愛され悪女は 今日も悪には染まらない

織り子

文字の大きさ
26 / 27

第26話ー決着(⁠後編)

しおりを挟む
風が収まると、残った土壁の上に銀髪をなびかせてリヴァイア・エステル教皇は現れた。
「聖女さま。どうされますか?」

聖女はリヴァイアの腕に飛び込み、子どものように泣き始めた。
「もう駄目だわ。戻せないもの。元の世界にも戻りたくないっ」

リヴァイアは聖女をあやすように頭を撫でている。
「どこにも戻れませんよ。貴方は悪に堕ちてしまいましたから」
悲しそうな声だった。

リヴァイアは聖女に向ける優しい目とは真逆の、鋭い視線でジュナを見た。
「ジュナ・クライス。本来お前が落ちるはずだった悪を、聖女さまが変わりに請け負ってしまわれた。責はとってもらおう」

リヴァイアが手をかざすと、たくさんの土の塊がジュナめがけて飛んできた。一つでも当たったら致命傷を負うであろう速度で。

ジュナは痛みを覚悟した。

「そうはいかない」
「させませんわ」
「あきらめろ」

いろんな方向から声がして、パッと目をあけるとジュナは様々なものに守られていた。

火のつぶては、土の塊を砕き、水の壁は土を溶かしている。風の刃は土の塊を裂いた。
(みんなが守ってくれている)

ジュナは一歩前に出て、リヴァイアとルリ・ミズサワに向かって言った。
「私が負う責なんてなんわ。私は悪には染まらない」
ー私は周りの人に愛されている。みんながこんなに自分を大切にしてくれているのに、悪になど染まれるわけがないわ。


聖女は呆然とジュナを見ていた。
リヴァイアが歯を食いしばり、聖女に言った。
「聖女さま。今しかありません。時期に王国軍が来ます」

聖女はジュナを見ながら呟いた。
「そうだとしても、私だって光よ。主人公だったの」

ジュナが最後に見たルリ・ミズサワの顔は、聖女のようだった。
光が彼女に集まり、微笑みながら手をかざす。

「くるぞ!」
エドウィンが鋭い声で叫んだ。

ホーリーランスを防ぐ術は、ジュナの闇魔法のみ。
ジュナは自分に魔力が残っていないことに気付き、血の気が引いた。

(どうしよう。ブラックホールを2回も使ったから、何も出来ない。前に出て、この子と防ぐ?!)
ジュナは瞬時に傍らにいた黒い狼を見た。

黒い狼は静かな目でジュナを見ている。

ー玉砕覚悟なら、いけるかもしれない。

ジュナはすぐに心を決め、更に一歩出た。ーするとすぐに後ろに引っ張られた。 







ーーーーーーーーーーーー


聖女から放たれたホーリーランスは、炎の柱にぶつかり、水の壁に阻まれ、最後には竜巻に飲み込まれ、ジュナに届くことなく消えた。



ジュナが一歩前に出たとたん、目の前が真っ暗になりそうだった。
考えるより先に、手が動いた。


魔力はほとんど残っていなかったが、6歳の頃から鍛えた魔術はまさに今日のためだったのだ。


渾身の力を込めた。足りないぶんは自分の身体を楯にするつもりだった。

2人の王子の炎と、ルナマリアの水の力がなければ、危なかった。

とはいえ、使いすぎた魔力の反動で意識が遠のく。

(まだ。まだだ。安全かどうか分からない)

エリアルはジュナを庇うように抱きすくめているが、もはや倒れないようにしがみ付いているのか分からなかった。

「ジュナ。僕は、帰ったら君に言いたいことがある」
我ながら遺言のように言ってしまった自覚はあった。

ジュナはエリアルにホーリーランスが届いたと勘違いしているかもしれない。
それくらいジュナは腕の中で泣いている。
「エリアルっ離して!大丈夫なの?」

「大丈夫だから、そんなに暴れないでくれ」
今、手を緩めたらエリアルは失神してしまう。

「でもっでも」
力なく口を開くエリアルに、ジュナは慌てている。

「いやだ。エリアル死なないで。お願い。ー私、エリアルがー···」

ジュナの口を、自分の口で塞いだ。
(先に言われたらたまらない)
照れくさくて、すぐに離して笑った。
「ごめん」


遠くから何人か集まってくる気配があった。アンバーが先導している。王国軍だろう。

エリアルはほっとして力を抜いた。
ジュナの大きな目から、涙が流れ続けている。
涙も拭えず、言い訳も出来ぬまま、エリアルの意識は途切れた。


























目を覚ましたのは、見知らぬ部屋だ。お腹に重みを感じて視線を向けると、クリーム色の髪が見えた。

身体を起こし、クリーム色の髪を一房すくう。

「う···エリアル?」
エリアルの上に、つっぷして寝ていたからか、おでこが赤くなったジュナを見て、エリアルは微笑んだ。

「起きたのね?大丈夫?すぐに人を呼んでくるから」
立ち上がろうとするジュナの腕をつかみ引き寄せた。

「待ってくれ。誰も呼ばなくていい」 
ジュナの表情を見るのが怖くて、肩に顔を埋めた。
「本当は正式に、ちゃんと準備をして言いたかったのだが、一刻も早く伝えたいから今言う」

「えっなに?」
「ジュナ。僕と結婚してくれ」

(間違えた)
婚約を申し込むつもりが、結婚を申し込んでしまった。
ジュナは微動だにしない。
「················」

「何か言ってくれ」
あまりに反応がないので、エリアルはジュナを腕から解放して顔を見た。
ジュナの顔は真っ赤に染まっていた。思わず生唾を飲み込む。
エリアルは咄嗟にジュナと距離をとった。

(今は何時だ?)
辺りが暗い。暗闇に2人きりの部屋で、ベッドの上で、僕は何をしてるんだ?!

真っ赤になって下を向くジュナが視界に入ると、理性が飛びそうだ。

「私ね、ずっとエリアルが好きだったの」
エリアルの僅かに残った理性は、ジュナの一言で消え去った。

取ったはずの距離はなくなり、とろけそうな目を見つめたままジュナの口を塞いだ。

昂揚を抑えられず、抑えなくても良いのでは?と考えている。

吸い寄せられるまま、何度も唇を重ねた。

「ちょっ、ちょっと多い」
真っ赤なジュナが抗議したことで、一気に理性が戻ってきた。
エリアルは拳で思いっきり自分の頬を殴り、ものすごく驚いたジュナに人を呼ぶように頼んだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない

鷹 綾
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」 その“正義”が、王国を崩しかけた。 王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、 婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。 だが―― たとえそれが事実であったとしても、 それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。 貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。 それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。 「世界は、残酷で不平等なのです」 その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、 王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。 婚約破棄は恋愛劇では終わらない。 それは、国家が牙を剥く瞬間だ。 本作は、 「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」 「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」 そんな現実を、徹底して描く。 ――これは、ざまぁではない。 誰も救われない、残酷な現実の物語である。 ※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。  学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、  権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。 ---

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

義妹に苛められているらしいのですが・・・

天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。 その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。 彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。 それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。 儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。 そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。 二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。 「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」 お好きにどうぞ。 だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。 賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

処理中です...