魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー

【10-20】

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 ◆◆◆


 ──セレーナさんがやって来た翌朝。僕はいつも通りクックとポッポに起こしてもらい、身支度を整えて廊下に出た。すると、曲がり角の辺りで蹲っている黒い影を見つけた。あれは、……ジルだ。

「ジル! どうしたの!?」
「ッ、来るな……!」

 慌てて駆け寄ろうとしたけれど、ジルに制止されてしまう。普段であれば、そんな言葉は振り切って走っていくと思うんだけど、今のジルからは妙な気迫を感じてしまい、思わず立ち止まる。クックとポッポも僕の肩に乗り、少し羽を毛羽立たせながら警戒しているようだ。

「ジル……? ねぇ、どうしたの? 具合悪い?」
「……何でも、ない」

 そう言っている声は、どことなく苦しげだ。遠目だけれども、脂汗をかいているように見える。彼の顔を隠している黒髪の隙間から、チラリと目が──紅い瞳がこちらを凝視していた。

「えっ……?」

 思わず動揺して吐息を震わせたところで、僕を守るかのように立ちはだかる二つの影が現れる。どちらも黒い蝙蝠羽を背中から生やしていた。──カミュとノヴァユエだ。

「ミカさん、ご無事ですか?」
「えっ、うん、僕は平気だけど、ジルの様子が変で……!」
「おーっと、ミカー、近付いちゃダメだよー。そこでおとなしくしてなー」

 味方が増えた安心から、ジルの元へ駆けていこうとする僕を、ノヴァユエの腕が止めてくる。代わりにカミュがジルの元へ近付き、耳元へ何かを語り掛けていた。それに対し、ジルも小声で何やら返事をしている。それを聞いて頷いたカミュは、こちらを振り向いて優しく微笑んだ。

「心配いりません。ジル様は少しお加減が悪いようですので、このまま私室へ送らせていただきます。朝食までの間に休んでいただければ、だいぶ回復されると思いますよ」
「そう……? で、でも、さっき、ジルの目が赤くなっていた気がするんだ。ちょっと休んだくらいじゃ良くならないかも……」

 さっきチラッと見えただけだけれど、あの紅い瞳はギラギラとした鈍い光を放っていて、なんだかジルじゃない別人のようだった。不安になってカミュを見ると、赤い悪魔は悲哀と困惑を混ぜ込んだような眼差しで見つめ返される。

「……大丈夫です。ひとまず、落ち着かれたようですので。願わくば、ミカさんも今のことはあまりお気にされないでくださるといいのですが」
「うん……、分かった……。……ジル、大丈夫なんだよね?」
「ええ。とりあえず、今は大丈夫です」

 今は、という部分にひっかかりをおぼえるけれども、カミュは嘘をつかないはずだから、今は信じるしかないのかな。ジルはこちらを見ようとしてくれなくて、それもなんだか切ない。

「……それでは、ミカさん。私は先にジル様をお部屋へ送ってきますので。……貴方に頼むのはなんだか癪ですが、ミカさんのことをよろしく頼みましたよ、ノヴァユエ」
「はーいっ★ ミカのことは任せてー! ってことで、行くよー、ミカ」
「あっ、うん……、カミュ、ジルのことをよろしくね」
「はい。お任せください」

 柔らかく笑って軽く頭を下げてから、カミュはジルの肩に両手を当てる。次に瞬きをした瞬間、二人の姿があっという間に消えた。たぶん、転送魔法を使ったんだろう。

「ミカー、行こー!」
「あ、うん……」
「ボクたち魔の者ってさー、基本的にそんなに寝なくて大丈夫なんだけどさぁ、昨日はミカと一緒におやつ作る下準備とかしたじゃんー? だからなんか疲れちゃったのか、セレーナってばまだ寝てるんだよねー★ あ、でも、アイツも楽しんでたからさぁ、手伝わせてもらえてほんとよかったよー。ミカ、ありがとねっ☆」

 のんびり歩きながら、ノヴァユエは明るい声で話し始める。さっきのジルの様子についてなどは、何も触れない。彼なりの気遣いなんだと思う。初めて出会ったときにはクレイジーな悪魔っていう印象が強かったけれども、仲良くなってみると、こちらのことをすごく気遣ってくれる優しい性格なんだと伝わってくる。

「……こちらこそ、ありがとう。ノヴァユエには、色々と助けられてるね」
「えー? 昨日いっぱい手伝ってたのはボクよりセレーナじゃなかったー?」
「ふふっ、セレーナさんにも助けてもらったけど、ノヴァユエにも色々と助けてもらってるよ」

 ゆっくり歩いているうちに気持ちが落ち着いてきて、それが肩に乗っている愛鳥たちにも伝わったのか、クックとポッポも毛羽立った姿からいつも通りのツヤツヤふくふくしたフォルムに戻っていた。

「朝ごはん、なんだっけー?」
「卵のサンドイッチと、サラダと、キノコたっぷりのスープ……、って言っても、ノヴァユエにはよく分からないと思うけど。でも、美味しいよ」
「ミカが作るもんは何でも美味いもん★ たーのしみー!」

 ノヴァユエの元気な声に励まされながら、心の片隅でジルを心配しつつ、いつも通り朝ごはんを用意するために、僕は調理場を目指してしっかりと歩いていった。
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