転生聖女は一目惚れした堅物ダークエルフと添い遂げたい。

織り子

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第二話

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「カイゼル・ド・アゼルバルト王太子殿下と、聖女エルジェ・クライン様のご入場です!」
会場に響き渡る。皆入り口に注目した。エルジェはカイゼルのエスコートを受け、まっすぐ歩みを進めた。魔王の玉座の隣に用意された椅子に向かう。アゼルバルトの国王は来ていない。代わりに王太子がその役目を担っていた。
となれば、さながらエルジェは王妃の代わりという所だろうか。

エルジェも自身に向けられる役割を理解している。聖女の微笑みを張り付けたまま、優雅に粛々と歩き、席に着いた。

しかし動揺を隠すのに努力した。なんと玉座に座る魔王の隣に、エルジェが探したゼルヴァンが立っている。

(み、見たい!いや、ダメよエルジェ。こんな席で不躾に見つめてはいけないわ)

「聖女殿」 
「はいっ?」
ふいに魔王から話しかけられた。意識をゼルヴァンに集中させていたエルジェは裏返った声で返事をする。
カイゼルがジロリと圧のある視線を送ってくる。
(ごめんって。そんな醜態を晒したからって睨まないでよ)
軽く咳払いをして、エルジェは魔王を見た。
「なんでしょう?魔王陛下」
魔王は不思議そうに言った。
「そなたは、私を怖がらないのだな。その若さで···なかなかの胆力だ」

エルジェは微笑んで答えた。
「聖女ですから」

本人の言う通り、魔王の放つ魔力と圧は人間が怯えるものがある。見た目はさほど怖くはない。中性的な顔立ちをしていながら、鍛え抜かれた体躯。人間の平均男性より頭一つ大きい。常に不敵な笑みを携えている。 隣に座るカイゼルですら、表情が強張っている。

生きた年月は魔王には敵わないが、エルジェは前世の記憶から数えると見た目通りの年齢ではない。


「そなたは戦乱の折り、我が同胞にも治癒術を施してくれたと聞いた。礼を言う」

まさか魔王に感謝をされるとは思ってもおらず、エルジェの声はまたも裏返った。
「へっ?あ、いえ。怪我人に人族も魔族もありません。出来る事をしたまででございます」
慌てて表情を取り繕う。

ばちりとゼルヴァンと目が合った。またも不意な事だったので、エルジェは慌てて目を逸らした。しかし赤面まではどうしようも出来なかった。真っ赤になってしまった顔になすすべもなく下を向く。カイゼルが不思議そうに見ている。

(ううっ。清廉な聖女を演じたかったのに。カイゼルまでこっち見てないであっち向いてちょうだい)

魔王が顎に手を当てた。にやりと口角が上がる。
「ふむ。聖女はゼルヴァンに興味があるようだな?」

エルジェは飛び上がりそうになった。赤面は治ったか分からない。だが聖女の微笑みは張り付けることが出来た。伊達に何年も張り付けていない。
「ダークエルフの方にお会いするのは初めてで、緊張してしまいました」

「ははは!魔王である私より、ゼルヴァンに緊張すると?面白いな。なぁゼルヴァン」

エルジェの顔色は青ざめていく。
(し、しまった。不敬だったかしら?もう早く帰りたい)

「陛下、そろそろからかうのはおやめください。失礼でしょう」
頭上に響く声。魔王でも、カイゼルでもない。低いがよく通る声が耳に心地良い。
(こ、声までかっこいいなんて····!)

ホールに流れていた曲調が変わった。王都から呼ばれた楽団が各々の楽器を奏で始める。
「ダンスの時間だな。我々魔族にはない習慣だ。貴殿らで楽しむと良い」

魔王がそう言うと、カイゼルが立ち上がって一礼した。
「ではお言葉に甘えて。行こう、聖女」
差し伸べられた手を取り、エルジェはホールの中央に向かった。
(残念。もう少し近くにいたかったのに)
後ろ髪を引かれるが仕方ない。公式なパーティーでのファーストダンスは、その場で一番身分の高い者が務める。この場では王太子であるカイゼルが当てはまる。必然とパートナーであるエルジェも踊らなければならなかった。

ダンス自体は嫌いではない。元々、前世から運動は好きだから。しかし今日は気が乗らなかった。 

「殿下····」
カイゼルを見ると、視線の先にはエルジェの良く知る人物がいた。カイゼルはいつもそうなのだ。自然と特定の人物をいつも探している。
エルジェはするりとエスコートの手を外した。

「ん?どうした」
カイゼルの問いかけに、エルジェはため息と共に答える。
「はぁ。私は体調がよくありません。ファーストダンスは違う相手をお誘いください」
カイゼルの眉間に皺が刻まれる。
「そなた、いくら私が嫌だからと···」
エルジェはカイゼルの言葉を遮った。
「殿下。今まで私にも好きな人がいなかったし、殿下にもいなさそうだったのでなぁなぁにしてきましたが····もう止めておきましょう」
現代の言葉が混じった。カイゼルは狼狽える。
「···なに?」
「今は殿下には想い人がいるし、私にも気になる方が出来てしまいました」
カッとカイゼルの顔が赤く染まった。
(いやいや、バレてないとでも?)

カイゼルが慌ててチラリと視線を向けた先には、フィーアがいる。

「殿下、私は降りますが、国王陛下は貴方の妃に聖女が欲しいのでしょう。フィーアを妃に出来るかどうかは、殿下の力量次第ですよ」
カイゼルが真剣な表情になった。
「ああ。そうだな」
「まぁ前提としてフィーアが望めばですが。彼女は私の唯一の女友達です。生半可な気持ちでいてはいけませんよ。分かりましたか?」

カイゼルは口角を上げた。
「ああ。肝に銘じよう」

カイゼルが背を向けると、エルジェもくるりと向きを変えた。人々は王太子の行動に注視しており、エルジェはそそくさと会場の端に避難した。
















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