愛され悪女は 今日も悪には染まらない

織り子

文字の大きさ
16 / 27

第16話ーエリアルの休暇

しおりを挟む
中期休暇に入り、エリアルは領地に戻っていた。

戻って数日は、使い切った魔力が戻るまで療養していた。
毎日のように送られてくるジュナの手紙を読みながら。





《ーエリアル。体調はどうですか?
魔力も戻って、動けるようになったと聞きました。
動けるようになったからと言って、たくさん仕事をせず、充分にお休みもとってくださいね。

私はルナマリアとお茶をしたり、池で遊んだりして過ごしています。今日は一緒に街へ買い物に行く予定です。エリアルも楽しい休暇をお過ごしください。》




このように心配してもらえるなんて、不謹慎だが目の前で倒れてみるものだな。と思ってしまう。
多少の損失はあったものの。

ー結論から言うと、エリアルは招待状が貰えなかった。
あの日、魔力不足で気を失って、それどころではなくなったからだ。

ジュナと会話する機会もなく、領地に連れ戻された。


「坊っちゃん、旦那さまがお呼びです。」
ノックと共にアドラーが声をかける。

領地に帰って数日。そろそろ呼ばれる頃だと思っていた。
「ああ。分かったよ」
体調はもう万全で、通常運転なのだが、足取り重く父の執務室へ向かった。



「失礼します。エリアルです」
ノックをし部屋に入ると、机で作業していた手を止め、侯爵はこちらを見た。
「久しぶりだな、エリアル。色々と大変だったらしいが」
さすがに侯爵の顔に心配の色が浮かんでいる。

「息子が倒れたと聞いた時は、肝が冷えたよ」
苦笑しながら長椅子へ移動し、正面へエリアルを促した。


「さて、事の顛末は話してくれるのか?」

今回の事件の事は、サイラス以外誰にも詳しく説明していなかった。
というのも、出来なかったのだ。聖女は初歩的な魔術しか使えないこととなっている。ホーリーランスは高度な魔術だ。降臨して間もない聖女が使用したなどと、見ていない者は信じられないだろう。

とはいえ誤魔化しようもないので、エリアルは口を開いた。
「信じていただけるか分かりませんが、聖女のホーリーランスを防いだ結果です」

侯爵は少し目を見開き、長考した。
「·········まぁ、そのくらいじゃないと、お前の魔力切れなど起こらないか」

貴族の中でも、エリアルの魔力量はずば抜けていた。侯爵も多い方だが、魔力切れなど起こしたことはなかった。自身より強大な魔力を持つ息子が、魔力切れを起こしたとなると、よほどの事が起きたのだろうと察した。

「ホーリーランスとはな。魔術学園で。正気の沙汰ではないな。···なるほど、城からの報告にも頷ける」

「城で何かあったのですか?」

侯爵は短めのため息をついた。
「中期休暇中、聖女は城の別宮で過ごされることとなった。理由は分からないが、エドウィン殿下を頻繁に訪れているそうだ」

「教会が聖女を王太子の妃にしようとしていると聞きました。可能なのですか?」
「皆、不可能だと思っていたのだが、陛下が婚約の保留を承諾した。今の教皇、リヴァイア教皇が強く出ているようだ。どうなるかは分からん」

教皇ー教会の最大権力者だ。若くして教皇になったリヴァイア教皇。限られた者しか姿を見たことがなく、謎に包まれた人物だ。

「そうなると、王太子の反応が気になるところですね」

この国の王太子、エドウィン・ド・イゾルテ。
エリアルは数回しか会ったことはないが、聡明な王太子で周囲の期待は厚い。
(エドウィン殿下が聖女に籠絡させられるとは思えないがー···)

あの日、立ち会った聖女の異様さを思い出すと、不安が募る。

険しい表情をする息子を眺め、侯爵はまたため息を吐いた。
「とりあえずこの話はこれ以上進展しようがない。様子見だ。だが、この休暇中に動きがあるかもしれん。情報収集は怠らないようにな」

「はい。承知しております」
暗に、自分の力で状況を見極めろよ。と言われている。エリアルは気を引き締めた。

「それはそうと、ローウェン侯爵とクライス伯爵から感謝の礼状が届いている。」

エリアルは少し驚いた。
失神し、目が覚めてすぐにジュナとルナマリアに手紙を書いた。今回の件は秘密にするようにと。
世迷い言を言っていると、ルナマリアの状況が不利になるかもしれないと思っての事だった。
その手紙をサイラスに託す際、彼にだけは事の顛末を話したのだ。


どう伝えたのか分からないが、ローウェン侯爵はともかく、クライス伯爵に株を上げてもらえたならありがたい。

侯爵はニヤリと笑った。
「良かったな?エリアル。クライス伯爵のお前への接し方も少しは緩和するだろう。ジュナ嬢からの手紙も届くようになったらしいな?」

エリアルは怒りが込み上げたが、なんとか喉の所に留めた。
「やはり父上も知っていらしたのですね。おかしいと思っていたのです。クライス伯爵邸からの手紙は置いておいても、こちらからの手紙も届かなかったなどと」

「しょうがあるまい。親友からの頼みだ。それに、障害がある方か燃えるだろう?」

(ぶん殴りたい)
眉がピクピクと痙攣する。エリアルはなんとか口元だけ笑みの形を作り耐えた。

「お話はお済みでしょうか?部屋に戻らせていただきます」
返答を聞かずにドアまで歩く。ふと、気になりエリアルは聞いてみた。
「父上、招待状は届いていませんか?」

「ん?どこからのだ?たくさん届いているぞ」
ニコニコと侯爵は立ち上がる。
「失礼しました。お気になさらず」
全て持って来られたら溜まったものではない。エリアルは早々と立ち去った。


エリアルが退出し、アドラーは侯爵にやれやれと声をかける。
「お人が悪いですね。渡して差し上げればよいのに」
「ははは。私は届いていると伝えたぞ」
侯爵はニヤリと微笑った。
















侯爵家の仕事を手伝いながら、数日経った。
王城の聖女の様子も、アドラーを通じて気にかけつつ、闇属性と聖女の関係性を調べている。
だが、気にかかることがあり集中が出来なかった。

「はぁぁぁ」
招待状が、届かない。

クライス伯爵家の使用人によると、伯爵が開くパーティーは明日の夜。
それまでに王都へ着くには、本日中に馬車で向かわなければ間に合わない。

昨日届いたジュナからの手紙にも、招待状は送付されていなかった。
(僕が療養中と聞いて遠慮して送らなかったのか?)

今回のパーティーは、ジュナの誕生パーティーではない。重要なものじゃない。諦めも入り、自分に言い聞かせる。

重要なパーティーではないが、エリアルはどうしても出席したかった。
去年の誕生日パーティーに行かず、ジュナが泣きながら怒っていた事を思い出す。
(動転していた時とはいえ、あれがジュナの本音だったのだろう)



招待状のない催しに参加することは、マナー違反だ。
(だから誕生日パーティーも行かなかった。ジュナがあんなに悲しむとは思ってなかったんだ)


「アドラー、クライス邸から招待状は」
「こちらには届いておりません」
食い気味にアドラーが答える。
「クライス邸のパーティーは明日でしたね?今回は学園の教授も招いておられるそうですね。ジュナ嬢が招待されたとか」

「·····何が言いたい」
ジトリとアドラーを見る。
「いいえ。ただ、娘の連れて来る将来有望な青年を、クライス伯爵はどうなさるのでしょう。娘の婚約者にと····」
「アドラー」
みなまで聞きたくないエリアルは音を立てて椅子から立ち上がった。

「礼服を用意してくれ。今夜王都へ向かう」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない

鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」 その“正義”が、王国を崩しかけた。 王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、 婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。 だが―― たとえそれが事実であったとしても、 それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。 貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。 それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。 「世界は、残酷で不平等なのです」 その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、 王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。 婚約破棄は恋愛劇では終わらない。 それは、国家が牙を剥く瞬間だ。 本作は、 「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」 「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」 そんな現実を、徹底して描く。 ――これは、ざまぁではない。 誰も救われない、残酷な現実の物語である。 ※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。  学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、  権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。 ---

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。 二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。 「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」 お好きにどうぞ。 だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。 賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

処理中です...