4 / 27
第4話ー入学と、異界の聖女
しおりを挟む入学式、当日。
ジュナは正門の前でルナマリアを待っていた。
ここから先は、生徒しか入れない。
上位貴族だろうと、使用人を連れずに、カバンですら自分で持つのだ。
今までの生活とは、180度変わる。
大きな荷物は先に送っておいたので、ジュナはスーツケース1つだけ持参した。
可愛いとは言えないが、深いグリーンのローブコートに身を包み、膝下丈のプリーツスカートを履いている。女子の制服だ。
正門の前に馬車が付いた。
ローウェン侯爵家の家紋がある。先に降りてきた背の高い男の人にエスコートされ、ルナマリアが優雅に馬車を降りた。
(ん?同じ制服を着ると、個人の美しさが際立つな)
ジュナが、自分と同じ服を着ているはずなのに、どうしてこうも印象が違うのかぼんやり考えている間に、ルナマリアが近づいてきた。
「ジュナ?待たせたかしら?」
髪をかき上げて覗き込むルナマリアの美しさに、ドギマギしながら、ジュナは冷静さを保つ。
「ルナ、ちょっと可愛すぎるよ!同室なのに私、大丈夫かな?!ドキドキし過ぎちゃう!」
保てなかった。
「ははは。面白い人だね。ルナ、紹介してくれるかい?」
ルナマリアのすぐ後ろから、声がした。
(ルナ呼び!私だけの特権かと思ってた)
少しショックを受ける。
「お兄様、こちらはジュナ・クライス伯爵令嬢ですわ。わたくしの親友ですのよ」
ルナとそっくりの深い緑がかった髪色に、赤銅色の瞳がジュナを見る。
「ジュナ、こちらはアーサー兄上よ。歳は1つ上になるの」
ジュナは慌ててカーテシーをとる。
「はじめまして。アーサー・ローウェン小公爵。ジュナ・クライスと申します。お会い出来て光栄です。」
アーサーはにっこりと笑った。
「はじめまして。そんなにかしこまらないで。ここでは身分はないからね。妹に良き友人がいて嬉しい。これからも仲良くしてあげてほしい」
アーサーは妹を寮までエスコートするつもりだったが、ルナマリアはきっぱり断った。
ルナマリアは初めての自由を、存分に堪能したいようだった。ジュナとルナマリアは手をつないで寮へ向かった。
魔術学園の寮は、魔力の属性によって分けられている。
ジュナとルナマリアは同じ寮だ。
四大侯爵家のローウェン侯爵家は、水の加護を持っている。
ルナマリアもとても強い水属性の魔力を持っていた。
ジュナはと言うと、人にはあまり言いたくないか、貴族にしては少なめの水属性の魔力を持っている。
一旦寮へ行き荷物を置き、その後入学式のある聖堂へ向かう予定だ。
学園の周りは、森のようになっている。
国の要人たちも通うため、結界も張られていると聞く。
広大な土地だった。
きらめく木々を見ながら進む。
(学年も、属性も、寮も違うのだから、なかなか会うことはないわ)
ホッとしたような、残念なような。
ーやっぱり残念だ。隠れながらでも彼の姿を見たかった。
寮に付いてすぐ、騒ぎが起こった。
遠くでドンッと鈍い音が響いた。
新入生の歓迎かな?と思ったが、そうではないようだ。
どうやら、入学式が行われる予定の聖堂で、爆発が起きたらしい。
幸いまだ生徒もおらず、爆発に巻き込まれた人はいなかった。
寮では小さなパニックになった。逃げようとする生徒、危ないから外に出ないようにと叫ぶ教師たち。
寮の入口は騒然となった。
ごった返した中で、ルナマリアと手が離れてしまった。慌てて周囲を見回すが、見つけられない。人の波に押され、寮から出るはめになった。
ルナマリアが心配だったが、寮の入口は人で溢れ、とても探し出せなかった。
ジュナは途方に暮れて森のようになっている敷地を眺めた。ーすると、奇妙な感覚に陥った。
頭の中に膜が張ったような、ふわふわとした感覚で木陰へ足が進む。
意識が飛んだのか、気付いた時には森の奥に居た。
ハッとし、後ろを振り返るも寮は見えない。
パニックになりそうな自分を必死で律し、辺りを見渡した。
昼前だからか、明るい森の中。
ジュナは一点を見つめた。そこには明るい森にそぐわない、黒い影のような獣が居た。
グルグルと唸りながら近づいてくる。
恐怖にかられ、口をあけるが声が出なかった。
狼のような獣だ。
飛びかかってくる瞬間、狼が足に力を入れたのが分かった。
ギュッと目をつむり、痛みを覚悟した。
刹那、さまざまな事が起こった。
目がチカチカするような閃光。雷の様な激音。地鳴り、そしてー馴染のある、暖かい風がジュナを包んだ。
訳もわからず、ジュナは自分で自分を抱きしめるように身を守った。
光がやむと、ジュナはすぐに目を開けた。
1年ぶりの懐かしい風の香りに、今起こった恐怖体験を一瞬忘れるほどだった。
「ーーー間に合った」
ジュナを抱きしめ、包んでいたエリアルは絞り出すように言った。
ジュナの肩に顔を埋めているので、表情が見えない。
「エリアル?」
ジュナの声も震えている。
手で、エリアルの背をトントンと叩いても、びくともしない。力を入れず、抱きしめたままエリアルはしばらく動かなかった。
「ふーーーー」
唐突に長い長いため息を吐いた。そして顔を上げてエリアルは微笑った。
「ジュナ、無事か?怖かっただろう?」
ジュナは、ワンワン泣いた。
「無事か?じゃないわよ!どうしてずっと連絡をくれなかったの!」
しゃくり上げながら言ったので、聞き取れなかったかもしれない。
恐怖と、安堵と、嬉しさで、涙腺は制御不可能だった。
一通り泣いて落ち着くまで、エリアルは優しく髪を撫でてくれた。
エリアルは立ち上がると、周囲に巡らせていた風の守りを解いた。
周りが良く見えるようになると、あの黒い狼はいなかった。
雷が落ちた形跡もない。
エリアルは正面を睨むように見つめている。ジュナが視線の先に目をやると、目の前の木に少女が身体を預け眠っていた。
この国では珍しい、艶々とした黒髪が草むらに広がっている。眠っていても分かる、とても美しい少女だ。
異様な光景だったが、あまりに神秘的で目が離せない。
「エリアル、この子は···」
問いかけて、エリアルの表情を見て固まった。
今までに見たこともない、憎悪。とても可憐な少女を見る目ではない。
「聖像を壊しても駄目だったか」
エリアルは辛そうに呟いた。
「行こう」
エリアルはジュナに努めて笑顔で言った。
久しぶりに見たからか、エリアルの笑顔に違和感を感じたが、立とうとして立てない自分の足に、それどころではなくなった。
気が抜けたと同時に腰も抜けたのか、足が使い物にならない。
エリアルは自分が着ていたコートをジュナの足にかけて、ジュナを持ち上げた。
ジュナは慌てた。
「待って!重いから!風を使って!」
「使うまでもない」
エリアルは笑顔で却下した。
「寝ているあの子は?知り合いなの?」
あそこにいたら、また狼が来るかもしれない。
「知らない子だよ。風で先生を呼んだから大丈夫」
ずんずんエリアルは進む。少し進むと寮が見えてきた。
遠くに感じたものの、そこまで離れていなかったようだ。
まだ寮の入口は人だかりが出来ていた。
エリアルが姿を見せると、人々がざわめいた。
ショックで叫ぶ女子もいる。
気になることは多々あるが、入学初日に、おそらく学園で上位の人気男子生徒に、お姫様抱っこをされている時点で、平穏な学園生活を送れるのか不安になっていた。
16
あなたにおすすめの小説
世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない
鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」
その“正義”が、王国を崩しかけた。
王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、
婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。
だが――
たとえそれが事実であったとしても、
それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。
貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。
それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。
「世界は、残酷で不平等なのです」
その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、
王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。
婚約破棄は恋愛劇では終わらない。
それは、国家が牙を剥く瞬間だ。
本作は、
「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」
「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」
そんな現実を、徹底して描く。
――これは、ざまぁではない。
誰も救われない、残酷な現実の物語である。
※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。
学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、
権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。
---
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
義妹に苛められているらしいのですが・・・
天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。
その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。
彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。
それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。
儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。
そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜
白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。
二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。
「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」
お好きにどうぞ。
だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。
賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
