227 / 246
【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー
【10-21】
しおりを挟む
◇
朝食の席にはジルは出て来ず、カミュが食事を届けに行った。心配だったけれど、あまり心配しないでほしいと言われてしまった以上、僕が気に病んでいると彼らに余計な気遣いをさせてしまうだろうから、あえて考えないように努めることにする。
余計なことを考えないようにしたいとき、料理というのはとても便利だ。便利という言い方も変かもしれないけれど、黙々と没頭できるし、手を動かしていると気が紛れる。
それに、今日はアシスタント的な存在として、ノヴァユエとセレーナさんがいてくれる。火を扱うのはカミュが適任ということで、ジルの様子を見に行っている彼が戻るまでの間に、加熱前の処理を進めることにした。
といっても、昨日のうちに大体の下拵えは済ませてしまったので、やることはそんなに多くない。クッキーの型抜きや、パイ生地の装飾など、簡単なものばかりだ。それでも、二人の悪魔は楽しそうに取り組んでくれた。
「ミカ様、これは何の形でしょうぅぅ?」
カミュに頼んで作ってもらった型でクッキー生地を抜いていたセレーナさんが、星形を指して首を傾げる。
「それは、星の形なんだけど……、そっか、この世界では星はこういう形で描かないもんね。カミュもビックリしてたっけ」
「ふぇぇぇ……! ミカ様がいらした世界では、これが星を示す形だったのですねぇぇぇ。可愛いかったり、美味しかったり、それぞれ違う世界ごとに色々とあるのですねぇぇぇ」
嬉しそうに言うセレーナさんに、僕も笑って同意した。
「本当にね。見たことがないものでも、馴染みのないものでも、可愛いとか格好いいとか心を動かされたり、美味しいって思ったり、そういうのってなんだか嬉しいよね」
「はひぃぃぃ! アタクシたち、種族も違いますのにぃぃぃ、こうしてお話しできて、一緒に同じものを楽しめるのって幸せですよねぇぇぇ」
「幸せだよねぇ」
「あー! ふたりで盛り上がっててずるーい! ボクだって、今、めちゃくちゃ楽しいんだからねー!」
「あっ、ノヴァユエ! パイ生地をくちゃくちゃにしちゃダメだよ」
わいわいと騒いでいると、心が塞ぎ込んでいる暇が無い。寝ていたセレーナさんは知らないだろうけど、ノヴァユエは今朝の出来事を知っているから、あえてはしゃいでくれている気がしてならない。「ミカに怒られちゃった★」と舌を出しながら、ノヴァユエは皺が寄っていたパイ生地を綺麗に伸ばしてくれた。
「うん、後はカミュを待って焼いたり蒸したりするだけかなー。ありがとう、ノヴァユエ、セレーナさん。助かったよ」
「いいえいいえぇぇ。アタクシもとっても楽しかったですぅぅぅ! 甘いのがいっぱい出来るのですかぁぁぁ?」
「そうだね。甘いのもいっぱいだし、それだけだと飽きると思うから、しょっぱいのもあるよ」
ガボン──というかカボチャづくしのお菓子祭りということで、クッキー、パイ、シフォンケーキ、ミニパン、マフィン、後は変わり種として和風の味付けをした焼き団子も用意している。
焼き団子は、小麦粉と潰したカボチャを練り合わせて寝かせたものを食べやすい大きさに切って焼いて、焦がし醤油風味のタレを掛けるものだ。中水上のおじさんがおやつとして作ってくれて、ミルク粥の次くらいに印象に残っているメニューだったりする。
「どれも美味しいと思うけど、ノヴァユエには刺激が足りないかな?」
「そんなことないー! もー、今のボクはミカが作ったもんなら何でも美味しく食うって知ってるでしょー? 他の人間の食いもんはいらねーけどー!」
ノヴァユエが地団太を踏んだところで、ふっと空気が揺れて、赤い悪魔が姿を現した。足をジタバタさせているノヴァユエを呆れた目で見た後、カミュは僕を見つめてきた。
「あ……、」
つい、言葉に詰まってしまった。おかえりと言うだけでいいはずなのに、ジルのことを尋ねたら駄目かなとか、逆に何も触れないのも不自然なのかなとか、余計なことを考えてしまって、口ごもってしまう。
そんな僕の思考を見抜いたのか、カミュは申し訳なさそうに苦笑した。
「すみません、ミカさん。私が気にしないでほしいと言ったがばかりに、悩ませてしまいましたね。……ジル様のご様子でしたら、もうだいぶ落ち着かれておりますよ。顔色もすっかり良くなられて、オピテル殿がいらっしゃる頃には姿を見せにいらっしゃると思いますよ」
「そっか、良かった。教えてくれてありがとう。……おかえり、カミュ」
「ただいま戻りました」
優しい顔で軽く頭を下げてから、カミュは調理台の上に載っている生地たちを眺める。
「あとはもう加熱するだけでしょうか? 綺麗に下拵えが出来ておりますね」
「うん、ノヴァユエとセレーナさんにたくさん手伝ってもらったから、早く終わったんだ」
「おやおや。それでは、私がお待たせしてしまっていたのですね。申し訳ありません。──では、早速、火を使ってまいりましょうか」
美しい悪魔が優雅に指を振ると、調理に必要な箇所へ次々と火が灯っていった。
