愛され悪女は 今日も悪には染まらない

織り子

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第17話ークライス伯爵邸のパーティー

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どんな人生も、思うようには進まない。
エリアルは3度目の生にして、改めて痛感していた。


知らない馬車の上で、エリアルは途方に暮れている。


ラザイン邸から出発し、王都行きの列車に乗ろうと馬車に乗った。その馬車が溝にハマり脱輪し、仕方なく徒歩で向かい、近くを通った馬車に乗せてもらった。
そしてその馬車の馬が急に暴れ出し、2メートル下の側道へ落下した次第だ。

幸い、運転手も同乗者もエリアルの風魔術で怪我はない。

エリアルは横転している馬車の上で、投げ出された自分の荷物を眺め、項垂れた。
「はぁ」
持ってきた礼服が投げ出されている。



ふと、自分にはどうしようも出来ない"何か"に阻まれている気がした。背筋に寒気が走る。
ジュナに何か起きるのではないか?


エリアルは馬車から飛び降りると同時に、風に乗り姿を消した。













夕方、ジュナはパーティー用のドレスに身を包み、テラスに出ていた。

先ほどまでルナマリアとノアとリリアンと、ご馳走をたらふく食べて、お腹も満たされている。

今日の目標だった、ルシャナ先生を父に紹介するというミッションも終えている。

父も、闇魔法に関する研究についてとても興味深く聞いていた。
闇属性と聖属性は他の属性に比べて解明されていない事が多い。

現代に聖女が降臨し、聖属性に関心が強まっている今、闇属性も解明しようと望む人も増えるはずだ。
その時に先陣をきっていると、様々な面で有利になる。

父に、ルシャナ先生との出会いを感謝された。
(嬉しいな)











しばらくバルコニーで風を浴びていた。誕生パーティーの時と同じく、エリアルの姿はないままだ。

来て欲しかったけれど、今回はそれほど悲しくなかった。療養中だし、出来れば来てね。という内容の招待状をラザイン侯爵に渡した。
魔力切れを起こしたのだから、急には王都とラザイン侯爵の領地を行ったり来たりすることは辛いだろう。 

(学園に戻れば、また会える)
ジュナは室内に戻ろうと振り向いた。その時、背後に馴染みのある柔らかい風を感じた。

驚いて振り向くと、エリアルが立っていた。

本人に驚いたあと、およそ彼らしくない姿にも驚く。

エリアルは、いつもまとめている髪はくしゃくしゃで、顔にも土のような汚れが付いている。上着は着ているものの、こちらにも土や葉が付いていて、よれよれだ。

ジュナはちょっとパニックになりながら駆け寄った。
「どうしたの?何があったの?」
誰かに襲われて、慌てて逃げてきたのかもしれない。ジュナは怪我がないか全身をチェックした。血は付いていないようだ。

エリアルはつぶやいた。
「すまない。来るつもりはなかったんだ。礼服すら着ていないから、正面から入れなかった。」

声が少し震えている。
ジュナはエリアルを見上げた。髪が影になり表情が見えない。
「エリアル?」
もっと顔をよく見ようと覗き込むと、エリアルはジュナをフワリと抱きしめた。

ジュナは驚いて「ひぇっ」と間の抜けた声を出してしまった。
慌てて離れようとしたものの、気付けばがっちりと抱きしめられ、逃げられなくなっていた。

初めは心臓が飛び出しそうなほど緊張したが、エリアルの震えに気づき、頭をぽんぽんと撫でた。

すると、腕の力が少し弱まった。
「不安なんだ。君が、いなくなる気がして」

ジュナは自分の事を言われているのかも分からず、とにかく優しく頭をなでた。


しばらくそうしていると、エリアルがふて腐れたように言った。
「ジュナ、どうして招待状をくれなかったんだ?」

「招待状?ラザイン侯爵にお渡ししたわよ。見ていない?」

「·········あのたぬきおやじめ」
恨めしそうに言い、エリアルはジュナを腕から解放した。
ジュナは少しホッとしてエリアルを見た。弱々しかったラベンダーの瞳にギラリと熱が籠もっている。

「もう駄目だ。これ以上は僕がもたない。」

熱を帯びた瞳に見つめられ、ジュナはたじろぐ。
エリアルが口を開きかけた時、後ろから声がした。

「クライス嬢、ここにいたのですか?僕はそろそろー····」
バルコニーに出てきたルシャナ先生は目をパチクリさせた。

「えぇと、お暇させてもらおうかと思ったのですが、ラザイン君はここで何を?」

なんと言うべきか、ジュナは悩んだ。エリアルを見ると、ふて腐れた子どもの様な顔をしてそっぽを向いている。
ジュナは思い立った。
「ルシャナ先生、替えの服は持っていらっしゃいますか?」

エリアルが露骨に嫌な顔をした。














ジュナは会場に戻りルナマリアと合流した。 
「ジュナ、どこに行っていたの。ルシャナ先生が探してらしたわよ
「うん。さっきバルコニーで会ったよ」
「あら、一緒にもどらなかったの?」


会場の入口がザワついた。
ジュナとルナマリアも必然的に入口を見る。

エリアルとルシャナ先生が共に会場に入ってきた。令嬢たちが黄色い悲鳴をあげる。

ジュナも、改めて見惚れた。
エリアルはルシャナ先生の礼服に身を包んでいる。
普段なら着ないであろう、少し光沢のあるグレーのスーツに、ビビッドな紫色のタイをアクセントに胸に仕込んでいる。

ルシャナ先生は帰ると言っておきながらも、自分がコーディネートしたエリアルに、人々がどのような反応を示すのか気になったようだ。
令嬢たちの反応に満足して誇らしい表情をしている。

エリアルも何かを諦めたのか、髪までルシャナ先生色に染まっていた。
いつも同じ髪型に固めているのだが、ワックスでふんわりと、ぼさぼさではなく、綺麗めに遊ばせた髪型になっていた。

「まぁ。殿方も身にまとうものでこんなに雰囲気が変わるのね」
関心しながらルナマリアが言う。


エリアルは群がってきた令嬢たちを上手にあしらい、ジュナの元に来て一礼した。

「ジュナ嬢、僕と一曲踊っていただけませんか?」

ここまで来ると、先ほどまでの少し恥ずかしそうにしていたエリアルと違い、侯爵令息に戻っていた。

完璧な佇まい。ジュナは真っ赤になり「よろこんで」と言いたかったのに、「はひ」とだけ応えてエリアルの手を取った。





ダンスはこんなに密着するものだっただろうか?
家に来る家庭教師と踊っている時は何も気にならなかったのに、今はふとあたる腕や肩が気になって仕方ない。
ジュナは雑念を払うために話しかけた。
「ルシャナ先生の服、ぴったりだったのね」

「そんなことはない。胸周りが少しキツイんだ。ルシャナ先生は華奢だな。·····そして全体的に少し長めだ」

最後の一言はムスッとして聞こえた。
ジュナはエリアルが可愛く見えて、にっこり笑った。
「あなたはまだ16歳だもの。大人の男性と背を競うことはないわ」

「そのとおりだ」
エリアルはニヤリと微笑んだ。








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