215 / 246
【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー
【10-9】
しおりを挟む
◆◆◆
オピテルさんが去った後は普通の一日が過ぎ、翌日の今日も昼ごはんまで穏やかに時間が過ぎていった。本格的に寒くなる前にと、秋は魔王へ勝負を挑みに来る人が増える傾向にあるみたいだけど、今日は挑戦者が訪れる気配は無いようだ。
昼食後、ジルとカミュは魔王としての仕事をこなす為に部屋で集中し始めたようなので、僕は調理場でのんびりと後片付けをしている。
片付けが終わったら、書庫で読書でもしようかな。食欲の秋と読書の秋を満喫する日々は、とても幸せだ。ジルやカミュが丁寧に教えてくれるおかげで、この世界の文章も、簡単なものなら読み解けるようになってきた。子ども向けの絵本や童話であれば、彼らの手を借りなくても読めたりする。ささやかなことかもしれないけれど、この世界に来てからの成長のように感じられて、なんだか嬉しい。
「クックとポッポも、一緒に書庫に行ってくれる? お昼寝してていいからさ」
「クゥ……」
「ポー……」
──あれ? なんか、愛鳥たちの様子が変だ。こういう提案をすると、いつも喜んでクポクポ騒ぐのに。今は妙におとなしい。
心配になって、手元の洗い物から鳥たちに視線を移すと、近くの棚の上でくつろいでいたはずの彼らは、窓の外の様子をしきりに気にしているようだった。
「クック、ポッポ、どうしたの? 誰か来た?」
そう問い掛けると、彼らは互いに顔を見合せて首を傾げている。判断に迷う来訪者なのだろうか。もしも敵対関係になりそうな相手が来たり、危険が迫るような状況が予想されそうであれば、クックとポッポは僕を守りながら警戒し始めるはずだ。
魔鳥たちが戸惑っているということは、明確な敵が訪れたというわけではないのだろう。それに、今はカミュが体調を崩したりもしていないから、何か不審なものが近付けば真っ先に反応してくれるはず。
──でも、僕も一応は警戒しておいたほうがいいかな。イラさんのときのように、精霊の加護を受けた人が侵入してきた場合、魔王と悪魔でさえ後手に回ってしまいかねない。
僕は洗い物を一時中断して手を拭き、首から下げているジルの守護鈴に指を置いた。何が起きても、瞬間的にこれを鳴らせば、ジルが駆け付けてくれる。
ドキドキしながら、クックとポッポが凝視している窓を僕も注意深く見つめた。すると、さほど待たずに、大きな羽音が聞こえてくる。……オピテルさん? ううん、違う。この音は、カミュのものによく似ている。……ということは?
来訪者の予想が定まったところで、まさに思い描いていた通りの顔がヒョコッと現れて窓越しにこちらを眺めてくる。僕と目が合った緑色の悪魔──ノヴァユエは、ニパッと人懐こく笑った。そして、窓をコツコツとノックしてくる。
「ミカじゃーん! 久しぶりっ★ 元気だった!? ボクは超元気ー! ね、ね、ここ開けてっ☆ 会いたかったよッ★」
眼鏡をかけていることもあって黙っていればそれなりに知的な風貌であるのに、口を開けばそんなイメージが一瞬でも霧散してしまうのがノヴァユエの個性であり良いところだと、僕は思っている。
「クック、ポッポ、彼はノヴァユエだよね? 窓を開けても大丈夫?」
「クッ!」
「ポッ!」
万が一、ノヴァユエに擬態した誰かだったら困ると思って魔鳥たちに尋ねてみると、二羽そろってドヤ顔でカクカクと頷いてくれた。うん、この子たちが自信満々ってことは大丈夫だよね。
そもそも、ノヴァユエもしくは擬態した悪い奴なら、わざわざ僕に窓を開けさせたりせず、自ら勝手に突入してくるはずだ。玄関から普通に入ってくればいいのにとも思うけれども、自由気ままなノヴァユエにしては礼儀正しく窓をノックしてくれたんだろうし、まぁいっか。
「こんにちは、ノヴァユエ。久しぶりに会えて嬉しいよ。──ん?」
窓の鍵を外して開けながらノヴァユエを見ると、彼の蝙蝠羽の後ろに、紫色の髪が見え隠れしている。そのひとにも黒い蝙蝠羽が生えているから、魔の者なんだろう。
「ノヴァユエ、お友達を連れてきたの?」
「えっ? いやー、友達ってゆーか、仲間ってゆーかぁ? ……ほらっ! セレーナ! 挨拶してッ!」
えっ? セレーナ? ──って、もしかして、オピテルさんが探していたセレーナさん?
僕が密かにビックリしている間に、ノヴァユエはさっさと調理場の中へ入ってきて、セレーナさんの細い腕をグイグイと引っ張っている。華奢な身体はクラシカルな黒いメイドドレスに包まれ、紫髪は前下がりボブのような感じに整えられている彼女は、緑の悪魔に引きずられるまま中へと入ってきた。──と思いきや、僕と視線が交わった瞬間、何故か唐突に土下座をする。
「えっ!? えっ、あの、な、何を、」
「申し訳ございませんんんん! アタクシのようなゴミ虫めが、アナタ様のように愛らしい存在の視界に入るなどおおお! 罪深い! 罪深いいいい! 全くもって申し訳ございませんんんん!」
「な、何を言ってるの……!?」
突然すさまじい勢いで謝罪をされて困惑している僕の背後で、バサリと大きな羽音が響いた。
オピテルさんが去った後は普通の一日が過ぎ、翌日の今日も昼ごはんまで穏やかに時間が過ぎていった。本格的に寒くなる前にと、秋は魔王へ勝負を挑みに来る人が増える傾向にあるみたいだけど、今日は挑戦者が訪れる気配は無いようだ。
昼食後、ジルとカミュは魔王としての仕事をこなす為に部屋で集中し始めたようなので、僕は調理場でのんびりと後片付けをしている。
片付けが終わったら、書庫で読書でもしようかな。食欲の秋と読書の秋を満喫する日々は、とても幸せだ。ジルやカミュが丁寧に教えてくれるおかげで、この世界の文章も、簡単なものなら読み解けるようになってきた。子ども向けの絵本や童話であれば、彼らの手を借りなくても読めたりする。ささやかなことかもしれないけれど、この世界に来てからの成長のように感じられて、なんだか嬉しい。
「クックとポッポも、一緒に書庫に行ってくれる? お昼寝してていいからさ」
「クゥ……」
「ポー……」
──あれ? なんか、愛鳥たちの様子が変だ。こういう提案をすると、いつも喜んでクポクポ騒ぐのに。今は妙におとなしい。
心配になって、手元の洗い物から鳥たちに視線を移すと、近くの棚の上でくつろいでいたはずの彼らは、窓の外の様子をしきりに気にしているようだった。
「クック、ポッポ、どうしたの? 誰か来た?」
そう問い掛けると、彼らは互いに顔を見合せて首を傾げている。判断に迷う来訪者なのだろうか。もしも敵対関係になりそうな相手が来たり、危険が迫るような状況が予想されそうであれば、クックとポッポは僕を守りながら警戒し始めるはずだ。
魔鳥たちが戸惑っているということは、明確な敵が訪れたというわけではないのだろう。それに、今はカミュが体調を崩したりもしていないから、何か不審なものが近付けば真っ先に反応してくれるはず。
──でも、僕も一応は警戒しておいたほうがいいかな。イラさんのときのように、精霊の加護を受けた人が侵入してきた場合、魔王と悪魔でさえ後手に回ってしまいかねない。
僕は洗い物を一時中断して手を拭き、首から下げているジルの守護鈴に指を置いた。何が起きても、瞬間的にこれを鳴らせば、ジルが駆け付けてくれる。
ドキドキしながら、クックとポッポが凝視している窓を僕も注意深く見つめた。すると、さほど待たずに、大きな羽音が聞こえてくる。……オピテルさん? ううん、違う。この音は、カミュのものによく似ている。……ということは?
来訪者の予想が定まったところで、まさに思い描いていた通りの顔がヒョコッと現れて窓越しにこちらを眺めてくる。僕と目が合った緑色の悪魔──ノヴァユエは、ニパッと人懐こく笑った。そして、窓をコツコツとノックしてくる。
「ミカじゃーん! 久しぶりっ★ 元気だった!? ボクは超元気ー! ね、ね、ここ開けてっ☆ 会いたかったよッ★」
眼鏡をかけていることもあって黙っていればそれなりに知的な風貌であるのに、口を開けばそんなイメージが一瞬でも霧散してしまうのがノヴァユエの個性であり良いところだと、僕は思っている。
「クック、ポッポ、彼はノヴァユエだよね? 窓を開けても大丈夫?」
「クッ!」
「ポッ!」
万が一、ノヴァユエに擬態した誰かだったら困ると思って魔鳥たちに尋ねてみると、二羽そろってドヤ顔でカクカクと頷いてくれた。うん、この子たちが自信満々ってことは大丈夫だよね。
そもそも、ノヴァユエもしくは擬態した悪い奴なら、わざわざ僕に窓を開けさせたりせず、自ら勝手に突入してくるはずだ。玄関から普通に入ってくればいいのにとも思うけれども、自由気ままなノヴァユエにしては礼儀正しく窓をノックしてくれたんだろうし、まぁいっか。
「こんにちは、ノヴァユエ。久しぶりに会えて嬉しいよ。──ん?」
窓の鍵を外して開けながらノヴァユエを見ると、彼の蝙蝠羽の後ろに、紫色の髪が見え隠れしている。そのひとにも黒い蝙蝠羽が生えているから、魔の者なんだろう。
「ノヴァユエ、お友達を連れてきたの?」
「えっ? いやー、友達ってゆーか、仲間ってゆーかぁ? ……ほらっ! セレーナ! 挨拶してッ!」
えっ? セレーナ? ──って、もしかして、オピテルさんが探していたセレーナさん?
僕が密かにビックリしている間に、ノヴァユエはさっさと調理場の中へ入ってきて、セレーナさんの細い腕をグイグイと引っ張っている。華奢な身体はクラシカルな黒いメイドドレスに包まれ、紫髪は前下がりボブのような感じに整えられている彼女は、緑の悪魔に引きずられるまま中へと入ってきた。──と思いきや、僕と視線が交わった瞬間、何故か唐突に土下座をする。
「えっ!? えっ、あの、な、何を、」
「申し訳ございませんんんん! アタクシのようなゴミ虫めが、アナタ様のように愛らしい存在の視界に入るなどおおお! 罪深い! 罪深いいいい! 全くもって申し訳ございませんんんん!」
「な、何を言ってるの……!?」
突然すさまじい勢いで謝罪をされて困惑している僕の背後で、バサリと大きな羽音が響いた。
1
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる