5 / 27
第5話ーエリアルの画策
しおりを挟む騒ぎから一夜明け、エリアルは寮の自室から外を眺めていた。
昨日起きた爆発で、聖堂は立入禁止になっているそうだ。
3度目の生。防げたことと、防げなかったこと。これからの対策に頭を使いたいのだが、エリアルの頭の中はジュナの事でいっぱいだった。
抱きしめた感覚がまだ残っている。
「可愛かったな」
我知らず呟く。
「声に出てるよ」
呆れ声で忠告したのは、エリアルの同室のサイラス・ザカード。エリアルとは子供の頃から親交があったが
同室になって気心の知れた仲になった。
「1年ぶりに会えたんだ。ゆるしてくれ」
口元が緩むのが抑えられない。
「でもなんか、泣かれてなかった?」
サイラスの指摘に、エリアルは固まる。
「ーはぁ」
思わずため息も出る。まさかそんなことになっていようとは。
1年、確かに会うことは出来なかったが、ジュナが自分に感じていた事は予想外だった。
(僕がジュナを見限る?そんな馬鹿な。3度も君に恋に落ちたのに)
「見限るとしたら僕じゃない。君の方だ」
エリアルはこの1年、ジュナにかかるであろう災いの種を、全て無くそうと動いていた。
6歳で目覚めたあの日から、残された記憶が徐々に薄くなっていく。
思い出せない事柄がある事に気付いてすぐ、覚えている記憶をすべて書き記したのだが、何度書き記しても、ノート自体がなくなってしまう。
自分では、どうしようもできない力が働いていることに気付き、背すじが凍る。
ジュナが命を落とす原因になった人物を、長い間思い出せない事にエリアルはずっと焦っていた。
唐突に思い出したのは、昨年の春。
魔術学園の入学前だ。
入寮を控えていたため、動ける期間が少ししかなく、泣く泣くクライス邸の訪問を諦め、各地に散らばる聖女伝説を調べに動いていた。
そのため、ジュナの父親への対応を間違えた。
冗談めいた言い方ではあっても、婚約を断った男とこれ以上親しくならないように、手を尽くしたのだろう。
何度か送った手紙は無に帰していた。
ジュナから返事は来ないものの、クライス邸に送り込ませた護衛から、ジュナの様子は聞いていた。
(もっと何十と手紙を送っていれば、返信がない違和感にも気付けていたかもしれない。僕の落ち度だ)
誕生日パーティが開かれたのも知ってはいたが、招待状が届かない場合、参加するのはマナー違反だ。
次期侯爵の教育が肌に染み付いたエリアルに、そこは侵せなかった。
そして短い休暇中、聖女について調べを続けた。
ー聖女は異界から姿を現す。
断片的にしか思い出せなくなった記憶をひっぱり出し、糸口を探す。
どうやら、聖像。聖物を媒体にして召喚されるようだった。
現れないのが、一番良い。
聖女の性格も、確実な原因も思い出せなくなっているが、ジュナにとって災いになる可能性があるならば、摘むべきだ。
魔術学園には、聖像が一つだけ、聖堂に置かれていた。実際の人ほどの大きさで、普段は見ることが出来ない。
入学式や、大きな行事がある時だけ、聖堂の中央に飾られる。
学園には、いくら侯爵家とはいえ、部外者をいれることは出来ない。
エリアルが一人で実行するしかない。念入りな準備が必要だった。ーそして、破壊に成功した。
しかし、それでも聖女は現れた。
聖女の顔を見てすぐに感じた、身体の底から湧く怒りを思い出す。
(ジュナに纏わりつこうとしていた、あの黒い影はなんだったのか?)
言いしれない不安も募る。
熟考していたエリアルの肩を、サイラスがポンと叩く。
「ま、とりあえず朝食に行こう。腹が減っては戦はできぬと言うし」
「戦はしないぞ」
(いや、待てよ)
ふと昨日のジュナとの別れ際を思い出す。
寮までジュナを送り届けた時、泣きはらしたジュナの傍らに寄り添っていた、ジュナと同室のルナマリア・ローウェン侯爵令嬢。
彼女にものすごく睨まれたのだった。
「そういえば敵認定されていたな···」
「ジュナ嬢、俺にも紹介してくれるよね?」
自室のドアをあけ、食堂に向かう。
エリアルは聞こえないふりをした。
「いやいや、ジュナ嬢を君がとてつもなく大切にしてることは分かってるから。変な心配はするなよ。ただ、俺を紹介しておいて損はないぞ」
大層な自信だ。
たしかに、サイラスには色々と助けられている。
エリアルが入学式の段取りを知りたい時も、怪しまれないよう聞き出してくれたり、知りたい情報があれば、スルっと入手してくる。なんというか、この男は要領がいいのだ。将来、侯爵の座に着くとき、手元に置いておきたいくらいに。
「よけいなことは言うなよ」
眉間にシワをよせ、エリアルは忠告する。
「よけいなこと?ジュナ嬢を寝言で呼んだり、ジュナ嬢の話をする時、ニヤニヤしてるの気付いてないこと?」
やっぱり紹介するのはやめておこう。
心に誓い、エリアルは歩みを速めた。
学園には3つの食堂がある。
どの寮の生徒も、好きな食堂を使用して良い。
エリアルは迷わず第3食堂を目指した。
2度目の生でも、ジュナはよくそこに居た。水の寮から1番近いということもあったが、ジュナの好きなメニューが多いのだ。
食堂に入ると、すぐに目当ての二人組を見つけた。
上位貴族のルナマリアと一緒にいると、特別目を引く。さらに二人とも人目を引く外見だ。目立つなと言う方が無理だった。
周りの男性陣が浮足立っているのが分かる。
(まさか話しかけようとしてるんじゃないだろうな)
群がる男たちに苛立ちながら、顔に出さないよう気を引き締める。ジュナには出来るだけ優しい自分を見せたい。
2人がいるテーブルに近付くと、ルナマリアがサッと立ち上がった。
可憐な仕草で、ジュナを守ろうとしている。なんとも心強い。
敵認定されているのは自分だが。
「ルナマリア嬢、お久しぶりです。僕は誓ってジュナを傷つけません。少し2人で話しても良いですか?」
ルナマリアはため息を付き、ジュナの前を譲ってくれた。
「ええ、もちろんです。もう二度と傷付けないでくださいませ」
一度泣かせてしまっているので、エリアルは何も言えない。
エリアルはジュナに向き合った。
ジュナの深いグリーンの瞳が不安そうに揺れ、潤みをおびてエリアルを見上げた。
(可愛い)
昨日はしっかり顔を見れなかった。1年のブランクもあり、エリアルは固まった。
後ろから見えないようにサイラスが小突く。
エリアルは我にかえり、ジュナに手を差し出した。
ジュナが手をとってくれたことに、心底ホッとして2人で外に出た。
16
あなたにおすすめの小説
世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない
鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」
その“正義”が、王国を崩しかけた。
王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、
婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。
だが――
たとえそれが事実であったとしても、
それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。
貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。
それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。
「世界は、残酷で不平等なのです」
その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、
王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。
婚約破棄は恋愛劇では終わらない。
それは、国家が牙を剥く瞬間だ。
本作は、
「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」
「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」
そんな現実を、徹底して描く。
――これは、ざまぁではない。
誰も救われない、残酷な現実の物語である。
※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。
学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、
権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。
---
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
義妹に苛められているらしいのですが・・・
天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。
その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。
彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。
それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。
儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。
そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜
白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。
二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。
「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」
お好きにどうぞ。
だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。
賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
