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【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと
【11-6】
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ジンジャークッキーを一口齧ってから、ジルは先程までよりはいくらか和らいでいて、けれども真剣な表情で話し始めた。
「──こんな話の流れになったから正直に言うが、俺自身が王都へ向かうのは些か危険なような気がしている。いつ暴走化の兆しが発声するか分からない以上、人間が多く集まる場所へ行くのは危ないんじゃないかと思ってな。……無論、己の精神力で制御して乗り越えてやろうと意気込んではいるが、だからといって、周囲に何の影響も与えずにつつがなく終われるかどうかは分からない」
今のジルはもう、僕とカミュに対して何かを取り繕ったり強がったりしようとはせず、素直な本音を打ち明けてくれているんだろう。真面目な声で語られた不安に対し、カミュも真摯に頷いた。
「ええ。私も同じ懸念を抱いておりました。暴走化の衝動が最大限まで高まり、ジル様が魂を掛けてそれを阻止すべく抗った場合、力がぶつかり合う衝動がどの程度なのか、全くの未知数ですから。最悪の場合、王都の人々を負傷させたり、建物を破壊してしまったり、大きな影響を与えてしまうことになるかもしれません」
「……カミュは、ジルが魔王になるずっと前から、ここで代々の魔王の補佐をしていたんだよね? 暴走化に抗う魔王って、他にはいなかったの?」
ふと脳裏に浮かんだ疑問を口に出してみると、美しい悪魔は静かに首を振る。
「いませんでした。暴走化が始まれば、すぐに魔王の自我は乗っ取られるというか喰い潰されるというか──、とにかく、すぐに己の意識を手離してしまい、魔王の魂は完全に大魔王の魂の欠片の依代となってしまうのです。……そもそも、現在のジル様の状態が、もはやありえないものですから。魔王化してから今に至るまで、ただの一度も、魔王らしい破壊衝動や狂気に陥っていないなど、これまでは考えられないことでした」
「そっか……、そういえばそうだったね」
普通の人間が魔王化した時点で、本当なら魔王の魂の欠片による意識侵食が始まっていくはずで、元の人格を保ったまま何年も過ごせるはずがない、──というのが、ジルの先代の魔王までの常識だったんだっけ。先代の魔王は暴走化が始まる少し前に唐突に元の人格を取り戻していたみたいで、今のジルに至ってはずっと「彼」のままだから、魔王の魂の欠片の力が弱体化しているのかもしれない。だからといって、暴走化しないわけでもなさそうなので、厄介な存在には変わりないのだけれども。
「どうも、他国の魔王たちにはジル様のような変化が見受けられないようなので、余計に予測が難しい状況です。先代魔王に対しても、私が見守っていた限りでは、誰かが特別な刺激や影響を与えたわけではないように思うのですが……」
僕が黙って考え込んでいる間に、カミュが補足説明を加えてくれる。その言葉を受けたジルは、わずかに首を傾げた。
「他国の魔王──いや、魔の者かもしれないが、いずれにせよ、お前から他所へ連絡を取ったのか? 珍しいな」
「いえ、私が直接的に尋ねているわけではなくて、ノヴァユエが情報を集めてくれているんです」
「……あの緑の悪魔が? ……ミカのためか」
「そうですね。ジル様が暴走してしまったら、ミカさんの生存率は著しく下がってしまいますから。今のノヴァユエはミカさんのことがお気に入りですからね、ミカさんのごはんをまた食べられるように、是非とも守りたいのでしょう」
確かに、ノヴァユエは僕のことをとても気に掛けてくれるから、そうやって協力してくれるというのも納得できる。でも、それに甘えるだけではなく、厚意にはきちんと応えたい。
「ジル。今の暴走化問題が上手く片付いたら、またこの城でみんなで集まってごはんやおやつを食べる時間を作りたいな。ノヴァユエと、あと出来ればセレーナさんとかオピテルさんも呼んだりして」
「……ああ、そうだな。またそんな機会を作れるように、頑張っていこう。そのためにも、万全な対策をして臨んでいきたい。特に王都は、王族が深く関わっている場所だ。王城もあるし、マティアスに迷惑は掛けたくない」
穏やかに同意した後、ジルは再び真顔に戻り、話題を感謝祭へ方向転換させる。カミュは飲み物を一口飲んでから、ひとつの提案をした。
「やはり、私がミカさんの送迎を担ったほうがよろしいかと。恐れながら、私はジル様以上の魔力を持っておりますし、城に残っている貴方に何か異変があった場合、すぐに戻ることも可能です」
「それはそうだが……」
「誤解を招く言い方になってしまったら申し訳ありませんが、今、このプレカシオン王国において、一番の脅威となっているのは貴方の存在です。ジルベール様という意味ではなく、今にも暴走化しそうな魔王、ということではありますが。ミカさんにはクックとポッポもついていますし、当日の現地ではずっとマティアス様と行動を共にされますので安全性は高いでしょう」
冷静に語ったカミュは、魔法でテーブルの上の茶菓子を端のほうへ動かし、更に魔法でどこからともなく地図を取り出した。
「──こんな話の流れになったから正直に言うが、俺自身が王都へ向かうのは些か危険なような気がしている。いつ暴走化の兆しが発声するか分からない以上、人間が多く集まる場所へ行くのは危ないんじゃないかと思ってな。……無論、己の精神力で制御して乗り越えてやろうと意気込んではいるが、だからといって、周囲に何の影響も与えずにつつがなく終われるかどうかは分からない」
今のジルはもう、僕とカミュに対して何かを取り繕ったり強がったりしようとはせず、素直な本音を打ち明けてくれているんだろう。真面目な声で語られた不安に対し、カミュも真摯に頷いた。
「ええ。私も同じ懸念を抱いておりました。暴走化の衝動が最大限まで高まり、ジル様が魂を掛けてそれを阻止すべく抗った場合、力がぶつかり合う衝動がどの程度なのか、全くの未知数ですから。最悪の場合、王都の人々を負傷させたり、建物を破壊してしまったり、大きな影響を与えてしまうことになるかもしれません」
「……カミュは、ジルが魔王になるずっと前から、ここで代々の魔王の補佐をしていたんだよね? 暴走化に抗う魔王って、他にはいなかったの?」
ふと脳裏に浮かんだ疑問を口に出してみると、美しい悪魔は静かに首を振る。
「いませんでした。暴走化が始まれば、すぐに魔王の自我は乗っ取られるというか喰い潰されるというか──、とにかく、すぐに己の意識を手離してしまい、魔王の魂は完全に大魔王の魂の欠片の依代となってしまうのです。……そもそも、現在のジル様の状態が、もはやありえないものですから。魔王化してから今に至るまで、ただの一度も、魔王らしい破壊衝動や狂気に陥っていないなど、これまでは考えられないことでした」
「そっか……、そういえばそうだったね」
普通の人間が魔王化した時点で、本当なら魔王の魂の欠片による意識侵食が始まっていくはずで、元の人格を保ったまま何年も過ごせるはずがない、──というのが、ジルの先代の魔王までの常識だったんだっけ。先代の魔王は暴走化が始まる少し前に唐突に元の人格を取り戻していたみたいで、今のジルに至ってはずっと「彼」のままだから、魔王の魂の欠片の力が弱体化しているのかもしれない。だからといって、暴走化しないわけでもなさそうなので、厄介な存在には変わりないのだけれども。
「どうも、他国の魔王たちにはジル様のような変化が見受けられないようなので、余計に予測が難しい状況です。先代魔王に対しても、私が見守っていた限りでは、誰かが特別な刺激や影響を与えたわけではないように思うのですが……」
僕が黙って考え込んでいる間に、カミュが補足説明を加えてくれる。その言葉を受けたジルは、わずかに首を傾げた。
「他国の魔王──いや、魔の者かもしれないが、いずれにせよ、お前から他所へ連絡を取ったのか? 珍しいな」
「いえ、私が直接的に尋ねているわけではなくて、ノヴァユエが情報を集めてくれているんです」
「……あの緑の悪魔が? ……ミカのためか」
「そうですね。ジル様が暴走してしまったら、ミカさんの生存率は著しく下がってしまいますから。今のノヴァユエはミカさんのことがお気に入りですからね、ミカさんのごはんをまた食べられるように、是非とも守りたいのでしょう」
確かに、ノヴァユエは僕のことをとても気に掛けてくれるから、そうやって協力してくれるというのも納得できる。でも、それに甘えるだけではなく、厚意にはきちんと応えたい。
「ジル。今の暴走化問題が上手く片付いたら、またこの城でみんなで集まってごはんやおやつを食べる時間を作りたいな。ノヴァユエと、あと出来ればセレーナさんとかオピテルさんも呼んだりして」
「……ああ、そうだな。またそんな機会を作れるように、頑張っていこう。そのためにも、万全な対策をして臨んでいきたい。特に王都は、王族が深く関わっている場所だ。王城もあるし、マティアスに迷惑は掛けたくない」
穏やかに同意した後、ジルは再び真顔に戻り、話題を感謝祭へ方向転換させる。カミュは飲み物を一口飲んでから、ひとつの提案をした。
「やはり、私がミカさんの送迎を担ったほうがよろしいかと。恐れながら、私はジル様以上の魔力を持っておりますし、城に残っている貴方に何か異変があった場合、すぐに戻ることも可能です」
「それはそうだが……」
「誤解を招く言い方になってしまったら申し訳ありませんが、今、このプレカシオン王国において、一番の脅威となっているのは貴方の存在です。ジルベール様という意味ではなく、今にも暴走化しそうな魔王、ということではありますが。ミカさんにはクックとポッポもついていますし、当日の現地ではずっとマティアス様と行動を共にされますので安全性は高いでしょう」
冷静に語ったカミュは、魔法でテーブルの上の茶菓子を端のほうへ動かし、更に魔法でどこからともなく地図を取り出した。
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