朝食の席にはジルは出て来ず、カミュが食事を届けに行った。心配だったけれど、あまり心配しないでほしいと言われてしまった以上、僕が気に病んでいると彼らに余計な気遣いをさせてしまうだろうから、あえて考えないように努めることにする。
余計なことを考えないようにしたいとき、料理というのはとても便利だ。便利という言い方も変かもしれないけれど、黙々と没頭できるし、手を動かしていると気が紛れる。
それに、今日はアシスタント的な存在として、ノヴァユエとセレーナさんがいてくれる。火を扱うのはカミュが適任ということで、ジルの様子を見に行っている彼が戻るまでの間に、加熱前の処理を進めることにした。
といっても、昨日のうちに大体の下拵えは済ませてしまったので、やることはそんなに多くない。クッキーの型抜きや、パイ生地の装飾など、簡単なものばかりだ。それでも、二人の悪魔は楽しそうに取り組んでくれた。
「ミカ様、これは何の形でしょうぅぅ?」
カミュに頼んで作ってもらった型でクッキー生地を抜いていたセレーナさんが、星形を指して首を傾げる。
「それは、星の形なんだけど……、そっか、この世界では星はこういう形で描かないもんね。カミュもビックリしてたっけ」
「ふぇぇぇ……! ミカ様がいらした世界では、これが星を示す形だったのですねぇぇぇ。可愛いかったり、美味しかったり、それぞれ違う世界ごとに色々とあるのですねぇぇぇ」
嬉しそうに言うセレーナさんに、僕も笑って同意した。
「本当にね。見たことがないものでも、馴染みのないものでも、可愛いとか格好いいとか心を動かされたり、美味しいって思ったり、そういうのってなんだか嬉しいよね」
「はひぃぃぃ! アタクシたち、種族も違いますのにぃぃぃ、こうしてお話しできて、一緒に同じものを楽しめるのって幸せですよねぇぇぇ」
「幸せだよねぇ」
「あー! ふたりで盛り上がっててずるーい! ボクだって、今、めちゃくちゃ楽しいんだからねー!」
「あっ、ノヴァユエ! パイ生地をくちゃくちゃにしちゃダメだよ」
わいわいと騒いでいると、心が塞ぎ込んでいる暇が無い。寝ていたセレーナさんは知らないだろうけど、ノヴァユエは今朝の出来事を知っているから、あえてはしゃいでくれている気がしてならない。「ミカに怒られちゃった★」と舌を出しながら、ノヴァユエは皺が寄っていたパイ生地を綺麗に伸ばしてくれた。
「うん、後はカミュを待って焼いたり蒸したりするだけかなー。ありがとう、ノヴァユエ、セレーナさん。助かったよ」
「いいえいいえぇぇ。アタクシもとっても楽しかったですぅぅぅ! 甘いのがいっぱい出来るのですかぁぁぁ?」
「そうだね。甘いのもいっぱいだし、それだけだと飽きると思うから、しょっぱいのもあるよ」
ガボン──というかカボチャづくしのお菓子祭りということで、クッキー、パイ、シフォンケーキ、ミニパン、マフィン、後は変わり種として和風の味付けをした焼き団子も用意している。
焼き団子は、小麦粉と潰したカボチャを練り合わせて寝かせたものを食べやすい大きさに切って焼いて、焦がし醤油風味のタレを掛けるものだ。中水上のおじさんがおやつとして作ってくれて、ミルク粥の次くらいに印象に残っているメニューだったりする。
「どれも美味しいと思うけど、ノヴァユエには刺激が足りないかな?」
「そんなことないー! もー、今のボクはミカが作ったもんなら何でも美味しく食うって知ってるでしょー? 他の人間の食いもんはいらねーけどー!」
ノヴァユエが地団太を踏んだところで、ふっと空気が揺れて、赤い悪魔が姿を現した。足をジタバタさせているノヴァユエを呆れた目で見た後、カミュは僕を見つめてきた。
「あ……、」
つい、言葉に詰まってしまった。おかえりと言うだけでいいはずなのに、ジルのことを尋ねたら駄目かなとか、逆に何も触れないのも不自然なのかなとか、余計なことを考えてしまって、口ごもってしまう。
そんな僕の思考を見抜いたのか、カミュは申し訳なさそうに苦笑した。
「すみません、ミカさん。私が気にしないでほしいと言ったがばかりに、悩ませてしまいましたね。……ジル様のご様子でしたら、もうだいぶ落ち着かれておりますよ。顔色もすっかり良くなられて、オピテル殿がいらっしゃる頃には姿を見せにいらっしゃると思いますよ」
「そっか、良かった。教えてくれてありがとう。……おかえり、カミュ」
「ただいま戻りました」
優しい顔で軽く頭を下げてから、カミュは調理台の上に載っている生地たちを眺める。
「あとはもう加熱するだけでしょうか? 綺麗に下拵えが出来ておりますね」
「うん、ノヴァユエとセレーナさんにたくさん手伝ってもらったから、早く終わったんだ」
「おやおや。それでは、私がお待たせしてしまっていたのですね。申し訳ありません。──では、早速、火を使ってまいりましょうか」
美しい悪魔が優雅に指を振ると、調理に必要な箇所へ次々と火が灯っていった。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる