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【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと
【11-14】
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◇
「わぁ……っ、すごい……!」
王都の裏門に到着して馬車を降りた瞬間、思わず声を上げてしまっていた。相変わらず胃の底がムカムカしているような微妙な気持ち悪さはあるけれど、そんなの気にならないくらい、興奮が湧き上がってくる。
まだ日中ではあるけれど、それでもたくさんの照明魔法によってふんだんな装飾が施されていて、どこもかしこもキラキラして綺麗だ。
「ミカ、ようこそ王都へ。お手をどうぞ」
斜め前に立つマティ様が優雅に軽い一礼をしてから、僕へと手を差し伸べてきた。ローブを目深に被っている彼の顔はよく見えないけれど、胸元の豪奢なブローチが第三王子であると示している。そして、僕の胸元にも、似たデザインのブローチが輝いている。つまり、今だけは、手を取り合って歩くのが自然な間柄という関係を演じなければならない。そう考えた僕は、少し緊張しながらも、マティ様の大きな手のひらへ自分の手を預けた。
「……あれっ?」
手が重なった瞬間に感じた違和感によって、つい声を上げてしまう。マティ様は驚いたように、そっと僕の手を離した。
「ミカ、……どうしたのだ?」
「あ、いえ……、すみません。マティ様の手に触れた瞬間、気持ち悪い感覚がスッと引いた気がして、驚いちゃったんです」
「不快感が薄れた、だと……?」
嫌な異変ではなかったと分かって安心しつつも疑問が拭えないのか、マティ様は複雑そうな面持ちながらも、もう一度、僕の手を取る。指先をそっと握られた瞬間、やっぱり胃腸の嫌な感じが消えた。
マティ様も僕も手袋をしていて、素肌同士を触れ合わせているわけではないから、余計に不思議に思える。手袋自体に何か効力があるわけではないだろうし、謎の現象だ。
「やっぱり、マティ様に触っていると、なんだか楽に感じます」
「……私の魔力が影響しているのか?」
「マティ様の、魔力……?」
「ああ。私の魔力は高い方だ。それが関係しているかどうかは確かではないが、身体の一部を繋ぐことで私の魔力がそなたに流れ、悪影響の要素を相殺しているのかもしれぬ」
「手袋越しでも、ですか?」
「そうだな。──ミカが普段の日常を健やかに過ごせているのは、彼の領地内ということも大きいのだろうが、魔力の高い者たちが傍にいることで、そなたの身に悪しきものを中和できていたのやもしれぬ。彼らほどの力の持ち主であれば、触れずとも影響を与えることが出来るだろう」
マティ様はぼかして言っていたけれど、つまりジルとカミュ──魔王と悪魔の持つ強大な魔力がいつも僕を護ってくれていたということなんだろう。クックとポッポが近くにいるいないが関係していないのは、魔鳥の持つ魔力にはそういった作用が無いということだろうか。
──でも、僕がジルやカミュから遠く離れたのは、これが初めてじゃない。一度、女盗賊のキカさんに攫われてしまったことがある。あのとき、魔王の領域から離れてしまったけれど、今のような体調不良は無かったと思う。だからといって、キカさんにずっと触れていたわけではないし、彼女自身が魔力が特別高いという様子も無かった気がする。……あ、でも、キカさんは妖精だか精霊だかの加護とやらがあるんだっけ。その影響かな?
「ミカ、大丈夫か?」
黙って考え込み始めた僕を心配したのか、マティ様は繋いだ指先をそっと揺らしてきた。ハッと我に返った僕は、慌てて意味も無く首を振った後、何度も頷く。
「すみません、無意識に考え込んじゃってましたけど、全然大丈夫です。不思議な感覚ではありますけど、こうしているとすごく楽です」
「そうか。ならば、暫くこうしていよう。何か気掛かりなことがあれば、すぐに言ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
マティ様は小さく頷き、僕の手を引いて静かに歩き出す。本来の彼の歩行ペースより速度を落としてくれているのは、脚のコンパスがだいぶ違う僕へ配慮してくれているのか、護衛の騎士たちへの気配りか、祭りの雰囲気に合わせているからなのか。
いずれにしても、今日のマティ様の纏う空気は、とても柔らかい。冴え冴えとした氷のように凛々しいマティ様も王子様らしくて格好いいけれど、今のように穏やかで優しい姿のほうが国民たちには受け入れやすいかもしれない。それをマティ様が意識して切り替えたりしているかは分からないけれど、この第三王子様はとても思いやりのある人だから、無意識のうちにそうしている可能性もある。
「……ん? どうした、ミカ。何を笑っている? 頭巾の影に隠れていても、そなたの口元が緩んでいることは分かるぞ」
「僕、ニヤニヤしてましたか? でも、変な意味じゃないですよ。感謝祭が楽しみなのと、マティ様はやっぱり優しい人だなぁとしみじみ思っていただけです」
「……訳が分からぬ。……まぁ、そなたが楽しいのなら、それでよい」
マティ様は照れくささが混ざった複雑そうな表情を見せたけれど、フードの下で眉間に皺が寄っていても、その顔にはやっぱり優しさが滲んでいて、僕の心はほっこり温まった気がした。
「わぁ……っ、すごい……!」
王都の裏門に到着して馬車を降りた瞬間、思わず声を上げてしまっていた。相変わらず胃の底がムカムカしているような微妙な気持ち悪さはあるけれど、そんなの気にならないくらい、興奮が湧き上がってくる。
まだ日中ではあるけれど、それでもたくさんの照明魔法によってふんだんな装飾が施されていて、どこもかしこもキラキラして綺麗だ。
「ミカ、ようこそ王都へ。お手をどうぞ」
斜め前に立つマティ様が優雅に軽い一礼をしてから、僕へと手を差し伸べてきた。ローブを目深に被っている彼の顔はよく見えないけれど、胸元の豪奢なブローチが第三王子であると示している。そして、僕の胸元にも、似たデザインのブローチが輝いている。つまり、今だけは、手を取り合って歩くのが自然な間柄という関係を演じなければならない。そう考えた僕は、少し緊張しながらも、マティ様の大きな手のひらへ自分の手を預けた。
「……あれっ?」
手が重なった瞬間に感じた違和感によって、つい声を上げてしまう。マティ様は驚いたように、そっと僕の手を離した。
「ミカ、……どうしたのだ?」
「あ、いえ……、すみません。マティ様の手に触れた瞬間、気持ち悪い感覚がスッと引いた気がして、驚いちゃったんです」
「不快感が薄れた、だと……?」
嫌な異変ではなかったと分かって安心しつつも疑問が拭えないのか、マティ様は複雑そうな面持ちながらも、もう一度、僕の手を取る。指先をそっと握られた瞬間、やっぱり胃腸の嫌な感じが消えた。
マティ様も僕も手袋をしていて、素肌同士を触れ合わせているわけではないから、余計に不思議に思える。手袋自体に何か効力があるわけではないだろうし、謎の現象だ。
「やっぱり、マティ様に触っていると、なんだか楽に感じます」
「……私の魔力が影響しているのか?」
「マティ様の、魔力……?」
「ああ。私の魔力は高い方だ。それが関係しているかどうかは確かではないが、身体の一部を繋ぐことで私の魔力がそなたに流れ、悪影響の要素を相殺しているのかもしれぬ」
「手袋越しでも、ですか?」
「そうだな。──ミカが普段の日常を健やかに過ごせているのは、彼の領地内ということも大きいのだろうが、魔力の高い者たちが傍にいることで、そなたの身に悪しきものを中和できていたのやもしれぬ。彼らほどの力の持ち主であれば、触れずとも影響を与えることが出来るだろう」
マティ様はぼかして言っていたけれど、つまりジルとカミュ──魔王と悪魔の持つ強大な魔力がいつも僕を護ってくれていたということなんだろう。クックとポッポが近くにいるいないが関係していないのは、魔鳥の持つ魔力にはそういった作用が無いということだろうか。
──でも、僕がジルやカミュから遠く離れたのは、これが初めてじゃない。一度、女盗賊のキカさんに攫われてしまったことがある。あのとき、魔王の領域から離れてしまったけれど、今のような体調不良は無かったと思う。だからといって、キカさんにずっと触れていたわけではないし、彼女自身が魔力が特別高いという様子も無かった気がする。……あ、でも、キカさんは妖精だか精霊だかの加護とやらがあるんだっけ。その影響かな?
「ミカ、大丈夫か?」
黙って考え込み始めた僕を心配したのか、マティ様は繋いだ指先をそっと揺らしてきた。ハッと我に返った僕は、慌てて意味も無く首を振った後、何度も頷く。
「すみません、無意識に考え込んじゃってましたけど、全然大丈夫です。不思議な感覚ではありますけど、こうしているとすごく楽です」
「そうか。ならば、暫くこうしていよう。何か気掛かりなことがあれば、すぐに言ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
マティ様は小さく頷き、僕の手を引いて静かに歩き出す。本来の彼の歩行ペースより速度を落としてくれているのは、脚のコンパスがだいぶ違う僕へ配慮してくれているのか、護衛の騎士たちへの気配りか、祭りの雰囲気に合わせているからなのか。
いずれにしても、今日のマティ様の纏う空気は、とても柔らかい。冴え冴えとした氷のように凛々しいマティ様も王子様らしくて格好いいけれど、今のように穏やかで優しい姿のほうが国民たちには受け入れやすいかもしれない。それをマティ様が意識して切り替えたりしているかは分からないけれど、この第三王子様はとても思いやりのある人だから、無意識のうちにそうしている可能性もある。
「……ん? どうした、ミカ。何を笑っている? 頭巾の影に隠れていても、そなたの口元が緩んでいることは分かるぞ」
「僕、ニヤニヤしてましたか? でも、変な意味じゃないですよ。感謝祭が楽しみなのと、マティ様はやっぱり優しい人だなぁとしみじみ思っていただけです」
「……訳が分からぬ。……まぁ、そなたが楽しいのなら、それでよい」
マティ様は照れくささが混ざった複雑そうな表情を見せたけれど、フードの下で眉間に皺が寄っていても、その顔にはやっぱり優しさが滲んでいて、僕の心はほっこり温まった気がした。
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