いんだって!魔王と強いんだろっ? 魔力が強い同士でさ、何か知ってるかもしれないじゃん!」
「それは……どうでしょうね……」
アマネくんの真剣な澄んだ眼差しを受け取るカミュは、困ったように眉尻を下げた。彼は、こんなに小さい子どものひたむきな願いごとを無碍に出来るひとじゃない。人間よりもよほど深い優しさと慈しみの心を持った悪魔なんだ。
カミュは切ない面持ちで、心苦しそうに言葉を続けた。
「意地悪で言っているのではありません。貴方のためを思って言っているのです。……貴方が傷つかないためにも、早く帰ったほうがいいでしょう」
「魔王も手下も優しいのに、何を傷つくんだよ! オレ、知ってるんだからな! 今の魔王は人間を傷つけたりしないって! 魔物から聞いて知ってるんだからな!」
「いえ、それは……」
「ほう。魔物と意思の疎通が出来るのか」
カミュがアマネくんの言葉に答えるのを遮るようにして、渋い声が背後から響く。驚いて振り向くと、いつの間にか賢者が立っていた。転移魔法で現れたのだろうか。
「おい、賢者! 待てと言っているだろうが!」
ドノヴァンさんを慌てて追いかけて転移してきたらしいジルは、妙に焦った顔をしている。アマネくんは、頭から角が生えている魔王には見向きもせず、その隣に立つ中年紳士をじっと見つめていた。
「……もしかして、父さん?」
「どうだかな。その問いに答える前に、その手を貸しなさい」
「よせ、賢者!」
「止めてくださいますな、閣下。これは人間たちの問題ですからな。貴殿の入る余地は無いはずですぞ。……さぁ、少年。こちらへ来るのだ」
不気味な笑みを浮かべる賢者に誘われるまま、アマネくんはフラフラとそちらへ近づいて行った。
思わずといったようにアマネくんが呟く。僕以外でカミュの美貌について言及している人に、初めて出会った気がする。なんだか嬉しい。
「綺麗な人でしょ? とっても優しいんだよ」
「……でも、悪魔なんだろ?」
無垢な少年の指先が、カミュの黒い羽をまっすぐに示す。カミュは気を悪くした様子も無く、アマネくんに笑いかけた。
「ええ。坊ちゃんの仰る通り、私は悪魔です。正確には、『魔の者』という種族ですが。……怖いですか?」
「いーや、全然。だって、こんな弱っちそうなミカが怖がってないんだぜ? 怖くない」
うっ……、こんな小さな男の子から見ても、僕は弱々しいんだろうか。もっと身体を鍛えないとダメだなぁ。
僕が密かにショックを受けていることに気付いたのか、カミュは柔らかい苦笑を浮かべる。
「ミカさんは、弱い人間ではありませんよ。私や魔王様の傍にいても怯えたりせず、伸び伸びと過ごしていらっしゃるのですから」
「せーしん的には強そうだけど、筋肉は無いだろ。喧嘩は弱そうじゃん。魔力も無いみたいだし」
うっ……、言い返せそうな隙が何も無い。カミュは苦笑を深め、アマネくんの視線の高さに合わせて屈み込む。そして、表情を優しい微笑に戻してから、穏やかに話しかけ始めた。
「改めまして、こんにちは。私の名は、カマルティユ。カミュ、でいいですよ。……青空のような髪のお坊ちゃん、お名前をお聞きしても?」
「坊ちゃんって言うな! オレ、アマネ」
「アマネ殿ですね」
「えー……、なんかその呼ばれ方きもちわりぃ! アマネでいいよ」
「そうですか。では、アマネ。ここは魔王の城だと知っていますか?」
相手が魔の者でも臆することなく言葉を返してくる少年を微笑ましそうに見つめながら、カミュは真摯に問い掛ける。アマネくんは堂々と頷いた。
「知ってる!」
「そうでしたか。……では、魔王の城を訪れてもよいのは、一部の特例を除いて、魔王に勝負を挑む者に限られるというのは知っていますか?」
カミュの声音はあくまでも柔らかい。アマネくんを責める意図は無いと、十分に伝わってくる。しかし、その一方で、彼は少年を帰そうとしているのだと予感させるような言葉でもあった。
アマネくんもそれを敏感に察したのか、表情を曇らせる。
「──オレ、魔王と勝負しに来たんじゃない。父さんを探しに来たんだ」
「そうでしたか。……それでしたら、貴方が望むような結果は得られないかと。日が傾きつつありますが、今ならまだ、夜になる前に家まで帰れるのでは? 森が暗闇に包まれる前に、お帰りになったほうがよろしいかと思いますよ」
カミュは不必要な嘘を口にしない性格だ。今も「父親はいない」と明言は避けつつも、ここで父親を探しても無駄だと暗に諭している。
──つまり、それが、ジルの得た情報も交えて出した結論なんだろう。アマネくんのお父さんはドノヴァンさんである可能性が高いけれども、賢者様はアマネくんの存在を否定したり拒んだりしているんだ。だから、二人が顔を合わせる前にアマネくんを帰したほうがいいと、そういうことなんだろう。
それでも、アマネくんは簡単に諦めてくれそうにない。キリッと表情を引き締めて立ち上がり、カミュをまっすぐに見上げる。
「なぁ! ちょっとだけでいいんだ。魔王にオレの父さんのこと、訊いてみたい! オレの父さん、魔力が強いんだって!魔王と強いんだろっ? 魔力が強い同士でさ、何か知ってるかもしれないじゃん!」
「それは……どうでしょうね……」
アマネくんの真剣な澄んだ眼差しを受け取るカミュは、困ったように眉尻を下げた。彼は、こんなに小さい子どものひたむきな願いごとを無碍に出来るひとじゃない。人間よりもよほど深い優しさと慈しみの心を持った悪魔なんだ。
カミュは切ない面持ちで、心苦しそうに言葉を続けた。
「意地悪で言っているのではありません。貴方のためを思って言っているのです。……貴方が傷つかないためにも、早く帰ったほうがいいでしょう」
「魔王も手下も優しいのに、何を傷つくんだよ! オレ、知ってるんだからな! 今の魔王は人間を傷つけたりしないって! 魔物から聞いて知ってるんだからな!」
「いえ、それは……」
「ほう。魔物と意思の疎通が出来るのか」
カミュがアマネくんの言葉に答えるのを遮るようにして、渋い声が背後から響く。驚いて振り向くと、いつの間にか賢者が立っていた。転移魔法で現れたのだろうか。
「おい、賢者! 待てと言っているだろうが!」
ドノヴァンさんを慌てて追いかけて転移してきたらしいジルは、妙に焦った顔をしている。アマネくんは、頭から角が生えている魔王には見向きもせず、その隣に立つ中年紳士をじっと見つめていた。
「……もしかして、父さん?」
「どうだかな。その問いに答える前に、その手を貸しなさい」
「よせ、賢者!」
「止めてくださいますな、閣下。これは人間たちの問題ですからな。貴殿の入る余地は無いはずですぞ。……さぁ、少年。こちらへ来るのだ」
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