25 / 27
第25話ー決着(前編)
しおりを挟む
エリアルは不安に押しつぶされそうだった。
一度目でも二度目でも、ジュナと王宮に呼ばれることなどなかった。だからと言って、ここまで危険に晒すことになるなんて。
今からでも追いかけるべきなのでは。
ジュナにかけた護りの風に、異変がないことがエリアルの理性をギリギリに保っていた。
移動した広間でテーブルに付いているのは、聖女ルリ・ミズサワ、エリアル、エドウィン、ルナマリアだ。サイラス、リリアンとノアは、ルナマリアの少し後ろに立っている。
食事には聖女以外は手を付けていなかった。皆堅い表情でジュナの身を案じていた。
聖女は持っていたスプーンとフォークを机に置き、拗ねた声で言った。
「つまんないわ。毒なんて入ってないから食べたらいいのに」
「ミズサワ嬢。貴方の目的はなんなのですか?ジュナに···何かひどいことをしているのではないですよね?」
ルナマリアがたまらず聞いた。声が震えている。
「自分の心配をしたら?ルナマリア様。貴方にも良い未来はないのよ」
聖女は笑った。聖女らしからぬ笑い方が、もはやルリ・ミズサワには合っている。
「ルナマリアに何かしてみろ。私が許さない」
エドウィンは低い声で唸るように言った。
「アハハハ!ゆるさないって、エドウィンあなた今、魔力も封じられているのに」
エドウィンの腕には魔力封じの魔導具が付けられていた。
「鍵はアンバーが持ってるの。私に向かってきても無駄よ」
「いざとなったらエリアルが風の刃で私の腕を切れば良い」
その言葉にルナマリアがサッと青ざめる。
「そんなことにはならないわ。ジュナ・クライスがいるもの。ね、エリアル?」
「······ジュナを人質にとり、何が目的なのですか?」
エリアルは冷たい声を絞り出した。
聖女は首をかしげた。
「そうね、目的なんてないのだけど。物語をあるべき姿に戻したいのよ。まず、ジュナ・クライスに闇の魔力を目覚めさせて、悪に落としたいわ」
子供っぽく、目をまん丸にして言う聖女に、違和感しか感じない。
(何を言っている。どう考えても悪はお前だ)
エリアルは息を短く吐き、嫌悪感を押し込んだ。
「ジュナが闇の魔力に目覚めたとして、何が変わると言うのです」
「闇の魔力に目覚めたら、私が光の魔力で彼女を倒すのよ。毎回そうだったじゃない」
プチっと自分の中の血管が弾けた気がした。
横たわるジュナの姿が一瞬脳裏に浮かぶ。
「そうか。やっぱりお前が····」
エリアルがゆらりと立ち上がると、サイラスが慌ててエリアルの肩を抑えた。
「落ち着け。ジュナちゃんの状況が分からないうちは我慢しろ」
エリアルは初めての激昂を抑えられない。拳を机に思いっきり叩きつけた。
「分かっている」
3度目の生でも、自分はなんて無力なのか。
「ーーえっ?」
聖女が急に気の抜けた声を出した。
「アンバーの魅了が解けたわ。どういうこと····」
聖女は呟く。
「どうして、どうして?また駄目なの?最後なのに」
頭を抱え、ふらつく聖女に禍々しい魔力が集まってきた。光でも闇でもない。
「何だあれは?」
誰に問うでもなく呟いた。聖女の目は怪しく光り、宙に浮いていく。
「もういいわ。とりあえずルナマリアとジュナを消せばいいのよ」
聖女が言うと、エドウィンはすぐにルナマリアを自分の後ろに隠した。
「殿下、いいのです!離してください」
ルナマリアは慌ててもがく。
「それは出来ない。私はもう後悔はしたくない」
エドウィンはガッシリとルナマリアを腕に抱え、自分の背後から出さなかった。
「エリアル!先程言った言葉覚えてるな?」
エリアルだってさすがに王太子の腕を切りたくはない。
(ジュナはどうなった?アンバー殿下の魅了が解かれたなら···)
「ジュナ・クライスの安全は保証出来ないわよ。大人しくしてなさいエリアル」
聖女は手をかざす。
エリアルは一瞬、躊躇した。その一瞬で、聖女の手からホーリーランスは放たれた。
「ルナー!」
ルナマリアとエドウィンの前に突如黒円が現れた。聖女の手から放たれた光線は黒円に吸い込まれ、音もなく消えた。
扉の方を見ると、ジュナが黒い狼に乗り現れた。
汗をかき、顔が火照っているが怪我はなさそうだ。
ルナマリアもジュナに駆け寄ろうとしたようだが、エドウィンがまだ彼女を離さない。
エリアルは誰にも邪魔されることなく、ジュナを抱きしめた。ジュナもエリアルの腰に腕をまわし、力強く抱きしめてくれた。
エリアルにとって心から満たされる瞬間だった。堪能していると、ジュナが身体をよじり、苦しそうに呻いた。慌ててジュナを腕の長さぶん解放し、見える範囲で無事を確認した。
「怪我はないか?」
ジュナは微笑んだ。
「大丈夫よ。エリアルたちこそ、無事?」
「兄上!」
遅れて来たアンバーがエドウィンにかけより、魔導具を外す。
エドウィンはアンバーをジロリと見、頭を小突いた。
「馬鹿者」
アンバーは小突かれた頭を手で押さえ、一瞬泣きそうな表情を見せた。
「すみません」
2人の王子は炎を手にまとい、聖女に向き直った。
「あら?終わったの?感動の再会は。アンバー、残念だわ。王太子の座を逃した上に、失敗したのね」
「僕はもともと王太子の器ではないよ。そして失敗した訳でもない」
アンバーは冷たく言った。
「何ですって?」
聖女はジュナに視線を移した。
ジュナの横には闇の眷属が付き従っている。
「闇属性に目覚めたの?ならどうしてー·····」
聖女は狼狽えて叫んだ。
「リヴァイ!リヴァイはどこなの!?」
ぼこぼこっと地面が湧き上がり、みるみる土の壁が反り立った。
咄嗟にエリアルは風の力で土を吹き飛ばした。
一度目でも二度目でも、ジュナと王宮に呼ばれることなどなかった。だからと言って、ここまで危険に晒すことになるなんて。
今からでも追いかけるべきなのでは。
ジュナにかけた護りの風に、異変がないことがエリアルの理性をギリギリに保っていた。
移動した広間でテーブルに付いているのは、聖女ルリ・ミズサワ、エリアル、エドウィン、ルナマリアだ。サイラス、リリアンとノアは、ルナマリアの少し後ろに立っている。
食事には聖女以外は手を付けていなかった。皆堅い表情でジュナの身を案じていた。
聖女は持っていたスプーンとフォークを机に置き、拗ねた声で言った。
「つまんないわ。毒なんて入ってないから食べたらいいのに」
「ミズサワ嬢。貴方の目的はなんなのですか?ジュナに···何かひどいことをしているのではないですよね?」
ルナマリアがたまらず聞いた。声が震えている。
「自分の心配をしたら?ルナマリア様。貴方にも良い未来はないのよ」
聖女は笑った。聖女らしからぬ笑い方が、もはやルリ・ミズサワには合っている。
「ルナマリアに何かしてみろ。私が許さない」
エドウィンは低い声で唸るように言った。
「アハハハ!ゆるさないって、エドウィンあなた今、魔力も封じられているのに」
エドウィンの腕には魔力封じの魔導具が付けられていた。
「鍵はアンバーが持ってるの。私に向かってきても無駄よ」
「いざとなったらエリアルが風の刃で私の腕を切れば良い」
その言葉にルナマリアがサッと青ざめる。
「そんなことにはならないわ。ジュナ・クライスがいるもの。ね、エリアル?」
「······ジュナを人質にとり、何が目的なのですか?」
エリアルは冷たい声を絞り出した。
聖女は首をかしげた。
「そうね、目的なんてないのだけど。物語をあるべき姿に戻したいのよ。まず、ジュナ・クライスに闇の魔力を目覚めさせて、悪に落としたいわ」
子供っぽく、目をまん丸にして言う聖女に、違和感しか感じない。
(何を言っている。どう考えても悪はお前だ)
エリアルは息を短く吐き、嫌悪感を押し込んだ。
「ジュナが闇の魔力に目覚めたとして、何が変わると言うのです」
「闇の魔力に目覚めたら、私が光の魔力で彼女を倒すのよ。毎回そうだったじゃない」
プチっと自分の中の血管が弾けた気がした。
横たわるジュナの姿が一瞬脳裏に浮かぶ。
「そうか。やっぱりお前が····」
エリアルがゆらりと立ち上がると、サイラスが慌ててエリアルの肩を抑えた。
「落ち着け。ジュナちゃんの状況が分からないうちは我慢しろ」
エリアルは初めての激昂を抑えられない。拳を机に思いっきり叩きつけた。
「分かっている」
3度目の生でも、自分はなんて無力なのか。
「ーーえっ?」
聖女が急に気の抜けた声を出した。
「アンバーの魅了が解けたわ。どういうこと····」
聖女は呟く。
「どうして、どうして?また駄目なの?最後なのに」
頭を抱え、ふらつく聖女に禍々しい魔力が集まってきた。光でも闇でもない。
「何だあれは?」
誰に問うでもなく呟いた。聖女の目は怪しく光り、宙に浮いていく。
「もういいわ。とりあえずルナマリアとジュナを消せばいいのよ」
聖女が言うと、エドウィンはすぐにルナマリアを自分の後ろに隠した。
「殿下、いいのです!離してください」
ルナマリアは慌ててもがく。
「それは出来ない。私はもう後悔はしたくない」
エドウィンはガッシリとルナマリアを腕に抱え、自分の背後から出さなかった。
「エリアル!先程言った言葉覚えてるな?」
エリアルだってさすがに王太子の腕を切りたくはない。
(ジュナはどうなった?アンバー殿下の魅了が解かれたなら···)
「ジュナ・クライスの安全は保証出来ないわよ。大人しくしてなさいエリアル」
聖女は手をかざす。
エリアルは一瞬、躊躇した。その一瞬で、聖女の手からホーリーランスは放たれた。
「ルナー!」
ルナマリアとエドウィンの前に突如黒円が現れた。聖女の手から放たれた光線は黒円に吸い込まれ、音もなく消えた。
扉の方を見ると、ジュナが黒い狼に乗り現れた。
汗をかき、顔が火照っているが怪我はなさそうだ。
ルナマリアもジュナに駆け寄ろうとしたようだが、エドウィンがまだ彼女を離さない。
エリアルは誰にも邪魔されることなく、ジュナを抱きしめた。ジュナもエリアルの腰に腕をまわし、力強く抱きしめてくれた。
エリアルにとって心から満たされる瞬間だった。堪能していると、ジュナが身体をよじり、苦しそうに呻いた。慌ててジュナを腕の長さぶん解放し、見える範囲で無事を確認した。
「怪我はないか?」
ジュナは微笑んだ。
「大丈夫よ。エリアルたちこそ、無事?」
「兄上!」
遅れて来たアンバーがエドウィンにかけより、魔導具を外す。
エドウィンはアンバーをジロリと見、頭を小突いた。
「馬鹿者」
アンバーは小突かれた頭を手で押さえ、一瞬泣きそうな表情を見せた。
「すみません」
2人の王子は炎を手にまとい、聖女に向き直った。
「あら?終わったの?感動の再会は。アンバー、残念だわ。王太子の座を逃した上に、失敗したのね」
「僕はもともと王太子の器ではないよ。そして失敗した訳でもない」
アンバーは冷たく言った。
「何ですって?」
聖女はジュナに視線を移した。
ジュナの横には闇の眷属が付き従っている。
「闇属性に目覚めたの?ならどうしてー·····」
聖女は狼狽えて叫んだ。
「リヴァイ!リヴァイはどこなの!?」
ぼこぼこっと地面が湧き上がり、みるみる土の壁が反り立った。
咄嗟にエリアルは風の力で土を吹き飛ばした。
11
あなたにおすすめの小説
世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない
鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」
その“正義”が、王国を崩しかけた。
王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、
婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。
だが――
たとえそれが事実であったとしても、
それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。
貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。
それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。
「世界は、残酷で不平等なのです」
その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、
王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。
婚約破棄は恋愛劇では終わらない。
それは、国家が牙を剥く瞬間だ。
本作は、
「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」
「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」
そんな現実を、徹底して描く。
――これは、ざまぁではない。
誰も救われない、残酷な現実の物語である。
※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。
学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、
権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。
---
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
義妹に苛められているらしいのですが・・・
天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。
その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。
彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。
それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。
儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。
そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
短編)どうぞ、勝手に滅んでください。
黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。
あらすじ)
大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。
政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。
けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。
やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。
ーーー
※カクヨム、なろうにも掲載しています
【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜
白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。
二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。
「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」
お好きにどうぞ。
だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。
賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる