愛され悪女は 今日も悪には染まらない

織り子

文字の大きさ
12 / 27

第12話ー婚約保留

しおりを挟む
「えっ!婚約が保留?!」
ジュナたちは外へ出て、食堂からも寮からも離れた場所まで来ていた。ジュナとルナマリアはベンチに腰掛け、エリアルとサイラスは立って話を聞いている。

「先ほど、お兄様からそう伺ったの」
「ど、どうして?」

ルナマリアの婚約は、ローウェン侯爵家と王家との間で交わされたもので、政略的な面も含む。保留などと、あってはならない事だ。

エリアルは慎重に口を開いた。
「ー聖女か」

ルナマリアは下を向き、眉をひそめて答えた。
「ええ。そのようです。私の立場は婚約者候補に下がりました。ローウェン侯爵家は抗議しましたが、陛下の決定は覆りませんでした」

ジュナは理由が分からない。
「え?ミズサワ嬢がルナの婚約と何の関係があるの?」

ルナマリアではなく、エリアルが説明してくれる。
「聖女が、と言うより、教会が王太子と聖女を婚約させたがっているんだ。どこかの伝承に残っていた。どの聖女もゆくゆくは皇后になっている」

「でもルナは小さい頃から王妃教育がんばってきたのに···!」
ルナマリアが幼い頃から、他の同年代の子より落ち着いていて、頭も良かったのは、ルナマリアの努力の賜物だとジュナは知っている。

「ジュナ、ありがとう。まだ破棄されたわけではないから、もう少し成り行きを見守ってみるわ」
ルナマリアは人ごとの様に言う。だがそれしか出来ることはなかった。

「ルナマリア嬢、お付きの生徒は2人だけ?」
エリアルの問いに、ルナマリアはきょとんとしたがすぐに答えた。
「ええ。2人ですが何か?」

「少し増やそう。ルナマリア嬢が不利にならないように。ローウェン小公爵に伝えておこう」

「おいおい。聖女が何か仕掛けてくるとでも?聖女様はチラッとしか見てないが、虫も殺せないような風貌だったぞ」
サイラスが信じられないという様に口を挟んだ。

「警戒すべきは教会の勢力だ。おそらく近いうちに、教会側の令息令嬢に家からの手紙が届くことだろう。」

「なるほど。ルナマリア嬢に圧力をかけてくる可能性は充分にあるな」

不安な表情のジュナとルナマリアに、エリアルは優しく言った。
「念の為だよ。ジュナ。君もなるべくルナマリア嬢と行動するんだ。ーもちろん聖女にも、隙は見せてはいけない。」
最後の一言は、エリアルも声のトーンを下げた。
3人はそれを静かに聞いて頷いた。





ー夕方、ジュナが部屋へ戻ると、窓際にいるルナマリアを見つけた。

ルナマリアは窓の柵に肘を付け、頬を乗せてぼうっとしている。貴族の令嬢たる振る舞いではなく、まるで彼女らしくない。
ルナマリアはジュナに気付くと手招きをした。

「私、王太子妃にならなくてもいいのかしら。ずっとならなくてはいけないと思ってきたから、この道がなくなってしまうなんて、少し怖いわ」

ジュナはルナマリアのすぐ横に行き、前を向いたまま言った。 
「ルナなら、国民みんなに愛される王太子妃になるよ。でも、もし王太子妃にならないとしたら、ルナの未来は無限大だよ。なんでも出来る」

「ふふ。どちらに転んでも退屈しなさそうね。」
「どちらにしても、私はルナの近くにいれるよう努力する!」
ジュナは、ない力こぶを作ってみせた。
「たのもしいわ」
ルナマリアは綺麗に微笑んだ。










翌日から、ルナマリアの笑顔が曇ることになった。
聖女が王太子の婚約者候補になったという話が、一気に生徒たちに広がったからだ。

見られることに慣れているルナマリアも、連日不躾な視線に晒されて元気がなくなっていった。

「ルナ。今日は外でお昼にしよう」
「ええ。ありがとうジュナ」

ジュナは最近、ルナマリア、 リリアン、ノアの4人で昼食をとっている。
エリアルとサイラスは、魔術の実習が増えてきたことと、彼らと居るとどうしてもミズサワ嬢やアンジェリカ嬢が近づいて来るからだ。

ルナマリアとリリアンに先に場所をとってもらい、ジュナはノアと2人で第3食堂へ来た。
サンドイッチと魚のフリット、他にも何品かバスケットに入れてもらい、外へ出た。




出てすぐに、会いたくない面々と会ってしまった。

正面から、アンジェリカ・リエナ伯爵令嬢、アリア・シュバルツ子爵令嬢、ルリ・ミズサワ嬢、他数人の団体が向かってきている。およそ第3食堂に似つかわしくない面々だが、エリアルを探しているのだろうか?

今から向きを変えるのは不自然なので、ジュナはこっそり気合いを入れて立ち向かった。

とは言ってもジュナに出来ることは、彼女らに一礼して去ることくらいだが。

ジュナは廊下の端により、淑女のごとく軽く礼をして立ち去ろうとした。が、一人の令嬢がジュナの足を引っ掛けた。
身体がグラつき、目の端で相手を見ると口元をニヤリと歪めている。

(貴族令嬢のすること?!)
バスケットを抱えているジュナはなすすべなく、前へ倒れる。
地面にオデコをぶつける寸前で、ノアの手がジュナを支えた。

アンジェリカ嬢が声をかける。
「まぁ。大丈夫ですの?クライス令嬢」

声に心配が混じっている。グループのリーダーであるであろうアンジェリカ嬢には話してない暴挙のようだ。

ノアはジュナを軽々起こした。
「失礼しました。お連れの方に、足癖のよろしくないご令嬢がいるようですね。皆様もお気をつけください」
いつもの態度とは、180度違う笑顔でノアは言った。

ジュナ含め、ポカンとしている令嬢たちに背を向け、ジュナをエスコートして足早に去った。

「ジュナ怪我はない?」
「ありがとうノア。素早いのね。助かったわ」
ジュナは心からお礼を言った。あのままでは顔面を床に打ち付け、鼻かおでこか目立つ所に痣が出来るところだった。

「うーん、あれは俺が間に合ったというより、ジュナは何か加護がある?守りの魔術が発動してたような気がするよ。倒れる動きがゆっくりだったもん」
心当たりがあり過ぎるジュナは固まった。

(エリアル?!まさかまた護りの陣を私にかけてたの?!)
嬉しいやらエリアルの魔力が心配になるやら、ジュナは素直に喜べなかった。

「にしても悪質だな。うちのお嬢に手が出せないからってジュナを狙うなんて」
四大侯爵家のルナマリアに、危害を加えて無事ですむような身分の者は学園にはいない。
「ノア、さっきのことルナには言わないでね。心配させたくないのよ」

ただでさえ参っているのに、これ以上負担はかけたくない。ノアはわかり易く納得いかない顔をしているが、頷いてくれた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾
恋愛
内容紹介 聖女ポーラ・スターは、引きこもっていた。 人と話すことができず、部屋から出ることもできず、 彼女の意思表示は、扉に貼られる小さなメモだけだった。 「西の街道でがけ崩れが起きます」 「今日は、クラムチャウダーが食べたいです」 祈らず、姿も見せず、奇跡を誇示することもない聖女。 その存在は次第に「役立たず」と見なされ、 王太子リチャードから一方的に婚約を破棄され、聖女の地位も解かれる。 ──だが、その日を境に、王国は壊れ始めた。 天候不順、嵐、洪水、冷害。 新たに任命された聖女は奇跡を演じるが、世界は救われない。 誰もが気づかぬまま、 「何もしない聖女」が、実はすべてを支えていた事実だけが残されていた。 扉の向こうで静かに生きる少女と、 毎日声をかけ続ける精神科医フォージャー。 失われていく王国と、取り戻されていく一人の人生。 これは、 祈らない聖女が選んだ、 誰にも支配されない静かな結末の物語。 『引きこもり聖女は祈らない』 ざまぁは声高でなく、 救いは奇跡ではなく、 その扉の向こうに、確かにあった。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

婚約破棄されましたが、私はもう必要ありませんので

ふわふわ
恋愛
「婚約破棄? ……そうですか。では、私の役目は終わりですね」 王太子ロイド・ヴァルシュタインの婚約者として、 国と王宮を“滞りなく回す存在”であり続けてきた令嬢 マルグリット・フォン・ルーヴェン。 感情を表に出さず、 功績を誇らず、 ただ淡々と、最善だけを積み重ねてきた彼女に突きつけられたのは―― 偽りの奇跡を振りかざす“聖女”による、突然の婚約破棄だった。 だが、マルグリットは嘆かない。 怒りもしない。 復讐すら、望まない。 彼女が選んだのは、 すべてを「仕組み」と「基準」に引き渡し、静かに前線から降りること。 彼女がいなくなっても、領地は回る。 判断は滞らず、人々は困らない。 それこそが、彼女が築いた“完成形”だった。 一方で、 彼女を切り捨てた王太子と偽聖女は、 「彼女がいない世界」で初めて、自分たちの無力さと向き合うことになる。 ――必要とされない価値。 ――前に出ない強さ。 ――名前を呼ばれない完成。 これは、 騒がず、縋らず、静かに去った令嬢が、 最後にすべてを置き去りにして手に入れる“自由”の物語。 ざまぁは静かに、 恋は後半に、 そして物語は、凛と終わる。 アルファポリス女子読者向け 「大人の婚約破棄ざまぁ恋愛」、ここに完結。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...